オウンドメディアを文化にせよ|自社社員だけで作り上げた、月間200万PVを誇る国内最大規模BtoBオウンドメディア『Developers. IO』を運営するクラスメソッドに聞く、成功するコンテンツマーケティング

  • 関東

2004年に設立したクラスメソッド株式会社でBtoB向けに業務システム開発を主軸に活躍しはじめ、初期の様々な困難を見事に乗り越えた後、2011年を起点に自社の業績を伸ばしつづけている横田聡さん。この壮絶な好転を支えていた存在の一つは、なんといっても社内で発信しているオウンドメディアでした。

BtoB企業において、コンテンツマーケティングやオウンドメディアへの関心はますます高まっています。一方で成果を出せないことに悩んだり、途中で更新をやめてしまう企業も多い中、オウンドメディアが一般的な社会言語になる以前から運営し、BtoBでありながら月間200万PVを超える規模にまで成長させ、集客、採用、ブランディングと多くの経営課題を解決している『Developers.IO』のこれまでの経緯とノウハウは、多くのBtoB企業にとって有益な情報になるのではないか、と思い『Developers.IO』を運営するクラスメソッド社の代表取締役の横田聡さんに話を伺いました。

※今回の取材は何故か?以前にマーケティアで取材させていただいた株式会社ベイジの枌谷さんにご協力頂き実現しました。本記事では特別編として枌谷さんにインタビュアーを務めていただいています^^

メディア立ち上げのきっかけは備忘録

枌谷

実は昨年からクラスメソッドさんのweb戦略周りをお手伝いしているのですが、クラスメソッドさんが2011年から運営しているオウンドメディアであるDevelopers.IOが、トラフィックもコンテンツのボリュームも、BtoB企業が自社で運営するオウンドメディアの常識を超えていて、こんなにすごいオウンドメディアをマーケティング界隈の人にももっと知ってほしいと思い、今回この取材の企画をマーケティアさんに持ち込みました。よろしくお願いします!

アナグラム

(笑)

横田

よろしくお願いします(笑)

枌谷

最初に、なぜDevelopers.IOを立ち上げたのかをお聞きしたいです。横田さんが始めようとしたきっかけや動機は何だったのでしょうか?

横田

私自身が技術ブログを書き始めたのは20年ぐらい前で、原点は当時読んだモノの備忘録です。ただパソコンに残したメモって、書いたあと全く見ないことに気づいたんですよ。だからそれをブログで公開すると、コンテンツを読んでもらうのも嬉しいし、検索しても出てくるから、それはそれで凄く便利なのでは?と始めたのがきっかけです。

枌谷

20年前だと「ブログ」という名前自体もなかった時代ですよね。当時は「テキストサイト」と呼ばれていたような。

横田

ええ、なかったですね。公開方法もブログとはやり方がちょっと違っていて、契約していたインターネットプロバイダーで「無料ホームページ」を作り、当時私が読んでいた本に載っていたコードのサンプルを実行して、その履歴をホームページにアップしていました。そして、2003~2004年ぐらいに時代の流れもあって「ブログ」という形に替えたんですけど、基本的に自分用に気になったコンテンツを載せていったことは変わりませんでした。

サンプルなどをブログに載せていたエンジニアは私以外にもたくさんいたと思いますが、個人ブログなのに、会社名まで明らかにして情報発信していたのは、珍しかったかもしれないです。

枌谷

ブログで個人を明らかにする、というのは意図的にやっていたのですか?

横田

ええ、そうです。当時は読んでくれる人がまだほとんどいませんでしたが、2005年あたりにFlashや周辺技術が脚光を浴びて、「自分たちもこんな技術を持ってます」という自己主張も含めて記事を書いていたので。そしてこれがDevelopers.IOの前身だと言えますね。

確信を持てた2つの成功体験

枌谷

そこから始まったんですね。横田さんがブログを続ける中で、個人の領域を超えて徐々に外に広がっていると気づきはじめたきっかけはあるんですか?

