「すっぽん小町」を代表とした健康食品と化粧品のD2C企業である、ていねい通販。私も商品を愛用している1人ですが、入り口となる広告やWebサイト、配送時や使用後のコミュニケーションなど、細部までユーザー目線で設計されているのが伝わります。その丁寧さがエンゲージメントの高さに繋がり、月次継続率は業界では異例の94%超え。
そんなていねい通販に新卒入社して、これまで経理・採用・CRM・新規事業開発など幅広く活躍されてきた戸田 良輝(とだ よしき)さん。
あらゆる立場を経験された戸田さんにお話を伺うと、ていねい通販の一貫したユーザー目線がどうやって培われたのか見えてきました。
お客さまが喜んでくれることを優先できるよう、売上目標もマニュアルも持たない
数年前、育児で体力の限界を感じてすっぽん小町を注文したんですが、サプリメントがマグネット付きのケースに入った状態で届いたんです。「”冷蔵庫に貼って飲み忘れを防げるように”って、そこまで考えられているんだ……!」と驚きました。
ありがとうございます!ユーザーさんにとって最初の壁は「飲み忘れずに続けること」です。その壁を乗り越えるサポートを考えた結果「見えるところに置く」が一番という結論にたどり着き、この形を採用しました。
毎月届くものだからこそ少しでも届くことを楽しみに思ってほしくて、毎回ちょっとしたおまけや読み物を添えています。
配送時だけでなく、広告や購入後のメールもポジティブな気持ちになれたり、不安を先回りして解消してくれるものが多いですよね。ユーザー目線で考えるために、どんな取り組みをされていますか?
僕たちは、お客さまと深く長い関係を築くことに重きを置いています。しかし、目先の売上や効率化にとらわれてしまうと、お客さまのためにならない行動を取ってしまいかねません。
「売上目標を達成するために、とにかく販促しよう」
「もっと時間をかけてお客さまの相談に乗りたいけど、マニュアル通りにしないと……」
そんな事態を避けたいので、ていねい通販には売上目標もマニュアルもありません。
「効率よりも優しさを優先しよう」という経営方針を掲げ、現場のメンバーがお客さまのことを考えるのに支障になりそうな要素は、できるだけ取り除いています。
そういえば、Xですっぽん小町の感想を呟いたら公式アカウントから返信が来たんですけど、わざわざ私に向けて作ったことがわかる画像付きでした。効率より優しさを優先できる環境があるからこそですね。
おっしゃる通りです。もし効率を優先するのであれば「こんなに時間をかけていられない」となりますよね。でも、SNS担当者は自分がお客さまとこういうコミュニケーションをしたいと考えて、一つ一つ楽しそうに返信しています。
電話応対しているアルバイトさんの中には「ご病気で定期購入を中止されたお客さまに何かしてあげたい」と社員に相談して、定期的にお手紙を送っているメンバーもいます。
チームや雇用形態に関わらず、一人ひとりがお客さまへの「こうしたい」を考え抜いて実現してくれているんです。
新卒で配属された経理で学んだ、枠にとらわれない働き方
戸田さんは新卒でていねい通販に入られたんですよね。入社したきっかけを教えていただけますか?
世間知らずで恥ずかしいんですが、学生の頃の僕は「世の中に貢献する=公務員」「会社=利益主義」だと思っていました。
なのでもともとは公務員を目指していたんですけど、当時のていねい通販は「社長の右腕求む!」という尖った募集をしていて、「面白そう」と軽い気持ちで面接を受けたんです。社長と接するうちに「この人は関わる全ての人に良い影響を与えたいと、本気で考えているんだな」と知り、自分もそんなカッコいい大人になりたくて入社を決めました。
社長の想いに強く共感して入社されたんですね。最初に配属されたのはどこですか?
