「名前で呼んでもらえる青汁」を目指して。“すっぽん小町”の会社が10年ぶりに挑んだ新商品開発の舞台裏

  • 近畿

ていねい通販は、1997年の創業以来「1日でも長いお付き合い」というコンセプトで、健康食品や化粧品などお客さまに長く愛される商品づくりに取り組んできました。

そんなていねい通販から10年ぶりとなる新商品、青汁の「ボコとデコ」が誕生。すでにレッドオーシャンの青汁市場に、なぜ今参入したのでしょうか?

開発を手掛けたブランドプロデューサーの戸田 良輝(とだ よしき)さんと、プロモーション担当の田村 真帆(たむら まほ)さんに、商品にかけるアツい想いを語っていただきました。

前回の記事はこちら▼
「枠を決めているのは自分だった」”ていねい”な通販会社があえて売上目標もマニュアルも持たない理由

見た目も商品名も「青汁らしくない青汁」を開発しようと思った理由

アナグラム

戸田さんが開発した「ボコとデコ」、パッケージがすごく可愛いですね。商品名も青汁っぽくないような……なぜこの名前にしたのでしょうか?

toda

ボコとデコは、栄養豊富にも関わらず捨てられがちな明日葉の茎と根っこまで丸ごと使用しています。

明日葉の茎と根は粉末化に手間がかかる上に「青汁は緑色の濃い方が栄養があるように見える」という理由も相まって廃棄されていました。

そんな明日葉の茎と根のように誰かのあまりものが、誰かの支えになる。凹(ボコ)と凸(デコ)のように、お互いを補い合って完成するイメージで名づけました。

アナグラム

素敵な由来ですね!そもそも、青汁を開発しようと思った理由を教えてください。

toda

理由は2つあって、1つはていねい通販の未来のためです。

現在、主力商品であるすっぽん小町を買ってくださる方がママ世代が多いこともあり、ていねい通販自体が「ママ向けブランド」のようなイメージを持っている方もいます。

しかし、ていねい通販が大切にしている「関わる全ての人たちに良い影響を」という想いを考えたとき、「より多くの方の悩み解決の選択肢となり得る商品を作りたい」と思ったんです。

toda

もう1つは、「機能性だけではなく、心でつながる商品を生み出したい」という想いです。

ていねい通販には、僕たちが開発するまで一般的ではなかった健康商品や化粧品が多く存在します。すっぽんを丸ごと使った「すっぽん小町」も、炭や泥を使った真っ黒な「すっぴんべっぴん黒石けん」も、当時は珍しいものでした。

そういったカテゴリー認知がない商品は、「なぜこの成分がいいのか」「どんな効能があるのか」といった機能の話がメインになります。もちろん機能性を知ってもらうのは大切ですが、商品にこめた想いを知ってもらうまでにどうしても時間がかかってしまう。

そこで、すでに十分な認知と「健康にいい」というイメージがある青汁なら、哲学を話す時間をもらえると思ったんです。

アナグラム

哲学を話す時間ですか……!

toda

はい。このインタビューでも、最初に商品名の由来を聞いてくれましたよね。もし青汁が一般的に知られていないものだとしたら、まず「青汁ってなんですか?」という問いからスタートすると思います。

だけど青汁自体は知っていて、さらに「ボコとデコって青汁っぽくない名前だな」と興味を持ってもらえたからこそ、早めに商品にこめた想いを話す時間をいただけました。

機能性から「なんだか良さそう(GOOD)」と手に取ってもらうだけでなく、もう一歩先の「こんな想いがこめられてるんだ(LIKE)」で選んでもらえる商品を作りたい。それが青汁を開発しようと思った理由です。

開発未経験で周囲を巻き込めたのは「哲学」があったから

アナグラム

青汁を開発すると発表したとき、社内はどんな反応でしたか?

toda

最初に社長に「青汁をつくりたい」と話したときは、「なんでやねん」と言われました(笑)

すっぽん小町や黒石けんのように市場にないものを開発することをモットーにしていたので、健康食品のなかでも1番王道で、毎月のように新商品が出ている青汁をつくるって……社長からしたら「ザ・普通のやつ現る」みたいな感じだったと思います。

だけど、「ていねい通販が青汁を開発すべき理由」や「誰かのあまりものが、誰かの支えになる」というコンセプトを資料にまとめてプレゼンすると、すごく反響があったんですよ。