横田

これといった出来事というよりは、コンテンツを発信し続けていると少しずつ、「ぼくもその技術に興味があります!」とか、他のエンジニアたちから声がかかるようになって、ちょっとしたコミュニティっぽくなっていったんです。それで、「あ、これならイケるかも」と確信を持ち始めましたね。2005年10月ぐらいには、技術者たちが集まって情報交換できる場として、Flash関連の技術のユーザーグループを作ることを決めました。その後、大きな成功体験が2つありました。

枌谷

それはなんですか?

横田

1つ目は「発信すると、同じにおいの仲間が集まった」ということです。一番盛り上がった頃はコミュニティメンバーが5,000人ぐらい集まっていたんですけど、例え個人ブログでも似た者同士のコミュニティが成立するという手ごたえがありました。

しかも、技術ブログというのは、別に見てくれる方がみんなデベロッパーだというわけではないんですよね。実はここが2つ目の成功体験に繋がりますが、その技術を導入したいと検討している企業サイドの方も結構読んでくれていて、仕事のお問い合わせが来るようにもなりました。

振り返ってみると、会社を立ち上げたばかりの頃に困ったことの1つは、大企業とビジネスをしたくても、営業が全くうまくいかなかったことです。まあ、想像すれば無理もない話なんですけど。当時5~6人ぐらいの小さな会社が大手の正門を叩いたところで、門前払いを食らうのは当然ですね。だいたい、中小企業に仕事が来ないのは「君たち誰だよ」問題に尽きると思いますから。

それにもかかわらず、直接会いに行って確実に断られるような会社から、「御社のブログ、読んでますよ」と問い合わせをいただけるのは、当時かなり衝撃的でした。

停滞からの打開策は原点回帰

枌谷

大企業が人的なつながりも特にない10人未満の会社のことを知っているというのは、普通に考えると信じられないことですが、それこそ情報発信の恩恵ですよね。こういった成功体験とは逆に、初期の段階で苦労したことなどはありましたか?

横田

2008年以降、AdobeのFlashがAppleのスティーブ・ジョブズが「重い」などの理由で、iOSでは実行不可能になり、市場は急速に冷えましたよね。Flash関連のサービスも段々と終わっていき、それとともにコミュニティも落ち着いていきました。

枌谷

2008年はリーマンショックの年でもあり、IT市場への投資も冷え込みはじめていた記憶があります。この時期を横田さんはどうやって乗り切ったのでしょうか?

横田

当時はIT業界の見通しがあまり明るくない感じがしていて、ほっといたら会社が傾くという危機感も強かったからこそ、原点回帰して、とりあえずコンテンツを発信し続けることを決心しました。運よく年単位で発生する仕事が多かったので、仕事が無くならなかったのは不幸中の幸いでしたね。

枌谷

クラスメソッドさんの売上げの推移を見ていると、2011年を起点に、底を打って上昇軌道に乗り始めた、という感じですね。

横田

会社がうまく行ってないときも、謎のポジティブさはあったんです。別にほっといても潰れるんだから好き放題にやろう!という半ば開き直りに近い気持ちは大事だと思いますよ(笑)

ただ結果的には、その当時私たちが発信していたコンテンツがニッチに上手くフィットした気がします。当時のデベロッパー系ブログといえば、大手テックジャイアントのCTOクラスの人が月に1回に出している記事しかありませんでした。みんなの憧れではありながら、絶対中小企業では太刀打ちできないような技術力と企業のパワーを使っているコンテンツばかりで、とてつもなく遠い存在でした。

もっと初心者の人も含めた、「今日始めました」とか「1か月やってみたんだけど、自分の実力だと解決できない」とかいうテーマのコンテンツに対するニーズがあると思っていて、そのコンセプトで、絶えず技術ブログを書き続けていましたね。

記事を内なる動機で書きたくなる体制

枌谷

横田さんはご自身のモチベーションでブログが書けると思いますけど、社員には、どういった形で参加させたのですか?エンジニアには文章が苦手な人が多いイメージもありますよね。

