わずか2年で累計導入社数400超と、現在急成長中の動画生成クラウドスタジオ『RICHKA CLOUD STUDIO(リチカクラウドスタジオ)』。 広告業界の方であれば実際に触れたことがある人も多いのではないでしょうか。
今回はそんなリチカを運営している株式会社リチカ・代表取締役 松尾幸治さんに、このプロダクトがどのように生まれ、そして磨かれているのかをお聞きしました。マーケティングの核とも言える「商品作りの秘訣」を紐解きます。SaaSに限らず、自社商品をよりよくしていきたいとお考えのみなさまはぜひぜひご覧ください!
1週間で約200件のお問い合わせがきた待望のプロダクト
本日はリチカの成功の秘訣にどんどん迫っていこうと思います。松尾さん、どうぞよろしくお願いいたします!はじめに、どんな経緯で生まれたプロダクトなのかぜひ改めて教えていただけないでしょうか。
もともとぼくたちは制作会社としてスタートしていて、お客様のご要望に応じて動画制作もシステム開発もとにかくなんでもやる……みたいなことをしばらくやっていました。そのなかで動画制作事業が伸び、たくさんお仕事をいただけるようになったんですが、動画を作るのってやっぱり大変で。
それにSNS広告で使われるようなマーケティング系の動画って、フローとして流れていくしすぐに忘れ去られてしまうじゃないですか。そういったPDCA重視の動画はわざわざクリエイターが1ヶ月かけて作るのではなくて、お客様自身が手軽に作れた方がいいよね……っていうことでプロトタイプを作ったのが、リチカのはじまりです。
自社プロダクトを生み出すためにありとあらゆるプロトタイプを作った……というエピソードを事前に松尾さんのnoteにて拝見していたのですが、数ある試作のなかでもリチカが飛び抜けた理由はどこにあると感じられていますか?
20個ぐらいああでもないこうでもないっていろんなプロトタイプを作ったんですけどね、リチカだけはリリースして1週間で200件くらいお問い合わせをいただいたんですよ。シンプルにバズりました(笑)。制作側だけでなく発注側もぼくたちと同じように「動画作るのって大変だなぁ」と課題に思っていたんだな、と実感しましたね。あとは、リリース当時のリチカは「動画を簡単に安く作れるプロダクト」なので、そのわかりやすさもウケた要因かと思っています。
そんなに一気にお問い合わせがくるなんて、まさに待望のプロダクトではないですか!2018年のリリース時は競合があまりいらっしゃらなかったのでしょうか?
あまりいなかったですね。「簡単に動画が作れるプロダクト」というアイディア自体は昔から国内外にありましたが、地味に参入障壁が高い領域だと思っているんですよ。というのも、カッコいい動画を作るためのクリエイティブの理解と、簡単に作れるようにするためのシステムの理解が2つそろってないといけない。弊社の場合は創業メンバーにCTOがいますし、ぼく自身クリエイター経験もシステム開発のPM経験もあったので両方クリアできた、という感じです。
「簡単に動画が作れる」だけではいけない理由
2020年現在ですと近しい機能をもつプロダクトがいくつかあるかと思うのですが、リチカが多くのお客様から選ばれる理由はズバリどんなところでしょうか?
簡単に動画が編集できるアプリやサービスは昔から世の中にありますが、それらと違うのは 「簡単に動画が作れる」っていうのを売りにしてないことなんですよ。それはただ簡単に作れるだけだと、お客様にとって意味がないと思っているからです。
伝わる情報とはなにかを考えていくと、「コンテンツ」と「デリバリー」という2つの要素に大きく分けられると思っています。どれだけいい内容でも届け方が間違っていれば伝わらないし、どれだけスムーズに届いても内容がスカスカであれば伝わらないですよね。リチカはデリバリー部分を集合知化してお手伝いするので、お客様はコンテンツ、すなわち誰になにを伝えるかを考えることにしっかり時間を割いてくださいね……というプロダクトメッセージにしています。
あとは、他の便利なアプリやサービスは “自由度が高く” 簡単に動画が作れることを目指していらっしゃると思うんですが、実はリチカは比較的自由度が低いんですよ。これは、ことマーケティング系の動画においては制約があるからこそクリエイティビティが最大化できると思っているからです。
たとえば、「いまここで見えている情景を詩にしてください」っていきなりお題を出されたとしてもなかなかパッと答えられないですよね。一方で「いまここで見えている情景を五・七・五にしてください」というお題にすれば、きっと2〜3分でなにかしらアウトプットできるじゃないですか。制約があるほうがクリエイティビティを発揮しやすいっていうのはこういうことです。
いま、詩を読まなきゃいけないのかとドキドキしました(笑)リチカは「本当にお客様のためになるのかどうか」をしっかり考え抜いたプロダクトなんだと感じました!
