エンジェルマーケターとして社会のバグを直したい。スタートアップのかかりつけ医、ビタミン株式会社の高梨大輔さん

  • 関東

美容・代替医療専門求人サイト「リジョブ」を運営する株式会社リジョブの創業メンバーであり元取締役副社長CMO。2014年に株式会社じげんに事業売却した後は、同じくリジョブの創業メンバーだった高松氏とスタートアップを支援するビタミン株式会社を設立。マーケティングインサイダーというゼミを運営しながら、数多くのスタートアップを支援する高梨大輔さんにご自身のマーケターとしてのポジショニングや、マーケティングを通して描きたい未来についてお伺いしました!

マーケターと医者は同義。スタートアップのかかりつけ医

アナグラム

高梨さんは大学生のころからリジョブに携わられて、じげんグループに事業売却、そして今はビタミン株式会社を立ち上げられてスタートアップの支援をしていらっしゃいますよね。まずはどういった流れで現在のかたちになったのかを教えたいただきたいです。

takanashi

今考えるとリジョブから離れたときは、完全にやりきってしまった、いわゆる燃え尽き症候群でした。それでこれからどうしようかなって思って2年ぐらい海外を転々としていたんです。わかりやすくサンフランシスコやインドに行ったり。よく、インドに行くと人生観変わるって言うじゃないですか。でもぼくの場合、インドに行った時はすでに30歳超えていて人格も完成されてたんで、何も変わりませんでしたね(笑)

アナグラム

自分探しの旅の答えは何も見つからない、とはよく言います。わかりやすい(笑)

takanashi

もう一度スタートアップとしてバリバリ資金調達して勝負してやろうとか考えたりはしたんですけど、リジョブで一度経験していてそのヤバさがわかるから、生半可な気持ちで、スケールする事業をつくるという目的だけで起業しても絶対続けられないと思いやめました。

本当にやりたいことは何なんだろうか、この先10年力を注げることは何なんだろうとかを考えながらフラフラしてて気づいたら2年ぐらい経ってて。最後にニューヨークに行った時がちょうど2016年のアメリカ大統領選のときで、日本ではあまり味わえないアメリカ大統領選独特の雰囲気が、なんか言葉でうまく言い表せないんですけど…すごかったんですよ(笑)

ぼくはタイムズスクエアのスクリーンで、州ごとの票が発表されるのを見ていて、最初はみんな盛り上がってたんですけど徐々に「あれ、これ本当にトランプ勝っちゃうのでは……?」みたいな空気感になっていくのが不思議な体験でしたね。

アナグラム

わかりますわかります!ぼくも現地であの空気を感じたことありますが、日本の代表選挙では味わえない空気感ですよね。

takanashi

そういうのを体験してたら自分も日本に帰って何かやらなきゃと思って、帰ってきたのが2016年12月のちょうど忘年会の時期だったんです。みんなに久しぶりー!とかって挨拶してたらマーケティングの相談を結構受けるようになって。

その相談を受けてたら自然といまの業態ができてしまったという感じですね。それからずっと試行錯誤しながら、何がスタートアップのマーケティングにとって大事なんだろうというのを考え続けています。

アナグラム

自分で事業をやるよりも支援側のほうが自分には合ってると思ったのでしょうか?

takanashi

正直そこまで深くは考えてなかったです。ぼく、根が真面目な性格なんで相談に応えよう応えようとしていたら結果、今日に至ったという感じ。多分、理屈無しにガチでスタートアップとマーケティングが好きなんだと思います。

今やってることって同時に20社ぐらいお手伝いして、10社いかないぐらいですが出資もやっていて、それぞれの会社が同時多発的に良くなっていくのが、水面のいろんなところで波紋が広がっていくみたいで「快感み」があるんです。最初から狙ってこうなったわけではなく、計画的偶発性理論(Planed Happenstance Theory)っていうのがあるんですけど、偶発的なものを計画して今のキャリアが形成されたって感じです。

