どうすればお客さんに選んでいただけるか?福井でWEB集客の支援・人材育成を手掛けている株式会社PROPOの中尾豊さんが語る地方での生存戦略

  • 甲信越・北陸

WEBマーケティング・コンサルティング未経験でいきなり個人事業主として独立。今では福井でWEB集客の支援や担当者の人材育成で活躍されている株式会社PROPOの中尾豊さんに、地方でお客さんに選ばれる続けるための生存戦略についてお話を伺いました。

WEBとはまったく関係ないキャリアからスタート

アナグラム

中尾さんは今でこそ福井でWEB集客の支援をされていますが、もともとは大阪の飲食店で働いていたんですよね。

nakao

はい。某有名お菓子チェーンで働いていましたが、仕込みに販売に朝から晩までとにかく忙しくて。特に大規模なセールがあったときのことは思い出したくないくらいに大変でした。数年続けてたんですが、そういったこともあり、また、大阪のような大都会で住み続けるのは自分には合わないと思っていたこともあったので、結婚を機に福井の実家に帰ってきたんです。

アナグラム

なるほど。ご実家は福井で会社を経営されているそうですが、福井に帰って家業を継いだのですか?

nakao

いえ、お前の居場所はないと言われました(笑)ぼくには兄がいるので、兄が継いで今でもやっています。代わりに実家と同じ印刷業界の会社を父が紹介してくれたので、そこで営業として働くことになりました。

アナグラム

印刷業界だったんですね。しかも営業ですか。

nakao

そうなんです。でもぼく、当時は本当にポンコツで、毎日出社するなり「今日はどこのマンガ喫茶で時間をつぶすか」みたいなことしか考えていませんでした。営業という仕事が自分に合っていなかったようで。扱っていたのがシールやラベルの印刷サービスで、お客さんはスーパーとかが多かったのですが、当然のごとく全く売れなかったです。飛び込み営業とルート営業どちらもやっていましたが、得意先の担当者の方が印刷の知識が豊富だったりして、ルート営業ですら上手くいかず、どんどんぼくの存在意義がなくなっていきましたね。そうなると、本当に仕事に行きたくなくなってしまって…。

営業の本を買って勉強したりと努力はしましたが、営業成績が落ちていくなかで日報にウソを書いてしまったり、社長に「この成績どうなっているの?」と訊かれても言い訳しか出てこない感じになってしまったり。結局、その後はグループ会社に商社があったのでそこで管理系の仕事をすることになりました。

管理系といっても重い荷物を運ぶのがメインの倉庫番のような仕事だったんですが、そこで物流システムの構築に関わる機会があって、そのとき取引先としてお世話になった東京の学生起業家の方からはじめてコンサルティングという言葉を聞いたんです。

コンサルティング会社の倒産がきっかけで独立

アナグラム

たしかに、それまでのお仕事だとコンサルティングという言葉を耳にする機会はあまりなさそうですね。

nakao

はい。物流システムについてぼくが「こうしたい」とかを相談すると、学生起業家の方が「これはできます、それはできません」、みたいにテキパキと整理してくれて、すごいなと。それで、「どうしてそんなに的確に物事を整理できるんですか?」と尋ねたら、「たぶんコンサルティングみたいな能力を鍛えているからです」と答えてくれて。そのとき、ぼくの頭の中で”コンサルティング”っていう言葉がピカーンって光ったんですよね。

アナグラム

横文字に弱かったんですね…

nakao

まさにそうです。何それカッコいい…って(笑)すぐコンサルティングについて調べて、そういう仕事があると知ったんですが、そのころ30代前半でこの歳でもコンサルタントになれるのかなーと思っていたところ、ちょうどハローワークに新しく立ち上がる歯医者さん専門のコンサルティング会社の求人があったんですよね。ナニコレオシャレヤン!とすぐ応募して入社しました。

アナグラム

なんという偶然。そしてすぐに入社できるのも変な話ですがそれは置いておいて、そこでコンサルティングスキルを身につけたのですか?

nakao

いえ、それが入ってみたら、もともと歯医者さんに医療道具を売っていた会社の仲良しメンバーが集まって立ち上げた会社で、コンサルティングのノウハウがまるでなく1年で倒産してしまいました。そのとき下の子が1歳くらいだったので本当に焦りましたね。

でも、これが今の仕事への大きな転機になりました。そのコンサルティング会社でお付き合いがあった会社の社長さんがインターネット広告を扱っていて、おすすめされた本を読んだところ、こんな世界があるのかと衝撃を受けました。それで、ぼくにインターネット広告を教えてくださいとお願いしたんですよ。するとあっさり「いいよ」、ってOKしてくれて。ぼくとしては新しい勤め先が見つかった!とよろこんでいたんですが、「給料は払わないよ」って言われて、さすがに「え」ってなりましたね。仕方なく個人事業主として開業届を出して独立しました。

