失敗を乗り越えられた心の支えは「他力本願」世界に40店舗を展開するPizza 4P’s CEO益子陽介氏の“驚き”と“一貫性”のビジネス論

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Pizza 4P’s(ピザフォーピース) CEO益子陽介氏

ベトナム全土の5都市にて35店舗に加えて、カンボジア、インドなど、グローバルで40店舗を展開する「Pizza 4P’s」のCEO。2023年11月には麻布台ヒルズに日本店1号店をオープン。東京出身で法政大学卒業後、商社を経て2008年にサイバーエージェントの投資事業の責任者として赴任することになったベトナムにて、現地の投資案件に携わる。その後、独立して国の経済成長、親日的な国民性、ピザを受け入れやすい食文化を見込んで、2011年に妻・早苗氏とホーチミン市にPizza 4P’s1号店をオープン。自家製チーズや薪窯ピザは「ホーチミンにあるナンバーワンレストラン」と評され、ニューヨークタイムズやフォーブスなどの国際メディアからも取材が殺到する大人気のピザレストラン。

「なぜ、ベトナムでピザ屋?」救われる人を1人でも増やすために生まれた世界を変える一枚のピザ

アナグラム

「元サイバーエージェントの日本人がベトナムにピザ屋を起業」という、情報盛り沢山な益子さんのご経歴。まずは、ベトナムにピザ屋をオープンさせるまでの経緯からお伺いさせてください。

masuko

Pizza 4P’s(ピザフォーピース)をオープンする6年前の2005年に、知人に誘われて参加した趣味のピザパーティーがきっかけです。

当時、私は友人が自ら命を絶ったことをきっかけに、うつ病で悩んでいました。そんなとき、ピザパーティーで、自分たちで作ったピザ窯を使い、ピザ作りを体験しました。

そのなかで、自分自身がオープンになれる感覚や、自分が作ったもので人に喜んでもらえる感覚をはじめて知り、心が大きく揺さぶられたんです。 この体験を通して、人や自然との繋がりを感じた瞬間に、私は救われた気がしました。この感動を多くの人に感じてもらうことができたら、世界が少しでも良い方向に進むんじゃないか、と思ったんです。

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ピザパーティーの原体験が益子さんにとって大きな転機になったんですね。事業を始めるにあたって、ピザ作りの知識がない中で、どのように取り組みを進めたのですか?

masuko

原体験になったピザパーティーで、私と一緒にピザ窯を作った仲間を誘いました。

彼は当時、映像の制作会社で働いてたのですが、ピザ窯の経験がきっかけで、ピザ職人に転職し、2011年にベトナムで一緒にピザ屋を始めることにしました。

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身近にピザ職人がいるのもなんとも奇跡的な巡り合わせですね…!最初の店舗をベトナムに決めた理由はなんだったのでしょう。

masuko

前職のサイバーエージェント入社時からすでに、海外で起業したいという漠然とした夢を持っていました。社内で海外事業立ち上げの話が上がったときは即座に手を挙げ、向かった先がベトナムでした。

ベトナムは市場の成長性としての魅力はもちろん、国民性や人と人との付き合い方や距離感が「日本も昔はこんな感じだったのかな」と思わせてくれる懐かしさを感じる国ということも決め手です。

また起業準備では、当時の貯金約1,000万円のうち、500万円を起業資金として活用できる状況でした。そのため、起業前にシンガポールやタイ、ヨーロッパ諸国を巡り、市場の競合環境や物価などの要素を総合的に検討し、ベトナムに決めました。

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海外での起業となると、日本人なら“日本食”という強みがありますよね。日本食レストランならブランディングしやすく、顧客単価も高くできそうだと私なら考えてしまいます。それでもピザで勝負するのに迷いはありませんでしたか?

masuko

日本食レストランという選択肢はなかったですが、「これでいいのか」という葛藤はもちろんありました。

そこで改めて「起業して何がしたいのか?」と考えたときに、私には、うつ病で悩んだ経験や、友人の死に対して「自分に何かできることがあったんじゃないか」という強い想いがありました。