横田

当初は、サイトを作ってくれたデザイナーとエンジニアと私も含めて3人ぐらいで何本か記事を書いてから、社内に「みんな、これから情報発信するぞ」とお願いして回ったんです。でもまあ、誰ものってこなかったですね(笑)みんな仕事が忙しいから「え?ブログも書かなきゃいけないんですか?」みたいに驚いていました。

でも、それは社員にとって当たり前ですよね。ブログや情報発信で成功体験をしたことがない人から見ると、ただ仕事が増えただけにしか思われないです。単純に「書け」と命令しても何も変わらないので、自分が率先して、情報発信の効果をまず見せつけてやるしかないと思いました。

そうしてさらにピッチを上げて1日1本のペースで記事を公開し始めたら、今まで絶対繋がれなかったようなお客さんからお問い合わせが来ていることを社員が目の当たりにするんですよ。それが何件か続いた後に、やっぱり情報発信の重要さに気付く人が社内に増え、書きたいという社員が結構出てきました。

枌谷

良いコンテンツを継続的にアップしていくと、単なる問い合わせだけじゃなくて、相乗効果もいろいろと生まれてきますよね。

横田

その通りです。協力してくれる社員も増えたおかげで記事の本数がグンと上がっていたので検索にも引っかかりやすくなりますし、誰かのお役に立った記事にはSNS上でシェアや「いいね」が以前よりも付くようになりました。

また、コミュニティからのフィードバックが得られるようにもなりました。これが本当に重要なんですよ。気持ち的にも、実際のキャリアにおいても、エンジニアにとっては上司に評価されるよりもコミュニティに評価される方が大きな価値になるわけですから。「沢山情報発信すると自然とそうなるよ」と口では数えきれないほど言っていたんですが、やっぱり自分で身をもって体験しないと実感できないことだよな、とは思います。

枌谷

ポイントは、「こうするのが仕事だよ」とか「こうすると売上に繋がるよ」という話ではなく、本人の喜びというか、市場とコミュニケーションがとれる、これは楽しい、という体験にこそ価値がある、ということですね。

ちなみに、ブログを書いているメンバーはどのくらいいるんですか?

横田

非エンジニアも含めると、全社員の3分の1ぐらいが頻繁に書いています。

枌谷

なるほど。記事を書く・書かないはどのような体制で管理しているのかがちょっと気になります。3分の1なら強制ではないですよね?

横田

完全に自主制ですね。もちろん、なるべく沢山の人に記事を書いてもらいたいのは本音なんですが、書きたいという内的な動機がない人に無理矢理書かせても、あまり良い結果は見込めないと思っているので。

枌谷

「内的な動機」で書いているということは、記事をいっぱい書いたから給料が上がるみたいなインセンティブは特に設定されていないということですよね?

横田

はい、本人が興味と関心を持った上で書くからこそ、記事の質を担保できていると思いますし、お給料を上げたりとか、記事1本書いたらいくら還元するみたいなことをやり始めると、ズレた動機を与えてしまいますからね。最悪「HELLO WORLDの書き方を教えます」を言語別に100本書き始めちゃう人が出てくる可能性があります(笑)

ただ、直接給料は上がらないけど、大量にコンテンツを作る人って、基本的にインプットとアウトプットを高速で繰り返しているので、スキルアップもそれだけ早いんですよね。だから結果的には、給料が伸びやすくなるのは間違いないです。

社内には、年間150本前後記事を書く人が何十人もいるんですが、実名で記事が公開されるので、そういう人たちの社会的な価値はどんどん上がります。しかも、コンテンツの数だけじゃなく、中身の深さも伝わってくるので、社内だけでなく、どこに行っても仕事ができる人に自然となると思いますよ。

枌谷

年間150本も!ほぼ、2日に1本を上げるペースですよね…
更新頻度の高いとなると、記事の品質管理が気になるのですが、どのように行っているのですか?

