このたび初の著書となる「デジタルマーケの成果を最大化するWebライティング」を出版された、LIGブログ編集長の「まこりーぬ」こと齊藤麻子(さいとうまこ)さん。
マーケティアでの初取材から3年。SNSの変化や生成AIの台頭により、以前よりも良質なコンテンツが見つけづらくなったと感じます。そんな中で、読まれる文章を書くにはいったいどうすれば……?
そこで今回は、アナグラム社内限定イベント「Marketeer Meet UP!」にまこりーぬさんをお招きし、じっくりお話を伺いました。
「まこりーぬの取材は、まるでコーチングのようだ」
3年前に取材させていただいたときから、まこりーぬさんの執筆記事を見る機会がますます増えましたね!
ありがたいことに、「いつかお会いしたい」と思い描いていた方に取材する機会をたくさんいただけました。ご本人から完全ノーカットでお話を聞けているので、本当に役得です(笑)
マーケティア初代編集長の阿部(アナグラム代表)もまこりーぬさんから取材を受けましたが、「自分が考えていたことが深く言語化できて、まるでコーチングを受けたあとのように気分がスッキリした」と話していましたよ。
意図してコーチングっぽいことをしているわけではないですが、取材した方からそう言われることは何度かありましたね。
「自分自身が学びを持ち帰りたい」というエゴが強いので、ちゃんと解釈できるように、踏み込んで聞くことが多いんだと思います。たとえば「頭がいい」という言葉一つでも、「私はこういうニュアンスで使うことが多いけど、あなたはどうですか?」「こう解釈しましたが合っていますか?」とナチュラルに聞いてしまいます。
専門用語であれば聞き返すことも多いですが、「頭がいい」のように簡単な言葉だと、深堀りせずに話を進めちゃいそうです……!もう一歩踏み込むことで、取材された側も「自分はこんな風に考えていたんだ」と整理できる可能性があるんですね。
いい文章には、ここでしか読めない一次情報が詰まっている
単刀直入に聞きますが、いい文章を書く上で最も大切なことは何でしょうか?
この質問、緊張しますね(笑)いい文章を書くためには、結局「書きたいことを書く」が一番大事だと感じます。これは取材記事に限らず、ノウハウ記事でもまとめ記事でも、マーケティング目的かそうでないかを差し引いても同じです。
興味がないと、Googleで調べた情報をただまとめるだけだったり、浅い質問ばかりの取材になってしまったり……「どこかで見たことのある無難な文章」になりがちです。
書き手の体験や本当に気になって深堀りしたことなど、一次情報が詰まった文章は「楽しそうに書いているな」と読者にも伝わります。コンテンツがあふれている中、そういう熱のある文章でなければ、時間を使って書く意味がないんじゃないかと思っていますね。
なるほど、「書きたいこと」なんですね。取材の場合は「相手が言いたいこと」の方が話が膨らみそうだなと、つい考えてしまいます……!
もちろん私も、取材相手の方が気持ちよく話せることを引き出せたら「やったー!」と内心ガッツポーズですよ!ただ、受け身で聞くのではなく、自分の関心とどう掛け合わせられるかを考えます。
「質問項目を事前にどこまで作るか」はライターによって違いますが、私は「相手が話せる / 話したいテーマ」と「自分が興味のあること」の円の重なりを確認するためにも、事前にしっかり調べて作りこむ派です。
取材をどれだけ楽しみにしているか、直球で伝えよ
以前まこりーぬさんの質問項目を見せていただきましたが、当日何を話せばいいのか具体的にイメージできて、取材相手の方も準備がしやすいだろうなと感じました。
そう言っていただけて嬉しいです!実は質問項目を作りこむのにはもう一つ理由があって、「あなたのことをたくさん調べてて、こんなに興味があるんです」と事前に意思表明をする目的もありますね。
興味があることの意思表明、ですか?
はい。「ここまで知っているんだな」とわかれば相手もその前提で話しやすいし、興味を持っている聞き手に話す方が熱が入るじゃないですか。事前にお渡しする質問項目の中に、参考にした記事や書籍、SNSで気になった投稿を入れて、取材当日も「今日なぜ私がここに来たのか話させてください」と最初に熱意を伝えます。
取材をどれだけ楽しみにしているか、まっすぐ伝える人って意外と少ないんですよ。いざ相手を目の前にすると緊張してしまうライターさんも多いように感じますね。
た、たしかに。テンションが上がっていることを悟られまいと平静を装ってしまいますが、取材相手の立場で考えると素直に伝えてもらった方が嬉しいし、安心して話せますね……!
伝わる文章を書く秘訣は「大胆に削る」こと
いい文章を書くためには「書きたいことを書く」が一番大事だとおっしゃっていましたが、他にも大事にしていることはありますか?
次に大事なのは、削る作業ですね。特に取材だと、「せっかく聞いたし、削るのはもったいない」「取材相手に失礼かも」と全部残したくなるんですが、読者に響くのは一つのメッセージを深く掘り下げたシャープな文章です。
レストランで考えると、わかりやすいかもしれません。たとえば、食材的に和食も中華もイタリアンも出せるとなったとき、コンセプトを決めないまま看板を掲げると「和食も中華もイタリアンも、なんでもおいしいレストラン」みたいに全部の要素を包含するしかなくなってしまう。抽象度が高すぎて「どういう気持ちでこの店の扉開けばええねん!」と思いませんか?
