着物への新しい需要を生み出し、「着物文化の永続」をミッションに掲げるブランド「keniamarilia(ケニアマリリア)」をご存知でしょうか?
前回、マーケティアで取材した時から3年が経ちましたが、新商品の告知をすれば、わずか数分で売り切れ、ポップアップをだせば大行列を作るような大人気ブランドとなりました。
今回は、アナグラム社内限定イベントの「Marketeer Meet UP!」の第二弾として、座波さんをお招きし、ブランド成長の秘訣と今後の展望についてお話を伺いました。アパレルブランドの運営に興味がある人はもちろん、自分自身で将来ブランドを立ち上げたい方にも必見の内容です!
長く続けて実績を作ることで、工場との信頼関係を築き上げた
前回、マーケティアで取材したのが3年前で、その時はブランドの立ち上げについてのお話をしてもらいました。現在は、ポップアップを出せば、大行列ができるほどの人気のブランドになりましたが、この3年間ブランドを運営していく中で、大切にしていた事を最初にお伺いさせてください。
この3年間、意識してやっていた事は、ひたすら着物服を作り続けて実績を作るという事と実際に織元の工場へ訪問に行って、信頼関係を築き上げるという事です。
「keniamarilia」の着物服を作るのって本当に大変なんですよ。着物を仕入れてから、裁断して、工場で縫ってもらって、お客様の手元に発送するという工程だけで、凡そ3ケ月くらいかかるんです。だからかかわる人数も多いし、すごい労力がかかる。このサイクルを3年間続けながら、実績を作って、工場との信頼関係を築き上げてきました。
やはり着物服という日本の伝統産業だからこそ、工場との信頼関係が大事になってくるんでしょうか?
そうですね。着物服ってめちゃくちゃ厄介で難しくて、工場としてはやりづらい変数が多すぎるので、極力「やりたくない」ものだと思っています。なので工場側との密なコミュニケーション、相手が損をしない段取りや仕事を振り続けるという信頼が大事になると考えています。
基本的に今、「keniamarilia」の服を縫ってくださっている工場のほとんどが、既にお取引がある工場や知り合いからのご紹介なんです。
また今まで海外で生産をしていたメーカーが、コロナ禍になって日本国内で製造するという流れが復活してきました。ただメーカーが日本国内で製造したいとなった頃には、ほとんどの工場が潰れてしまい、そもそも作れる所が少なくなっていて、発注できないといった状況になっていたんです。
そんな中で、老舗の工場と今もお取引きができていることがとても嬉しいですね。
ブランドを立ち上げた頃から、現地に通ったり発注をつづけることで、今もそういった老舗の工場とお取引きができているんですね。
信頼関係を積み重ねていった結果、扉が開き始めた
逆に3年前と比べて何か変わった事はありますか?
3年前と比べて変わった事は、大きく3つあると思ってます。1つ目は、お取引できる工場の数も増えて、生産できる量が増えました。2つ目は、これも信頼を積み重ねた結果できるようになったんですけど、工場に新しい型の服を発注しても引き受けてくれるようになったことです。
今までは、一型で一点物の着物服を生産し、型数を絞って安定して生産できるように発注していたんですけど、この3年間の信頼の蓄積があるので、新しい型をご提案しても引き受けてくれるようになりました。
今年はケニジャンやケニ羽織を発売できたのと、Tシャツも今、3型縫っています。
信頼の積み重ねが、新商品の開発やリリースにも繋がってくるんですね。
本当にありがたい事ですよね。3つ目は、露出する機会が増えた事です。先日のポップアップの件もそうなんですが、今度は大丸東京さんなどの百貨店と組んで、一緒にイベントをする事が決まっています。
百貨店からお声がけがあったのも、実は取引がある工場が紹介してくださったからで、この3年間の活動を通して、信用を築けていけたからこそ、実現した事だと思っています。
【keniamarilia㊗️百貨店に初出店‼️】
本日より東京駅直結【大丸東京店】にてkeniamariliaのお品を置かせていただいてます。いつでもケニマリのお品がご試着可能です✨6月に発表の新作も数点置いてありますのでいつでもお手に取って体感できます☺️お求めは期日通りECにて✨4階明日未世にて pic.twitter.com/RZaYhTRm68— keniamarilia® (@Keniamarilia2) May 30, 2023
おおお!それは凄い!先程、今後、Tシャツも販売していくとおっしゃっていましたが、新商品を開発する際に、お客様の要望を聞き入れたり、リサーチなどはしますか?