横田

事前チェックなどは一切していないですね。記事を書いた本人が勝手に公開していいので。

枌谷

いわゆる良識の範囲内ということですか?

横田

そうです。実はその「良識の範囲内」でめちゃめちゃ書く人もいるんですけど、社外秘じゃない限りコンテンツを消しません。私たちの理念にもあっているし、良い記事はやっぱりその後繋がるんですよ。

あと、みんなは自分の権限で記事をアップはできますけど、代わりに公開後は全社員で読み物としてレビューされるので、誤字脱字の指摘から技術的裏付けや文章構成に至るまでコメントを書かれることがあります。憶測でものを書いてしまったり、将来にできるかどうかわからないのに「できません」と断定してしまうケースはよく引っかかりますね。

文化だからマネできない

枌谷

コンテンツマーケティングがうまくいっていない企業の話を聞くと、よく「これ以上書いちゃダメだ」とか「競合に知られてしまうと困る」とか、会社側が注文を付けすぎてみんな書けなくなってしまうパターンが典型的だと思うのですが、御社の場合はそれがないですね。

横田

私たちは仕組みも含めて全部公開するスタンスをとっています。他の企業は普通逆だと思います。例えば、ある技術について検討しているユーザーに、判断に必要な情報を少ししか公開しないサイトをよく見かけますよね。リードナーチャリングなどというマーケティング的な視点からそうしているのは理解していますけど、そこにロスが生まれる気がして仕方がないです。

サイトを訪れてくる人の99%はお客さんにならないのは事実ですけど、私たちのサイトには月間80万のUUがいて、1%からお問い合わせがきたとしても、月間8,000件になるわけですよ。集客という意味では、それだけでお腹いっぱいです。

さらに、ブログの運営ポリシーとしてノウハウを全部公開していると、例え顧客にならなくても、99%のユーザーは見るだけでも満足するようになります。

その場合、確かに直接的には1円も入ってこないのですが、これをやっていると、信頼貯金が貯まるんですよね。で、読んだ人はそれを「お世話になったから仕事をお願いしよう」とか「ここからものを買おう」という形でお返ししたいと考えるんです。こういう風に、「信頼貯金」が貯まれば、最終的には結果に繋がっていくんだと思います。

枌谷

よくわかります。確かに、結果がすぐに見えるわけではないコンテンツマーケティングには、「信頼貯金」という考え方は非常に重要ですね。

横田

あと面白いのが、お金を持っていて今すぐ結果が欲しいという人は、自分でやらず、外部に頼むんですよね。でも、こうしてオウンドメディアを集客のための企画として外部のリソースを使ってやってしまうと、結果を出すために、お金をどんどん投下しないといけなくなる。私たちももちろんビジネスをしてはいるんですが、私たちがやっているのは集客というよりカルチャーなんですよ。

そもそも、当初は広告などでサイトに流入させるためのお金もなかったです。だから自分たちで汗をかくしかなかった。お金がある会社と、違う方法で土俵を変えて戦わざるを得なかったです。でもその工夫が結果的には、カルチャーを作り、今のDevelopers.IOを生み出したのだと思います。

わずか2年間でPVが150万から260万へ

枌谷

ちょっと前に、この2年で、PVを150万から260万、セッションを90万から180万まで伸ばした話を聴きました。どうやってこれを実現できたのかすごく気になったんですが、何か特別な施策でもあったのでしょうか?

鵜飼亮次‐クラスメソッド株式会社マーケティングコミュニケーション部 Webマーケティング・広報担当

鵜飼

複合的な理由があったと考えています。まず、単純に書き手が増えたので、発信できるコンテンツの量が一気に増えたこと。もう一つは、記事の精度自体もどんどん研ぎ澄まされてきて、記事単位のアクセス数も上がり、それに加えて過去からある記事の積み重ねも結構影響していること。この2つが大きいと思います。

枌谷

なるほど。オウンドメディアは広告と違ってストックが生きますもんね。ちなみに、現在の記事数はどれぐらいあるんですか?

