見据えるのはスポーツシーンより日常シーン。一流アスリートの可能性を社会へ活かす仕組みを作る|株式会社TENTIAL代表 中西裕太郎さん

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オリジナルインソール「TENTIAL INSOLE」は、発売前のクラウドファンディングで目標金額の500%以上の達成率を記録。また、日常生活の変化にいち早く対応して開発された「TENTIAL MASK」は販売開始直後に即時完売、現在までの累計販売数は20万枚を突破しています。さらに最新商品の「足が履きたがるサンダル HAITE」は、1,700人以上のサポーターから累計1,200万円以上の支援を突破。スポーツ・ウェルネス領域のDtoCで存在感が高まっている企業が、テンシャル(TENTIAL)です。なぜTENTIALは数多くの一流アスリートから支持をされ、新商品が販売されるたびにアスリートと一般消費者のファンを増やしているのでしょうか?代表の中西裕太郎さんにお話を伺うと、そこには私たちの想像を超える壮大な想いがありました。

スポーツから離れたことで、普通だと思っていたことが普通ではないと気づいた

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テンシャルさんのインソール「TENTIAL INSOLE」は2019年8月の販売開始直後に購入して以来ずっと愛用していて、いまやマスクも手放せないグッズになっています!

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ただテンシャルさんの創業当時は物販ではなく、スポーツメディア「スポシル」からのスタートですよね。スポシルはどんな経緯で立ち上げたのでしょうか?

きっかけは幼少期からずっと続けていたスポーツの世界を離れ、ビジネス業界に飛び込んだ際に感じた違和感でした。

ぼくは幼少期から高校生でインターハイに出場するまで、ずっとサッカーを続けていました。しかし大学入学前に心臓に病気を患い、突然スポーツを続ける道が閉ざされてしまった。当時、遺書を書くほどに絶望をしていました。その後とある出来事を機に世の中の仕組みを学ぶことにのめり込んでいき、それまでサッカー一筋だった生活から一転、ビジネスの世界に飛び込んだんです。

社会に出て周囲の方々とコミュニケーションを取る中で、アスリートとビジネスマンには身体や健康に関して大きな情報格差があるなと、ふとした時に気づきました。

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中西さんのサッカーでのご活躍は別の記事でも拝見しました。遺書を書くほどまで感じた絶望を乗り越えられたのですね……!気づいた情報格差というのは具体的にどういうものだったのでしょうか?

自分を含めアスリートたちが普通と思ってやっていることが、ビジネスマンの方々にとっては普通ではなかったんですよね。

アスリートたちは限られた時間の中で最大限の成果を出すため、徹底的に勝つ方法を考えます。例えば競技用の備品や日々の食事内容に徹底的にこだわりますし、体や頭のケアにも気を使う。

一方で、ビジネスの場でもこれに近い考え方が当てはまると思っていて。限られた時間の中で最大限の成果を出すというのはビジネスマンでも同じですよね?でも実際はアスリートほど体のことを気にしながら仕事をしているビジネスマンは多くない。

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おっしゃる通りですね……!

アスリートたちの間では食事で糖質を摂りすぎると眠くなることはよく知られているので、ランチはそれを踏まえた食事内容にしよう、という考え方が普通です。一方で、ことオフィスにおいてはお昼休憩後に隣でウトウトしている……なんて光景、よく見かけませんか?

スポーツは精神論をもって語られることが多いですが、意外とビジネスマンも精神論で「頑張って働こう!」で考えられることが多くて。精神論も大事なんですが、適切な情報を元に仕組みを作れば解決できることも多いんじゃないかと思い、そこに情報格差を感じました。

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ぐうの音もでませんね……。その他にも格差を感じる場面はありましたか?

