データはとるけど、データを捨てろ!オウンドメディアに必要なのは手段ではなく目的。記事もメディアもDIYし続ける「となりのカインズさん」編集長 清水 俊隆さん

  • 関東

何気ない普段の生活にも暮らしを豊かにするアイディアがたくさんあります。そんな暮らしに欠かせないホームセンターを遊び倒すメディアとして立ち上げられた「となりのカインズさん」というメディアをご存知でしょうか。オウンドメディア戦国時代と言われてから数年足らずで多くのメディアがその役目を終えている昨今。巷では「オウンドメディアはオワコン!?」という言葉も聞こえる中、立ち上げから1年で月間400万PV数を誇るメディアにまで成長したのは、ホームセンターとしてお馴染みのカインズ株式会社(以下、カインズ)のオウンドメディアです。

カインズといえば、ワークマンやベイシアと同じグループ企業のホームセンターで、東急ハンズを買収したり、面白法人カヤックと資本提携したり、最近なにかと話題にのぼることの多い企業です。カインズはここ3年でDXや社内改革を積極的に進めており、その推進力としてオウンドメディアが大きな役割を果たしています。

そのメディアを創刊したのが、元古典籍商という異色の経歴を持つマーケターの清水俊隆さん(株式会社カインズ マーケティング本部 メディア戦略部部長)。今回は、オウンドメディア立ち上げの経緯から、メディアの役割の変化、そして、リテールメディアへの展望についてお話を伺うことができました。これからオウンドメディアを始めたい企業担当者はもちろん、マーケティングに従事する方は一読の価値ありです!

社内に改めて問う。オウンドメディアの「目的」はなにか

アナグラム

清水さんのインタビューを拝見する機会も増えていますね。他メディアでお話されていることも多いかと思いますが、それだけ皆さんにとって興味深い「となりのカインズさん」の立ち上げの経緯について改めてお伺いさせてください!

shimizu

まず私がカインズに入社した時点では、デジタルマーケティングの一環としてオウンドメディアをやることは決定していました。かなり具体的に話も進んでいたんですよね。

でもそこに「なぜオウンドメディアをやるのか?」という目的が欠けていて、Howばっかりの状態でプロジェクトが進んでいたので非常に危機感を感じたんです。「やばい、オワコンが自明のオウンドメディアを今さらなぜやるのか? このままでは当たり障りのないコンテンツを置くだけの場所になってしまう……」と。なのでオウンドメディア担当になってまずやったのは、経営層や現場の発言を拾えるだけ拾っては徹底的にWhyの部分を突き詰めることでした。そして、コストやリソースも必要以上に掛かっていたので一旦スマートなかたちにリセットして、3か月で社内メンバー2名と一緒に立ち上げたんです。

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Howに囚われて目的を見失うというのは、オウンドメディアに限らず陥りがちな盲点ですよね。ただ、ヤバいと感じつつも進んだプロジェクトをリセットするというのは非常に大きな決断だったのではないでしょうか。

shimizu

そうですね。目的があいまいのまま手段ありきで進めた結果、全然グロースできなかったり、つぶれたりしているプロジェクトはいくつも見てきているので、今回もこれは失敗するぞという確信がありました。それでもオウンドメディアをやるのであれば、全社的に意味のあるプロジェクトにしなければいけないと覚悟を決めました。

現在は創刊から3年目を迎えましたが、このオウンドメディアがなければ、カインズの人事戦略もブランド戦略も今とは違っていたものになっていたはずです。

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立ち上げにあたって、まずは「ホームセンターをDXするメディア」というコンセプトを立てました。社内の数千人のメンバーに対して「デジタルを使うっていいよね」とか「ホームセンターも新しいことをやっていかないといけないよね」という声を作りたかったんです。カインズのデジタル化にあたっては社内へのインパクトも必要だったので成果を出すまでのスピードも意識しました。