友人が亡くなった背景には、「自分は足りていない、幸せではない」と思い込んで心を閉ざしてしまったことがあります。もしそのとき、彼が少しでも心を軽くできる瞬間があったら、状況は変わっていたかもしれない――そんな風に、今でも考えることがあります。

だからこそ、気分が少しでも晴れて救われる人が1人でも増えるのであれば、手段にはこだわらないんです。私にとって、その想いや経験を表現できる手段が、たまたま「ピザ作り」だったんです。

Photo via Pizza 4Ps in Ho Chi Minh City, Vietnam. // Credit : Aaron Joel Santos for The New York Times
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益子さんのご経歴を拝見するだけでは、「なぜ、日本食ではなくピザなのか」や「なぜ、ベトナムで起業?」という疑問に感じる部分が多かったんです。でも、これまでの経験や想いがつながって、なるべくしてベトナムでピザレストランをオープンされたのだなと、すごく納得できました!

グローバル展開の鍵は「Wow」その土地ならではの驚きや感動を生み出すこだわり

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慣れ親しんだ土地を離れ、海外で初めて起業するにあたり、益子さんが最も大切にされていたことは何でしょう?

masuko

とにかく「お客さんに楽しんでもらうこと」が一番大事だと思っていました。もともとピザパーティの原体験から「その時の体験を伝えていきたい」と始めた事業なので、そうでないと事業をやる意味がありません。

そして、お客さんだけでなく、働くスタッフも楽しんでいないと仕事は成り立ちません。どちらか一方が優先されるものではなく、どちらもが楽しいと感じることが大切だと思っています。

お客さんに楽しんでもらうためにやっていることを「自分も楽しい」と思える人じゃないとやっていけないと今でも思います。

ただ、 正直なところ、最初の5年間は生きるのに必死でしたけどね(笑)

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現在、Pizza 4P’sはベトナムのみならず、カンボジアやインドでも店舗を展開されていますが、新たに進出する国や都市を決める際、どのような基準や共通点があるのでしょうか?

masuko

驚きの「Wow」が提供できる場所であることです。「Wow」には、想像を超えた驚き、サプライズなどの意味があります。

人は同じことを続けていると、どうしても飽きてきます。徐々に惰性的になってしまい、「Wow」を感じる回数も減ってしまうんです。だからこそ、どのように驚きや感動を感じてもらうかを考える姿勢が、私たちの“Delivering Wow,Sharing Happiness”というミッションにつながっています。

そのため、新しい店舗を出す時は、場所だけでなく内装や空間づくりにもこだわります。これまでのコピーではなく、その土地ならではの驚きや感動を生み出せるよう、デザイナーや建築家と一緒に細かいところまで考え抜いていますね。

Photo via Pizza 4Ps in Ho Chi Minh City, Vietnam. // Credit : Aaron Joel Santos for The New York Times
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「Wow」が提供できる場所という共通点があったのですね!個人的に、2023年11月に麻布台ヒルズにてPizza 4P’sの日本1号店がオープンしたのは「Wow」でした!!

masuko

日本への出店はコロナ以前から計画していました。その頃は、豊かな自然に囲まれた場所を検討しており、軽井沢を出店候補地として考えていました。しかしコロナの影響で、一度は出店計画を白紙に戻さざるを得ませんでした。

その後、麻布台ヒルズという立地を提案していただきました。森ビルさんの商業施設自体のコンセプトに共感したり、東京の中心地として、情報の発信地として魅了的な場所だと感じ、出店を決意しました。

社会課題に「今、私たちは何ができるか?」会社の利益と社会的影響力のバランス

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Pizza 4P’sは利益を追求するだけでなく、社会に貢献し、より健康的で持続可能な未来を築く取り組みが評価され、ベトナムの企業に贈られる「Social Responsibility Awards presented(ソーシャル・レスポンシビリティ賞)」を受賞されています。

益子さんがPizza 4P’sを通じて、ビジネスにおける「利益」と「社会的責任」をどのように両立させているのか、率直にお伺いしたいです!