リアリティを感じてもらうために、プレゼンの段階で商品名とロゴも作っていました。

※当時のプレゼン資料。このとき作ったロゴが、現在も使用されている。

アナグラム

まだ開発が決まっていない段階で、ここまで作りこんでいたとは……!

toda

これは持論ですが、人ってポジティブな感情が動くと、そのドーパミンを処理しないと気持ちが落ち着かないと思うんですよ。

だから僕は人に何かしら行動してもらいたいとき、ウキっと心が弾むような要素を必ず入れるようにしています。

アナグラム

たしかに、こうやって商品名やロゴを見ると「やってみたい」という想いがより強くなりそうです!商品の構想を考える上で、何か参考にしたものはありますか?

toda

実は社長にプレゼンする前に、本当にこの商品が響くのか知りたくて、採用面接で候補者に相談していました(笑)そのとき相談した1人が、現在プロモーションを担当してくれている田村です。

tamura

選考で「こんな商品を考えているんだけど、どう思う?」と聞かれました。青汁とだけ聞くと、最初はどこか自分事化できない感じがありましたが、戸田の話を聞いているうちに「世に出るべきものだ!」という想いが増したんです。

とくにサステナブルの分野に興味があったので「野菜の捨てられがちな部分も丸ごと使う」というコンセプトに惹かれましたね。自分の体に嬉しいことが、結果的に地球にとっても農家さんにとっても良いことにつながる。入社前から「この商品に携わりたい!」とすごくワクワクしました。

toda

最近は毛皮(リアルファー)ではなくフェイクファーを選んだり、商品が生産された背景まで気にかける人が増えています。田村もその1人です。

こうした若い世代の意見もプレゼン資料に盛り込み、無事に開発が決定しました。

アナグラム

戸田さんはこれまで商品開発の経験はなかったんですよね?社内に青汁の知見もない中、どのように開発されたのでしょうか。

toda

「規格外野菜を使おう」ということしか決まっていなかったので、素材パートナーを探すのが1番大変だろうなと思っていました。

でも、プレゼン後に社長がたまたま知り合いの食品メーカーさんに僕の企画を話したみたいなんですよ。すると「明日葉を丸ごと使いたいと言ってる農園がある」と紹介してくださって。それが滋賀の永源寺マルベリーさんです。

まさかこんなに早くコンセプトに合致した会社さんに出会えるとは思わず、すぐに訪問して前のめりで想いを伝えました。何度も足を運ぶとともにお互いの信頼も深まり、一緒に取り組むことが決まったんです。

アナグラム

まさに”類は友を呼ぶ”といった出会いだったんですね……!

こうしてお話を聞くと、社内プレゼンが通ったのも、田村さんがプロジェクトメンバーになったのも、永源寺マルベリーさんとの出会いも、人を惹きつける「哲学」があったからこそなんだなと感じます。

短期的な成果より長期的な信頼。クリック率を追わないプロモーション戦略

アナグラム

ボコとデコの発売当初は、ていねい通販を利用されているお客さまが買ってくれることが多かったのでしょうか?

toda

いえ、圧倒的に新規ユーザーさんが多いですね。

BtoCのセオリーでいくと、最初に購入した商品の3分の2以下の価格じゃないと追加で購入いただくのは難しいと言われています。ボコとデコは主力商品のすっぽん小町よりもやや高いので、それも要因の一つかと。

でも、初回限定50%オフのようなクーポン施策はあえてやっていません。

アナグラム

新しい商品を手にとってもらうきっかけとしてクーポン施策は有効だと思いますが、なぜでしょう?

toda

もともと価格や機能性だけではなく、ストーリーで選んでもらえる商品を目指して開発したので、出会い方にもこだわろうと考えました。

たとえば広告に「~~の成分が足りないと将来が危険!」のような不安を煽るメッセージを入れたら、一時的にクリック率は上がるかもしれません。しかし、長期的に見れば「そういう広告を出すブランドなんだ」と認知され、知らぬ間に嫌われる可能性もあります。

現在Web広告はInstagramがメインなんですけど、プライベートで使っている方が多い媒体に広告を出す以上、「お邪魔してる」という感覚を忘れたくない。だからこそポジティブなメッセージや媒体に馴染むデザインにこだわっています。

もちろん僕たちも徹底できていない部分はあり、お客様の声や仲間の意見を踏まえながら日々アップデートしています。実際、成果が良かったクリエイティブでもお客様の声を踏まえて停止したこともあります。

