Books&Appsはどうやって稼いでいるの?創業メンバーの楢原 一雅さんに聞きました

  • 関東

Books&Appsを運営する楢原さん。ビジネスマンに本当に読んでもらいたい、自分たちにしか書けない記事を書きつづけて驚くほどの勢いでファンを増やし続けています。そんな楢原さんに、Books&Appsはどうやって稼いでいるか、またこれからのオウンドメディアはどうなっていくか、お話を伺ってきました。

ティネクト立ち上げの経緯

アナグラム

今やビジネスマンの必読メディアとして定着しつつあるBooks&Appsがどうやって稼いでいるか気になっている人は多いと思うのですが、その前にティネクト株式会社を立ち上げた経緯を簡単にお聞きしてもいいですか?

narahara

代表の安達が会社を辞めるタイミングで「一緒に会社やらない?」と相談してくれたのがきっかけです。たしか5年くらい前で、そのときぼくは東進ハイスクールで8年くらい働いて校舎長をしていたんですけど、そろそろサラリーマンはいいかなと思ってたんで、ちょうど良かったんですよね。

アナグラム

いいタイミングだったんですね。そのときはまだ何をやるかは決まっていなかったんでしょうか?

narahara

はい、まったく決まってなかったです。とりあえず二人で何かやろうよという感じで会社を設立しました。あとでウェブサービスを開発して売るのがいいかなという話は出たりしたんですが、いずれにせよモノやサービスを売るには宣伝しないといけないじゃないですか。それでセルフプロモーション用にとりあえずブログをはじめようということになりました。

Books&Appsの入口は本とアプリの紹介

アナグラム

サービスより先に、まずはブログで自分たちを知ってもらうことからはじめたんですね。

narahara

そうです。ワードプレスを覚えたのもそのときで、ブログについてなにも詳しくはなかったんですが、毎日書かなきゃいけないことだけは理解してたんですよね。それで本とアプリがテーマだったら毎日書けるだろうということでBooks&Appsという名前にしました。

アナグラム

なるほど!つながりました。どうしてBooks&Appsなのか気になっている方も多いと思いますよ。

narahara

後づけすると、本は知識の集大成で、アプリはテクノロジーだから、知識とテクノロジーがコンセプトと言えなくもないです。本はBooksでそのままなんですが、アプリは当時Apps(アップス)って言われてたんですよ。少なくとも、ジョブズがApp Storeを最初にプレゼンしたときはAppsって言ってたんですが、それです。

アナグラム

ジョブズ好きですよね!

narahara

好きです、大好きです(笑) 20年近くMac使ってますからね。ジョブズがロクデナシのころから知ってます。

アナグラム

(笑)

Facebookを通して少しずつメジャーに

アナグラム

毎日書く、というのは最初からKPIとしてあったのですか?

narahara

ありました。テーマが自由なので自分たちが書ける内容しか書かなくなるんですが、それでも半年、1年と毎日のように記事を書きつづけていたらちょっとだけ有名になっていって。

アナグラム

そのころからBooks&Appsで少しずつ稼ぎはじめていた?

narahara

いえ、このときぼくらはBooks&Appsをオウンドメディアだと思っていましたし、会社としてメディアで稼ごうとは考えていなかったので、本当に自分たちが書きたいものを書くというだけでした。だけど、Books&Apps を始めた5年前ってみんながスマートフォンを持ちはじめた時期で、あるアプリのトレンドにうまく乗ってページビューが伸びたんですよ。当時、今の30代40代が最初にインストールしていたアプリって何だったと思います?