アナグラム

よさそうだと思ってやっていったら結果色々繋がっていったみたいな感じですね。前職では結構SEOの実務もやってらっしゃったのですか?

takanashi

やってました。CMOとしてマーケティングはもちろん、一時期CTOを名乗ってた時期もありました。Photoshopを使って基本的なデザインもある程度できますし、コードも多少はかけました。ミニマルなマーケチームで実務家期間長かったおかげで、偏差値50でなんでもできるみたいな。

スタートアップって人が雇えなくて一人当たりの担当領域が広いので、めちゃくちゃ特化したスペシャリストよりも、ぼくみたいなジェネラリストが一人いると役立つんです。しかもリジョブの時にインハウスのマーケターとしてハードな経験をしているので、苦しんでいる方達の気持ちもすごく分かる。

アナグラム

高梨さんって支援家の中でもかなり実務よりで、そのポジションをとってる方って多くはないですよね。いろんなスタートアップの方から声がかかると思うんですが、ある程度高梨さんの中で取捨選択をしているのですか?

takanashi

基本的には全部受けたいと思っていて、とりあえずぼくは誰よりもスタートアップのマーケティング支援をしているおじさんになりたいんですよね。ぼくが支援しているのはスタートアップの中でも、月のマーケティング費用が100万円に満たない規模の会社で、10万円を超えるような顧問料なんて絶対にもらえない。だから賢い支援側の人はぼくのような働き方はやらないんです。

それで今の#マーケティングインサイダーというゼミのかたちもできました。ゼミでほぼ週に1度はなにかしらの勉強会をやっています。例えばサブスクリプションビジネスを運営しているのプレイヤーを集めて勉強会をしたり、CVR(コンバージョン率)を上げる会ではCVRを上げるための施策をみんなで議論して、一か月後にその状況を報告し合うみたいな事もやりました。

そういうのを毎週行ってるとだいたい月に一度は全員に会えるんです。なので大きな失敗をする前に、アドバイスできる人を紹介するなど危険察知もできるし、わかりやすく言うとスタートアップの『かかりつけ医』ですね。それが一番フィットする気がします。

アナグラム

なるほど!かかりつけ医って希少性が高くてすごく重要なポジションですよね。患者はかかりつけ医にどこが不調なのかを診察してもらった後、各スペシャリストに見てもらうと思うので、そこで診断を間違えてしまうとむしろ重症化してしまうこともある。とくにスタートアップは人もお金も時間も、すべてがギリギリの状態でやっていることが多いので、ボトルネックがどこなのかを見間違えるとかなり致命的ですし、『かかりつけ医』という表現はすごくしっくりきます!

takanashi

学生ベンチャーだとそもそも誰に相談したらいいのかわからないんですよね。ぼくはこの業界に十数年いるので、この組織にはこの人が合いそうだなとか、この課題だったらこの人がいいなというのがある程度わかる。その組織の課題とかカルチャーまでヒアリングして、ここの病院のこの先生に診てもらうといいよっていう紹介状を書く感じですかね。

ぼくはエンジェルマーケターという概念を広げたいんです。創業社長でエンジェル投資家の方は多くいらっしゃいますよね。経営に対する数字の見方や組織論の指摘とかはすごく的確ですし、魅力的な理想を語って惹きつける能力もすごい。

でも、もっと実務よりのマーケティングのフィードバックをできる方って少なくて。だからぼくは投資家の中でもエンジェルマーケターというユニークな立場でありたいし、そういう概念自体を広げていきたい。マーケティングができるエンジェル投資家集団ってかっこいいじゃないですか。そういう気持ちでゼミも運営してます。

ゼミに教授として来ていただく方みんな超いい人で本当に善意でやってくれてるのがすごく申し訳なくって。その方たちに恩返しをしたいという気持ちもあります。なのでエンジェルマーケターを広める準備をはじめてます。