鵜飼

最近の数字では、約17,000本です。(※2019年8月取材時)

枌谷

いやぁ、さすがです。BtoB企業のオウンドメディアで、しかも完全に自社の社員だけで書いているケースで、ここまでたくさんのコンテンツがあるサイトは聞いたことがないです。しかも、何らかの企画で突発的にコンテンツを増やしたとかではなく、毎日社員が自然に継続して書いたことの積み重ねというのが本当にすごいです!

無理にバズる必要はない

枌谷

オウンドメディアやコンテンツマーケティングの話では、「KPIをどうするか」というテーマがよくあがるのですが、Developers.IOで見ているKPIはありますか?

横田

正直、ごりごり追っているKPIはないです(笑)強いていえば、PVとユニークユーザーぐらいは見ますけど。

枌谷

思ったよりシンプルですね。記事単位でみると、バズるかどうかという視点で評価はしているのですか?

横田

私たちの書いた記事がSNSでバズると、確かに嬉しいのは事実です。ただバズらなくても良い記事は良い記事なので、下手にバズることを狙わない方がいいと思っています。

例えば、iPhoneとかHTMLの記事は、そもそも読む人の母数が大きいので、PVが跳ねやすいんですよ。一方で、AWSとかネットワークの詳細まで踏み込んだコンテンツは対象者が限られるので、PVは基本的に伸びません。そういう記事は、ニッチな課題をどうしても解決したい人を助けてあげるのが役割です。

その機会は年に1回ぐらいしかないかもしれないですが、助けられた人は、そのコンテンツの発信者に全幅の信頼を寄せるんです。誰でも書けそうな記事じゃなく、「こんなにニッチな課題について発信してくれてありがとう」というのが、蓄積されていくのです。

枌谷

バズるかどうかは、ターゲットの数にもよるんですよね。たくさんのターゲットを狙った記事なら、それはバズりやすい。もちろん、バズる記事の書き方、というのはある一定大事ですけど。一方で、少ないターゲットに向けての記事は、バズらないけど、内容は深くなる。そしてそれは仰るように、ロイヤリティに影響してくるんですね。

横田

バランスが大切だなと思っています。母数が大きいマーケットに対して、みんなが読んでくれる記事を出すのもいいんですが、そればっかりだと普通のメディアサイトとやっていることは変わらない。どちらかと言えば、母数はすごく少ないんだけど、ロイヤリティの高い人たちに刺さる内容、しかもタイミングとあまり関係なく、5年たっても10年たっても読んでいただけるようなコンテンツも混在しているのがDevelopers.IOの価値なのかな、と思っています。

経営者がコミットすべきところ

枌谷

私は最近、コンテンツマーケティング系のイベントに登壇する機会があるのですが、その時、「オウンドメディアに経営者はどれぐらいコミットすべきか」という質問をよく受けるのですが、この質問を受けた場合、横田さんならどう答えますか?

横田

「いや、私が始めたし」と返しますね(笑)そもそも、現場の方がコミットしない傾向が強いんじゃないかと思いますね。「やろう」と言うのは大体上の役職の人で、それに対して「え、でも残業増えるし」と嫌がるのが現場の方。

枌谷

経営者がコミットするとかそういう次元の話ではなく、経営者が実際に書いて背中を見せるべき、という感じですね。

横田

まさそうだと思います。これはブログの話にはとどまらず、カフェ(※)もそうですし、会社の新しい取り組みは大体私が思い付きで始めるんですよ。その「思い付き」を社員のみんながすぐに理解できないのはよくあります。そしてずっと静観されます(笑)

2009年ぐらいに「これからの時代はクラウドだ!」と私が宣言しても、みんながしーんとなっていました。でも2011~2012年に急速に普及していくと「クラウドっていいんじゃない?」と全員が言い始めるんですよ。「いや、私は3年前から言っているよ」って(笑)