アナグラム

なんだろう…

narahara

今となってはほとんど忘れられてるんですけど、FacebookとかのSNSですね。

アナグラム

あー

narahara

そのころ、お母さんやお父さんたちはFacebookに登録して、最初に友達になるのが自分の子どもで、その次が中学とか高校とかの友達だったわけです。実名を登録するにもかかわらずみんなバンバンFacebookを使っていって、こんなサービスが流行るのかなーと懐疑的でしたけど。

アナグラム

何か起こるとたいてい裏にはユダヤ人が…という話ですかね^^

narahara

そうそう。まぁそれは置いておいて。

ただみんなFacebookに登録したんだけど、コンテンツを投稿している人は少なかったので、ぼくらが記事をアップすると珍しいからみんな見てくれるんですよ。20年も会ってない地元の人から急に「お、元気でやってるね」みたいなコメントが来たりして。

アナグラム

ありましたね(笑) 話したことあったっけな?という人から急にコメントが飛んできたり。

narahara

そんな感じで友達どうしの中で話題になって、それが最初の伸びですね。友人の友人に広がってちょっとずつフォロワーを獲得していって、1日平均100セッションくらい集まったかな。それから1年くらいして、Books&Appsで掲載した記事をハフィントン・ポストに転載しはじめたのですが、このときはじめてバズというものを経験しました。

そして、如何におもしろい記事を書いても、ある程度ビュー数のある場所に置かないと読んでもらえない、陸の孤島みたいになってしまうんだと学びましたね。それでハフィントン・ポストはじめ外部メディアに半年くらい記事を出すようになって、次第に安達がフォロワーを獲得するようになったんです。一つの記事だけじゃなくBooks&Appsを知っている人がいるようになって、2年かけてようやくBooks&Apps単体がバズりました。

アナグラム

Facebookの波に乗りつつ、外部メディアに寄稿してうまくビューを伸ばしていったんですね。特に後者に関しては我々も身に染みて感じます。当然の話ではありますが、結局はドメイン単位でみている層が異なりますから、異なる層にアプローチするには異なるドメインでアピールしなければなりませんよね。

ちなみに、2年間毎日記事は書きつづけたんですか?

narahara

はい、自分たちで毎日書きつづけたので、どんな記事が多くの人に読まれるのかを自然にわかっていって、500記事で月間10万PVくらいまで成長しました。そこからまた書きつづけて、1年半くらい経った頃にいい記事がポンポン出てめちゃくちゃバズった時期があったんですが、そのときサイトに来てくれた人たちがすごく回遊してくれて、さらにビューが伸びたんですよね。このときはじめて、Books&Appsで商売をしようと思いました。

アナグラム

このタイミングで商売をはじめたんですか?

narahara

これがですね、メディアを使ってどうにか商売しようとはなったんですが、なにをしようかはまったくの手探りで、アフィリエイトやバナー広告など色々やってみました。でも、それってぜんぜんお金にならないってわかったんですよね。

それに、Books&Appsは1日1記事がやっとだったので、アフィリエイトの記事とかを出しちゃうとメディアとしてめちゃくちゃつまらなくなる。せっかくサイトに来てくれた人が、なんだアフィリエイトかて思うし、なにより楽しくないだろうと。バナー広告も、これで儲けようとすると、結局ビュー数がKPIになってしまう。だけどぼくらはビュー数を稼ぎたいんじゃなくて、おもしろい記事があるから発信したいだけなんですよ。だから究極的にはビュー数はどうでもいいし縛られたくないという思いがありました。やっぱりアフィリエイト記事やビューを集める記事じゃなくて、読み物としておもしろい記事を書いていこうと。それで色々と模索しているうちに一つだけヒットしたものがあって、それが「こちら広報部」です。

Books&Appsとしておもしろい記事を書いて稼ぐ

narahara

「こちら広報部」は「株式会社わたしは」という会社のPR記事の相談を受けたのがきっかけでスタートしました。「株式会社わたしは」は人口知能を開発している会社なのですが、彼ら開発はしているけど宣伝がまったくできていなかったんですよね。この時期はぼくらも月間50万PVくらいあったので、要するにビュー数を持てあましている状態で、やってみようと。

アナグラム

PR記事というと、いわゆる取材の形式ですか?