そして、ぼくが怒られ役になって責任をとればいいと思って、これまで社内では許されなかったチャレンジングな企画にも取り組んでいきました。まだデジタル部門の黎明期で社内環境も整備されていない状況下だったこともあり、保身的な態度でグロースするのは不可能だったんです。

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社内からの理解を得るのが難しかったというのを記事でも拝見しました。社内で推し進める中でどのような紆余曲折があったのでしょうか。

shimizu

いまでこそ社員も顔出しで記事に登場していますが、もともとは社員の名前を出すのは基本NG、社員の顔出しなんてもってのほか、という暗黙のルールがありました。メディアを立ち上げるにあたって、せめて社員の顔出しは許可してほしいと上層部のいる会議でもお願いしました。

結果、正攻法では実を結ばず、それなら外堀から埋めていこう!とメーカーさんを取材して顔出しの記事を書かせてもらいました。そして、カインズのメディアなのにカインズのメンバーだけ匿名で顔を隠しているという状態にしていきました。それをもって「メーカーさんが顔出ししているのに、うちは出さなくても良いんですか?」と突っついたんです(笑)

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なかなかの策士ですね……(笑)

shimizu

会社の将来を考えての行動ですから日和っていられませんよね(笑)絶対に会社は変わる、変わらないと未来はないと思って断行しました。でも、社内のバイヤーは自分が開発した商品の良さをどうにかして外に伝えたいという気持ちもあって、メンバーの意識にさまざまなギャップがあることにも途中で気づきました。

最初は社員の顔も名前も伏せた状態で記事を出して、それでも少しずつ「面白い」とか「こんなことしていいの」とか「今までのカインズになかった」といった反響が出てきたんですよね。その結果、記念すべき最初の顔出しが叶ったのがハンガーの記事です。読者の方からすると数ある記事の内のひとつだと思うのですが、カインズにとっては大きな一歩でした。

shimizu

ありがたいことにこの記事をきっかけに、芋づる式に他の社員も顔を出してくれたり、寄稿したりしてくれるようになってきて、店舗の売上や送客にもプラスの影響が出てきました。一般メディアからの取材も増えたり、賞をいただいたり、人材採用にも寄与したり、少しずつ効果が出てきています。すると、社内でのメディアに対しての姿勢もポジティブになってきて、「これだけ反響あるのであれば次は顔出しでチャレンジしてみよう」という雰囲気に変わっていきました。今では顔出しは当たり前になっていますし、マニアックすぎる記事を書いてバズる社員も出てきています。もちろんオウンドメディアだけの影響ではありませんが、3年前のカインズとは大きく社内の雰囲気は変化してきています。

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会社の中から変えていくのはなかなか骨が折れる大プロジェクトですよね。推し進めていく中で、意識していたことはありますか。

shimizu

当時は社内の人からするとオウンドメディアがそもそも何なのかもよく分からないまま、デジタルの人たちがなんか勝手にやってるぞ、みたいな雰囲気でした。しかしオウンドメディアをやるうえで社内メンバーの協力は必要不可欠ですし、デジタル部門だけ盛り上がって社内に温度差がある状態ではまず成功しないなと思いました。

そこで実行したのは、社外で反響を呼び起こし、社内の雰囲気を変える、それで社内の雰囲気がちょっと変わったら、次はまた違う性質の反響を社外で呼び起こす、そしてまた社内の違う部分を解放するという作戦で、これを何度か繰り返しました。社内と社外の両輪をうまく回さないとオウンドメディアというナマモノは腐りやすいので、どちらか一方だけを伸ばすのではなく、バランスを見て運営することは意識的に行っていました。

当時の上司でデジタル戦略本部のトップがよく言ってたのが「横文字を使うな」でした。なのでCRM、CMSなど横文字はすべて日本語で説明することを徹底し、マーケティングも「商売」「お得意さん」「一見さん」というふうに言い換える努力をしました。

