テクニカルマーケターはみんなが「したいこと」を技術的なアプローチで実現する| 攻城団を運営する河野武さん

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EC市場の黎明期から「入荷お知らせメール」「オトナ買い」など様々な機能を考案し、常にユーザーにとってベストな手段を追及してきた河野武さん。現在は、コンサルティングで活躍しつつ「最愛戦略」のセミナーに登壇するほか、攻城団というお城を訪問した記録が残せるサイトを運営しています。ユーザーが持つ課題とその解決方法をどのようにして引き出しているのか、河野さんにお話を伺ってきました。

未来の課題を解決する「大人の趣味」

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河野さんは、多岐にわたる活動をされていると思いますが、今はどのような形でお仕事をされているのでしょうか?

日本通信販売協会などを始めとするさまざまな箇所からお声がけ頂いて「最愛戦略」についてのセミナーをしつつ、ほぼ攻城団一本でやっています。ただしご相談があればコンサルティングの仕事もやっていて、いまは徳島にある和菓子屋さんを手伝っています。

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なるほど、今は攻城団がメインなんですね。河野さんといえば主にECに主軸があったのかなと外から見ていて思っていたのですが、そこから日本全国のお城を検索できて訪問履歴が残せるサイトの攻城団を作られた理由はなんですか?

元々は2007年くらいに友人たちとした会話がきっかけです。その時にたまたま出た話題が「これからの未来」のことでした。当時は、中国への工場移転がよく言われていた時代でもあったんですけど、さらにコンピューターによってどんどん仕事を奪われることでぼくらの近未来はものすごく暇になるよ、という話をしていたんですよ。

とくにぼくらのような団塊ジュニアと呼ばれている世代は、がむしゃらに仕事をしてきたせいか、ほとんどの人は無趣味なんですよね。いきなり仕事がなくなって、老後は何もやることがないというのは多分これから大きな社会問題になるのではないかと話していました。そして、話の主題はそこから「世間のこと」「世の中のこと」ではなく「ぼくらは一体どうする?」という方向に行きました。

考えてみれば「趣味なら何でも良いか」というと、そんなわけでもないですよね。例えば、ネットやテレビゲームが好きだからといって、老後に多少の暇は潰せても、若い頃のように徹夜もできなくなりますからね。集中力も体力も落ちる。だから、リタイアした後に20年、30年とうまく付き合っていける趣味とは何だろうと。

老後に「大人の趣味」を持たないと、暇すぎて周りに迷惑かけかねないので、そういう意味で暇つぶしというのは、本当に社会貢献というか、社会問題への解決策になると思いました。ちょっと大袈裟な話になってますが、この危機感と問題意識がそもそもの出発点ですね。

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そこで考えていたアイデアは他にはどのようなものがありましたか?

まあ、「世界中のワインを全部開ける」みたいなお金がかかり過ぎる趣味にするわけにもいかないので、それこそ「将棋はどうだ?」「囲碁はどうだ?」など意見を出し合った結果、「テーマ性のある旅行」という話に落ち着きました。旅行はただそこにいくだけで完結するのではなく、その場所や歴史について予習・復習をすることで前後含めて長く楽しめると思ったのです。テーマとして最終的に残っていたのが「ロープウェイ」と「お城」でした。

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ロープウェイ!

日本各地のロープウェイって原理が同じケーブルカーも足し合わせたらけっこうな数があってですね。中には旅館専用で、その旅館に泊まっている客だけが乗れるロープウェイというレアなものもあるので、難易度がそれぞれ違っていて面白そうでした。実はそのときぼくはロープウェイの方を推したんですよ。

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マニアックすぎる! 意外ですね(笑)

ただ、みんなで投票をとったら、確かぼく以外全員がお城を選んでいたので、結果「お城」になったんですよね(笑)そのあと、さっそくお城巡りの旅に出かけようと決めました。

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ロープウェイの案もあるというのは想定外でした(笑) 河野さんはその時にお城自体には興味を持たれていたんですか?

