「やっぱり検索結果って面白い!」他業界からSEO業界へと転職して自分らしい道を開拓した「バカ毛さん」こと篠原誠さんに話を聞きました。

  • 関東

新卒で始めたキツイ仕事からWEB業界へ転職し、SEOやアフィリエイトを軸に活躍している篠原さん。その経験を踏まえて自分らしい働き方を見つけた篠原さんが仕事で大切にしていることについて話を伺いました。

初めは飲食業界で働いていた

アナグラム

篠原さんは、「バカに毛が生えたブログ 」というSEOのブログサイトでWEB界隈で知られているかと思いますけど、そもそもSEOに取り組まれたきっかけというか、目覚めたのはいつ頃なんですか?

実は新卒の時は全然違う業界からスタートしてます。最初入ったのが飲食業だったんですよ。誰もが知っているほどの24時間営業の飲食店のチェーンに就職していました。

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新卒で飲食業に入ることは珍しくないですか?

自分の周りでは珍しい方だったと思います。 就職活動の時は受ける企業、受ける企業、片っ端から落ちまくっていて、いやもう途中から何だか面白くなってきて数えていったんです。実は100社以上を受けて全部落ちました。それで、大学時代に飲食系のアルバイトをやった経験があったので「飲食いけるかな」と思って。その辺を受け始めてから一気にうまくいって受かり出しました。結局はその一つに就職し、5年ぐらいやっていましたね。

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5年間も!ちなみに、内部のお仕事でしたか?それとも店舗?

バックオフィスとかのポジションに全然空きがなかったので、店舗の方で働き始めて、最終的に店長として仕事をしていました。しかも24時間営業店だったし、自分が普段いる店舗があったにもかかわらず、担当エリアで人が足りない店舗に深夜か朝に行ったりして…東京都内に話を広げていくとそもそも人手が足りないからたまにエリア外の仕事もすることになっていましたね。

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話を聞いただけで相当大変そうなのが思い浮かびます。。。フランチャイズオーナーがバイトのいない店舗にヘルプに行く感覚とちょっと似てますね。

はい、割とそんな感じでした。確か、月に休みは2日しかなかったけど、他の社員なんかに比べるとまだ休みがあった方だったと思います。とはいえ、休みの日の真夜中にお店から「クレームがががががが…」というような電話は日常茶飯事でして、まぁしっかり休めた記憶はほぼ皆無です(笑) 

給料も特に多くはなかったんですけど、一応ボーナスも出ていたし、あまり深く考えてなかったですね。それこそ最初に入ったところですから「社会人ってこんなもんか」ぐらいしか思ってませんでした。

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今だと逆にありがたかったという感情があったり?

ある意味そう言えるかもしれないですね。確かに長期的な目で見てこれが「普通」なら何をやっても楽だと感じています。こんな「普通」って駄目ですけどね(笑) 

ただやはり数年やるとさすがに疲れちゃって。20代とか若いうちはまだ身体は持つから色々頑張れますけど、それをずっとやるのかと想像すると無理がある。もう年取ったらこんなことは絶対に物理的に続けられないと思って5年で辞めました。

辞めてから1年ぐらいはとりあえず働きたくないなと思ったんですけど、さすがに3か月で飽きちゃって転職活動をはじめて、たまたまSEOの会社に入ったんですよ。

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えっ?いきなり?

本当にたまたまです(笑)。応募欄に「検索エンジンどうのこうの」とか書いてあったのですが、当時はまったく経験ゼロだったからあまりよくわからなかったです。前日までに検索エンジンのことを調べて覚えようとしましたけど、面接で緊張していて「検索エンジンはご存知ですか」と聞かれても「あまりよくわからないです」としか言えず「なるほど、分かりました」という反応をされたんですけど、それでも無事入社できました。

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どんな流れですか(笑)

多分、2007年だったと思いますね。僕が入ったタイミングはちょうど会社が上場した後で、色々と新しい人が増えると同時に、ちょっとずつ辞め出す人もいたりしたんですね。入って数ヶ月で上司が2人も辞めちゃって、面接した人も僕が入った次の日に辞めたんです。

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元からいた人がいなくなって、どんどん入れ替わっていく感じですね。場合によってそれは新入社員にとってチャンスが多く、生きやすくなるかもしれないですが、教育の面はものすごく大変になりそう。SEOのスキルはどうやって身に付けましたか?

当時、入れ替わりが激しかった時期は確かにあまり教育という教育を受けた記憶はなかったんですが、こういうことを言っちゃアレですけれども、入ったばかりの頃は本当に単純作業が多かったので、そんなにスキルは必要なかったんです。ガラケー時代のモバイルSEOだってYahoo!ディレクトリに登録してもらえばYahoo!モバイルでサイトが簡単に上がってましたし。

SEOブログを作ったきっかけは?

