不自由なく暮らせるお金はあって、寿命も伸びて「で、なにする?」RENDEZ-VOUSが共同オーナー型セカンドカーを通して実現したいこと

”不自由なく暮らせるお金があって、寿命も伸びて『で、なにする?』”

このシンプルなXでの問いかけ。特に40代を中心とした世代から、まさに今の自分が直面している課題だという声が寄せられたという。

物質的な豊かさと、心の満足度。この2つの間にある深い溝に、誰もが薄々と気づいているのかもしれない。しかし、その溝を埋めるために何をすべきなのか。その答えは、意外にも遠くにあるのではなく、私たちの日常の中に隠されているのではないだろうか。

今回お話を伺ったのは、クラシックカーや高級車をはじめ、好きな車を共同所有できるサービス「RENDEZ-VOUS(ランデヴー)」を立ち上げた浅岡さん。高校時代にボクシングで日本一を経験し、その後は自動車業界で長年のキャリアを積んできた彼が、なぜ今、所有の概念を根本から見直そうとしているのか。その背景には、現代社会が見失いつつある本当の豊かさへの深い洞察があった。

幸せな人と、そうでない人の違いは何だろう。

――まず、Xでの先ほどの投稿に込められた思いについて教えていただけますか?

いろんな大人の方々を見ていて、思うことが多かったんです。車の業界の人だけじゃなくて、ネット界隈の方とか、いろんな分野で活躍されている方々にお会いする機会があって。その中で、社会的には成功していると言われている方々なのに、なんか幸せそうな人と、幸せじゃなさそうな人がいるなって

――そのような違いに気づかれたのはいつ頃からですか?

僕自身、この問いを強く意識するようになったのは、40歳を迎えた頃でした。20代、30代はがむしゃらに働いて、それなりに結果も出せた。収入も安定し、不自由なく暮らせる環境が整ってきた。でも、ある日ふと気づいたんです。「このままの人生で本当にいいのか?」って。

――周りにも同じような悩みを持つ人が多いのでしょうか?

周りを見渡してみると、同じように感じている人が少なくないんです。特に40代に入ると、仕事にも慣れ、ある程度の地位や収入を得て、生活の基盤が整っている人が多い。でも、そこで初めて「次に何をしたらいいのか分からない」と立ち止まるんです。20代、30代は「もっと上へ」と突き進むことが目標だったけれど、その先のビジョンがぼやけている。

――具体的にどのような気づきがあったのでしょうか?

実際に、成功しているとされる経営者や高収入の人たちに話を聞いても、充実している人と、そうでない人に分かれることに気づきました。お金がある、時間の自由もある。でも、「それで、何をする?」という問いに対する答えを持っている人は意外と少ないんです。

――その違いは何だと思われますか?

僕の中での答えは結局、本当に心から好きなものを持っているかどうかなんです。それが何であれ構わない。幸せじゃなくても人は死ぬわけじゃないし、生活するには考えなくてもいいかもしれない。でも、僕が話したいのは、幸せそうに生きている人たち、あるいは幸せに生きるにはどうしたらいいのかというテーマです。

そこで見えてきたのが、物質的な豊かさだけでは本当の満足感にはつながらないということ。モノが充実していても、それを活かして”何をするか”が決まっていなければ、空虚な気持ちになってしまうんです。

ボクシング日本一になった瞬間の意外な感情

小学校の頃からずっとボクシングに打ち込んできて、高校3年生の時に日本一になったんです。本当に心から夢中になれるものがあったんですよね。

それだけのために精神的にも肉体的にも犠牲を払ってきました。寮に入って、厳しい減量もこなし、ただ日本一になりたいという目標のためにやっていました。でも実は、日本一になった瞬間、全然幸せじゃなかったんです。全く嬉しくなかったんです。

――え、それは意外ですね。せっかく日本一になったのに……。

「あれ?こんなもの?」という感覚があったんです。喜びがなかったわけじゃないけれど、思っていたほどの達成感はなく、むしろ「次に何を目指せばいいんだろう?」と空っぽな気持ちになりました

でも、ふとセコンドの方を見たら、母が発狂したように喜んでいるんですよ。それを見て、もうチームメイトたちも「うわー!」って盛り上がっていて。いつも厳しかった監督が、少し緩んだ表情で「よくやったな」って声をかけてくれたとき、めちゃくちゃ嬉しかったんです。「ああ、この瞬間が幸せだ。このために頑張ってきたんだな」って、本当に心の底から感じたんです。

振り返ってみると、僕が本当に楽しかったのは、勝利の瞬間そのものではなく、その過程だったんです。減量に苦しみながらも練習に励み、仲間と共に支え合い、監督の厳しい指導を受けながら成長していく。そのすべてが、僕の人生に意味を与えていたんですよね。

――その経験を経て、自分の中で何か変わった部分はありますか?