masuko

私たちも創業当初から、サステナビリティ(持続可能性)やSDGs(持続可能な開発目標)を本当に意識できていたかと聞かれれば、正直に言うと、まだまだ不十分だったと感じています。

「今でも、日々悩みながら葛藤している」というのが答えです。難しいですよね。

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難しい問題ではありますが、Pizza 4P’sの各店舗ごとに独自の環境への配慮が感じられるところに魅力を感じます。例えば、カンボジア店では「廃棄物ゼロ」を目指し、店内で出る野菜くずや生ゴミを堆肥に変え、自社栽培のハーブの肥料として活用していますよね。また、プラスチック廃棄物を建築に再利用するなど、サステナビリティやSDGsへの取り組みを、建物のデザインや空間そのものを通じて表現しているのが印象的です。

masuko

おっしゃるとおり、インドネシアでは森林減少による生態系の問題、カンボジアでは急激な経済成長の反動で大量のゴミ問題など各国で社会課題は異なります。

新たな出店地域において、その時の私たちの会社の規模やリソースで各国の社会課題に「何ができるか?」を考えています。そして多くの社会問題の中から、現時点で私たちにできることを1つずつ実践していくしかないと思っています。

今は点としての取り組みかもしれませんが、将来的にはそれらの点を線でつなぎ、少しずつでも社会をより良い方向に変えていければ嬉しいです。

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現在、あらゆる業界でサステナビリティ(持続可能性)への関心が高まっていますね。日本と比較すると、海外ではこの意識がさらに浸透しているように感じます。

そうした状況の中で、Pizza 4P’sは単なる慈善活動ではなく、ビジネスとして持続可能性に、サステナビリティを組み込んでいる点が印象的です。そこで伺いたいのは、「今、できること」を考える際の最初のきっかけや出発点は、どのようなところにあるのでしょう?

masuko

会社が成長することで、社会への影響力も大きくなります。極端な言い方をすれば、利益を削って社会性だけに注力すると、企業の成長が遅くなってしまいます。その結果、5年後には本来もっと多くの人を救えたり、より広い範囲に良い影響を与えられたはずの可能性を狭めてしまうという考え方もできますよね。

企業の利益と社会的影響力のバランスを取ることは、非常に難しい課題であり、私たちも日々、試行錯誤しながら取り組んでいます。

特に、Pizza 4P’sが進出している発展途上国では、お金が「幸せ」に直接つながりやすい環境だと感じています。

例えば、今日の食事にすら苦労していた家族が、明日の食事の心配なく食事ができ、子どもたちが学校に通えるようになる。そんな変化を目の当たりにすると、お金や資本の持つ力の重要性を改めて実感させられます。

Photo via Pizza 4Ps in Ho Chi Minh City, Vietnam. // Credit : Aaron Joel Santos for The New York Times

大事なことは「物心両面の豊かさ」自分の幸せを、周囲の人にも与えられる社員が増えたことが嬉しかった

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ベトナムではPizza 4P’sで働くことが現地の方のステータスの1つになっているというお話を耳にしました。日本とは言語はもちろん、文化も異なる地でどのように社員の方とコミュニケーションを取っているのでしょう。

masuko

海外だからといって特段、意識していることはありません。基本的に、対話や体験を通じてお互いの理解を深めています。

どうしても、生きてきた文化的背景が異なる分、日本のようにスムーズに話が通じにくい場面はあるので、日本よりも丁寧な説明が必要なときは多いですが。

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なるほど。人と人との関わりにおいて「対話」が基本になるのは万国共通ですね。「体験」について、もう少し詳しくお伺いできますか?

masuko

2週間に1度の頻度で社員にアンケートを取るようにしています。リーダーシップや職場環境、上司との関係、同僚との関係などの項目を5段階で回答してもらいます。継続的にアンケートを取ることで課題や傾向も見えるようになってくるんです。

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上司からすると、毎週ドキドキする仕組みですね。

masuko

このアンケートの目的は、社員の出来ていないことの揚げ足を取るためではありません。

アンケート結果から社員の満足度を分析すると、最も重要な要素は給与であることが分かりました。しかし、それに次いで重要なのは、多様な人材が互いを尊重し、公平に評価され、チームとしてつながりを感じられることでした。