(※)米シアトルの無人店舗型スーパーAmazon GOに触発され、2019年にオープンしたキャッシュレス・レジレス型カフェDevelopers.IO CAFE

枌谷

新しい取り組みほど結果が保証されていないので、トップが率先して常に新しいトレンドにアンテナを張り、チャレンジ精神を持って進めていくことが大事ですよね。

文化は大事だけど固定概念は持たない

横田

何が正解なのか分からないのであれば、さっさと失敗した方がいいと思いますね。それが「クラスメソッドの企業文化だ」って言ってはいますが、実は後付けの部分もあって、振り返ればいつのまにか企業文化になっていたんですよ。

枌谷

そうすると、失敗した施策もたくさんあるということですよね?

横田

とりあえずやってみてダメなら取り下げる、というのは沢山やっています。例えばDevelopers.IOの記事内に広告を出してみたら、社員から「邪魔だ」と言われましたね(笑)読者じゃなくて、書いている社員から「自分の記事の途中に広告が出るのがいやだ」とか言われて、その施策を取り下げました。

ただ、「これはクラスメソッドらしくないから止める」という考えに固執すると文化が固定化されちゃうので、新しいものを取り入れながら自分たちのアイデンティティを考えるべきですね。やっぱりバランスが大事なんです。決めつけてしまうのは「文化」を守る意味では楽かもしれないけど、凝り固まっちゃうんですね。最悪の場合、新しいトレンドにもついていけなくなっちゃう。それは避けたいですね。

枌谷

Developers.IOやAWSもそうですけど、御社の歴史をみていると、なんとなく始めたことが3年後4年後に花を咲かせている、というのが結構ありますよね。今の文化にフィットしているかどうかだけで判断すると、そういう未来の可能性が開けなくなりますよね。だから多少異なる文化であっても、面白そうであれば受け入れていこう、というところですよね。

これからオウンドメディアを始める企業へ

枌谷

ここまで成功しているオウンドメディアを持っているからこそ、取引先の企業や繋がりのある経営者から「うちもオウンドメディアがやりたいんだけど、どうすればいいですか?」とアドバイスを求められることも多いと思うのですが、その時はどのような話をしているんですか?

横田

もちろん、その会社さんの体制による部分もあるのですが、大体オウンドメディアはそんなに続かないじゃないですか、ってたまに言っちゃいます。

特に、外部のライターさんにお金を払って記事を作ってもらうと、費用対効果を追うことになりがちで、数字が見合わなくなったら更新を止める、となるケースが非常に多いですよね。ある意味、「数字がでなければ書かなくてもいい」という選択肢を与えてしまっているともいえます。プロに書いてもらうと、確かにすごいクオリティの記事になりますよね。PVやお問い合わせが一気に増えることもあるかもしれません。でもそれだと、組織全体は強くならないんですよ。

とはいえ、自分たちで書いても、すぐに営業に繋がるような成果がでませんよね。なのでオウンドメディアは、まずは「社員のためになる」というスタンスで運営するのがいいと思っています。ウチの場合は辞めたあとも実名で記事を残すので、転職活動でもなんでも使えます。記事をアップしておけば、長期的に色んな方面から繋がる可能性が生まれます。いい事づくしなので、やらない手はないよね、という風に社員に話しています。

つまり、オウンドメディアの成功要因の1つは、書き手が「自分のためになる」と信じてコンテンツを書けるか、ということなんだと思います。

枌谷

ベイジもいくつかオウンドメディアをやっていますが、直接的な集客を狙っているわけではなく、横田さんがおっしゃるようなスキルアップや社員教育、文化作りの側面が非常に強いです。自分たちの考えを言語化し、共有し、発信する、ということに価値を感じて取り組んでいます。だから横田さんの考えには共感しかないですね。

コンテンツが海外にも注目される

枌谷

Developers.IOで今後こうしたい、みたいな展望はありますか?クラスメソッドさんは既に海外オフィスも抱えていますが、Developers.IOも海外展開する予定はあるのでしょうか?