忖度なしの「ガチお客様の声」チャンネル
ここからはリチカの裏側についてどんどん質問してまいります。「AIナレーション機能」「ビジネス動画スタンプ」「名刺 THE MOVIE」など次々に新機能や新サービスをリリースされていますが、これらのアイディアはどのように生まれているのでしょうか?
もちろん自分たち発のものもありますが、「もっとこういう機能ないの?」というお客様の声きっかけの新機能が多いですね。お客様が求めているものとぼくたちの進みたい方向が合っていれば、それはすぐに作りましょう!と動くようにしています。
お客様の声きっかけなんですね。声を吸い上げる仕組みはどのように整えていらっしゃいますか?
弊社のSlackには「ガチお客様の声」というチャンネルがあってですね。メンバーはみんな「ガチ声」と呼んでいるんですけど(笑)、営業やカスタマーサクセスが受け取ったお客様の声はこのチャンネルにまず吐き出そう、というルールを設けています。ここに挙がってきたものに対して、対応可否や優先順位を営業と開発が一緒になって週次で議論します。改善や新機能はほぼガチ声から生まれていますね。
実はこの仕組みって最初ちょっと失敗したんですよ。営業やカスタマーサクセスが優しい性格であればあるほど開発側に遠慮して、お客様から言われたことを勝手にフィルタリングしてしまっていたんです。なので、ここに挙がっているものはメンバーの意図は入っていないお客様の声そのままであるという共通認識をもつことを徹底しました。開発側からすると「なんだこの意見は」って思うこともあるでしょうけど、お客様の声なんだから素直にちゃんと受け止めようね……という納得感をもたせるようにしましたね。
たしかに、その共通認識をもたないとつい忖度してしまいそうです……!営業と開発の確執問題はやっぱりあるあるですよね(涙)。
前職では完全に営業側が強かったんですけど、営業側が強いと開発側が言いくるめられちゃって本質的ではないものができあがっちゃうじゃないですか。逆に開発側が強くてユーザー視点が薄れていってもそれはそれで大変なので、バランスが大事だと思いますよね。
周りが提案資料を作っている間にプロトタイプを作ってしまえ
リチカの開発体制って具体的にどうなっているのでしょうか?スピーディーに進化を遂げる秘訣があるのではないかと思っているのですが……!
現在開発チームは14〜15人いまして、国内:海外=3:7くらいの割合です。実は体制にはそこまでこだわりがなくて、必要なエンジニアを必要なだけ採用している感じですね。「ちょっと作ってみようぜ」というテンションでまずプロトタイプを作り、そこから製品化するかどうかを検討する文化が根付いているんですが、体制というよりはこの文化のほうが開発をどんどん進められているポイントかもしれません。
「ちょっと作ってみようぜ」文化、ステキですね!最初からなんでしょうか?それとも紆余曲折経てその文化に至ったのでしょうか?
わりと最初からですね。「結局モノを作ってみないとそれが正解かどうかってわからないよね」「ぼくたちには作れる力があるんだから作ろうよ」というマインドを全メンバーがもつようにしています。「現物主義」という言葉で会社のバリューにも落とし込んでいますね。
最初からということですが、松尾さんご自身が「現物主義が大事だ!」と思われたきっかけはなんだったのでしょうか……?
多分、起業当時仕事がなかったからです(笑)。他社が提案資料を作っている間に僕たちはプロトタイプまで作っていたんですよ。すると受注率がよかった。これが体に染み付いている気がします。
クリエイティブ系はとくに発注側と制作側がそれぞれ頭のなかで描いているものにズレが生じやすいですし、ズレたものができあがってしまったときのダメージがめちゃめちゃ大きいじゃないですか。1ヶ月かけて作った制作物をお客様に出したら微妙な顔をされる、みたいな(笑)。最初にプロトタイプを作っておいたほうが結果トータルで見ると早いんじゃないかな……と思いますね。
一生懸命作ったのに微妙な顔をされるのはツラいですよね……!(涙)たしかにある程度先にモノを作って出しておいたほうが、結果として早く完成するのかもしれませんね。
いいプロダクトは、いい組織から
松尾さん、いままでいただいたお話のほかにも、よいプロダクトを作っていくうえで大事にされていることはありますか?