当時はまだ全然興味も強くなく、詳しくもなくて、国宝に選ばれたお城が4つあることさえ知らなかったんですよ(現在は5つ)。あと、修理しながらも江戸時代からずっと残っているお城と、大阪城のように昭和に鉄筋コンクリートでできたものがあるということもその時に初めて聞いたくらいでした。とにかくロープウェイ以上に色々面白さがあるなと思いましたね。

最初の旅行であるお城に行ったときに、スタンプラリーをやっていたんですけど、そのスタンプ帳では100個所しか記録できなかったんです。日本にはゆうに千や万を超える城があるのに、そこに含まれていない城については自分のブログとか手帳に書くかしか記録が残せないので、二重管理になりますよね。

それはちょっと不便だなと思って、自分たちのために別に100にとらわれず、日本にある主要なお城のデータベースを作っておいて、いつどこのお城を訪問したか記録が残せるようにしました。それが攻城団の最初のバージョンでした。

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では攻城団を法人化すると決めた理由はなんですか?

それなりに便利なものができたのでほかにも使いたい人がいるんじゃないかと思って、一般に公開したんですね。するとたくさんの人に使われるようになったんですけど、そうやってデータを預かっていると責任が生まれるわけですよ。サイトに投稿されるデータは利用者のみなさんの貴重な思い出ですから、例えばぼくの事情である日いきなり見れなくなったらまずいので会社にしました。

多分普通に起業したら、市場を見てビジネスとして成り立ちそうなところに合わせるという逆算手法をとると思いますが、攻城団の場合は最初からゲームの条件が決まっていて、その中で生き延びなきゃいけない状況だったんです。儲かるか儲からないのかというビジネス的な観点では一切選んでいないけど、ビジネスとして成り立たせなければいけないという。

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一番先に課題があり、そこから生まれたプロダクトですね。

はい、それは多分ぼくのコンサル歴がそこそこ長かったので、課題を解いていくことに喜びとやり甲斐を感じていたのかもしれないし、課題からビジネスを作る方がやりやすかったのかもしれないです。

問題に立ち向かえる状況を作ることが先決

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私が初めて河野さんに会った頃にはすでにコンサルの河野さんだった記憶が強いんですが、河野さんのそういった発想やアプローチの方法は、いつの時期に養われたものですか?

自分のキャリアを振り返りながら答えを探すとそれはおそらくぼくの最初の仕事で、ニフティのコールセンターで電話サポートをやっていたころだと思います。

ちなみにもともとぼくがニフティに入りたかった理由は、大学のときにユーザーとしてパソコン通信を使って、年齢・性別・住んでいる場所がまったくわからない画面の向こうの人と仲良くなれたり、雑談したり、あるいは共同作業できたりすることによって、それまで味わったことのない面白さがあったからです。本当に性善説で生きていられるぐらいの未来を感じましたよ。

そのおもしろさを世の中に紹介したり、あるいはもっと楽しいことを創造するような仕事をやりたかったので、企画とかコミュニティを統括する部署に行きたかったんですけど、入社式当日に途中退席してそのまま椎間板ヘルニアで3か月入院することになったんです。

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入社日から3か月入院とは…

やばいですよね。そしてリハビリを終えて復帰すると、電話サポートの部署に配属されたんです。当時はインターネットバブルだったし、物凄い量の電話が鳴るわけで、そこで毎日お客さんに怒られる日々でした。

もちろん本来はみんな、なぜインターネットがつながらないのか、なぜメールが送れないのかと質問がしたいだけなんです。なのに「大変込み合っています」と延々待たされるから、お客さんがだんだんイラついてきて、ようやくオペレーターに繋がったときには全員すでにブチ切れているという状況が毎日繰り返されていました。

ここで覚えたのは、まずはお客さんを平熱に戻すことが先決だということです。これができてから初めて本題に入れます。つまり、問題を解く方法を案内するよりも、問題に立ち向かえる状況を作ることの方を優先すべきということですね。

そもそも問題解決というのは共同作業なので、お客さんを味方に回さないと何がしたいかすらわかりません。ちなみに、これはコンサルもマーケも同じです。「何に困っているか」を聞いたところで意味がなく、あるいはお客さんが「こう変えてください」といっても、それはお客さんの考えているベストな解決法であって、本当のベストではないんですよ。まず「何がしたいのか」から聞かないといけないわけです。