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あぁ、Yahoo!ディレクトリは懐かしいですね。これ、商材によって全然値段違ってましたよね。

ちなみに、篠原さんのブログ「バカに毛が生えたブログ」は、何が起点になって書き始めたのか教えてください。

これは実は自分の勉強と繋がってくるんですけど、まずは自分の備忘録用にブログを作ろうかと思って、それが「バカ毛」の始まりでした。最初の名前は「バカ」だったのですが、「バカ」で一位をとれなかったので「バカに毛が生えたブログ」に2011年に改名しましたね。2008年の10月ぐらいに書き始めてから、かれこれ10年も経ちました。

勉強したものをとりあえずこっちに書いてくようにしたんですけど、あれだけ時間が経ったので昔の記事には結構ひどいのもありますね。

今定期的に毎週金曜にやっている更新は、初めはちょっと苦労していたけど、2年ぐらい前から全部自分で集めなくても色んな人がネタを出してくれるようになったので、それをまとめたり自分で「本当にそうなのか」を確かめたりするだけで済むことが多くなりました。たまに、本当に何もないときにツイッターで他の一般の人は何を探すのか検索しまくって、面白そうなのを拾っていく感じです。

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もうある意味日常になっていますね。たまに見て驚きますけど、例えば語句の順番を入れ替えただけで、想像もつかないほど違う検索結果が出たりします。こんな差が出るとは!って。(笑)

やっぱり篠原さんのブログを読んで印象的だと思うのは「読んでもSEOスキルが全然上がらなそうな検索ニュースまとめ」という見出しでそういった検索結果をご紹介してくれているのですけど、実はよく考えてみるとこれは非常に勉強になりますよね。検索エンジンはユーザーの意図をどうやって汲み取ったかを考えさせるものがあって、そういう意味でスキルはむしろ上がると思いますね。

本当ですか!よかったです。実はある意味上がるかも知れないですね。もっとこういうことに興味をもってもらえると良いのにな、と思ってやっていますよ。一見笑える検索結果が出ていても、意外とそれを真面目に検索エンジンのこと考えるチャンスとして捉えると良いですね。仕事としてやっている人でさえもそこまで興味を持たないケースがむしろ多数派ですから、日常的に検索結果と向き合ったらこういう事をしない人には絶対勝てると思いますよ。本当に強くなるので、検索結果でもっと遊んで欲しいなと。

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篠原さんのブログの書籍化も興味を持ってもらうための施策ですか?

一つはそうですね。で、もう一つは、単純にちやほやされたかったからです。周りはみんな本を出していて羨ましかったから「じゃあ、俺同人誌出すわ」って(笑)

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同人誌!!

しかもちゃんと同人誌らしくコミケで出しました。2014年に一度書籍をこの形で作っていて、その時は40部ぐらいだったと思いますけど、それが面白くてもう一回やろうかと決めて去年の年末に第2弾が出ました。

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すごい!でも、本ってビジネスとしては成り立たつことはあまりないじゃないですか。専門性の高い書籍だと投資対効果で言うとだいたい元は取れないので、論理的におかしい投資になるんですけど、そこに投資できるからこその熱狂がありますよね。好きな人や興味がある人がいて、それが結局エンゲージメントとかにつながっていくことはありますから。だってSEO業界で篠原さん以外こういうコンテンツを出してないはずです。

確かに、労力はとんでもないですし、全然儲からないです。前回も赤字でしたし。あの時は1冊500円だったけど全部売れ切れてもぎりぎり黒だと思いますね。原価だけの話ですけど(笑)。

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いや、でもこういう論理的ではない投資ができる人に支持が集まりやすい世の中ですよね。

そもそもSEOが好きな人はどうしても数が限られているので、よくブログを経てその輪が広がっているというか、SEOの飲み会に呼んでいただいたり、SEO限定のCSS NiteIn-house SEO Meetupで繋がりが増えたりとか、そういう意味ではブログも本も非常に役に立っています。

独立のきっかけもブログ経由で自分のことを知ってもらって人の繋がりができて、結果的に仕事になったというのがあります。それを機にあえて転職ではなく独立して仕事を業務委託として受け入れることになりました。もう3年間はこんな形でやっています。

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「独立」という選択肢をとってから、最初はどうでしたか?