アナグラム

以前、高梨さん自身を救命医と表現されている記事を拝読したのですが、その当時からは変わってきているということですね。

takanashi

そうですね。その時はがっつりとコンサルティングをやって、次の資金調達までにこれとこれはやっとかないとやばいよ、みたいな緊急的なアドバイスをすることが多かったので救命医という呼び方がしっくりきてたんですけど、1社1社へのコンサルティングからゼミという「場」に変わってきたこともあって、『かかりつけ医』という言い方の方がしっくりきますね。

ちょっと気負いすぎかもしれないですけど、マーケターも企業を救うという意味では医者と同義だと思っているんです。マーケターって名乗った瞬間に万能性を求められるから本当に必死でいろんなことを勉強しないといけない。しかもこの身なりなので間違いなく覚えられるんですよ。

アナグラム

特定の分野のスペシャリストはもちろん重要な役割ですが、マーケターと名乗る以上、専門外のことはわかりませんだとかっこ悪いですもんね。もはや、高梨さんのトレードマークでもある金髪ロン毛は覚悟と気合を入れるためでもあるわけですか(笑)

takanashi

そう、この身なりで仕事ができないと相当やばいやつなので、そういう意味でも自身にプレッシャーを与えています。一度学生さんに金髪ロン毛にするととマーケティング力上がりますって登壇したときに言いましたからね。全然響いてませんでしたけど(笑)

マーケティングだけでなく、資金面でも支援していきたい

アナグラム

高梨さんのやり方って組織がやりづらい方法ですよね。例えばコンサルティングを5万円とか10万円でやるみたいな。組織だと売上や利益率を考えると絶対にできない。でも今の時代のひとつのあり方だと思っていて、いわゆる高梨さんの”サロン”ですよね。

takanashi

おっしゃる通りでサロン運営というか、コミュニティ運営についてはかなり勉強しました。とくに岡田斗司夫さんのオンラインサロンの分析はすごく的を射ていて一番勉強になりましたね。

アナグラム

オンラインサロンって個人の拡張のひとつですし、今後組織が一番恐れないといけないのはオンラインサロンだと思ってます。例えばキングコングの西野さんとかは月1000円で3万人以上の会員がいますよね。そうなるともはやその辺の組織なんかよりも圧倒的な影響力がある。それは田端大学もしかりです。

従来の組織へのアンチテーゼというか、そういうあり方がどんどん広がってくるだろうなと。4、5人の小規模な組織でやろうと思っても結局メンバーによってコミット力が依存しちゃう。だから、個人でやった方がよくない?ってなってしまう。であればむしろサロンの運営を手伝ってくれる人をサロンメンバーの中から募ったほうが効率がいい。

takanashi

なるほど。それはぼくにはなかった新たな視点ですね。確かに学生の方とかだとなかなかお金をもらいづらかったりするので、会場の設営や写真撮影を手伝ってもらったりすることで、ゼミに参加してもらったりはしてます。

アナグラム

協力者の方はいらっしゃるにしても、コンサルティングや勉強会に関しては基本高松さんとお二人でやられているんですよね。現在、何社ぐらいの企業を支援されていらっしゃるのですか?

takanashi

そうです。今ゼミに来てくれてるのは40社くらいですかね。で1社あたり2名にしているので全部で80人とか。

アナグラム

先日「ビジネスモデルごとの最適な広告設計」というテーマで弊社もお話しさせていただきましたが、毎回ゼミのテーマを決めてそのテーマに合った企業に声をかけてるっていう感じですか?

takanashi

そうですね。「今回こういうのをテーマに勉強会をやるから来た方がいいよ」という風にゼミメンバーにはぼくから声をかけたりもしています。それぞれの会社が持ってるKPIや課題とか組織体とかも全部頭に入っているので、それに合わせてぼくから提案していく感じです。

アナグラム

すべて頭に入ってるってすごいですね…!それだと自分が管理できなくなるキャパシティ以上は増やせないですよね。サロンって自分のキャパを超える人数を入れないっていうのは大事だと思うんです。今後どれくらいの規模までゼミを拡大したいとかはあるのでしょうか?