narahara

んー、取材ではあるんですが、お客さんのブログをBooks&Appsに載せてあげるイメージですね。「こちら広報部」の記事が読まれるのは、ただのインタビュー記事と違って当事者が責任を持って話しているからなんですよ。たとえばこの人たちがAIとはなんぞやって一般論を語りだしたらおもしろくない。こんな会社を立ち上げてこんなおもしろいことしてますって素直に自分たちのことを話してるから読まれる記事になるんです。

アナグラム

なるほどー

narahara

取材した内容ほぼそのままのインタビュー記事はもちろん書けるんですが、それだと読まれないんですよね。力量のある人が質問とかを工夫して取材できれば別なんですが、そのまま垂れ流しているだけだとまず読まれない。書き手の責任として、取材のエッセンスを抽出して読み手にわかりやすく書く必要があるので、ぼくらはそれをやっている。これがヒットしていきました。

アナグラム

続々とうちもやってくれと依頼がくる状態に?

narahara

はい、知り合いに声かけたりもしましたね。このニイナナのPR記事もそうです。ぼくが東進ハイスクール時代にバイトで知り合った子なんですが、ソフトバンクをやめて靴磨きで起業して、それでうまくいくのか?と思いましたけど、まあ宣伝してあげるよーって。それで最初のころは週1くらいで書いてましたね。700いいねをもらった記事もあって、意外と読まれる記事が書けるなってことで前のめりの営業もはじめました。

アナグラム

いよいよBooks&Appsで稼げるようになってきたんですね。

アナグラム

あ、これ読みました。Twitterでめちゃくちゃ流れきて。仕事中に読むのを強烈に後悔するほど面白かったです。。。

narahara

ありがとうございます。これは認知目的の記事だったんですけど、やっぱりバズると色々なところから声がかかるみたいで、この会社の社長さんこの記事がきっかけで本を出したんですよ。

アナグラム

最高の流れですね!!

narahara

最初のころは「こちら広報部」で記事を出すと、ネット上で目立ちますというセールストークを使ってました。実際、ネットをあまり見ない一般の人に届くかはわかならいですが、IT系の人にはよく届きますね。あとマスコミの人たちはバズればすぐ声をかけてくれる。

自分たちだけで発信できる会社さんはすごく少なくて、大企業だとお金かけてできないこともないんですが、特に中小企業だと発信したくてもなかなかできないじゃないですか。中小企業は商売は一生懸命やるんだけど、売るっていうことに注力できているところは多くない。だからぼくらがネット上で宣伝を手伝いたいんですよ。クオリティの高い記事を出せれば、必ず見てくれる人はいますし、バズればマスコミの人が高い確率で声をかけてくれる。

アナグラム

外部広報みたいになってるんですね。

narahara

そうです。あ、今取材を受けているこのコーワーキングスペースの会社のPR記事も書いてるんです。

アナグラム

なんと(笑)

narahara

はい、ここの会社さんのPR記事は毎月書いていて、本のオファーが来たり、日経新聞から取材が来たりしていますね。

アナグラム

「こちら広報部」で記事を書いてもらえれば本が出せる、みたいな噂がありそうですね。

narahara

なくはないと思いますね。

アナグラム

ただ、さっきのアフリカの記事の会社さんとか、体験談自体エッジが効いててすごくおもしろいと思うんですが、ネタがない会社さんとかあったりしないんですか?

narahara

んー、なくはないと思うんだけど、どんなネタでもそれなりの記事に仕上げる力量はありますね。少なくともBooks&Appsを読んでいる人に対しておもしろくする自信はある。

アナグラム

なるほど。「こちら広報部」すごく軌道に乗っていると思うんですが、今は記事は社内のみんなで書いてるんです?