アナグラム

ええ!?そのタイミングで独立されていたんですね。自分のお客さんはいたんですか?

nakao

いなかったです。なので、リスティング広告の運用についてその社長さんに教えていただきながら、バイト代の感覚でその会社のおこぼれをもらって稼いでいました。

リスティング広告の運用にハマりつつリスティング広告の運用だけが手段じゃないと気づく

アナグラム

なるほど。とはいえ本格的にリスティング広告運用をはじめたわけですね。

nakao

はい。個人としてのはじめてのお客さんは兄でした。なんや大変そうやから名刺代わりにウチのサイトをつくれやみたいなマウントをとってきて(笑)でも、会社の強みが活かせて競合が少なかった「包装紙印刷」というキーワードを見つけて売上を大きく伸ばしたら、兄との立場が逆転しましたね。すごく感謝されました。

アナグラム

リスティング広告運用って、売上につながりやすいから、お客さんにすごく感謝されますよね。ぼくも段ボール屋さんのリスティング広告でこれまでにない特定の業種からの大口の注文を獲得できるキーワードをみつけてから、定例会での待遇が明らかに変化したのが分岐点だった気がしてて、あのときの「ありがとう」の声の大きさはいまでも忘れられないです。

nakao

やっぱり感謝されるとうれしいですよね。生きている甲斐があるというか。それがあって、ぼくもリスティング広告運用に完全にハマってしまいました。

アナグラム

うんうん。そういった経験があるとリスティング広告にかぎらず、運用型広告はやめられないんですよね。そこから少しずつお客さんが増えていった経緯はなんですか?

nakao

はい。福井の広告代理店さんから紹介してもらったお仕事もありましたけど、お客さんが増えていったのはあるお弁当屋さんのお仕事がきっかけですね。印刷会社の営業マン時代の上司の方が、「なんかお前おもしろいことやっているらしいなと。ちょっと俺のお客さんで、お弁当屋さんの相談乗ってくれんか?」と声をかけてくれたことがあったんです。

ところが、会いに行ってみたらインターネット全然関係なくて、ちらし寿司のチラシをどうしたらいいかって相談されて。ダジャレじゃないんですけどね。その地域では毎年大きな祭りが行われるのですが、その時になると各家庭でみんな出前をとるんです。

相談内容というのは、そのときに配っているチラシの反応が年々落ちているからなんとかしたいということでした。それでチラシを見せてもらったら、何が悪いってすべてのメニューが細かい字でぎっしり詰め込んであるだけなんですよ。しかも下の方にこれまた小さく「ご注文お待ちしております」ってあって。

アナグラム

なにを注文したらいいのか迷ってしまいそうですね。お客さんは少しでも面倒だと感じると買ってくれない。

nakao

そうなんです。それじゃあということで、50メニューくらいあったのを10個まで削って、さらに勝手に人気商品ベスト3みたいなランキングをつくったら売上が3倍になったんです。それで社長が「君すごいねって。他のことでも相談していい?」って言ってくれて。そこから色々な方を紹介してもらえるようになったんです。

アナグラム

広告がまったく関係ないところで信頼を勝ち取ったんですね。結局、お客さんにとっては売上を上げるのがゴールであって手段はなんだっていいと。

nakao

そうそう。リスティング広告を筆頭にインターネット広告がスゲーなんて思っていたけど、アナログでも売上が上がればお客さんはよろこんでくれるんだと気づきました。実はそのお弁当屋さんも、インターネット広告はやりたいって言ってたんですが、弁当の出前を検索して探す人は少ないだろうからやめておきましょうと話しましたね。

アナグラム

当時だと特にお弁当の検索は少なかったでしょうね。

nakao

はい。そこの社長には広告をあつかっているのに広告を出すなと言ってくる、変な奴だと思われていました。

アナグラム

でも、それを正直に言えるってすごく大切なことですよね。目先の利益や自分のノルマのためにやりましょう、って言って、結局売上が上がらなければお互いが不幸になりますし。プロとして、相手の利益にならないのであればきちんと伝えるべきですよね。

nakao

そうですよね。まあでも、根っからの営業がポンコツというおかげでもあります(笑)営業はできないしやりたくないから、営業をせずにお客さんに選んでいただくにはどうすれば良いんだろうとずっと考えていました。

福井は昔ながらの“いけいけどんどん”的な営業が多かったので、ぼくはその逆を行こうと。自分のことばかり考えるのではなく、お客さんのことを真剣に考えるスタンスで、営業をしなくてもお客さんに選んでいただける立場を目指そうと思ったんです。

どうすればお客さんに選んでいただけるのか?