横田

考えてはいますが、どこまで展開すべきかについては社内で議論している段階です。現在のコンテンツのほとんどは日本語ですが、最近英語、ドイツ語の他に韓国語の記事もトライアルでアップしていました。

面白かったのが、韓国の社員が何人かいて、韓国語の記事を書いてみたら、それが韓国のAWSのユーザーグループの中でバズったんですよ。「日本でこんな詳しい記事が韓国語で公開されている」って。これはすごいことだな、と思いました。

枌谷

そういうことがあると、Developers.IOが海外で新しい事業を始める何かのきっかけになってもおかしくないですよね?

横田

そうですね。ただ、もし今後Developers.IOを多言語化するとしたら、英語圏以外を狙うべきなのではないかと思います。例えば、英語ができるエンジニアって、英語で情報が読めるし、コミュニケーションも英語で取れるので、情報の選択肢がすごく多いと思うんですよ。一方で英語が話せない多くの日本人はやっぱり言葉の壁が超えられなくて、英語ではなく、日本語のコンテンツを探しますよね。

日本に関してはそこをDevelopers.IOでうまく汲み取れた気がしています。だからDevelopers.IOが海外進出するのなら、次は日本以外の英語圏以外のエンジニアをサポートできるようなものだといいな、と思っています。

枌谷

なるほど、韓国語の記事がバズったのもきっと韓国語の情報源がなかったからですよね。やっぱりDevelopers.IOの基本コンセプトが、テックリードのような強者じゃなく、普通の現場のエンジニアたちによるコンテンツ発信だと、英語が使えない各国の普通のエンジニアのための情報発信というのは、Developers.IOに合っているように思いますね。

多様性の強い職場づくり

枌谷

最後にクラスメソッドとしての今後についてもお聞きしたいですが、直近でやりたいことって何かありますか?

横田

最近の私たちの会社は、「多様性」がますます強くなっていて、それがカルチャーの中心になりつつあります。例えばうちの正社員には今16歳の人がいるんですよ。

枌谷

16歳!

横田

その人はすごいんですよ。しかも、うちがもう2社目なんです。何がやりたいかと聞いたら「インフラ」って返してきました(笑)もちろん他にも、子育てをしている方や、介護をしている方もいれば、日本以外の国籍の方もいます。このあたりの多様性は、これからDevelopers.IOのコンテンツとして世に出していきたいですね。

枌谷

それは楽しみです!

私がよくイベントで御社を紹介する時に、BtoBのオウンドメディアとして唯一無二、という話し方をしているのですが、改めて横田さんの話を聞くと、オウンドメディア云々ではなく、企業として唯一無二だということがよく分かりました。

御社の内情まで詳しくお話しいただき、本当に参考になりました。どうもありがとうございました!

アナグラム編集後記

今回の取材を振り返ってみると、個人的に特に心に残った言葉は「文化」と「信頼貯金」でした。

取材を通じて痛感したのは、クラスメソッドでは文化を作るためにブログを書いているのではなく、大前提として文化があり、それが自然にブログになっている、ということです。

また、ブログの効果はなかなか掴みづらいものですが、「信頼貯金」として蓄積され、それがやがて表面化するから書き続ける、という話は大いに心に響きました。

クラスメソッドが2011年を起点に業績を順調に伸ばしつづけていることも、その「文化」と「信頼貯金」が追い風のようになっているからなのではないかな、と思いました。

そんなクラスメソッドさん、11/1(金)東京にて下記のイベントを開催されるようですので、ご興味がある方は以下よりどうぞ!本記事でインタビュアーを務めてくださったWeb制作会社ベイジの枌谷さんもデザイン×エンジニアに関するセッションで登壇します!

参考:【11/1(金)東京】国内最大規模の技術フェス!Developers.IO 2019 東京開催!

文:ヤン・フーゲンディック
編集:阿部圭司/賀来重宏
写真:賀来重宏