お客様の要望を聞き入れたり、リサーチをする事は一切ないです!自分の作りたい着物服を作るようにしています。
プロダクトアウト的な商品開発をしているんですね。それでは新商品を作る際に座波さん自身が心がけている事は、何かありますか?
新商品を作る上で、一番大切な要素になってくるのは、着物に関する知識だと思っています。私ほどさまざまな着物を解いて洗うといった作業を繰り返し続けている人はいないくらい着物が好きで、着物に関して勉強しています。そういった反物や着物の形に関する知識や失敗の蓄積があるからこそ、どのような形がはまるかわかるので、そこはブランドを信じて欲しいですね。
座波さんの着物に対する情熱が、新商品を産み出す原動力になっているんですね!
着物に対する感謝の気持ちが、座波さんを突き動かし続けた
以前、ブランドの立ち上げのきっかけはお話していただきましたが、座波さん自身が着物に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?
この話は涙なしには語れないですね(笑)きっかけは成人式の時でした。私はブラジル人なんですが、母から「あなたはどんなに日本語を流暢に話しても、どんなに日本のコミュニティに馴染めても、日本人にはなれないから、ブラジル人である事を忘れてはいけないよ」という教えを受けていました。私はこの教えにすごく感謝していて、ブラジル人としてのアイデンティティを保つための支えにしていました。
ただそうなってくると日本の文化に触れることを少し遠慮するようになっていたんです。そういった中で、成人式の時期になって、振袖を着るかどうかに悩みました。外国人の私が、振袖を着ることで、嫌な思いをする人がいるんじゃないかと思ったからです。友達にその事を相談すると、嫌な思いをする人なんて絶対にいないよと私の思い込みを否定してくれて、一緒に着物屋さんに連れて行ってくれました。
そしたら着物屋さんが、とても温かく迎えいれてくれて、号泣しちゃったんです。自分の事を受け入れて貰えたような気がして、感動したんだと思います。そこからずっと着物に対しては、感謝の気持ちを持っていて、いつか着物文化に貢献したいなと思い、専門学校に入って、着物を使ったブランディングに関して、2年間勉強しました。
すごく素敵なお話ですね。着物は座波さんにとって、密接にアイデンティティと結びついているものなんですね。
そうなんですよ!あと私はこのブランドを運営していて、着物は本質的に日本人が求めているものなんだなって、確信を持てたんです。
もう少し具体的に教えていただけますか?
ブランドを運営していて、その確信を得ることができた出来事が、2回ほどありました。
1回目は、このブランドがコロナ渦であっても、順調に成長していた時です。着物服って、嗜好品じゃないですか?ただコロナ渦で、外に出れなかったり、様々な事が制限されている中で、このブランドが成長しているという事は、着物や織物といった伝統文化が日本の人たちに求められてる物なんだと実感する事ができました。
2回目は、キム・カーダシアンが、自分の下着に「Kimono」というブランド名をつけて大炎上した時です。普段は、あまり怒らない日本人があれほど怒った。人は関心のない事に怒れないじゃないですか?あの怒りぷりを見て、着物という伝統文化に対して、日本人はとても誇りを感じているんだと思ったんです。
日本人は、夏祭りや結婚式などのイベントで、必ず着物を着るじゃないですか?だから本当は、皆、着物を着る理由を探してるだけなんだと思うんです。
現状の課題は、ブランドの世界観を丁寧にお客様に伝えていく事
ブランドは順調に成長していっていると思いますが、何か現状で抱えている課題点などあれば、教えてください。
現状、抱えている課題は、「keniamarilia」の商品やサービスに関する情報を安定的にお客様へ発信して、伝えていくという部分です。
「keniamarilia」の着物服が少しずつ受け入れられている状況の中で、ブランドとしてどうありたいのか、何をやりたいのかをしっかりとお客様に伝えていきたいと思っているんです。
ブランドの世界観をお客様に伝えていくために、何か取り組まれている事はありますか?
ECサイトのプラットフォームをSTORESからShopifyに移行しました。Shopifyの方が、いきなり商品ページに飛ぶSTORESさんのUIよりもブランドの世界観をより柔軟に伝えることができると思ったからです。
あとはメルマガの配信も始めて、先日、新しい型の服をだすとTwitterでツイートしたら、200人も購読者が増えたんです。
ただ、まだまだお客様に伝えきれていない部分があると思っていて、例えば、「keniamarilia」の服って一点物なので、破損してしまったら、修理できないと思っている方も多いんです。ただちゃんと直すことができますし、直接、ご連絡いただいた方には、修理のご対応をしています。
そういったメンテナンス部分の対応だったり、新商品の告知やコーディネートみたいな情報も積極的に発信していきたいとは思っているんです。
現状は、そこまで手が回っていないと?