横文字を連呼していると、言っている本人も聞いている側も本質的なことを忘れてテクニカルなことばかりに意識が向いてしまいがちです。私自身、オウンドメディアという言葉を社内では意識的に使っていません。そもそもやりたいことはオウンドメディアではないですし、この言葉に縛られて本来の目的を忘れてしまってはいけませんから(笑)

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細かい部分ですが、とても大事なことですよね。デジタル業界あるあるだと思うのですが、略語が多かったり、カタカナが飛び交う様に最初は誰でも面を食らった経験があるはず……。なのに、業界歴が長いとその状況が当たり前になってしまいある種の”異様さ”を感じなくなってしまいますからね……。

大事なことは、自分が最も興奮しているかどうか。既存の延長線上に爆発はない。

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社内も巻き込みながら「となりのカインズさん」は絶えず企画が立ち上がっていて、かつ幅が広いと感じます。コンスタントに月50本以上の企画はどのように生み出されているのでしょうか。

shimizu

企画は社内のコンテンツディレクターや有志のライターと外部のクリエイター、お客さん、メーカーさんなど社内外の方々のご協力で成り立っています。実は、企画案には全く困っていなくて、逆に企画に溢れていて収集がつかないくらいです(笑)

業界の特徴は何か?をメディアに反映させることはとても大事だと思っています。他業界だとマネをしづらいかもしれないですが、ホームセンターはSKU※が10万以上あり、あらゆるカテゴリの商品を扱っているのが特徴のひとつです。品ぞろえの豊富なホームセンターだからこそ、記事のテーマもカオスでいいと思っていて、メンバーの提案には基本NGを出さない方針ですね。

※SKUとは…ストックキーピングユニット(Stock keeping Unit)の略。在庫管理上の最小の品目数を数える単位のこと

アナグラム

ホームセンターのカオス具合がそのままメディアの方針にも反映されているのですね。

shimizu

カオスでありつつもバランスが大事です。「となりのカインズさん」では“For the Customers”というベイシアグループの経営理念を軸にしています。

社内主導でコンテンツを考えると、どうしても自分たちが売りたい商品や伸ばしたいカテゴリが全面に出てきて押しつけがましくなってしまう。つまり“For the Customers”ではないメディアが出来てしまいます。

であれば、ご協力いただくクリエイターが「いちユーザー」として、どのようにカインズを利用しているかをそのまま記事にするのがいいと思いました。執筆依頼の際は、こちらから「こういう風に書いてください」とはなるべく言わず、「ホームセンターで自由に、好きに遊んでください」と伝えています。そして、カインズに訪れてもらい、気になったものを買って、自宅でDIYや創作してもらう。純粋にその様子を記事にしていただきたいとお願いしました。今では動画や音楽もクリエイターさんに自由につくっていただいています。

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個人的にカインズの「創るをつくる」という企業理念がとても素敵だと思っていたのですが、まさにその理念を体現されているようなエピソードですね。

shimizu

いい意味でふざけている記事も多々あるのですが、そういう記事の方がSNSで拡散されたりもするのも面白いですよね。例えば『色んなジュースが出る蛇口を自宅にDIYしてみた』という記事は商品を売っている側では思いつかない、クリエイターならではの発想だと思います。くだらないって言ったら怒られちゃうかもしれないですが、こういうコンテンツ自体、今までのカインズではありえないことだったんです。

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よく、掲載のGoサインを会社が出しましたね…!

shimizu

クリエイターはカインズのユーザーでもあるので、この記事にNGを出すということは、つまりユーザーのカインズの利用方法を否定することにもなるんです。事実、お客様がカインズで買い物をしてこうやって自宅で遊んでいるでしょ、それを否定するなら理念に反するでしょ、というスタンスで切り抜けました(笑)