過去にスポーツに打ち込んでいた経験が、社会の仕組みの中で評価されにくいことも課題と感じました。

社会ではスポーツ経験より、学歴や勉強歴が重要視されることが多いですよね。ただ、アスリートである彼らが何年もかけて得た経験や知識の中には、運動以外の分野にも活かせるものがあります。

世の中のビジネスマンの可能性をもっと高めたい、アスリートの方々が持つ貴重な知見を、社会のために活かしたい。2つの想いが重なって立ち上げたのが「スポシル」です。

ユーザーの悩みにとことん向き合った末に開発されたインソール

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アスリート領域の知見をビジネスや日常の場に提供するための立ち上げだったのですね……!!メディアとしてのスポシルはどんな経緯で伸びていったのでしょうか?

当初はIT企業や商社、ベンチャー企業でバリバリと働く30代のビジネスマンをターゲットとして想定していました。しかし、実際にメディアをよく見てくれたり、記事内で紹介する商品を購入しているのは40~50代の方々だったんです。

さらにスポシルのPV数や閲覧データを分析すると、足の悩みに関連する記事のPV数や検索語句が多いことがわかりました。そこで専門スタッフがLINEで足の悩み相談にのる「足の相談所」というサービスをはじめました。すると驚くほど多くの相談が来て。世の中には足の悩みを持つ人がたくさん存在することを確信しましたね。

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データから顧客の悩みに向き合い、そこからサービスを発案される流れ、とても好きです!その後、どのようにDtoC事業に繋げていきましたか?

足の悩み相談に乗る中で、「自分の足に合う靴を履く」という考え方はある程度浸透しているものの、インソールという存在をそもそも知らない、あるいは軽視されがちということに気づきました。

中には既存のインソールでは解決が難しい足の課題を持っている人も多くいて、そこに需要がありそうだなと。解決すべき課題に対して、解決策を提示するために開発したのが「TENTIAL INSOLE」です。

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商品ありきではなく、ユーザーさんの声と悩みに向き合って開発された商品だったんですね。インソール以外の商品案もあったのでしょうか?

実はもっと売れそうな商品も考えました。足の痛みに悩む人たちに話を聞くと、みなさんサプリを買っていたんですよね。商品の収益性を優先すればサプリ開発をする選択肢もあったんです。そちらの方が圧倒的に市場規模も大きく、ECでも売りやすいと思います。

一方でインソールの市場規模は大きくないですし、Webで売りやすいか?というと決して簡単ではありません。むしろ売りにくいです。ただ、あえてそこから攻めたことも戦略の一つでした。

商品開発の基準は、アスリートが使いたいと思うかどうか

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あえての戦略、とても気になります!

ぼくたちテンシャルの強みは2つあって、社内メンバーに元アスリートが多いことと、スポシルの運営で培った現役アスリートの方々との繋がりがあることです。

利益や売りやすさの前に、アスリートからの信頼を担保しつつ、彼らが自信をもっておすすめしたくなる商品ってなんだろう?と考えたんです。結果、サプリではないなと。

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確かに、ユーザー側から見てもアスリートがおすすめするサプリより、アスリートがおすすめするインソールの方が信頼感ありますね……!実際の反響はいかがですか?

おかげさまで販売数は順調に伸びています。発売当時は売れすぎて一時的に販売を停止するほどで、発売からわずか半年で楽天ランキング1位を8冠も獲得しました。

さらに、このインソールの開発と販売によって得ることができた資産は売上や購入者との繋がりだけではありませんでした。多くの方に商品の機能を認めていただいたことで、全国のアスリート、病院、接骨院などと繋がることもできたんです。無形資産とも呼べる繋がりができたのは大きいですね。

みなさんと連携しつつ、より良い商品開発を進めていきたいと思っています。

目指すはスポーツ能力の増進ではなく、日常シーンの健康予防

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最近ではマスクやソックスにリカバリーウエア、サンダルなどの商品も開発されていらっしゃいますよね。どのような考え方で商品を開発されているのでしょうか?

2つあって、まず1つ目はスポーツシーンではなく、日常シーンをサポートする商品であること。ビジネスの現場で戦うみなさんはそれぞれ本職でいろんな挑戦をされていますよね。挑戦する彼らの日々のコンディションを高める存在でありたい。

2つ目に、ぼくたちはスポーツ能力の増進ではなく、体の治療でもなく、予防領域に特化すると決めています。いま目の前に見えている課題より5~10年後に起こり得る課題を先回りして、どれだけそれを解決できるか?がぼくたちの存在意義と思っているんです。

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日常シーンと予防領域。確かに、スポーツ増進よりも大きな市場が存在するイメージです。詳しく伺ってもよいですか?