1日に平均60本から100本、それこそ幻聴が聞こえるくらい電話をとっていて、あらゆるパターンでお客さんと話をしましたけど、いまから考えると極上のトレーニングでした。

対面だとまだ表情など空気でわかりやすいんですが、相手の感情を声だけで読み取るとか、数回の質問で状況を把握するとか、これはぼくのキャリアにおいてはものすごく役に立っていると思います。

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想像を絶する環境だったんでしょうね。河野さん以外にも沢山の人が電話サポートをやっていたはずですけど、そのほとんどの人たちが同じような形でコンサルになったかというと、そうではないですよね。何が違っていたのでしょうか?

多分、2つあります。ぼくはコンサルになろうとしたのではなく、むしろなっちゃったのですね。基本的に人に流される人生を送ってきたので、コンサル的な役割を求められれば、コンサルをやるという形で、たまたまぼくの周りにそれを求めていた人がいたというのが一つ。

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なるほど。もう一つは?

コールセンターにいたのは2年弱で、これを毎日やっていると確かにスキルが身に付くんですけど、それを電話でテクニカルサポートをするスキルと捉えてしまうと、ただ電話サポートが上手くなるだけで終わります。

だから、ぼくはあえて「ひたすら電話をとるスキルを磨いてるんじゃない」と決めて、あらゆる問題を解決する中でメタな捉え方をしようとしました。だって、別にインターネットの接続サポートだけの話じゃなくても、コンサルでも恋愛相談でも相手を素に戻して不安を取り除きながら背中を押してあげるということ自体は一緒ですからね。

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河野さんは私の中でどうしてもECのイメージが強いんですけど、ニフティを退職した後は何をされていたのですか?このタイミングでECに入った感じでしょうか?

ニフティを辞めたあとはしばらくアルバイトをやっていましたね。今でいうフリーターとかプータローという形で。その時にビーケーワンというAmazonみたいなネットの本屋さんから、「週に1~2日アルバイトやってくれないか」と誘われました。

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どうして声がかかったんですか?

ニフティをやめた理由の1つにもなるのですけど、ぼくは当時、まんがseekという漫画専門のウィキペディアみたいな、誰でも編集できるデータベースを作ってたんですよ。ちなみに、実はこのまんがseekができたのは2000年で、ウィキペディアよりも1年早かったんですけどね。そのサイトを見てくださった方から声がかかりました。

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ちなみに、まんがseek作ったきっかけはなんですか?

その当時の彼女が、ある漫画家さんのデビュー作が読みたいんだけど、どの本に載っているのかがわからない、という話をしていて、そこから始まったんです。実は、デビュー作というのはだいたい読み切りで一冊の単行本にならないから、Amazonとかでそのタイトルを調べても出てこなかったんです。

例えば、さくらももこさんのデビュー作の「教えてやるんだありがたく思え!」は、ちびまる子ちゃんの1巻の巻末に入っているんですけど、こんなふうに作品のリストとそれが収録されているコミックスのリストを紐づけてあげるデータベースは世の中のどこにもなかったから、それを作りたかったんです。

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それも課題解決から始まったんですね。目の前にいる人の課題を。

まさにそうですね。でも、もともとぼくは漫画にそんなに詳しくないから「みんなに入れてもらった方が良くない?」と思って、器だけ作って最低限のデータだけ自分で入れてから「あとはもう分からないから埋めて」と任せた。(笑)

さっきも話したようにこの時点ではまだウィキペディアが世に出てないので、誰でも編集できる事典というか、まあぼくは「みんなでつくるデータベース」と呼んでましたが、そういう発想自体がちょっとぶっ飛んでたのかもしれません。

でもありがたいことにネット上にいる詳しい人がどんどん更新してくれていて、一番の多いときは1,000人以上の人が参加していたんです。もちろんほぼ全員会ったことない方々です。

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当時まんがseekでの収入はあったのでしょうか?