ここで気づいたことが2つあって。僕、日本一になるためだけに、自分の自己実現のためだけにボクシングやってたと思うんですけど、蓋を開けてみれば2つの目的があったんです。ひとつは、そもそもボクシングという競技自体に打ち込めていたこと。それ自体がもう超幸せだったんですよね。

それともうひとつ。これって仮に僕が一人で独学でずっとボクシングをやってて、誰も分かち合える人がいない状態で日本一になったとしても、たぶんあのセコンドを振り向いたときの喜びはなかった。「こんなもんか」ぐらいの幸せしかなかったと思うんです。

「好きなこと」を見つけ直した車との出会い

僕自身、ボクシングを引退してから「次に打ち込めるもの」を探し続けました。実は、ボクシングから離れたときに、僕にとっては人生で初めてぐらいに「打ち込めるものがない」っていう状態を味わったんですよね。その中で車ってめちゃくちゃ奥深い世界だし、僕は好きだったんです。その流れで仕事もずっと車関連のものをやってきて、好きなことだし得意なことだしっていうので今があるんです。

最初は単なる趣味だったけれど、次第に「この楽しさをもっと多くの人に共有できたら」と思うようになったんです。そこからRENDEZ-VOUSというサービスの構想が生まれました。

――車に対する考え方も独特ですね。

車っていうと、多くの人は移動手段のひとつとして捉えがちなんですよね。でも、僕にとって車は単なる移動の道具ではなくて、それ以上の存在だったんです。車っていうのは「時間をどう過ごすか」「誰とどこへ行くか」「どんな記憶を刻むか」という、人生の重要な要素と深く結びついているんですよね。

例えば、子供の頃、家族で乗った車のことを思い出すと、ただの移動ではなくて、ワクワクする冒険の記憶が蘇ってくるんですよ。夏休みに親と遠出したときの高速道路の風景とか、初めて助手席に座ったときの高揚感とか、ドライブ中に流れていた音楽とか。それらはすべて、ただ目的地へ向かうための移動ではなくて、一つの「体験」として記憶に刻まれているんですよね。

――その「車を通じた体験」という視点が、RENDEZ-VOUSの原点なのですね。

そうなんです。車ってめちゃくちゃ打ち込みたくても、いろんなハードルがあるじゃないですか。金銭的なものもそうだし、維持管理の問題もある。専門知識も必要です。これって僕も車を楽しむ中で感じてきた課題だし、壁だったんです。

でもそれをぐっと低くできれば、僕自身も今まで1台2台しか楽しめてなかった車がもっともっと広がるんじゃないかって。例えばですけど、死ぬまでに僕が10台しか所有できない人生だったとしたら、このランデヴーがあることで、それが100台とか200台になる可能性があるんですよ。それって最高じゃないですか。

Yokohama Base(第三京浜道路の羽沢IC近く)ではオーナー向けのラウンジが用意されている他、イベントの開催も

シェアではない「共同所有」の価値

車を持つことの意味って、時代とともに変わってきていると思うんですよね。かつては「ステータス」としての所有が価値を持っていたんですけど、近年では「利便性」や「体験」としての価値が重視されるようになってきたと感じています。でも、完全に所有を手放すのではなく、もっと自由な形で車と付き合える方法はないのかなって考えたんです。その答えの一つが、RENDEZ-VOUSが提供する「共同オーナー型セカンドカー」という新しい所有のかたちなんです。

――一般的なカーシェアとは違うアプローチなのですね?

シェアの派生ではなく、所有の代替だと僕はずっと思ってるし、そうありたいんです。でも単なる所有でもない。大きく違うのは、やっぱり時間軸なんです。

例えばカーシェアっていう概念があるじゃないですか。でも、単発的な利用と、一定期間以上ともに過ごすのとではぜんぜん体験として違うんです。

ランデヴーの場合は、ミニマムでも1年間ともに過ごすものなので、一定期間以上自分が占有できるんです。本当にその車と暮らしてるような体験ができるのが大きな違いだと思ってます。

――実際にはどのような体験が生まれているのですか?