narahara

いえ、当時はぼくと安達の二人だけで書いてました。いまは安達が一人で書いて、ぼくは営業がメインになっています。

アナグラム

安達さんがお一人で…書くのが好きじゃないと絶対無理ですね。

narahara

そうですね。安達は書くのが好きで、文章力を上げる努力は惜しまないですし、文章の才能もあると思います。だけど安達一人しか書き手がいないので、「こちら広報部」の課題になるんですが、ビジネスとしてスケールがむずかしいんですよね。これって書くのが結構むずかしくて、ちょっとした才能も必要ですし、相手の会社のことをよく知らないといけないので、ビジネスの知識がないと書けない。つまり普通のライターさんに取材させてもおもしろく書けないんですよ。あと、営業での説明がめちゃくちゃむずかしい。

アナグラム

どんな恩恵があるのかわかりにくい部分はあるかもしれませんね。

narahara

そうなんですよ。ネットで記事を出してみたらバズってよかった!みたいな感じで期待は超えられるので満足度は高いんですが、書籍の出版をお約束できるわけではないですし、どんな利益があるかわかりにくいので、ウェブ集客に興味があるくらいの人じゃまず依頼してくれないです。それで、「こちら広報部」以外でなにか違うことを探しはじめて、オウンドメディアの支援にたどり着きました。

集客から獲得の役に立つオウンドメディア支援へ

アナグラム

オウンドメディア支援というと、実際にお客さんのサービスについて毎日記事を書いたりとか、書き方の指導といった内容ですか?

narahara

はい、とあるシステム会社さんから依頼を受けたのが最初でした。そこのブログ記事制作をオウンドメディア支援という形で3年くらい前に受けて、毎日じりじりとブログを書きつづけていったわけです。

ちょうどオウンドメディアが流行っていたというか、知っている人は知っていた時期で、この会社さんはいち早く取り組まれていたんですよね。ところが、はじめてみたはいいけど、社員に任せても書けないし、書くとしてもイベント事のこととかになってくる。あげくオフィス近くのおいしいお店をアップし出すみたいな。

アナグラム

うわぁぁぁぁぁぁぁ

narahara

そうなんです、一番やっちゃいけないことなんですけどね。ネタがなくなるのは百も承知で気持ちはわかります。ただそうなるとオウンドメディアとしての意味がなくなってくるんですよね。別にそういう記事があってもいいんですけど、何がダメかって、そういう記事を読みたい人は少ないということですね。

アナグラム

おっしゃる通りですね。でも自分たちの記事を毎日書きつづけていることさえすごいのに、他社さんのことまでいくとめちゃくちゃ大変ですよね。このお仕事はどのくらいの期間やられていたんですか?

narahara

ここのシステム会社さんのオウンドメディアの記事は、自分たちに加えて外注も試しながら1年くらい書きつづけて、実際すごく伸びましたね。2年くらいで月間20万PVくらいになりました。その間にぼくらも色々とオウンドメディア支援のノウハウがたまって、自分たちが書くっていうのはもちろんだし、クラウドソーシングで外注して書いてもらっても質は十分に確保できるとわかったんですよ。

それで、ぼくらもセミナーとか開いて積極的にお客さんをとっていこうとなったのが2018年の2月くらい、ほんと最近ですね。はじめはオウンドメディアが集客から獲得の役に立つなんてわからなかったし、自分たちは純粋にブログが好きだからという理由でつづけていたので、それまでは「こちら広報部」の記事を中心に売っていました。

アナグラム

ようやくBooks&Appsの収益源がととのってきたんですね。ちなみに、このシステム会社さんはお二人と親和性があるというか、書きやすい会社さんだったと思うんですが、これが仮に製薬会社とかでも記事は書けるんですか?

nishikawa

まだやったことないですが受けられると思います。調べなきゃいけない量はすさまじいだろうし、オペレーションは変わってくると思いますが、最終的にアウトプットしないといけないものはわかっているので、プロとしてどういうものを出さなければいけないかはイメージできます。オペレーションをととのえるのは前提として、これが読まれるものなのかそうでないのか判断して書き上げるのがぼくらの存在価値になりますね。

Google、つまりSEOばかり意識すると人の心がはなれていく

アナグラム

オウンドメディアの記事は月にどのくらいの本数を書くのでしょうか?