例えば、クラウドファンディング1ヶ月間で約900万円のご支援をいただいたリカバリーウエアの「BAKUNE」という商品があります。これは、日本人の平均睡眠時間が諸外国の中で最下位であること、睡眠課題に悩む方が多いことなどを背景として開発に至りました。睡眠課題を抱えたままの状態が続くと、日中のビジネスの場でのパフォーマンス低下にも繋がりかねません。テンシャルはそういった日常の課題解決に向き合っていきたいんです。

また日本は超高齢化社会に突入しており、年々、経済成長率も下がっています。一方、医療費は右肩上がりで増えている状況ですよね。看護師や介護士の採用難や待遇改善が課題として上げられることも少なくないですが、そのための予算確保は難しい状況が続いている。

つまり今後数十年を見たときに、健康な状態でビジネスに挑戦できる人々を増やすことが必要であり、テンシャルがやるべきことかなと。2021年中にマーケットプレイスのリリースを予定しています。すごく大きな構想を言うと、そのマーケットプレイスを通じてオンライン上で格差なく、誰でも簡単に健康にアプローチできる社会にしていきたいと思っています。

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なんと……壮大な構想に驚きました。マーケットプレイスはどのような経緯で立ち上げに至ったのでしょうか?

1日24時間のうち、自社ブランドの商品で解決できる時間は多くて10%ほどでしかないと思っています。この割合を80%まで引き上げようとすると、膨大な商品を開発する必要が出てきます。自社商品だけでそこまで到達するには少なく見積もって10~20年を要する。

一方で、良い商品を作っているのに世の中にはまだまだ知られていないメーカーさんもたくさんあるんです。彼らととぼくたちの強みを組み合わせて、グローバルで勝つDtoCプラットフォームを作りにいきます。

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お話を伺うだけでワクワクしてきました……!良い商品なのに知られていないメーカーさん、多いのですか?

多いですね。商品のマーケティングに関して会社の規模を問わず多くのメーカーさんからご相談をいただくんですが、マーケティングをしっかりと内製できているメーカーさんはほとんどない印象です。

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意外な事実でした。テンシャルさんで取り扱う商品の選定基準などはありますか?

どんな商品であっても、買う前の期待を超えるような十分な機能性がないとお客さんはリピートしてくれませんよね。日常から体に気を使っている人たちやアスリートがその商品を使用したとき、心からその商品を信頼できるかどうか?が選定のポイントになっています。

ぼくたち自身がアスリートであったりスポーツに従事してきた人間だからこそ、信頼に値する商品を見極められることができる。テンシャルが作るプラットフォームはそこが強みになると思っています。

アスリートのキャリアの構造を変えたい

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ここまでお話を伺って、中西さんからアスリートの皆様への熱い想いをひしひしと感じています。

日本の労働人口が減っている中で、アスリートの中にいる原石のような方々を発掘できる会社にしたいんですよね。

過去にスポーツをやっていた人たちはみんな口を揃えて、「スポーツに打ち込んでいたあのころが一番良かった」と言うんです。いや、そうじゃないだろうと。ぼく自身がアウトローでスポーツ業界からビジネスの世界に来た人間だからこそ思うところがあるんですが、スポーツを離れたとしても、スポーツ以上に熱中できることを見つけて欲しいんですよね。

アスリートの中には、それまでスポーツに向けていたベクトルをビジネスに向けることで見違えるように成長していく人たちがたくさんいます。

スポーツは勝ち負けの世界で、今の資本主義経済もある意味勝ち負けの戦いだと思うんです。スポーツをしていた人間が日本はいかにして世界に勝つか?会社の価値をどう上げていくか?を考えられるようになると、日本はもっと良くなるのではないかなと。