例えば、今もう実利用が始まっているオーナーさんで言うと、1週間単位などで車を使っているんですよ。

普段SUVに乗っている人が、自分の車と共同所有しているフェラーリと入れ替える。その1週間はそのフェラーリと暮らせるわけです。自分の車庫に置いてある車がフェラーリになって、フェラーリで通勤して、フェラーリで家族と旅行に行くんです。

いわゆるレンタカーとかカーシェアって、土日にどこかに行くという目的で借りるものですけど、一定期間使えるのは普段の生活にある車が変わるってことなんですよね。

フェラーリ 365 GT4 BBでドライブスルーに

――それは新しい体験ですね。どのようなきっかけでこのビジネスモデルを思いついたのですか?

僕が「共同所有」という発想に至ったのは、単なるビジネスのアイデアとしてではなくて、自分自身の経験から生まれたものだったんです。もともと車が好きで、さまざまな種類の車に乗ってみたいという願望があったんですよ。でも、車を所有するにはコストがかかるし、何台も持つことは現実的ではないんですよね。

周りを見渡してみると、僕と同じように「車を所有することの負担」を感じている人が多いことに気づいたんです。都市部に住んでいる人は駐車場代や維持費の問題があるし、地方に住んでいる人でも複数台の車を持つのは難しい。そんな中で、「もっと柔軟に車を楽しむ方法はないのかな?」と考えたのが、RENDEZ-VOUSの原点だったんです。

選ぶのは「所有」か「体験」か?―― 価値観の変化

――時代の価値観も変わってきていると感じますか?

これまでの社会では、「モノを所有すること」が豊かさの象徴だったんですよね。家を持ち、車を持ち、高級な時計を持つことが成功の証とされて、それを目標にすることが当たり前だったんです。でも、近年ではこの価値観が大きく変わってきていると感じていて。特に若い世代の間では、「所有」よりも「体験」に価値を見出す傾向が強まっているんですよ。

――その変化の背景には何があるのでしょうか?

この変化の背景には、いくつかの要因があると思うんです。まず、デジタル化の進展によって、モノの所有が必ずしも必要でなくなったということがあります。例えば、音楽はCDを買わなくてもサブスクリプションで楽しめるし、映画もDVDを所有するのではなく、ストリーミングで視聴するのが一般的になりましたよね。モノを所有しなくても、同じように楽しむことができる時代になっているんです。

さらに、社会全体が「体験価値」を重視する流れになってきている。旅行、イベント、スポーツ、アート鑑賞——これらはすべて、体験することで人生を豊かにするものですよね。モノを持つことよりも、そこで生まれる感動や思い出が、人々にとってより価値のあるものになっていると感じています。

――若い世代の価値観の変化も感じていらっしゃいますか?

最近、興味深い変化を感じていて。若い人たちの間で、カセットテープが流行ったり、あえて不便なものに価値を見出したりしているんですよね。面倒くさい趣味を持ってたり、のめり込んでたり。価値観がすごく変わってきてるなって感じます。

まるで振り子のようなものかもしれません。令和の今では珍しく見えるけど、昭和の人からすれば「これが普通だったよね」と思えるような感覚。同じ流れの中で、螺旋を描くように少しずつ上がっていって景色が変わっている。そんな変化を感じます。

「遊び」への投資が人生を変える

――「遊び」についての考え方も独特ですね。

結局のところ、「遊び」と言うと軽く聞こえるかもしれませんが、実は一番投資すべきものだと思ってるんですよ。多くのひとにとっては、一見「無駄なもの」に思えるかもしれませんが、実際にはそうではない。「なにをするか」のひとつは遊びなんじゃないかと思います。

そもそも、遊び方を知らない人も多いんじゃないかと思うんです。だからこそ、僕らのサービスを通して、遊び方そのものも提供していきたいと考えています。

――「遊び」への投資という考え方について、もう少し詳しく教えていただけますか?

僕自身、電波の通じない場所で3日間フライフィッシングしたり、山を登ってスキーをしたりするんですよ。わざわざ島まで行って素潜りで魚を獲ったりとか。なんか、そんなの全く意味がないんですよね、社会的には。

車だって同じです。わざわざエアコンの効かない車に乗って、操作も難しい車にあえて乗って、それでラリーに出たりとか。まったく合理的ではないんです。なんですけど、超楽しいんですよ!