はじめは想像以上に大変でした。貯金も割としていた方ですけど、グングン減ってきますね…、本当に。1年とかは余裕で貯金でいけるでしょうと思うじゃないですか。でも実際は相当きついです。見たこともない税金の封筒が届いてくるとか。

でも、そこからお仕事を貰うようになって、V字回復できましたね。あと、最初は知り合いに「絶対寂しくなってやめるでしょ」と言われてたんですけど、それは意外と何の問題もなくて。多分、僕はそもそもこういう働き方って性に合っているかもしれません。この辺は向き不向きってのは絶対あると思いますよ。

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寂しいとか、直接仕事が取れなくて、あるいは下請けばかりとかだと、辞めちゃうパターンは割と多いですね。1人で全部情報をキャッチアップしないといけないですし、教えてくれる人というかネットワークがあればいいんでしょうけど、篠原さんはそういう人たちがまわりにいたのでしょうか?

言われてみれば、僕はまあ、人に恵まれたなと思いますね。それも一部はブログのおかげでしょうね。直接ブログから沢山新しい仕事が生まれてくるより「見てました」とか、すごく素直な人なら「たまに見てます!」とか言われているだけですけど、そこから業界の繋がりが自然に深まっていった感じですかね。実はSEOだけじゃなくて、アフィリエイターとの交流も多くなっていて、自分もいくつかのアフィリエイトサイトを運営しています。

飲食業での経験を糧に転職サイトの運営を始める

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なるほど、SEOのコンサルをやりながら、アフィリエイトもやっていますね。メンタル的にもこっちの方が安定しやすそうですがどうでしょう?

はい、それは間違いなくありますね。2本の柱と言ったら大げさかもしれないですが。あとコンテンツを書くのも結構好きなので、その作成もあまり大変なことと考えたことがないです。

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今はどのようなサイトを運営していますか?もちろん、言える範囲で構わないです。

いくつかありますけど、以前からやっているのは「この仕事からの卒業」という主に飲食から他業界への転職をテーマにしたサイトです。

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おもしろい!飲食で働いた経験がるからこそ書けるということもあるでしょうし、あとは業界をよくご存じだから、他業界への転職の需要にも気づくわけですね。

はい、まさにそうだと思います。だって、飲食業界の仕事は大変だとしても、本人にとってはそれが当たり前だから、逆に「自分の我慢が足りないだけだな」とかいう思考になる人が沢山いるわけです。とはいえ、外に出るとそれは普通に休めるよという話じゃないですか。で、こういう環境に気づいてもらうためにサイトを作って、記事を色々書きだしました。これを見て飲食を辞めて別の仕事を探した人はいると思いますよ。

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日本国内の人口がだんだん減っていく傾向と、そもそも「飲食」がだいたい「やりたくないビジネス」のランキングに入っているほど人気が減ってきていることを加味すると、将来は飲食から飲食へというモデルだけではなく、飲食から他業界への転職の方が時代にあっている気がします。

実は、飲食から飲食という転職パターンは自分も昔考えたことがあったんですけど、まあこの業界は変わらないだろうなと思って、やっぱり24時間営業じゃなくても、人手不足などが多いので休めないというのが目に見えますから。

人ってやっぱり休めないとダメになっちゃうんですよ。一時的に休まず頑張れるときはあるでしょうけど、ずっと休めないのは絶対ダメだと思います。例えば結婚して子どもができたら土日も働かないといけないと家庭が大変なことになりますね。そもそも休日はお店が混むのにバイトがシフトを入れてくれないから、社員がずっとお店にいなければいけないわけですよ。子どもの運動会に出たことがないとか、めずらしい話じゃないと思います。

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飲食業界が大変だからこそ、こういうアフィリエイトはうまくいっている仮説はありましたか?

はい、でも厳密には、コンテンツは飲食限定ではないのですが、とにかくきつい仕事からの転職を希望する人向けに作っています。

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流入をみたら参照元がもっとも多いのはどのチャネルですか?

まぁ、やっぱり検索ですね。それも飲食関連はさすがに目立ちます。でも、今は(※インタビュー実施日、11月末時点)年末転職の軸も結構多かったりして。

これを見ても言えることなんですけど、結局、僕は検索が好きなので本当に楽しくやっていけますね。面白いじゃないですか?ユーザーから見えるそれぞれの意図の違いとか、検索結果を時系列で見てここがこう変わったとか。でも悲しいことに周りでほとんど共感してくれないんですよ。

昔、検索結果が変わった時にすぐブログにアップしたりしていたんですけど、まあ反響薄いですね。誰も興味がないから。

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まあ、そうですね。テーマ自体にはニーズがあっても限られた人でしか盛り上がらないですし、海外でさえ検索結果をアップしているメジャーなブログは数えるほどしかない気がします。

話がちょっと変わってきますけど、SEOはものすごく大事という人がいれば、最近メディアによってはSEOをそれほど意識しない方が相性が良くてうまくいく場合もでていますね。「SEOを意識しないタイトルが逆にいい」という流れも一応あるようで。篠原さんはこれをどんな風に見ていますか?