つまり、このアンケートは重要でありながら評価の低い項目を明確にし、組織として迅速に改善に取り組むための重要なツールとして活用しています

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「社員エンゲージメント」のサーベイ結果で、「給料」の項目が上位に来るのは分かりやすいですね。一方で、「同僚との関係性」という項目以上に、「ゴールに向かって進めているか」が上回るのが面白い発見です。私が社員だったら、アンケートの回答は、全ての項目を無難に真ん中にしてしまうなと思ってしまいました…!

masuko

社員からの回答に対して、経営が真摯に行動を起こしていることが伝われば社員も積極的にアンケートに回答してくれると考えています。問題点を改善し、良いものはさらに伸ばす姿勢が、社員へのモチベーションにも繋がるのではないでしょうか。

正直に言えば、これまで社員からのすべての意見に対応できていたわけではありません。過去には、「意見を言っても無駄だ」と社員に感じさせてしまった苦い経験もあります。そのため、現在も確実にアクションを起こすことを強く意識しています。

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経営として即座に対応すべき課題と、現場が早急な改善を求める課題の優先順位は、必ずしも一致しない場面も多いと思うのですが…そういう時、どうしていますか?

masuko

できるだけ店長に各店舗の裁量を委ねる仕組み作りをしています。各店長が店舗の課題解決をモチベーションに働いてくれることが、この取り組みの大きな成果です。

例えば、店長たちが口をそろえて給与やボーナスに関する提案をすれば、経営会議でその議論ができるボトムアップ型の運営を心がけています。

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店長は会社にとって重要な役割の1つということですね!教育や採用はどのようにされていますか?

masuko

店長の採用は、社内からの昇格のみで、外部採用は行っていません。

年に1~2回、コアバリューやその人自身の能力や適正を部下や同僚を含む社員からの360度評価を実施し、会社の価値観を体現できているかが評価されます。この評価は昇格などの人事評価に使用するだけではなく、店長自身の個人的な成長へも繋げてもらっています。

Photo via Pizza 4Ps
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また店長評価においては四半期に1度、全店舗の店長の評価ランキングを実施しています。このランキングはお客様満足度70%、チームメンバーの働きやすさや育成などが20%、残りの10%が店舗の売り上げ達成率で構成されています。

この四半期ごとのランキング評価が店長の個人ボーナスや昇格の人事評価にも紐づいていますが、店舗の売上や利益の比重はそこまで大きくありません。代わりに、メンバーの教育や、一貫したメッセージの伝達に重点を置いています

Photo via Pizza 4Ps
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一貫性を持ったメッセージを伝え続ける上で、意識して行動されていることはありますか?

masuko

途上国の人々にとって、日本人が「物を持っても幸せにはなれない」と言っても説得力に欠けるんですよね。だから、何をどのように伝えるかは常に慎重に考えていますが、本当に難しいです。

ある時、長年勤務した社員が店長に昇進し、給与が入社時の10倍以上となり、家族を持ち、豊かな暮らしを実現しました。その社員が「今までひたすら上を目指してきたけど、どのように生きることが自分にとって心地よく感じるのかがわかった。自分らしく生きることの本当の意味を、この会社で学んだ」と言われたことが私は、1番嬉しくて。

個人の生活が安定し、今まで自分に矢印が向いてた人たちが、徐々に周囲へと向き始める。その輪を少しずつ広げていくことが、本来あるべき姿なのかと感じます

日本の実業家の稲盛和夫(いなもり かずお)さんもおっしゃっている通り、物質的な豊かさと精神的な豊かさの両立が重要です。そのためには、最低限の給与水準を常に引き上げていく必要があります。

給与の基盤が整って初めて、社員も少しずつ私たちの話を聞いてもらえるようになるのかなと。

社内文化の浸透に大事なのは「共感」と「自分ごと化」

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言語や文化的背景の異なる社員と共に、世界規模でPizza 4P’sのアワードなどの文化の浸透や理念を体現するために大切なことはなんでしょう。

masuko

企業文化を根付かせるには、専任チームの設置が大事だと思います。

私たちは、企業文化に定評のあるZappos(ザッポス)社が、外部向けにカルチャープログラムを始めたことを知り、約5年前からそのプログラムを学んでいく中で出会った、その事業メンバーの一人のアメリカ人をPizza 4P’sに迎え入れました。

その後、専任のカルチャーチームを立ち上げ、社内文化に大きな変化が生まれ、浸透し始めた実感があります。

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社内文化の大きな変化を感じた具体的なエピソードを教えて下さい!

