世の編集者へ。自分が読みたい記事を作っているか?|株式会社WORDS竹村俊助氏による編集相談室

  • 関東

『メモの魔力』(前田裕二)、『リーダーの仮面』(安藤広大)、『佐藤可士和の打ち合わせ』(佐藤可士和)、『福岡市を経営する』(高島宗一郎)など、数々のヒット書籍に携わってきた編集者・竹村俊助さん(@tshun423)。2019年にはエディトリアル・エージェンシーである株式会社WORDSを立ち上げ、あらゆる企業のnoteやTwitterにおける情報発信を支援されています。

今回はそんなプロ中のプロ編集者である竹村さんへ、編集についてアレコレ相談させてもらいました。な、なんてぜいたく過ぎるお悩み相談室なんでしょうか……。編集者・ライターのみなさん、どうか心してご覧ください。

いい取材は、悩み相談である

アナグラム

本日は貴重な機会をいただきありがとうございます!竹村さんの著書『書くのがしんどい』やnote、いままでに何度も拝読してきました。なかでも強く共感し、実践しているのは「いい取材は、悩み相談である」という一節です。

takemura

ぼくもいつも、取材で自分の人生相談をしています。 “取材のための取材” って、あまり話が盛り上がりませんよね。仕事だから聞くという姿勢よりも、「私はいまこういうことに困っています。あなたならこんなときどうしますか?」と自分が聞きたいことを聞く。そのほうが「あぁこの人は本当に困っているんだな」と相手も前のめりに答えてくれるじゃないですか。

アナグラム

大先輩へ相談する機会が得られる取材って、本当にオトクな仕事ですよね。……ということで今回、あつかましくも竹村さんにアレコレ相談したく、大小さまざまな編集の悩みを用意してきました!何卒、よろしくお願いいたします!!!

情報があふれ過ぎて記事が読まれない問題

アナグラム

さっそく1つ目の相談です。誰もが気軽に情報発信できるようになったいま、情報過多で記事が埋もれてしまうことに悩んでいます。Twitterのタイムラインなんて、もう一瞬で流れてしまうじゃないですか。

takemura

たしかに情報があふれていますよね。でもこの状況って、コンテンツをちゃんと作れる人にとってはむしろチャンスだと思いませんか?玉石混交のなかで、光るコンテンツを作ることができれば逆に目立ちますよね。

アナグラム

な、なんとポジティブな解釈……!!!

takemura

しかも増えているのは結局のところ二次、三次情報なんですよ。たとえば、とある有名人の発言が炎上したとします。その有名人に直接取材している人はほんの1〜2名しかいませんが、発言をただ批評するだけの人はごまんといる。こうなると、一次情報の価値は相対的に高まりますよね。

アナグラム

なるほど、頭ひとつ抜け出すコンテンツを作る秘訣は「一次情報であること」ですね。

takemura

あとは、講談社が社是として掲げている「おもしろくて、ためになる」という言葉に “読まれるコンテンツとはなにか” がシンプルに詰まっていると思っています。本もnoteもツイートも「おもしろい」か「ためになる」、どちらかを必ず盛り込むように心がけていますね。

アナグラム

「ためになる」とは、ノウハウなど役立つものですよね。「おもしろい」とは、具体的にはどんなコンテンツなんでしょうか?

takemura

なかなか難しい定義ですが、「おもしろいコンテンツは、感情を動かすもの」だとは思います。成功やお金、人間関係といった感情を刺激しやすいテーマが入っていると、やっぱり読者の反応がいいんですよね。

認知度が低い人はなにを言っても読まれない問題

アナグラム

……しかし竹村さん、おもしろくてためになっても、やっぱりまったくの無名な状態からコンテンツを届けるのは難しくありませんか?現に私は “誰の発信なのか” で情報を取捨選択してしまっています。

takemura

あの人が発言するとめっちゃバズるのに、この人が同じ発言をしても全然バズらない、というのは実際に起きますよね。その人が世の中からどう見られているのか、コンテクスト(文脈)によってコンテンツの広がり方が大きく変わるなと、ぼく自身も感じています。

だからこそ、現時点での認知度が低いのなら、まずは自己紹介noteやSNSのプロフィール文で自分が何者なのかを明記しておくことが大事だと思いますね。

アナグラム

自己紹介、言われてみればたしかにちゃんとできていない気が……!