理想を言えばスポーツにとことん本気で打ち込んでいた人たちに、これからの社会や日本を引っ張っていってもらいたいんです。

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きっと、そのお言葉に救われるであろう方々も少なくないような気がしています。

中西さんはアスリートの人材サービスについて学ぶため、高卒、史上最年少でリクルートに入社されたんですよね。

はい。リクルートに在籍しながらスポーツの人材ビジネスの解像度を上げて、その後、実際に体育会系人材のキャリア開発を目的としてとしたイベントをいくつも開催しました。ただ、今のスポーツ人材ビジネスの仕組みのままでは限界があることに気づいて。

スポーツの人材ビジネスはそもそもマーケットが小さく、利益も小さく、業界で働く方々にお支払いできる給料も高いとはいえない。どうしてもボランティアのような状況になってしまうんですが、それではやはり続かないんです。

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やはりそうなのですね……。以前取材させていただいた平地さんも同じことをおっしゃっていました。

この構造を変えるためにはまず、ぼく自身も会社の影響力も、もっともっと強くしなければならない。これは一つのエゴなんですが、スポーツ以外で稼いだお金をスポーツ業界に投資をするよりも、好きなスポーツを通じて稼いだ資金を還元したい想いがあります。

ただ、戦略から徹底的に考えなければ勝てないし、時間がないんですよね。スポーツ人材サービスはいつか必ずやります。

「ナイキを超える」発言の真意とは?

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想像の何倍も深い構想に衝撃を受けています……!

となると、他メディアのインタビューで拝見した「ナイキを超える」という言葉の真意はナイキのビジネスモデルではなく、そういった考えかたにある気がしました。

そうなんです。ナイキを超えることを目指している理由は、シンプルにナイキという会社が世界で一番スポーツに関して投資をして、スポーツの発展に貢献している企業と考えているからです。テンシャルではナイキを超えるくらい、スポーツや健康産業の発展に繋がるような投資と社会貢献をしたい。

外部に向けてテンシャルの話をする際、ビジネスモデル的にナイキを超えるDtoCブランドになるという意味に捉えられてしまうことがあって、ぼくもミスリードしてしまったなと思うことがあります(笑)

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ですよね!ここまでのお話を伺いながら、「ナイキを超える」の真意が伝わってきました。今後の事業展開はどのようにイメージされているのでしょうか?

短期的にはDtoC事業がメインですが、中長期的にはマーケットプレイス事業がメインになってくると思ってます。徐々に逆転してくるかなと。

上場はスタートラインとして考えていて数年後にはM&Aもしていくと思いますが、その会社の社長を自社で育ったメンバーに任せたいなと思っているんです。地頭の良さなど一定の力は必要ですが、アスリートとして限界まで追い込むという経験をしている彼らは活躍の方法を伝えることができればめちゃくちゃ強くなると思ってます。

キャリアを諦めてしまっている元アスリートの方が、別のフィールドで社会にとって価値のある職業、ポジションで物事を考えらられる可能性は十分にあると思うんです。そんな人が一人でも二人でも出てきてくれたら嬉しいですね。

アナグラム編集後記

過去に何種類ものインソールを試しては失敗をして、インソールジプシーを続けていた私。そんな私が履いた瞬間に「なんだ…これは……!?」と、既存のインソールの概念を覆される斬新な履き心地に衝撃を受けたのが、TENTIAL INSOLEとの出会いの記憶です。

以来、いつも期待を超え続けてくるテンシャルさん新商品の開発工程をずっと不思議に思っていた私なのですが、中西さんのお話をお伺いしたことで全てが繋がりました。

データドリブンを徹底しながら消費者の方々の日常生活に寄り添い、同時に、アスリートの方々の感覚も決して忘れないこと。代表の中西さん、メンバーのみなさんご自身がアスリートであるからこそ担保できるこの絶妙なバランスは、これからもテンシャルさんの圧倒的な強さを後押しされていくのだと思います。今後の展開が、いまから待ち遠しいです!

取材:永井 淳悟/森 弘繁/賀来 重宏
文 :森 弘繁
編集:永井 淳悟/賀来 重宏
写真:賀来重宏