そうですね……まだまだ強化していきたいところではありますが、全メンバーが「お客様の事業がどうしたらもっとよくなるのか」を意識している、意識しようとしていることですかね。ぼくらの場合「簡単に動画が作れて終わり」ではやっぱり意味がなくて。リチカを導入いただくことでお客様の事業がどうよくなるのかをイメージしながら会話することをすごく大事にしています。
SaaSというビジネスモデル上、リチカを使い続けてもらうために、営業やカスタマーサクセスは自然とお客様の事業成長へ意識が向きやすいのかなと思います。一方で開発側も、自らビジネス側に「この機能によってお客様の事業がどうよくなるの?」と投げかけてくることがありますよ。作ることを目的とせず、実現したい目的のために手段として作っている、という意識が強いですね。
それってめちゃめちゃすばらしいことだと思うのですが、言うは易く行うは難しですよね……!お客様の事業成長へ意識を向かせるために工夫していることをぜひ教えていただけないでしょうか?
定期的にぼくからメンバーへ「こういう方向を向こう」と話すようにはしています。あとは、まだまだ徹底できていませんが「数字を見よう」っていう話もよくしますね。とくにクリエイターは「(自分が思う)いいものを作りました」という発想になりがちなので、そうじゃなくて、ファクトで判断する文化になるよう心がけています。
なるほど……。「評価制度に結びつけている」的な、仕組みとしての工夫はあったりしますか……?
そんなこともないですね。あくまで「こういう意識でいよう」という働きかけなんですよ。……まぁ、こうした意識をもてる人材であることが入社の条件ではあります。
そこだ!よい文化のカギを握っているのは、きっと採用ですね!!!
細かく定義された採用基準は破ってはいけない鉄の掟
リチカ社では具体的にどんな採用基準を設けられているのでしょうか?
弊社では全職種共通の人材要件を「スタンダード」として細かく定めています。入社前の面接段階でもってないといけない6つの項目を簡単にまとめると、「現状にとらわれることなく相手のこと考えて自走できる人」みたいな定義ですね。これ以外は自由なんですが、これだけはなにがなんでも満たさなければならない鉄の掟としています。
鉄の掟!たくさんの人を採用し会社の規模が大きくなるとよい文化を維持する難易度が上がってしまうと思うのですが、会社の規模は今後拡大させるご予定ですか?
そうですね、大きくなったらいいなと思っています。採用もめちゃめちゃ積極的にやっていますよ。もちろん会社が大きくなると新しい課題が出てくるので、極力先手先手で対策を打つようにしています。
たとえば、地味ですがこの半年はボキャブラリーの統一に注力しました。「バリューってそもそもなに?」みたいなところですね。多分10人に聞いたら10人違った解釈をしていて、さらにその10人が新メンバーに教えるともっと解釈が広がってしまう。会社の規模が大きくなったこと、そしてリモートワークが増えたことで、いままで非言語でなんとなく伝わっていたものが伝わらなくなってきたと感じ、このタイミングで見直しました。
たしかに「そもそもバリューとは?」と考えたことがなかったです……!言葉の定義が明確であることは、求職者からみても非常に信頼できるポイントだなと感じました。
モノさえよければ、人の心は動く
いよいよ最後の質問です!これからよいプロダクトを作りたい、あるいはもっと既存のプロダクトをよりよくしていきたい!と考えるみなさんへ、ぜひ松尾さんからアドバイスをいただけないでしょうか。
ぼくらがめちゃめちゃその過程にいるのでなにもエラそうなことは言えないんですが……そうですね、まず作っちゃえばいいんじゃないでしょうか(笑)。手書きのラフでもいいから、とにかくカタチにしようとしてみることがすごく大事だと思っています。そのモノさえよければ、人の心って動くと思っているんですよね。お客様であっても社内であっても。
プロトタイプを作るって手間でないがしろにされがちなので意外と取り組まれていないんですが、だからこそみなさんにはおすすめしたいですね。
「現物主義」ですね!ぜひ松尾さんはじめリチカ社の姿勢を見習い、しっかり最初から手を動かしていきたいと思いました。本日は本当にありがとうございました!
「今日お話ししていることって、そんなの当たり前じゃん!みたいなことが多いと思うんですけど、徹底されている会社って意外と少ないのかもしれませんね」
取材中、そんなコメントを松尾さんからいただいたのですが、「徹底されている会社が少ない」はまさにその通りなんだろうなと思います。徹底するために企業はありとあらゆる工夫を施すと思うのですが……取材の結果、リチカさんが徹底できている秘訣は “仕組み” というよりも “文化” にあるという結果にたどり着いてしまいました……!
組織の文化は一朝一夕には変えることはできませんが、目指す方向を言葉にしてみたり、あるいは経営陣と一緒になって言葉の定義を見直してみたり、そんなことからスタートしていくしかないのかもしれません。いいプロダクト作りへの道のりは、なかなか長そうですね。
取材:賀来重宏/まこりーぬ(ライター)
文 :まこりーぬ(ライター)
編集:賀来重宏
写真:賀来重宏