takanashi

100社、200人はいけるなっていうのがなんとなくあるので、とりあえずそこがひとつのゴールだと考えています。スタートアップのマーケティング課題に両足突っ込んじゃったので中途半端なことはできないし、100社支援できたらスタートアップ支援おじさんとしてはなんとかしたと言えるだろうみたいな。あとキレイゴトをいうと、自分の活動を通してスタートアップをサポートする文化が当たり前になればと思ってます。そうすればもっといい社会につながると思ってて。

アナグラム

現在すでに40社となるとそれほど遠い未来ではなさそうですね。支援している企業の売上はもちろん見ているかとは思うのですが、自社(ビタミン株式会社)の売り上げに対してはどのように考えているのでしょうか?積極的に自社の売上も上げていこうというのも考えたりするのですか?

takanashi

考えますね。貯金ないんですよ(笑)よくいろんなところでも言ってるんですけど、リジョブは20億円で売却して、ぼく副社長だったんですけど持ち株ゼロだったので売却利益はゼロ。しかも稼いだお金はスタートアップにぶっこんじゃうので。マーケティング面の支援だけじゃなくて、できれば資金面でも支援できたら最高だと思っています。そのためにも自社の売上は必要ですし伸ばしていきたいと思っています。

今も支援する会社はどんどん増えてますしね。直接コンサルティングをしているとどうしても支援できる会社の数が限られてくるのですが、その分ゼミの方は1/5の価格でかかりつけ医を持てるので参加する会社は増えています。

マーケティング戦略においては戦わないことが重要。天才の仕事は天才に任せる

アナグラム

スタートアップだとマーケティングの課題もありつつ、組織の課題にぶつかることもありますよね。起業家が歩む道としては「成功者の告白(神田昌典著)」という書籍が有名だったりしますが、高梨さんの中でこういう課題ありがちだなというのはありますか?

takanashi

ありありですね。リジョブは当初学生ベンチャーだったのもありますし、一通りいろんな問題を経験したと思うんですよね。初期のプロダクトマーケットフィット期のころ、売り上げは死なない程度に上がっていたのもあって、市場にフィットしていないのにフィットしてることにしてたんですよ。そうすると途中で限界に気付くんです。このままいったらやばいじゃんって。そこで創業メンバーが辞めていくみたいなのはありました。

あとは拡大期で人を採用しまくって後悔するという、すごくわかりやすい失敗もやっちゃいましたし、採用・組織系は一通り地雷をふんだ気がするので、ハードな状況におかれてる経営層の気持ちも痛いほどわかるという。他にも色々ありますが記事には載せられません、会ったときに聞いてもらえれば(笑)

アナグラム

それっぽい方の採用&人を採用しすぎて崩壊するというのは、本当によく耳にしますよね…。そういった組織についてもアドバイスをするのですか?

takanashi

ぼくはエンパシー気質というか、共感性がすごく強くて、例えばテレビでお腹の手術をしている映像を見てるとマジでお腹が痛くなったりするんです。なのでぼくはわりと人や組織を見るというよりは、プロダクトとかデータとかを見てるほうが得意なんですよね。人や組織は相方の高松の方が得意で、ぼくはどちらかというと数字を見ていることが多いです。

マーケターって人の考えてることを読んだり、気持ちを汲んだりする仕事なので、ぼくはエンパシー気質の人が向いてると思うんです。広告のターゲティング機能のせいなのかなとも思うんですけど、戦略を考えるときに、30代男性・東京都在住・年収600万円みたいなセグメントから入ってしまうケースってあるじゃないですか。よく考えるとそれ誰?って感じなんですよ。その人が何を考えてどういう行動をとるのかって千差万別すぎて何もわからない。

そうじゃなくてこういう事を考えて、こういう行動をとるユーザーがターゲットだよねっていうのから入っていく方が正しいと思うんです。ペルソナっていうよりは ユーザー行動ですね。こういう行動をする人たちってこういうキャッチコピーだったら動いてくれるよね、みたいな共感性が高い人がマーケターとして強いのかなと。