アナグラム

まるで、一休さんのとんちみたいですね!(笑)

shimizu

先ほど話に出てきたカインズの経営理念「創るをつくる」の文化もあるので、クリエイターさんを応援する機会や文化を商業を通じて創りたいと思っています。だから、基本的にはご本人がめちゃくちゃ興奮している人であれば、文章を書くのが上手下手というのは関係なく「となりのカインズさん」では投稿を大歓迎しています。

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「自由に」という中でもぶれない理念があることで編集メンバーの判断軸がぶれることも少なくできそうですね。

shimizu

そうですね。やはり、理念や意義がないと、ただ作業をこなすだけで数字の奴隷になってしまいます。少なくとも「となりのカインズさん」ではPV数やCV数だけが目的ではないです。それだけであれば、もっと伸ばせますが、それを目指して何をしたいのかということですね。PV数の増減はただの結果の一つでしかないので、なんのためにオウンドメディアをやっているのかを常に振り返るべきだと思っています。記事を書くことが目的ですか?もっと深い動機がありませんか?考えることをやめていませんか?ということなんです。

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「PV数の増減はただの結果の一つでしかない」と言い切れるのはかっこいいですね…。ただどうしても書き手としては、PV数が伸びないと少し落ち込みます(笑)数字が全てではないとはいいつつ、わかりやすい判断軸にもなってしまうのかなと思うのですが、どのように考えられていますか。

shimizu

メディア運営に関わるメンバーには「データは取っても、そのデータは捨てろ」と伝えています(笑)PV数も「良いPV」と「悪いPV」があると思って、「良いPV」はファンやユーザーがちゃんと面白いと思ってくれて企業貢献しているPV。一方、バズやSEOを意識しすぎた記事ばかりになってしまうのは、見えないところでユーザーやファンの離脱に繋がっていると考えています。

「PV」とひとくくりにしてしまうと同じなのですが、その質は全く異なると思います。戦略によって両方大事ではあるものの、見えないところでユーザーが離れていかないように「PVだけを追うな」「テクニカルなことだけをやるな」とメンバーに口酸っぱく伝えています。

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まさに数字上には表れない「見えない機会損失」ですね。

shimizu

そうです。カインズのオウンドメディアは独特なので、メンバーたちに「世界一興奮してその記事を書いているか?」というのを1つの指標としてもらうようにしています。例えば、メダカの記事ばかり作っているメンバーがいて、彼のメダカ愛は異常なんですよ。

一部のメダカ好きに届けばいい、と思っていた程度で、正直PV数を全く意識してないんですが、じわじわとメダカ関連の売り上げに繋がっていたりするんです。

他にもメンバーが書いた『「電気ガスを使わない」スリランカカレーの作り方』や『 祖父から受け継いだකුඩා කාබරයක්をDIY』という記事は社内外問わず反響があり、SNSでも話題になっていて企業イメージの向上にも貢献しています。

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スリランカの記事はもはやタイトルすら読めない衝撃作ですね(笑)

shimizu

もはや誰にもわかってもらわなくてもいい、世界で最高に楽しんでいるのは俺だ、という境地です(笑)こういった奇想天外な爆発力のある記事は数値分析ありきの考え方からは生まれにくいものです。数値分析は現状を最適化するための手段であり、すでにある1を2、3と伸ばしていくのであれば細かく数値を分析するべきです。その分析結果から次はこの記事を書こうとか、これをテーマにしようと決めて、徐々に伸ばしていくことはできると思います。実際に「となりのカインズさん」でも数字分析は取り組んでいますが、現状の最適化だけだとつまらないし、現状の延長線上に0からの爆発的なことは起きないかなと。

記事もメディア運営もDIY感覚だと思っていて、変にプロっぽくしようとするのではなく、あくまで素人。プロだったら恥ずかしくて出せない記事でも、素人のDIYだからこそ出せる。しかも、プロの文章より素人のほうが真にせまるときもある。そうやって関係者全員がDIY感覚でやってるというひとつの柱がありつつ、ただ会社としてお金と人のリソースも使っているので、自由度とマーケティングのバランス感覚はプロジェクトオーナーとして大事にしていますね。たまに失敗もしますが、DIYと言っておけば失敗しても大丈夫ということです(笑)