takemura

たとえばリチカ松尾社長の場合、「まわりの社長がスゴすぎて正直、吐きそう」というnoteが自己紹介代わりになっています。ここで松尾さんのキャラクターが知れ渡ったからこそ、その後のnoteもいっそう読まれたと思うんですよね。もしnoteを出す順番が逆だったら、結果は変わっていたはずです。

たくさんnoteを書いているのに読まれない原因のほとんどは、「なんかよくわからない人が、それっぽいことを言っている」状態に陥っているからじゃないでしょうか。

アナグラム

自己紹介note、完全に侮っておりました。次の休日に絶対書きます。

takemura

で、さらに言えば、自己紹介noteを書くときも、さっきの「おもしろい」と「ためになる」を盛り込むのがポイントなんですよね。ただの自己紹介はなかなか読んでくれないので。みんなが「おもしろい」と思えるようなストーリーを語ったり、「なるほどね」って思われるようなノウハウを盛り込む。それが結果的に自己紹介になっていたら理想です。

アナグラム

そうか、そうか。自己紹介は大切だけれど、ふつうに自己紹介をしても読まれないんですね。難しそうだけど、チャレンジしてみます!

自分と接点のないテーマで取材するのが不安問題

アナグラム

続いてここ最近の切実な悩みなんですが、自分とあまり接点がないテーマで取材することに不安があります。なかなか相手に興味も持ちづらくて……。

takemura

その場合は、自分と接点が見つかるまでとことん調べますね。どんなに違う立場や職業であっても学生時代はありますし、抽象度を上げて人生にまでフォーカスしていけば、自分と重なる部分が必ず出てくるじゃないですか。そうすると自ずと興味が持てますし、自分とは違う立場であればあるほどおもしろい発見がありますよね。

あとは、「自分が同じ立場だったらどうするかな?」と考えることも多いです。たとえば、取材相手が福岡市長だった立場、「自分が36歳で福岡市長になったらどう思うかな?」って考えるといろんな質問が浮かんでくるんですよ。「50〜60代の部下に指示しないといけないって、めっちゃ嫌じゃないですか?」とか。

アナグラム

自分に重ねる、自分に置き換える、ですね。興味の湧かせ方、とても勉強になりました!

ライターさんから送られてきた原稿がおもしろくない問題

アナグラム

あとはどうしてもお聞きしたかったことが。ライターさんから「イマイチだな……」という原稿が送られてくることって時折あると思うのですが、竹村さんはどのように対応していますか!?

takemura

出版社時代はありましたね。Web記事は5,000文字前後なのでまだいいですけど、書籍になると5万文字くらいの原稿がおもしろくなかったりする。結局、全部やり直したこともありました。クリエイティブな仕事なので、ある程度仕方ないものの、「属人的」すぎますよね……。

アナグラム

締切間近に50,000文字の書き直し……想像するだけで地獄ですね(涙)。

takemura

ライターさんって、ほんと人それぞれで。きちんと編集視点までもってコンテンツにできる人もいれば、事実だけ残しておもしろい雑談をごっそり削って「情報」にしちゃう人もいる。だからぼくは、そもそも「ライティング」とひと括りにしている体制そのものに無理があるのではないかと考えてるんです。そこでWORDSでは「ライティング」を細分化して、「文字起こし」「原稿化」「編集」といった複数のステップに分けています。

アナグラム

げ、原稿化……!?いったいなんでしょうか?

takemura

「原稿化」とは、文字起こしした文章を論理的にわかりやすく整える工程です。「ここはおもしろくないから削除しよう」と自分の解釈で判断するのは当然NGですし、言葉のニュアンスや空気感も変えてはいけません。誰がやってもほぼ同じ原稿の下地ができあがることを目指します。

ライターさんの個性や感性に頼らないやり方ではありますが、この「下地作り」はなにより大事だと思っています。きちんと「原稿化」ができてようやく、いいコンテンツにするためにどうしようか、という「編集」のステップに入れるわけです。

takemura

原稿化は、料理でいうとじゃがいもの皮むきです。皮むきって、方法さえ知っていれば誰がやっても同じ結果になりますよね。みんないざ料理をやり始めるとフレンチ料理の派手な「フランベ」みたいなことをやりたがるんですが……「じゃがいもの皮もむけないのに、いきなりフランベ!?そんな技工はいいからまず皮むきやれよ!」って思っちゃうんですよ。

アナグラム

竹村さん、今日一番言葉に熱がこもっていますね(笑)。

takemura

そうですか?(笑) でも考えてみれば、社会人になってから日本語を学べる場所ってほとんどないですよね。というわけで、WORDSでは「ライティングのブートキャンプ」みたいなものをやろう、って言っています。ひたすら原稿化してもらう、泥臭い皮むきをやらせる料理教室です。

アナグラム

ブートキャンプ、私もぜひ参加したいです!皮むきがんばります!!!