アナグラム

わかります、ペルソナってむしろ都合のいい人物像を作りにいっていることが多かったりしますよね。一方で、エンパシー気質が過ぎると精神的に参っちゃったりもしませんか?人の痛みが分かっちゃうので相手が苦しんでるのを見ると、自分にも来ちゃうみたいな。だからそういう人が強いだろうなと思う反面、結構紙一重だなとも思います。高梨さんはいろんな方と合ってると思うのですが、エンパシー気質という点以外でどういう点がこの人はマーケターとしてすごいなって思うんですか?

takanashi

共感するというところももちろんなんですけど、やっぱりちゃんと最新情報を入れてる人ですかね。あとは1/1の経験で物事を言わない人。いろんなケースを見たり経験して1/10で言っているならわかるんですが、1/1だと信頼するのが難しいですよね。。

あとは、ぼくの周りは天才が多すぎるんですよ。35歳くらいになって周りがどんどん成功しだして、しかも彼らは1度だけでなく2度目、3度目の起業だったりする。ぼくはそういう天才たちとは戦わないようにしてます、敵わないので。だからゼミの運営とか、オフィスを持たないとか、家を捨てるとか、音楽のスタートアップとか彼らが来そうにない方向を向いて仕事をしています。天才の仕事は天才に任せておこうと。

アナグラム

解りみが深いです。

そういえば、高梨さんは家がないんですよね…?

takanashi

家を固定化しないライフスタイルを「#アドレスホッピング」と名付けて生活してたんですけど、最近借りて住み始めました(笑)ホテル、Airbnb、マンスリーマンションとかを駆使して4年間くらい固定の家がなかったんですけど、最近わりとそういう生活する人が増えて普通になってきたので、逆に家に住もうかなと。4年間で合計100回くらいは移動というか引っ越しをしてると思うんですけど、その中で一番バイブスが上がったところに今は住んでます。やっぱり仕事上渋谷近辺に集まることが多いので徒歩圏内に住んでいます。

アナグラム

スタートアップというとやはり渋谷のイメージは強いですが、最近は東側にも増えてきてるじゃないですか。それって高梨さんはどういう風に見ていますか?

takanashi

ぼくは渋谷近辺に住んでいるのでちょっと遠いなとは思いますけど、ぼくがもし今起業するとしても東の方とか端の方に行くと思いますね。先ほどの天才の仕事は天才に任せるという点もそうなのですが、戦略とは「戦いを略すること」で、ぼくはマーケティングの戦略においては戦わないことが重要だと思っています。

例えば起業してアルバイトを雇うとなった時に、渋谷という土地は採用の面でも競合が多すぎるんです。渋谷じゃなくても優秀な人はたくさんいるので、ぼくは渋谷を選ばないかもしれないですね。

アナグラム

なるほど、マーケティングの基本というか、生存戦略としては正しいですよね。支援されている会社にもその考え方をベースにアドバイスをしているのでしょうか?

takanashi

基本はそうですが、伝え方は変えています。

例えば今って商品が売れるにしても、社長の考え方が好きとか、プロダクトが好きとか、従業員が好きとかどこをきっかけに好きになってくれるかわからない。マーケティングの話をするときに広告やコミュニケーションの手段を指す人が多いんですけど、それだとただの部分最適化で結局は力勝負にしかならなくて、マーケティングってそこだけではない。

会社の思想・哲学、世界観、ビジネスモデル、プロダクト、コミュニケーション手段、KPIをどうするかなどいろんなレイヤーがあって、各レイヤーを別々に考えるのではなく、ブランディングやUI/UXは一貫していないといけないしスタートアップはメンバー全員がその意識を持っていないといけないっていうのはよくアドバイスしています。

先日マーケティアで取材されていたスナックミーさんはその視点でみるとすごくいいですよね。単純にお菓子が好きという人、服部さんの人柄が好きっていう人、クリエイティブが好きっていう人もいれば、中に入っているお手紙が好きっていう人もいる。