アナグラム

営業をしないでお客さんに選んでいただく。言葉では簡単ですが実際に選んでもらうのは相当むずかしいと思います。どうやって今の立場をつくっていったのですか?

nakao

大きくは2つあります。1つ目は、これは偶然なのですが、逆輸入のブランディングに成功したことですね。当時は特にかもしれませんが、WEBの集客について学ぶ機会は東京や大阪といった都会に集中していたこともあり、福井県外のセミナーに積極的に参加するようにしていたんです。

それで、少しずつセミナーで知り合った方から声をかけてもらい、県外で仕事することが増えたんです。すると逆に「お、なんか県外で活躍しているんだって?」みたいな感じで福井県内の会社さんからもお仕事のオファーが来るようになったんですよね。

アナグラム

なるほど、福井県外で活躍している人が福井県内で仕事をするようになる、それが逆輸入?

nakao

そうです。福井のような地方の人って、なぜか県外ばかり見ているので、県内で活躍しているとアピールされるより、東京や大阪のような都会でお仕事をしている方が魅力的に見えやすいんですよね。まさに逆輸入に弱い。

アナグラム

これはすごくわかります。ぼくの知り合いの地方の社長さんでも、Facebookで東京にチェックインするたびにお客さんから「東京ばっかり行きやがって」とコメント欄があふれてる方がいますが、あれは確実にブランディングになっている。要はお客さんに選んでいただくきっかけづくりが大切なんですよね。

nakao

そうなんですよ。きっかけは何だっていいと思うんですが、とにかくまずは知ってもらわなきゃはじまらない。それがぼくの場合は逆輸入のブランディングだったんですよ。

アナグラム

営業はしたくない、けど知ってもらわないとお仕事はもらえないし生きていけない。まさに必要性が生んだ生存戦略ですね。2つ目はなんですか?

nakao

2つ目は、セミナーを頑張ったことです。

以前、あるプラスチックメーカーさんに提案の機会があって、検索ボリュームが多くて獲得が見込める「グレーチング」というキーワードを見つけたので、絶対やりましょう!と提案したんですが受注できなかったことがあるんです。あとで知ったんですが、結局、その会社とずっとお付き合いがあった代理店さんがぼくの提案をそのまま使ってグレーチングというキーワードで成果を伸ばしたようで、それが本当に悔しかったんですよ。どうすれば提案をお金に換えられるか?を真剣に考えないといけないと思いました。それで、冷静に振り返ってみると、実績や知名度がないぼくが、いきなりグレーチングが当たります!なんて提案しても、お客さんは信じてくれないですよね。

だったら、自分の権威性を上げようとセミナーを開催することにしたんです。ぼくに実績や知名度があれば、グレーチングの提案だって通ったかもしれませんし。けっして権威性でマウントを取りたいわけじゃなく、「中尾さんお願いします」と言っていただける、選んでいただける立場になることでアイデアをお金に換えられるし、お客さんとの関係が円滑になると思ったんです。

アナグラム

実績とか知名度がないと、やっぱり最初は舐められますよね。先生と呼ばれる立場になると、お客さんも話を聞いてくれやすくなりますし、ちゃんとお金を払ってくれるのはあると思います。

でも、知名度がないときは、セミナーを開いても人を集めるのがむずかしいですよね。集客はどうされたんですか?

nakao

ブログで集めました。その頃ちょうどブログを書いていて、読者も少しずつ増えていたので、ブログでセミナーを開催しますと告知したら15人くらい来てくれたんです。福井の商工会議所の一室をお借りして、真夏の暑いなかスーツを着てやりましたね。それでYahoo!プロモーション広告とは、みたいなテーマで話して。最初はよくわからんぞって顔をしている人たちが少しずつ「ふーん」という顔になっていって、これは感触がいいぞ、もしかしたらお仕事にもつながるんじゃないか!?と期待していました。でも、回収したアンケートを読んだら「講師の脇汗がすごかった」ばっかりで。講師デビューはさんざんでしたね(笑)

アナグラム

あるある(笑)ぼくの時は「セミナールームの冷房がきつかった」とか、「隣の人のタイピング音がうるさかった」とか、セミナーの内容関係ないじゃん!って感じでしたね。まぁそれはどこでセミナーやっても一定数出てくるあるあるなので、今となってはどうでもいいことなんですが。

nakao

(笑)何度かやるうちに、1人だけお客さんになってくれて、僕のノウハウが評価されたんだ!とよろこんでいたらその理由が「真面目そうに見えたから」だったんですよ。なんだそれって(笑)。