いえ、当時は広告収入であまり稼げなくて、100万ページビュー以上あったのに、アドセンスとかなかった時代なので、全然お金にならなかったんです。楽しかったですけどね。たぶん月に数万円くらいかな。自宅に専用線を引いてたので赤字でした。

一方で、ちょうどその時「お金を稼ぐこと」がぼくの中でのテーマだったから、依頼された仕事は何でもやると決めて、しばらく昼も夜もアルバイトを掛け持ちしていました。話を戻すと、そのなかのひとつが2003年に始めたビーケーワンでのマーケティングの仕事で、ぼくのECのキャリアがスタートしたんです。

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2003年ってECは「まだまだこれから」という感じでしたよね。Amazonが出てきてからちょっと経ったぐらいですね。

そうですね。日本版Amazonのスタートが2000年でしたが、すでに業界トップでした。だからAmazonにどうやって立ち向かうかが大きな課題で、いろいろやりました。まんがseekを運営してたのでSEOのノウハウも多少はあったのでそれを活かしたり、RSSをマーケティングに使ったりもしました。

RSSを企業が使っている事例は当時ほとんどありませんでした。あってもニュースやお天気情報を出すくらいだったのですが、「これで売り上げランキングを配信したらいいじゃん」と思ったんです。

ただユーザーにとってRSSってよくわからないですよね。「RSSでランキング取れますよ」とリリースを出したって大半の人は理解できないわけです。そこでちょっと人と違った発想ができたのは、RSSリーダーアプリと一緒に配布したことです。他のRSSフィードももちろん登録できるんですけど、ビーケーワンのランキングが最初からデフォルトで入っていて見れるようになっていました。だから「RSSとはなんぞや」とか登録する方法を知らなくても、インストールさえすればすぐ使えたんです。

ユーザーは技術の仕組みを理解しなくてもいい

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技術の押し売りじゃなくて、使える状態にパッケージにして届ける、という考え方は早い段階に河野さんの中で常識的に根付いてたんですね。

技術というのは、基本的に使っている側は理解しなくてもいいんです。裏側で動いていれば、それで十分。例えば、ぼくらって別にテレビがなぜ映っているかとか、車がどうやって走っているのかほとんど説明できないですけど、使えるからそれでいいじゃないですか。

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そういう風に新しい技術に対して積極的に取り組んで、自身のマーケティング活動に引き寄せて考え、プロダクトとして利用者にストレスなく提供するというのは当時ではとても珍しかったはずですよね。

当時の上司に「テクニカルマーケター」という、技術もマーケティングもわかる職種がマイクロソフトにあるということを教えてもらいました。その話を聞いた時に、ぼくが「やりたいこと」かはさておきこれは「やれること」だと思って、自分の手持ちの武器で人より評価を得られるのであれば、この掛け算じゃないかと思ったんですよね。

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よくわかります。私たちもよく社内、社外問わずに話しているんですが、運用型広告一つスキルだけでは優位性は得られにくいんですよね。そこに経営だったりテクノロジーだったり、さまざまなスキルが掛合わさっていくと、いつの間にか唯一無二の存在になれる。だから掛け算なんだって。

他にも掛け算的に出来た取り組みがあれば教えてください。

品切れの商品が入荷したり発売前の商品が購入可能になったらメールを送るという、今となっては当たり前にどこのECサイトにもあるような「入荷お知らせメール」ですね。これ、特許とっておけばよかったですよ。(笑)

とはいえ、完全にぼく独自のアイデアではなくて、ヤフオクにすでに「出品アラート」というのがあったんです。これは自分で設定したキーワードで定期的に検索して、なにか出品されていたらメールが送られてくる機能なのですが、他でも使えるなと思いました。というか、なんで誰もやってないのかと。

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よそで買われるリスクも、ユーザーが毎回「入ったかな?」とサイトに見に来る負担も減るはずですよね。

そうですね。しかも、お客さんだけでなく、実は発注担当者にとっても便利な機能でした。例えば、漫画の場合は数冊から何百冊まで仕入れ数が異なるのですが、需要が読めないから何冊入荷するかすごく悩むからです。何巻も続く作品なら、前巻の売れ行きを見れば良いけど、デビューしたての漫画家の初めての単行本はどうするか決めようがないので勘に頼る要素が実は多いんです。