nishikawa

毎日のように更新するので1社あたり月に20記事~25記事は書いています。

アナグラム

「こちら広報部」の記事は安達さんが書かれていて、オウンドメディアの記事はいま何名くらいで書かれているんですが?

nishikawa

ライターは基本すべて外注で、そのオウンドメディアにあうライターが3人〜5人くらいと、どんなテーマでも書けますみたいなライターを10人くらいで、毎日記事が更新できるように仕組みを整えています。

アナグラム

アフィリエイターのマネジメント方法に近いですかね。

nishikawa

そうだと思います。ただ、我々の場合はオウンドメディアなので、検索流入はもちろん大事なんですが、サイトに来てくれた人がこの会社いいねって思わなきゃダメなんですよね。それなりにおもしろいものが並んでいると思わせなきゃいけない。なのでライターは基本外注なんですが、記事の質を保つためのディレクションはぼくらがきちんとやってます。

アナグラム

ちょっとお聞きしたいんですが、いいライターを見分けるコツとかってあるんですか?

nishikawa

あります。いいライターさんは自分にしか伝えられないことを文章にしようとしてくれますね。クラウドソーシングで依頼して記事を書いてもらうとよくわかりますが、ほとんどの人はSEOを意識しすぎている。でも、読み物として多くの人に読まれるためには、読むべき理由をつくる必要があるんですよね。

たとえば、クレジットカードをつくりたくて「クレジットカード」と検索した人にとってアフィリエイト記事はそれなりに役に立ちますが、それは辞書的な使われ方であって読み物ではないですよね。クレジットカードをつくりたい人にしかそのアフィリエイト記事は読まれません。

じゃあ読むべき理由があって読まれる記事っていうのは、たとえば、「こちら広報部」の記事ですが「クレジットカードで「返しきれなくなった借金」を抱えた私が、クレジットカードの記事を書く理由。」みたいなものです。タイトルだけでクレジットカードに興味ない人でも読みたくなりますよね。

アナグラム

なります。いますぐ読んでみたいです。

narahara

それはわざわざこの人が自分の失敗談を挙げているからです。この人はクレジットカードの説明をしたくてこの記事を書いてるんじゃなくて、ちょっとおもしろいことがあったから自分の体験を話したいだけなんですよ。でも、その体験こそが読むべき理由になる。だってそれはこの人にしか書けないし、ほかのメディアに似た記事がなければここでしか読めないので。実体験とか1次情報にもとづいている記事って、その人にしか書けない記事だから読む価値があるんです。

アナグラム

すごく納得しました。でも、実体験や1次情報って自分で動かないとなかなか増やせないと思います。ネタが尽きることはないんですか?

narahara

ネタが尽きるのはセンスがない証拠ですね。いや、みんなネタには困ってるので、ないとは言っちゃダメです。それに、自分で動いて実体験や一次情報のストックを増やしていくのはもちろん大事なんですが、実は簡単に集められるけどみんなが見落としている一次情報があります。わかりますか?

アナグラム

なんだろう…

narahara

本です。ネットの情報はみんながふれているけど、本は意外と読んでない。だから本は1次情報になり得るし、引用すればそれだけで説得力をあげることができます。

アナグラム

たしかに。いい記事はたいてい本の引用がありますね。

narahara

そう、論文の書き方と同じですね。オウンドメディアとしては検索とソーシャル両方を意識して書けるのが理想ですけど、Googleを意識してキーワードばかり追っていると、どうしてもネットの情報を集めただけのような薄っぺらくて人の心をはなれた記事になってしまうんですよ。

これからのオウンドメディアはどうなっていくのか

アナグラム

最後に、これからのオウンドメディアについてどう考えているのかお聞きしたいです。

narahara

検索とソーシャル、両方を意識したオウンドメディア運営がトレンドになるとは思っています。ファンをつくるのが目的になるので、やっぱり読んでもらえるメディアじゃなくてはいけないと思います。そうなるとSEO対策の記事ばかりじゃダメ。ECサイトであればそれでいいのかもしれないけど、特にぼくらが依頼を受けるのは形のないサービスが多いので、相手に何回も来てもらって、好きになってもらってはじめてファン獲得につながる。