実は僕のファーストキャリアは経理なんですよ。社長みたいになりたいと意気込んで入ったのに、経理か……と内心ガッカリしていました。
だけどある日、社長から「経理とは、経営管理のことだ。戸田がやってるのは計算の経理でしかないから、経営の経理になれ」と言われて、その言葉で視座を上げようと一念発起したんです。
本屋にある経理関連の棚にある本を全て読んで、経営判断指標を出すための管理会計を学んで……。社内に管理会計を知っている人はほとんどいなかったので、2年目頃から「お金に詳しい人」として、さまざまなプロジェクトに呼ばれるようになりました。
プロジェクトを横串で見るとアイディアも浮かびやすくて、お金の面以外でも積極的に提案をしていたら、徐々に任せてもらえる範囲が増えたんですよ。
まさかの経理スタート!経理が経営管理の略だと、初めて知りました。
ちょっとした捉え方の違いですが、「枠を決めて仕事の幅を狭めていたのは自分だったんだ」と気づけましたね。
採用を担当しはじめた頃も、マインドが変わった言葉があります。「マーケティングを学びたい」という焦りがあって尊敬する方に相談したら、「戸田くん。自分で1億の売上を作る人間より、1億の売上を作る人間を採用し続ける人の方が優秀なマーケターだと思わないか?採用を極めたら優秀なマーケターになれるから、目の前のことに集中しなさい」と言われたんです。
こんな風に、周りの人が僕の思い込みを取り払ってくれたからこそ、視座を上げて働くことができました。
物事を別の視点から捉え直す「リフレーミング」によって、戸田さんの行動が変わったんですね。
はい。それまで経理や採用は総務部の仕事の一つでしたが、僕自身の経験がきっかけになって「より経営に近い動きができるように、経営管理部という部署を別で立ち上げましょう」と会社に提案しました。その結果、管理会計・財務会計・採用を担当する「経営管理部」を新たに立ち上げて、リーダーになったんです。入社から3年目のことですね。
経理への配属から、3年で経営管理部の立ち上げまでやり遂げる行動力がすごいです……!先ほどの「ていねい通販には売上目標もマニュアルもない」という話にもありましたが、「決まった枠組みがないからこそ行動の選択肢が広がる」という考えが会社に根差していて、戸田さん自身も体現しているんですね。
採用で重視しているのは「人の気持ちを受け取る力」
ていねい通販メンバーのSNSやブログでの発信を見ると、会社愛の強い方が多いなと感じます。もともとユーザーだった方が入社されることが多いのでしょうか?
いえ、ていねい通販のことは面接を受けるまで知らず、健康食品業界に入るつもりもなかったというメンバーがほとんどです。
うちはここ数年、新卒採用を中心にメンバーを増やしてきたのですが、就職活動中にたまたま出会った僕たちの考えに触れて「こんな会社あるんだ」と興味を持ってもらえた感じですね。
採用ではどのようなことを意識していますか?
候補者との向き合い方がお客さまの向き合い方とイコールになるようにしています。
採用サイトの返信もテンプレートを使わず、お客さまへの接し方と同じように全て手動で返していますよ。
え、新卒採用だとものすごい数になりますよね!?
僕が採用担当を始めた頃は4000人くらいエントリーがあったんですけど、「これだと一人ひとりに向き合えない」と思い、エントリー数を100まで減らすように動きました。そのためにやったことが、好かれる人には好かれるけど、合わない人には合わないと思われる言葉選びです。
たとえば「弊社が求めているのは愛のある人です」という言い方をすると、共感する人は「私のことだ」と思うけど、合わない人は「うわ、愛って言葉を使う会社なんだ……」と離れていくんですよ。
万人受けする説明ではなく、「いかに類友を呼べるか」というのを考えて言葉を選んでいます。
なるほど、「類友を呼ぶ」と考えるとわかりやすいですね。お客さまのことを大切にする会社なので、面接ではホスピタリイティの高さを重視しているのでしょうか。
ホスピタリティよりも、「受け取る力」がちゃんとあるかを見ています。感受性が高くて誰かにしてもらったことに気がつきやすい人は、自分を満たす力があると思ってて。自分を満たせるからこそ結果的に人に返せると思うんですよ。
僕たちの会社って「お客さま第一」で、自分のことよりお客さまを優先する……というイメージがありますが、実はお客さまは最後なんです。
心理学では「シャンパンタワーの法則」と言うんですけど、まず自分や身近な人を大切にするからこそ、シャンパンタワーのようにお客さまにその優しさが提供できるイメージです。
僕たちはすごくおせっかいなので候補者の方に送るメールも長いんですけど、同じくらいの熱量でキャッチボールできたり、こちらがした些細なことにも気づいてくれる人は、相性が良いんじゃないかなと思います。
「社長があと3年で引退」これからのていねい通販はどうなるのか
先日、ていねい通販の採用担当の方が書かれた「3年後に社長が引退。大きな節目を迎える会社で、社員は何を想い、何を成していくのか。」を読みました。あと3年で社長は引退されるんですか……?