どうやって編集スキルを高めるんだ問題

アナグラム

ちなみに、原稿化スキルは比較的誰でもトレーニングできるとしても、その先の編集スキルはやっぱり属人的な領域ですよね。竹村さんのような編集力を身につけるためには、いったいどうしたらよいのでしょうか?

takemura

今後ぼく以外の社員も顧問編集者をやっていくために、コンテンツの型化や目線合わせはまさにいま社内で取り組んでいるところです。

教育方法はレストラン「sio」のオーナーシェフ・鳥羽さんのやり方を参考にしています。鳥羽さんって弟子とひたすら一緒にご飯を食べて、「この味はこうだね」とフィードバックしているらしいんですよ。そうすると「これ鳥羽さんならダメって言うよね」「こうしろって言うだろうな」みたいな鳥羽イズムが徐々に弟子たちに浸透していくそうです。

だからうちも、もちろん感染症対策はしたうえで社員にはなるべく出社してもらうようにしています。『嫌われる勇気』の編集者として有名な柿内芳文さんも弊社のアドバイザーなので、柿内さんと社員とぼくとで記事の感想を言い合ったり、なにげない雑談をしたりすることを大事にしています。こうして “イズム” を伝承していきたいと思っていますね。

アナグラム

クリエイティブな仕事だからこそ、イズムの共有はとても大事ですね。編集メンバー同士でのコミュニケーションのとり方を見直そうと感じました!

そのコンテンツ、誰がおもしろがるの?

アナグラム

ここまでたくさん相談にのっていただき、本当にありがとうございます(涙)。さいごに、世の編集者へメッセージをいただけないでしょうか。

takemura

クリエイターは「大衆にはこういうものがウケるだろう」と思いながら、コンテンツを作りがちです。でも、多くのクリエイターは自分自身もまた「大衆の一人」であることを忘れています。だからこそ、自分がおもしろいと思うものを作らなきゃいけないんです。

……という内容をYahoo!社の「RED Chair」シリーズで秋元康さんが話していたんですが、ぼくも同じことを思っています。

その昔、「スピリチュアル系がウケるだろう」「自分では買わないけど、まぁ誰かは買ってくれるだろう」と、「神様と上手く付き合う方法」みたいな本を自信満々に作ったことがあったんですが、まったく売れず(笑)。それからは少なくとも自分自身が買って読みたいコンテンツを作ろうと心に決めています。自分がおもしろいと思ってないことを誰かにおもしろがってもらうって、相当ミラクルなんですよね。

アナグラム

ハッ……!!!大量の原稿と向き合うなかで、その意識は薄れてしまっていたかもしれません……。

takemura

企業のnote活用コンサルティングをやっていても、アドバイスすることはいつも同じなんですよ。

「担当者であるあなた自身が、おもしろがらないとダメですよ」
「まずは自分が聞きたいことを取材しにいきましょう」

編集者はもっと、自分自身がおもしろがっているかどうかに敏感になるべきではないでしょうか。

アナグラム

これから編集に携わる上で、忘れられないメッセージとなりそうです。竹村さん、本当にありがとうございました!

アナグラム編集後記

「自分が読みたい記事を作っているか?」

このシンプルな問いに対する私の答えは、残念ながらNOだ。大事であることはよく理解している。でも実行できていなかったのだ。

好きでやっていた取材執筆活動が、れっきとした仕事になった頃からだろうか。仕事である以上、依頼主の期待に応える必要がある。その期待に応える記事は、自分が読みたい記事とは時にイコールではない。そうしていつの間にか、自分が読みたい記事ではないものも作っていたように思う。

……イコールではないものの、依頼主の期待に応える記事を、自分が読みたい記事に昇華させることはできる。この工程を、サボらず、丁寧にやっていく。それが編集者の仕事なのだと、ペーペーながらに心に刻んだ取材だった。

取材:賀来重宏/まこりーぬ(ライター)
文 :まこりーぬ(ライター)
編集:賀来重宏
写真:賀来重宏