アナグラム

弊社のブログは検索からの流入が一番多いです。次にソーシャル。同業の中では多い方だとは思いますが、商材によっても変わってきますよね。Books&Appsはソーシャルからの流入が多いですか?

narahara

はい、4割くらいは占めてますね。ソーシャルの流入を増やすのはどこの会社さんも苦戦していると思います。

アナグラム

そうですね。それにオウンドメディア支援ってSEO視点のサービスがほとんどな気がします。2015年くらいまでは検索をベースにしてメディアをつくればよかったけど、いまはソーシャルの勢いがすさまじいのに、そっちをベースにしたオウンドメディア支援はほとんど聞いたことがない。そこがBooks&Appsの強みかなと思いました。

narahara

はい、そもそも支援できる人が少ないですね。理由は簡単で、SEOライティングの人たちはネットから来ているので、文章がどうとかの視点を持っていない。紙媒体の人たちが入ってくればいいんですか、まだ入ってきてないんじゃないかなって思います。

アナグラム

なるほど。

narahara

それに、むかしからメディアやっていますという人たちとぼくらでギャップがあるのは、よく紙媒体の人たちは企画から入るんですよ。こういう企画をやったらおもしろいという感じでメディアの構成を考えていく。なぜなら紙媒体ははじめからそれを読みたいという人をフィルタリングしているからですね。

たとえば、ぼくはスポーツ雑誌のNumberをよく読んでいたんですが、それを手にとった時点でスポーツ好きな人をフィルタリングできているわけで、どこを読んでも興味がある記事が並んでいるし、企画がおもしろければいいメディアだなって思えます。

だけどウェブではいろいろな情報が洪水のように流れていて、ユーザーはそこから拾うので記事自体がおもしろくないとまず読まれないんですよ。読んでほしかったらメディアではなく記事そのものを読ませる必要がある。

ウェブでいきなり「NBAのNCAAで活躍したドラフト何位の選手がこんなに頑張っている」って記事が流れてきてもだれも読まないじゃないですか。でもそれがNumberだったらよろこんで読まれます。

いまは企画ありきじゃなくて記事ありきで考えるべきなんですよ。

アナグラム

読んでもらえる記事を書いて、その中に本当に読んでほしいものをちりばめていくイメージですね。

narahara

そうそう。まず読みに来てもらう努力があって、はじめてこちら側が言いたいを読んでもらえる。押しつけると本当に嫌がられるじゃないですか。アフィリエイトとかは典型ですけど。さりげなく、くらいの感じで読んでもらえる回数を増やして好きになっていってもらう、というのがぼくらのやっているオウンドメディア支援ですね。

アナグラム編集後記

Books&Appsとしておもしろい記事を発信しつづけて事業を拡大している楢原さんですが、話を聞けば聞くほど、文章を書くことが好きという純粋な思いが伝わってきました。

ただ、ここまでBooks&Appsでの事業が伸びているのは決してやみくもに記事を書きつづけたからだけではなく、世の中のトレンドにあわせた情報の届け方を考えつづけているからでしょう。紙媒体とウェブ媒体での情報の受け取られ方の違いについては大変勉強になりました。

「どうしたら読んでもらえるか?おもしろいと思ってもらえるか?」を追求していく姿勢は、メディアを運営している方にかかわらず、人を動かすことが仕事であるすべてのマーケターにとって参考になるはずです。読み物としておもしろい記事を発信しつづける仕組みづくりと、ソーシャルを意識したオウンドメディア支援のお話を聞き、今後ますますBooks&Appsが、ティネクト株式会社がどうのように成長していくのか楽しみになる取材でした。

文:秋山侑太朗
編集:阿部圭司/高梨和歌子
写真:高梨和歌子