はい。社長がみんなの前で「創業30周年を迎える2027年に、僕は社長を引退する」と発表したのは7年前のことです。「このまま自分がいたら、みんなが力を発揮できなくなる。みんなの可能性を信じているからこそ会社を託したい」と想いを伝えて。
社長が引退しても会社を続けていけるように、今みんなで体制を整えているところです。僕自身も社長の持っている視点や能力を身に着けて、もっとていねい通販を良くしていきたいと思っています。
社長が引退された後のていねい通販は、どんな風に変わっていくのか、逆に変わらないことは何なのか……戸田さんの考えをお聞かせください。
うちの社長が「これは遺言や」と言っていることが2つありまして(笑)1つが「関わる全ての人たちに良い影響を」、もう1つが「身近な人から大切に」です。それ以外は何が変わってもいいけど、この2つだけは絶対に守ってほしいと言われています。
その話を受けて、僕は「関わるすべての人にもっといい影響を与えるには、今の商品ラインナップだけだと足りないんじゃないか」と思ったんです。現在主力商品であるすっぽん小町をWebで買ってくださる方はママ世代が多くて、「ていねい通販=ママ向け」のようなイメージを持たれている方もいます。
たしかに、10年以上前はすっぽん小町と言えばテレビCMがメインで、60歳以上の方に向けたプロモーションが多かった印象ですが、最近はママ向けの訴求が増えましたよね。
テレビCMは今もしているんですが、僕たちはスマホファーストに切り替えるのが比較的早かったんですよ。それでママ世代のボリュームが多くなって、結果的にWebではママ向けの訴求が増えましたね。
「僕らが向き合うのはママ世代だけで良いんだろうか」「より多くの方の悩み解決の選択肢となり得る商品を作りたい」そんな想いで、一から企画して立ち上げたのが、ていねい通販にとって10年ぶりとなる新商品、青汁の「ボコとデコ」です。
「関わる全ての人たちに良い影響を」という想いを体現するために商品を一から生み出したなんて、戸田さんの強い”ていねい通販愛”を感じますね……!ボコとデコのお話、まだまだ深掘りしたいのですが続きはぜひ第二弾でお聞かせください!
取材前は「ユーザー目線を大事にするために、全社でお客さまの声を共有する仕組みがあるのかな?」「ホスピタリティの高い人を採用する秘訣があるのかも」なんて勝手な想像を膨らませていました。
しかし、「関わる全ての人たちに良い影響を」という社長の想いや戸田さんのこれまでの経験を伺って、「どうやるか(How)」ではなく「なぜやるか(Why)」を大切にしてきたからこそ、ユーザー目線が一貫しているんだと納得しました。
取材中、とくに印象的だったのは「丁寧は常に”ing”で、”丁寧だった”という過去形が存在しない」という言葉です。まさに、ていねい通販が長く愛されてきた本質ではないでしょうか。
社長が変わっても、これまでもこれからも、きっと「ていねい通販」は丁寧であり続けるんだろうなと思います。
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次回は新商品「ボコとデコ」の開発秘話や商品にかける想いについて語っていただきます。第二弾もお楽しみに!
文 :砂川 恵里佳
編集:藤澤 亮太 / 杉山 美和
写真:杉山 美和