ボコとデコのInstagram広告

アナグラム

目先の数字だけではなく、ユーザーとのコミュニケーションを長期目線で考えているんですね。他のプロモーション施策についても教えていただけますか?

tamura

私が担当しているのは、YouTubeやインスタライブで商品をご紹介いただくインフルエンサーマーケティングです。サステナブル文脈で発信をしている方や料理系のインフルエンサーさんなど、私たちの想いに共感いただけそうな方を一人ひとり探しています。

ご依頼するときはボコとデコの説明だけでなく、その方の発信を見た感想やお声掛けした理由など、アツい想いをつづった3~4枚くらいのお手紙と一緒に商品を送っていますね。「一定期間試して、もし商品が良いと感じたらご紹介してほしい」という想いを添えて。

アナグラム

「商品をストーリーで選んでもらう」と考えると、情報量の多い動画で、かつ実際に試した方が紹介するインフルエンサーマーケティングはすごく相性が良さそうですね!

toda

おっしゃる通りです。インフルエンサーさんにご紹介いただくと、広告への反応も一気に増えるんですよ。

また、商品の購入ではなく、哲学を広めることを目的としたプロモーション施策もやっています。「お互いを補い合って完成する」というコンセプトを表現した漫画を公開したり、明日葉の産地である滋賀県のものづくりをテーマにしたフリーペーパーを制作したり。

1つのコンテンツで伝えられる情報には、限りがあります。それぞれの施策を点で考えるのではなく、ポジティブな一貫性を持って発信することでブランドが形づくられるんだと思います。

(左)ボコとデコのコンセプトを表現した漫画 (右)滋賀県のものづくりをテーマにしたフリーペーパー

「ブランディングでモノは売れない」と考えているマーケターの選択肢を増やしたい

アナグラム

新規事業だと、とにかく最初はユーザーを増やすことに注力して、ある程度売上が安定したらブランディングに力を入れる……という企業も多いと思います。

ボコとデコは2022年の発売からまだ2年。はじめから長期目線で考えたプロモーションを続けられたのは、なぜでしょうか。

tamura

周囲の方から「機能をもっと訴求した方がいい」「値段を下げた方がいいんじゃないか」という意見もいただきました。

でも、それをしてしまうと「心でつながる商品をつくりたい」という想いでスタートしたボコとデコの良さがなくなってしまう気がして。時間がかかっても想いを地道に伝える道を選んだんです。

コツコツと発信をし続け、ありがたいことに今ではたくさんの定期購入者さんがいらっしゃる状況になりました。

アナグラム

短期的な成果より長期的な関係構築を目指してきた結果ですね!最後に、ボコとデコのこれからについてお聞かせください。

toda

豊かさや自立において、選択肢が多いことが大切だとよく言われますよね。

ボコとデコはお客さまの悩み解決の選択肢を増やすのはもちろん、世の中のマーケターの選択肢を増やす事例にもなったらいいなと思っています。

マーケターの中には「やっぱりブランディングでモノは売れない」と考える方も少なくありません。けれど実際、短期的な売上に繋がらないとしても、お客さまと商品の最初の出会い方によって、その後の関係性には大きな影響が出ています。

ボコとデコの長期的な取り組みを通じて、「こういうやり方もある」と知ってもらえたらいいなと。

そういった存在になれるよう、今後もボコとデコの想いをさまざまな形で伝え続けていきます。

アナグラム編集後記

ボコとデコが大切にしている「誰かのあまりものが、誰かの支えになる」という想い。それを体現しているのは青汁本体だけではなく、実はパッケージも砂糖を作る際に生まれるサトウキビの搾りかすを使用しているそうです。

知れば知るほど「そこまでこだわっているの!?」という驚きがあり、”機能性だけでなく心でつながる商品づくり”を本気で目指した結果なんだなと感じました。

青汁自体もすごく飲みやすくて、お茶代わりに栄養補給したり料理に混ぜたり、家族みんなで飲めるので気になる方はぜひ試してみてくださいね!(私は牛乳で割って抹茶オレ風にするのがお気に入りです)

前回の記事ではていねい通販の一貫したユーザー目線に迫っているので、こちらも合わせてお読みください。
「枠を決めているのは自分だった」”ていねい”な通販会社があえて売上目標もマニュアルも持たない理由

 

文 :砂川 恵里佳
編集:藤澤 亮太 / 杉山 美和
写真:杉山 美和 / 齋藤彩可