むしろ「中華専門店で、名物は麻婆豆腐です」と言われた方が、何に期待して扉を開けばいいのか明確ですね……!
そうなんです。記事も同じで、「どういうモチベーションでこの記事を開いてもらうか」を考えずに全部盛りにすると、抽象度が高く、響きにくいものになってしまうことが多いんですよ。
だから私は、本文を書き始める前に、まず入口となるタイトルを決めます。「この入口から、こういう読後感に向かう」と道筋を定めてから書き始めることで、どこを残してどの部分を削ればいいのか判断しやすくなるんです。
そしてタイトルを見て入ってきてくれた方に「続きを読みたい」と思ってもらうためには、リード文か一つ目の見出しで「つかみ」を入れることが重要です。曲でいうとイントロの部分ですね。
最近ではつかみがないと即スキップされてしまうので、いきなりサビから始まる曲や、結論を先に伝える動画も増えていますよね。Web記事も、それと同じでしょうか。
はい。音楽や動画だと「つかみが肝心だ」ってすっかり浸透しているのに、Web記事だとそこまで重要視されていないと思うんです。本文とは関係ない筆者の自己紹介から始まったり、最初の質問がどれも「今の業務内容を教えてください」で画一的だったり……。「知らんがな」みたいな記事、いまだにいっぱいある気がしますね。
「知らんがな」(笑)書籍の中にも「適当に自己紹介するな」という章がありましたね。
記事があまり伸びなかったときも「一人か二人には深く響いているかもしれない」と信じられる理由
書籍には他にも「ノウハウ記事はラクして量産するなかれ」「まとめ記事をこたつで作るな」などパワーワードが多くて、執筆する身としてどの言葉も胸に刺さりました……!
知り合いの経営者の方からも「まこりーぬの本は、正面からライターさんを殴りに行ってるよ」と言われてしまいました(笑)基本的に思考が体育会系なんですよね……!
Xでもうっかり「モチベーションで仕事をしない」といったマッチョな発言をしてしまうのですが、周囲に共感いただけるときもあり、嬉し恥ずかしな気持ちです。
昨日たくさんキャリアに関する質問をいただき、回答すればするほど自分がマッチョな発言をしていることに気付かされるなどしました。「モチベーションが上がらない仕事にどう向き合いますか?」「すみません、モチベーションをそもそも仕事に持ち込まないようにしており……」みたいな。反省
— Mako Saito / LIG inc. (@makosaito214) September 27, 2023
ズバッと切られる覚悟で、あえて質問させてください。たとえば書きたいものを書いた結果、反響がイマイチだったり、ターゲットが広いまとめ記事の方が読まれるなぁ……という場合はモチベーションが下がってしまいませんか?
わかりやすいTips的な記事は伸びやすいので、「やっぱりみんなこういうのが好きじゃん」って思うことはあります(笑)
読まれなかった時はもちろん寂しい気持ちもありますが、心のどこかで「でもn=1で誰かに響いてるんじゃない?」と思いながら書き続けていますね。たとえば「いまオフショア開発に改めて目を向けてほしい理由」という記事を頑張って書いたことがあって、PVは数百と全然伸びなかったんです。でも、問い合わせが来たんですよ。
ちゃんと思いをこめて書いた記事は、一人か二人には深く響いて、態度を変容するきっかけになるんだなぁと。そういう体験があるから、心のどこかで信じられるんだと思います。
普通なら「全然読まれなかった……」と目先のPV数に落ち込んでしまいそうですが、むしろこの経験はまこりーぬさんの中で「態度変容に繋がった成功体験」として残っているんですね。たくさんの記事を執筆する中で、他にも得たものがあればぜひ教えてください。
そうですね。年齢を重ねるにつれて自分自身の成功体験に引っ張られて物事を考えてしまいがちなんですけど、自分や自社の外側のやり方・考え方を知っている人は強いなと思います。
幸いにも、私には取材を通して出会った尊敬できる先輩方が社外にたくさんいるので、多方面から自分が経験していないことを教えていただけるのは本当にありがたいですね。単なるマーケの知識とかっていう次元を超えて、人生において、すごく学びになっています。
すべての言葉から、プロ意識の高さを感じるまこりーぬさん。時折、「この言葉は、以前取材した〇〇さんの受け売りなんですけどね」と謙遜される姿もありましたが、心の底から「自分自身が学びを持ち帰りたい」と思っているからこそ、必要なタイミングで即座に引き出せるんだと思います。
コンテンツがあふれる今だからこそ意識したい、いい文章を書くヒントをたくさん教えていただきました。今回のイベントレポートも、「タイトルを先に決める」「伝えるためにあえて削る」というアドバイスを実践しましたが、漕ぎ始めはやはり相当負荷がかかりますね……!まこりーぬさんのような、しなやかなライティング筋を手に入れるために、今後もトレーニングに勤しみます!
文 :砂川恵里佳
編集:阿部圭司/藤澤亮太
写真:齋藤彩可