僕からすると基本的にタイトルは絶対意識した方が良いと考えてるんですけど、多分その意識していないタイトルも「意識していないから」上がっているわけではなく、検索エンジンの認識が深まってきているという要因が強いと思います。そういう意味で、ソーシャルメディアとかでバズりやすい、誰が出したのか固有名詞などを言わずみんなが共感できそうなタイトルにすれば上がっていく可能性は十分にありそうです。

ただ、これは話題になっている間だけ検索順位が一時的に上がってから、そのあと割と下がっていくパターンになるのではないかと思います。そのタイミングでタイトルを一旦変えちゃう作戦でうまくいきそうですね。

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なるほど!ソーシャルでバズってからSEOを意識するハイブリッドな感じですね。メンテナンスが大変なことになりそうですけどね。

間違いないですね。タイトルに限らず記事の細かい手入れは結構大変な作業量に膨れていきますから。特に記事の数が増えればメンテナンスを入れないと、その後記事は上げた数だけ損するのがオチだと思います。

アナグラム

そうですね。過去の記事までメンテナンスを入れるなら、無限にリソースが必要でしょうね。

それに合わせてちょっとお伺いしたいのですが、例えば5年前に書いた記事って当時は妥当なことを言っていたのに、今の状況から見ると結果的に正しくない、ということもあるんじゃないですか。これ、コンテンツマーケティングに取り組む企業の共通の悩みだと思うんです。そういう場合は、誰かに変に突っ込まれないように「この過去記事をどうするんだ問題」が発生しますね。何か秘訣はないですか?

流入を見ていくのはお勧めです。流入有り無しで見るところですね。もう流入がない記事は止めちゃってもいいですけど、最終的に間違っている内容に気付いたのであれば直すべきですね。まあ、「常にメンテナンスしましょうよ」とか正論を言うのはすごく簡単ですけど、数百、数千本の記事もあれば実際にやってみるととんでもないことになっていくので「この記事は1年以上経過していますので、注意してね」みたいな表示を記事トップに自動的に出てくるようにする方法もあります。

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これは良いですねー!すごく親切なやり方です。一定の時間が経過したら出ている感じですね。いやー、大変勉強になりました…

そういえば、篠原さんはこれから何かやりたいことってありますか?

のんびりで暮らしたいですね。いや、でも真面目な話、僕が活動しているのは結局SEOの業界なので、割と順位がどうだという話になりやすいんですが、実は順位というよりそのもっと一歩手前のところで困っている人って沢山いるんですよ。例えばPCサイトしかなく、Google アナリティクスを見たらスマホ経由でも結構来ているのにスマホサイトがない。そこでスマホ側もちゃんとやりましょうねと構築したら数字が凄まじく回復したことは過去にありました。そういう小さいことを少しずつ解決していければ良いなと思いますね。

今やGoogleもかなりオープンに情報発信してくれているんですけど、普通の人からすると分からないじゃないですか。昔からやっている人なら、色々分かるかもしれないですけど、例えばどこかの会社に入ってEC担当になったばかりの人だと「モバイルファーストインデックス」って何?という話になっちゃいますよね。

それに、自分でWEBから情報を拾っていても間違った解釈がいっぱいありますよ。「モバイルファーストインデックスが起こると順位が動く」とか。いや、でもこれは前提の解釈がそもそも違う(※)んだよなと思いますし。そういう意味でちゃんとした知識がもっと広がっていればよいなとも思いますよ。これも結局SEOとつながっていくんですけど、そういうのももっと解決していきたい感じです。

※「モバイル インデックスを、より広範に展開します。 この方法でインデックスされたとしても、ランキング優位性はなく、モバイル フレンドリーの評価とは独立して動作します。」
(参考:https://webmaster-ja.googleblog.com/2018/03/rolling-out-mobile-first-indexing.html)

アナグラム編集後記

SEOやWEB業界のイメージが強い「バカ毛さん」こと篠原さんですが、まず驚いたのは飲食業にルーツを持っていることでした。そして、その経験を武器にアフィリエイトサイトまで運営しているところも、ご本人ならではの上手い掛け算だったと思います。

そして、本人と直接お話しをすると、なんといってももっとも伝わってくるのがやはり、検索への情熱です。自分自身も検索と密接な関係の仕事をしている立場なので、特に共感しやすいものがあったのかもしれませんが、普段そんなに検索結果を意識的に見ないような方にも、一度篠原さんのブログを見てもらいたいですね。

ブログのタイトルやトップを飾る相当マニアックなヘッダー画像とは裏腹に、検索について独特な切り口で色々と考えさせてくれますので、検索に少しでも興味があれば毎週要チェックなサイトだと思います!

文:ヤン・フーゲンディック
編集:阿部圭司/秋山侑太朗
写真:秋山侑太朗