アナグラム

あー、ぼくも一度「一番ウソをつかないと思ったから」という理由でお仕事をもらったことがあります。結局、そういうところを見ているんだなと思いました。

nakao

ですよね。それこそきっかけは何だっていいって話だと思います。なにを基準に選ぶかはお客さんが決めることですもんね。

お客さんが自分だけで売上を伸ばせるようなお手伝いがしたい

アナグラム

今は売上を上げる支援だけでなく、WEB集客の人材育成にも力を入れていますよね。ご自身のなかで、教育みたいなところに力を入れようと思ったきっかけがあったのでしょうか?

nakao

ぼくは3年前に生死を彷徨うほど大きな病気で倒れたことがあるのですが、そのときに広告運用はすべて自分一人でやっていたので、自分の会社のスタッフやお客さんに広告運用についてきちんと教えていなくて、みなさんに迷惑をかけてしまったんです。それで、その病気が再発して、またいつ倒れるかわからないなかで、自分一人で抱えてしまうのは良くないなと猛省しました。

ぼく一人でWEB集客のお手伝いをしていくより、お客さんの組織の中でWEB集客ができる人材を育成していく方が、お客さんにとっても自分にとっても良いと思ってはじめました。これも自分が生き残るための戦略の一つかもしれません。

アナグラム

そうだと思いました。でも、自分だけが生き残るためのものではなく、きちんとお客さんのためにもなっていますね。一人で抱え込んで爆発したらそれこそお客さんのためにならない。

nakao

はい。なので、いまは個人もしくは10人未満くらいの会社さんで、おもしろいビジネスだったり熱意がすごい方たちだったりに、ぼくが持っているすべてを教えていきたいと。広告っていうと怪訝な顔をする人はやっぱりいるんですが、広告費を投資しないことによる見えない機会損失だってあるわけなので。そういうのも含めてきちんと伝えていきたいですね。

それに、月のご広告予算が1万円とか、広告代理店に依頼しにくい商売をされている方って必ずいるじゃないですか。そういう方が自分でWEB集客できるようになれば最高だと思いますし、それがきっかけで売上が上がり、広告代理店に頼める予算感になったときは、事業主さん自体がちゃんと仕組みを知っているのでスムーズにお願いができるはずです。

アナグラム

広告代理店の善し悪しも見抜けるようになりますよね。

nakao

そうそう。WEBのことがまったくわからず、広告代理店だったりフリーランスの方だったりに丸投げだと、だまされるという言い方は語弊があるかもしれませんが、どうしても損をしてしまっている方がいるじゃないですか。

アナグラム

はい。この前会ったデザイナーの方がまさにそうで、誰に教えられたのか、これからはじめて作品をネットで売っていくのに有料のカートシステムを検討していると話してくれたんです。「いろんなところで相談する限り、やはりこれからはグローバルも視野に入れてShopifyを使おうと思います!」って言ってて、まだ1つも売れないかもしれない段階で必要かなと思って、僕は「Instagramでアップし続けるなり、BASEとか無料のがあるのでまずは売れるかどうかやってみては?」と薦めておきました。

nakao

お金をかけなくてもできること、無料で良いツールはいくらでもあるわけです。でも、知らないからそういう発想や手段ばかりに目がいってしまうんですよね。そういうことを無くしたい。自分が元気なうちに、ぼくのお客さんにはもっともっとWEBとか広告・マーケティングのことにくわしくなってもらって、お客さんが自分だけで売上を伸ばせるようになったら良いなと思っていますし、これからもこの仕事を、自分の手の届く範囲で続けていきたいなと思ってます。

アナグラム編集後記

自分が生きていくためにできることを模索し、必要性の中で編み出された生存戦略は、決して中尾さんだけが生き残るためのものではなく、中尾さん・お客さん・ユーザーにとって三方よしの戦略のように感じました。これは周りのことを大切に考えられる中尾さんならではだと思います。

※インタビューは第二回目のインタビューでお伺いした、天谷さんのお店、天膳で行われました。

広告を売っているけど、広告を打つことがお客さんのためにならないのであれば提案しない。自分が生きていくためには、自分の利益ばかり考えていてはダメで、相手の利益も考えられることが重要なんだとあらためて気づかされました。売上を上げること、事業を拡大することが目的であって、その手段は一つじゃないというのは、すべてのマーケターが意識するべき考え方ではないでしょうか。

文:秋山侑太朗
編集:阿部圭司/秋山侑太朗
写真:阿部圭司