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世界中に3,500人以上の社員がいる中で、「バースデーボット(Birthday Bot)」という毎日誰かの誕生日を祝う独自の文化があります。これは、誕生日の社員に、同僚からお祝いメッセージが届くというものです。

私自身も誕生日メッセージを送りますが、入社したばかりの社員が社長から直接祝福されても、ほとんど無視されるんですけど(笑)

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社員からするとどのように返信したらいいかわからない気持ちもありますが、益子さんからすると少し悲しいですよね(笑)文化の変化だけではなく「浸透しているな」と感じられたエピソードはありますか?

masuko

例えば、「この人は店長に適任だと思うか?」と社員に尋ねると、「おもてなしはできるけれど、思いやり(Compassion)が少し足りない」といった返答が返ってきます。

masuko

“Compassion”は私たちの重要な会社のバリューの1つですが、このような返答を聞くと、それが単なる壁の掲示板の言葉ではなく、本当の意味で社内に浸透していると実感できます。

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社内の共通言語になってるイメージですね!

masuko

そうですね。加えて、サステナビリティ活動への共感も広がっています。

以前は社内報のゴミ廃棄ゼロを目指す「ゼロ・ウェイスト」活動に30いいね程度だったものが、今では100いいね以上集まるようになりました。

Photo via Pizza 4Ps
Photo via Pizza 4Ps
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masuko

例えば、”チーズメイキングワークショップ”を体験してもらう中で、余ってしまうホエーなどをどのように活用するか(サーキュラーエコノミー)を学んでもらうプログラムも、社員が主体的に提案した「ゼロ・ウェイスト」プログラムです。

抽象的な「サステナビリティ」を、いかに自分ごと化して捉えてもらうかを継続的に伝えた結果、社内の活動に対する関心が高まったことを嬉しく思います。

2040年までの事業計画は策定済み!?次世代へ託すPizza 4P’sが目指すエコリゾートとは

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これから海外での起業を含め、ビジネスを始めたい方への益子さんからのアドバイスがあれば!

masuko

応援してくれる、サポーターや応援団をいかに作れるかが重要です。

私の場合、妻と共に起業でき、ついてきてくれる親友がいて、経営と同じ視点でアドバイスをくれる投資家や経営者たちがいました。彼らが共に問題を解決し、心の支えになってくれたからこそ、数多くの失敗を乗り越えられたのです。

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言える範囲で、どのような失敗があったのか聞きたいです。

masuko

本当にたくさんありますよ(笑)

最初の店舗では、信用していた社員がお客さまのiPhoneやお金を持ち逃げしてしまったり、12か月前払いした物件が実は違法物件だったとか。

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「とか」ということは、他にも…?

masuko

昨日まで一緒に頑張ろうと言っていたベトナム人のCEO候補が、突然他社からのオファーを受けて去ってしまったことや、2011年のホーチミン1号店オープンから2015年の2号店をオープンする間に、2号店への投資で大家さんのライセンス問題が発覚してオープンする前に多くの投資金を失ったことなど—―言い出したらきりがないですね。

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経営者は孤独なイメージがありましたが、多くの人々の応援があったからこそ、失敗を乗り越えてきたことがわかるエピソードですね。

これまでのお話を伺って、Pizza 4P’sは人それぞれ感じ方が全く違う「幸せ(Happiness)」を大切にし、様々な背景を持つ現地の方々が、この会社で働くことを誇りに思い、1つの「幸せのかたち」を見出している点が素敵だと感じます。

masuko

「幸せ」は多角的で主観的、そして計り知れない難しいテーマです。それでも、私たちはこれからも「幸せ」に向き合い続けていくと思います。

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現状の「幸せ」の先に益子さんが目指す理想像はありますか?