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記事もメディアもDIY……!そこにもホームセンターらしさが反映されているわけですね。メディア運営にカインズさんらしさはとても感じるのですが、同じくメディア運営に携わる方向けに真似できそうなことがあれば教えていただきたいです!

shimizu

他のオウンドメディア担当の方に話を聞くと、全部の記事に同じ目標と労力とクオリティを求めてしまいがちだと思うんです。一方、カインズではあえて、記事のクオリティや工数、目標効果に強弱や高低差をつけています。

野球に例えると、確実にヒットを狙いにいくのか、おくりバントか、それとも空振りでもいいからホームラン狙いにいくのか、というように目的やリソースに応じて分けて考えています。だから、記事の完成まで数ヶ月かける記事もあれば1日で作る記事もある。そのような絶妙なバランスがあるから記事の量産もできているのかなと。でもこれをずっと続けるのが正解というわけでもないので、社内外のタイミングを見計らって変更するのも必要です。

そして「となりのカインズさん」のように「遊び」を続けるためには、当然企業としてやるべきことをやらないといけません。ちゃんとPV数が伸びて売上貢献やその他の目標を達成しているからこそ「遊び」に対してリソースを割けるわけです。その「遊び」がまた次の仮説や気づき、新たなチャンスやプロジェクトにもつながります。

アナグラム

チャレンジするための余白を自ら生んだうえで、チャレンジするというのはどんな仕事にも言えることですよね。

shimizu

ビジネスである以上、一定の成果が出ていないと「遊び」の余裕はなくなってきて数字と業務に追われるので、そういう意味でも早めに目標達成しちゃおうと努力するわけです(笑)

そして遊べるようになると、個人のセンスや価値観がにじみ出てきます。センスや価値観はスキルと違って社内教育で鍛えられるものではないので、私生活でどんな本を読んで、どんな趣味に没頭しているのか、普段から何を考えて生活しているのか、そういう人間的な部分も深く影響してくると思っています。

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なるほど…!執筆の際の言葉選び、視点の多さも教養から成る要素が大きい印象があります。

shimizu

教養という点では、マーケティングにかかわらず、最近はすぐに効果が出るような即効性のある施策ばかり注目されがちですが、長い積み重ねがなければ到達できない領域もあるのではないでしょうか。

オウンドメディアに必要なのは「手段」ではなく「目的」

アナグラム

「となりのカインズさん」も立ち上げ初期と現在とでは社内からの見え方や評価のされ方も変わってきているのかなと推測します。清水さんはどのように感じられていますか。

shimizu

いまは「オウンドメディア」から「リテールメディア」へと脱皮する段階に入ってきたと思います。日本ではまだリテールメディアは黎明期で課題も多いですが、カインズではオウンドメディアの立ち上げ時から構想に入れていましたし、すでにお取引メーカーさんの売上に繋がるチャネルとしての実績も増えてきています。

同時にカインズの新しい文化やマーケティングを形成している過渡期にもありますので、今後もオウンドメディアという既成概念の枠を超えて、DIYの精神でチャレンジしていきたいですね。

アナグラム

最初はデジタル集客としての位置づけで始まったオウンドメディアが売上への寄与はもちろん、1つの企業の文化づくりにまで波及しているのは想像以上でした。

カインズさんの事例はこれからオウンドメディアを始める企業の希望になる一方で、どの企業にも当てはまるわけではないと思っています。そんな担当者に清水さんから伝えるとしたらどのような言葉を送りますか。

shimizu

オウンドメディアに必要なのは「手段」ではなく「目的」というのは普遍だと思います。

企業としての目的があり、戦略がぶれていなければオウンドメディアのコンセプトも毎日変えてもいいと思ってるくらいです。オウンドメディアの立ち上げを考えている方は、その目的を達成するために必要なのは本当にオウンドメディアなのか?オウンドメディアはオワコンである、無用であるというところから始めたほうが、成功しやすいのかなと思います。オウンドメディアという言葉を使わない、という意識も大事かもしれません。