アナグラム

確かにお菓子の市場って大企業がひしめき合う中で、スナックミーさんは基本服部さんの思想の元、いろんな角度からファンづくりをされつつ、全体の世界観は統一されていますよね。取材時に圧倒されました…。

マーケティングを通して社会のバグを直していきたい

アナグラム

お話しを聞いてて、高梨さんってすごく利他心が強いというか、本当にスタートアップが好きで、そこでの支援を通して世の中を良くしていきたいという気持ちが強いんだなというのを感じました。少し理想の話になるのですが、具体的にマーケティングを通してこういう世の中にしていきたいことがあったりするのですか?

takanashi

ぼくジョン・レノンがすごく好きなんですよ。彼が社会へのアンチテーゼを表現しているのに憧れていて、恥ずかしいことを言うと世界平和を目指してます。たまたま日本に生まれて、経営の知識もあって、マーケティングのこともある程度わかるので、それは世の中に還元していかないといけないなと。『優しい世界線』という言葉が好きでそういう世界になればいいなと思っています。

ぼくはデータベースとコマンドという風にとらえていて、人間の裏側にあるデータベースって基本は同じで、それぞれの思考を取り出すためのコマンドが違うだけだと思うんです。例えばある人が自分の意見とは異なる言動をしたときに、なぜこの人はそういう発想をしたんだろう?って裏側のデータベースを考える癖があれば究極腹が立たなくなると思うんですよ。そういう考え方が広がれば争いも起こらないと思います。

アナグラム

なるほど、データベースとコマンドですか…!ぼくも「一理ある」というのを常に頭の中に置くようになってから大抵のことにはイライラしなくなりました。そもそも育ってきた環境が違う人間が同じ思考なわけないですもんね。

takanashi

そうですね。ぼくは「概念」を作って広げていくのが好きで、例えば「マタニティマーク」というのも一つの概念だと思うんです。

アナグラム

なるほど、確かにマタニティマークがあることで作られる優しい世界ってありますね。

takanashi

子ども連れの方がもっと気軽にお店に入れるようになればいいなと思って動かしているプロジェクトがあって、子ども連れの方が気兼ねなくお店に入れるとか、電車で子どもが泣いてても誰も気にしないとか、あと夫婦や恋人、パートナーとかに代わる新しい関係性の「#マリアージュ」という概念も広めたい。

関係性って流動的で変化があるものだと思ってて、でも既存のラベルに縛られて苦しむ人が多い気もしてるんです、だから「自分らしく」いるには新しい関係性の表現が必要だなって、そういう優しい概念を作って広げていきたい。世の中で良くしていけるであろう事象をぼくは『社会のバグ』って呼んでいて、まだまだ社会のバグはたくさんある。それをぼくがすべてを直接解決することはできないので、出資だったり、マーケティングの支援という形で解決できたらいいなと考えてます。

アナグラム編集後記

ビタミン株式会社のWEBサイトを拝見してもわかりますが、話の節々から高梨さんは本当にスタートアップが好きということが伝わり、「なぜスタートアップが好きなのでしょうか?」という質問をしてしまったことが野暮というか、今回の取材の反省点です。なんとなく好きなものは理由なく好きなんですよね。

アムステルダムの古着屋さんで買ってきたという個性的なカーディガンに、特徴的な金髪ロン毛スタイルの高梨さん。以前から高梨さんの事はメディアやTwitterなどを通じて拝見していたものの、今回の取材で初めてお会いさせていただき、その見た目とリジョブを20億円で売却した方という事前情報からは想像できないくらい『穏やか』という表現がしっくりくる方でした。そのご自身の性格から「戦わないマーケティング」という考え方も生まれているのかなぁと。

高梨さんご自身や高梨さんのゼミを経て、成長していくスタートアップの方々が社会のバグを直し、優しい世界が作られていくのが垣間見えた取材でした。

文:賀来重宏
編集:阿部圭司/杉山美和
写真:賀来重宏