今の人数だと相当厳しいですね。
一緒に働く仲間を増やす場合は、座波さんはどんな人と働きたいと思っていますか?
着物への熱量を持っていて、元気で素直な人ですね(笑)この仕事をやっていると、色々な専門用語がでてきますし、多くの雑務が生じてきます。そういった状況をストレスに感じずに、業務を遂行してくれるような同じ志を持った人と一緒に働きたいなと思っています。
絹糸が繋げる日本とブラジルの歴史的な交流
短期的に、ブランドとして仕掛けていこうとしている事を話せる範囲で教えて下さい。
短期的には、小物の生産を本格的にやっていきたいと思っています。ブランドを立ち上げた当初は、コンセプトが着物の生産量の底上げなので、着物服一着に着物を一反使って、着物を使う量を増やすという事を意識して、商品を生産していました。なので着物を使う量が少ない小物は、当時はやらないと決めていたんです。ただ「keniamarilia」を運営する中で、生産量を上げる事だけに注力してても駄目だなって、気が付いたんです。
最終的に着物の生産量を上げるためには、このブランドの事をまずは知ってもらうという所から始めないと、そもそもの着物の需要をつくり出すことは出来ないと思ったんです。小物から手に取ってもらって、着物の魅力を知ってもらう。そこから洋服も欲しいってなっていただければいいなと思っています。
あとはオリジナルの反物の生産も始めようと思っています。
ついに反物の生産も始めるんですね。
本当は絹糸で織りたかったんですけど、国内に絹糸で織れる所がもうないらしく、最初は化学繊維(ポリエステル)で織ろうと思ってます。
最近、絹糸にも自分の出自との縁を感じているんです。日本で絹糸を購入しようとすると、ブラタク製糸株式会社というブラジルの紡績工場が選択肢として挙げられます。そこの絹糸は世界最高レベルの品質で、多くのラグジュアリーブランドがそこで絹糸を買っています。実は、そこの工場はブラジル開拓の時に日本からブラジルに行った日本人が建てた工場なんです。私はブラジル人として、今も日本の伝統技術をブラジルで守り続けている姿勢にとても共感を抱いています。いつかブラタク製糸の絹糸で、着物を作りたいと思ってます。
着物の伝統文化の永続というミッションに向き合い続ける
最後に、「keniamarilia」というブランドを今後、どのようなブランドにしていきたいと考えていますか?
以前は、ユニクロの服のように、誰もが当たり前にクローゼットの中に着物のリメイクの服があって、毎日着る服の選択肢の中に、着物服が入っているようなマスなブランドにしたいと思っていました。マスなブランドになることが、着物の生産量を支える事に繋がると思っていたんです。
ただブランドを運営してみると、着物を織ってくれる工場さんも結構、潰れてしまっていて、生産できる型も少ないし、そんな安価に大量生産できないという現実を知りました。こういった状況の中で、生産量を上げるには、一か所でもいいから地盤を固めて、ここでいつでも生産できるといった環境を整える必要があるなと思ったんです。
そうなってくると、私が生きている間に完結するとは限らない。これは多分、次の世代にバトンを渡していかなくちゃいけないなと思ったので、私の役目は、まずは着物のルーツや歴史をもう少し丁寧にお客様に伝えていって、着実にブランドを広げていくことだと思ったんです。
そうやってバトンをつなぎながら、着物の伝統文化の永続というミッションに向き合っていきたいと思っています。
着物の伝統文化の永続という壮大なミッションを掲げながら、やれる事を一つ一つ着実にこなし、ブランドを成長させてきた座波さん。人生を通して感じた着物に対する感謝の気持ちが、座波さんを突き動かす原動力になっているんだと実感しました。
そんな座波さんのお話を聞いて、自分と関わってくださる人と信頼関係を築いていくことの大切さを教えていただいたように思います。
もしこの記事を読んで、着物の魅力を知って、着物服が欲しいと思った方が方がいれば、ぜひ「keniamarilia(ケニアマリリア)」のECサイトを覗いてみてください!
ただすぐに売り切れるので、買える保証はありませんが(笑)
執筆:辨野裕太
取材・編集:阿部圭司/小紫恵
写真:齋藤彩可