そこでまた仲間ができるんです。「バックカントリーの誰々と一緒に行きましょうよ」みたいなつながりが生まれる。そういうコミュニティが、僕にとっては何にも代えがたい財産になっています。そうしたつながりを、一つでも多く作れるかどうか。それが、僕の人生の大きなテーマでもあるんです。

電波の通じない場所で3日間フライフィッシングへ

――子育てを通しても「遊び」の大切さを実感されたそうですね。

僕、けっこう子育ての話でも考えることが多くて。毎週末、子供に「どこ行きたい?」って聞くのがやだったんです。でも、それって自分がどこ連れてってあげたいかっていう問題なんですよね。

「お前もう行くぞ、山行くぞ、マウンテンバイクのコースとか、海潜ってみろ、魚ついてみろ」って連れて行ってあげなきゃいけない。楽しいことを教えてあげられてないじゃんって気づいたんです。結局いつも公園だったり、動物園に行ったり。「何回来たんだろう、この動物園」みたいな気持ちになっちゃうんですよね。

子供の遊びのレパートリーはもうそれしかないから、どこ行きたいって言ったらそれしか答えられないわけじゃないですか。それは親がやっぱり広げてあげなきゃいけないし、広げ続けてあげられる親でありたいなって思うんです。

「いつかは」から一歩踏み出す体験を

――今後の展望についてお聞かせください。

サービスがスケールすればするほど、お客様にそれを還元できます。例えば、ボリュームディスカウントの概念で、1台あたりのコストをどんどん下げていく。お客様はさらに手軽に共同所有できるようになります。

今は1年間という縛りですけど、将来的には2ヶ月単位とかでも楽しめるようにしていきたいですね。そういう世界も作っていきたいんです。美味しいご飯のグルメ巡りと同じぐらいの感覚で車を楽しめる世界。それを実現していきたいですね。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

フェラーリの映像を熱心に見つめる少年(展示会イベントにて)

人生は一回しかないんで、できることはできるうちにやった方がいいと思うんです。不自由なく暮らせる時間とお金があったときに何をするのか。それを考えたとき、僕は「好きなことを思い切り楽しむ」っていう答えにたどり着いたんです。

でも、それは1人じゃない方がいいんですよね。誰かと分かち合えた方が何倍も楽しいんです。「いつかは」から一歩踏み出す体験を、より多くの人に届けられるサービスを作っていきたいと思っています。

RENDEZ-VOUS 好きな車と、好きな暮らしを。

最初の拠点である「YOKOHAMA BASE」に加え、二子玉川エリアに新拠点をオープン。

RENDEZ-VOUS Podcast • Spotify for Creatorsのポッドキャスト

毎回、多彩なゲストをお迎えし、車にまつわるさまざまな話題を深堀りするポッドキャストは人気コンテンツのひとつ。

アナグラム編集後記

浅岡さんの言葉を聞きながら、ふと自分自身の生活を振り返っていた。忙しい毎日の中で、「何のために働いているのか」という大切な問いを、いつの間にか忘れてしまっていたことに気づく。

「不自由なく暮らせるお金があって、寿命も伸びて『で、なにする?』」

この問いかけは、まるで胸の奥を突かれるようだった。便利さや効率を追い求めるうちに、いつの間にか大切なものを見失ってはいなかっただろうか。

特に印象に残ったのは、「日本一になった瞬間より、その過程や周りの人との共有の方が幸せだった」という浅岡さんの言葉。結果よりも、その過程を楽しむこと。何かを持つことよりも、誰かと一緒に体験することを大切にすること。そのシンプルな考え方には、深い真実があるように思えた。

インタビューを終えたあと、私はフラッシュバックのように自分の「好きなこと」を思い返していた。子供の頃に夢中になった絵を描くこと、大学時代に没頭した小説、そして最近ではすっかり触れなくなったカメラ。それらは決して「実用的」ではないかもしれない。でも、確かに心がときめくものだった。

浅岡さんの話は、単なる車のサービスの紹介を超えて、「私たちは何のために生きているのか」という問いを投げかけていた。物質的な豊かさを手に入れた先に、本当に求めるものは何なのか。その答えは、「好きなことに没頭し、それを誰かと共有する喜び」という、シンプルだけれど奥深いものなのかもしれない。

「無駄」と思われがちな遊びこそが、実は人生を豊かにする最高の投資なのだと。この取材を通じて、そんな大切なことを思い出させてもらった気がする。

取材・執筆:藤澤 亮太