企業によっては、広告を出したほうがよいフェーズかもしれないし、サービスを充実させるべきかもしれない、各社どのような目的なのか、どのようなフェーズなのかで手段はかえていくべきかなと。

アナグラム

社内のマネタイズの部分で多くのオウンドメディアが終了しているのは、一見悪いことのように聞こえますが、目的がないところが淘汰されてたり、オウンドメディアとしての役割が終わっただけと考えると、そこまでネガティブではないとも考えられそうですね。

shimizu

役割が終わったのか、ただ流行に乗っただけなのかとか、色々あると思いますが、オウンドメディアがなくとも、会社の目的が達成できればいいと思います。何をやりたいかという原点に戻るとオウンドメディアの答えが見えてくるような気がします。プル型とかプッシュ型とか、そういう浅いところではなく、なぜ、誰のために、何を提供するのですか?それでいつどうやって事業に貢献するんですか?そこを突き詰められないマーケターはオウンドメディアはやらないほうがいいと思います。でも挑戦したり失敗したりしてみないとわからないこともたくさんあるのでチャレンジする価値はあります(笑)

アナグラム

なるほど、何をやりたいのか、ですね。

shimizu

「となりのカインズさん」には、「くらしの99%は未開拓」というキャッチコピーがあります。

先ほどお話ししたようにホームセンターの特徴は商品数の多さです。「風が吹けば桶屋が儲かる」ように、「この記事が伸びた結果、こんなところに影響が!?」という興味深い消費行動が観られることもあり、カオスなメディアにしてよかったなと思います。

もし、1つのカテゴリに絞ったメディアにしていたら趣味嗜好が一緒の同じ属性の購買層しか動かない、決まり切った定石を打っていくフローしか出来なかったのではと思います。ホームセンターという無限大の組み合わせを「オウンドメディアは無用だ」という境地に立ちながらこれからもたくさん試して行きたいですね。

あ、ちなみに、ぼくはもう編集業務をほとんどしていませんし、記事の中身にも口出しをしていません。優秀な後輩たちが活躍しています。すごく楽しんでくれているし、すごく成長している、とても誇らしいメンバーたちです。

アナグラム編集後記

奇想天外なエピソードの数々ですが、どのエピソードにも共通するのは「慣習からの脱却」。過去から続いてきた事柄には「既に証明されている事柄」と「なんとなく続けてきている事柄」の2種類があります。

「既に証明されている事柄」に時間をかける必要はないですが、「なんとなく続けてきている事柄」の当たり前を疑う姿勢、それを変える行動力は変化を好まない人間の本質からの打破に対する大きな一歩になりえます。だからこそ、社内の1つの事業が会社の文化や働いている社員のキャリアや生き方を創るメディアにまで役割を広げていくことができたのは、既存の延長線上には爆発ないという清水さんという起爆剤とそれを受け入れられる企業としての厚い土台と徹底した顧客ファーストの理念があったからなのではないでしょうか。

今回のインタビューを通じて、オウンドメディア運営のあれこれを伺えるのかなと思っていたところ、ふたを開けると「仕事論」「マーケティング論」など楽しく働き、生きていくためのヒントをいただいけた有意義な時間にすることができました!清水さん、今回はご協力ありがとうございました!!

私のカインズ推し商品は、金属ヘラでの耐摩耗試験200万回をクリアした、高密度3層ふっ素樹脂コーティングのストーンマーブルフライパンです。

取材:杉山美和/賀来重宏
文 :杉山美和
編集:賀来重宏
写真:カインズさまより提供