masuko

現在、店舗でのコミュニケーションに限界を感じている部分もあり、今後はより深いコミュニケーションを目指したいと考えています。最終的な理想形は、エコツーリズムリゾートです。

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エコツーリズムリゾートですか!?もう少し、詳しくお伺いしたいです!

masuko

2024年12月にインドに初店舗をオープンするなど、世界への店舗展開を通じてPizza 4P’sを知ってもらう機会を増やしてきました。これからは、単に知ってもらうだけでなく、より深く「体験」してもらう機会を作りたいと考え、エコツーリズムリゾートやリトリート(※)を構想しています。

(※)エコツーリズムリゾートとは…観光とリラックス、メンタルリラクゼーションと生活のバランスのための健康ケアを組み合わせた旅行の形態のこと

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エコリゾートへのロードマップを10段階で表すと、今、どの段階にいる認識ですか?

masuko

ロードマップは、現在2段階目くらいだと認識しています。それ以降は、私が死んだ後も、会社として生き残ってくれればありがたい話です。

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すでに、ご自身の次の世代を見越しているんですね。益子さんの中で、10段階中、何段階まで構想に向けて動き出している感覚ですか?

masuko

5段階目くらいまでは、おぼろげながら見えており、2040年頃までには達成できるのではないかと考えています。

アナグラム

2040年!?そんな先のことまで考えているんですね。

masuko

40年先まで事業計画を立てていますが、5から10の段階は次世代に任せるつもりです。おそらく、私よりもさらに長けた人が、より良いものを生み出してくれるでしょう。

本当にびっくりするくらいとても「他力本願」なんですよ(笑)

アナグラム

「他力本願」という表現に益子さんらしさを感じます。頑張っている人を見ると、自然と周りが応援したくなるのは、全世界共通の価値観なのかもしれませんね。これからPizza 4P’sがどのように進化していくのか、目が離せません。

アナグラム編集後記

ふとした瞬間に、「幸せとは何か」「自分とは何者なのか」など哲学的で抽象的な問いに悩むことはありませんか。これらの問いは、時に私たちの心が押しつぶされそうになるほど重く感じることもあります。しかし見方を変えると、これらの悩みを抱ける環境こそが、最大の幸福であり平和だと私は思うのです。

そのように感じるきっかけは、益子さんが現在拠点を置いているインドを訪れたことでした。世界には、生きることに精一杯で、常に隣に死があり、「幸せとは何か」を考える余裕さえない人々が多くいます。彼らにとって、「今を生きる」ことが全てであり、日本で私が抱える悩みは、実は贅沢な特権だと思い知らされたのです。そして、自分の内面と向き合い、深く考える時間があること自体が、大きな幸せであると同時に不幸なのかもしれないと気付かされました。

このエピソードを益子さんにお話すると、1冊の本を持ってきてくれました。

それは、益子さんの奥さまがコロナで気分が落ち込んでいた益子さんに送った、オリジナルの物語が綴られている手作りの本でした。そしてその本の最後には、奥さんから見た、益子さんの素敵なところが毎日1つづつ綴られている日めくりカレンダーになっています。

人は一瞬の悩みや感動さえも、意外と早く忘れてしまう生き物でもあります。だからこそ、リマインドはとても大切な仕組みであり、パートナーや大切な人との関係において、互いの素晴らしさを言葉にし、記録に残すことは、関係性を深めることにも繋ると益子さんに全力でおすすめされたので、私もインタビュー後から早速、実施しています。

「言葉で言うは易く、行うは難し」益子さんとお話をしていると、それまで絵空事にも思える「世界平和」を心の底から願い、叶うのではないかと思わずにはいられない感覚を覚えます。日々の小さな幸せに気づき、互いを大切にし、人生の意味を問い続けること。それこそが、私たちに与えられた最高の贈り物なのかもしれません。

文 :杉山 美和
編集:藤澤 亮太