いまでも本屋に行くと来月発売のコミックスの一覧が壁に貼ってあったりすると思いますが、それをそのままサイトに再現してメールを受け取るかをチェックできるようにしました。こうすることで商品ごとに需要を可視化できるし、それを発注数の参考値にもできるので、業務効率化につなげることができました。結局、売る側も買う側も全員ハッピー。

実は発注の参考になるというのは最初から考えていたことではなく、当時の同僚から聞いてはじめて認識したことなのですが、技術によって内外の課題を同時に解決できたという点には我ながら感心しました。

あとこれをつくったのはまだアルバイトのときだったと思うんですけど、まわりの同僚の方々にサポートしてもらえたのが助かりました。バイトのアイデアなんて潰されて当然みたいなところありますしね。

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この話を聞くと、やっぱり常に河野さんの活動にサービスや技術を利用している側の目線、つまり消費者側の目線が強いのが一貫していますね。

それはあるかもしれませんね。何かを考えるときに、割と早い段階で主語を「使う人」にしていますよ。その中に「自分」というのもいます。というか興味のないものを作ることができないから、スタートはだいたい自分の欲しいものから始まります。

「ペルソナ」みたいな話とは少し違うけど、自分の中に仮想人格はいるんですよね。「作ったり運営したりする自分」と、「使ったり遊んだりする自分」が区別ができていて、その二人の間で高速でディスカッションしているイメージです。

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以前インタビューした、コマースデザインの川村さんも「ジョジョの奇妙な冒険」の5部に出て来るアバッキオのスタンド能力、ムーディー・ブルースにかけて同じ話をしてます。河野さんがブックオフオンライン時代に考えた「オトナ買い」という機能もそのようにして生まれたんでしょうか?

そうですね。「オトナ買い」を考えた背景は、例えばある漫画を「全10巻まとめて読みたい!」と思った時に、それをなるだけ安く読みたいけど、全部古本屋で探し歩いて1円でも買おうとする人は実は少数派で、定価よりちょっとだけ安くなれば良いというのが大半の人の気持ちなんですよ。

だから「いま古本が不足している『歯抜け』の巻をその都度新刊で補充して、その瞬間の最安値セットを作ってあげればいいじゃん」と思いました。古本在庫のデータベースを見ながら、その穴を自動的に新品在庫で埋めつづけていくプログラムさえ書けば、時には新品7冊中古3冊だったり、時には新品4冊中古6冊だったりするけど、全巻新品で買うより多少安くなるから大満足じゃないですか。古本のビジネスはレンタルビデオみたいに、売れたものがまた戻ってくる仕組みなので、それをいかに速く回転するかが肝です。

そしてその流れを支えてあげるのがマーケターの仕事ですが、それはなにもキャッシュバックなどのキャンペーンを展開することだけじゃないんです。

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河野さんが提唱されている「最愛戦略」はこのように技術的なアプローチもあるのですね。

ぼくはかつてブログの会社にいたこともあって企業によるメディア運営には大きな可能性を感じていますし、多くの会社にとって採用しやすい選択肢でもあると思います。努力が報われやすい手法でもありますしね。

ただ、最愛戦略の実現手段ってもっと自由に発想していいんですよ。工場や倉庫の見学会とかイベントを定期的に開催するのもいいだろうし、いまだとバーチャルユーチューバーとかもおもしろいと思います。

でもまず考えてほしいのは、顧客の不満をはじめとするマーケティングの課題を技術で解決できないかということです。たとえば入荷お知らせメールとかオトナ買いとかの仕組みを開発できたら、そのシステムが24時間365日みなさんの代わりにがんばってくれるんですから。それは毎日ブログを書くのと同じかそれ以上にビジネスに貢献してくれるはずです。

多くの企業ではマーケティングの人たちが積極的に技術について学んだり採用したりすることは少ないかもしれませんが、とてももったいないことだと思います。

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最後に、最近気になることや読者に伝えたいことはありますか?

攻城団のような会員制サイトもそうだし、ECにもいえることなんですけど、「メールが届かない問題」は日毎に深刻になってると感じます。むかしはエラーメールが戻ってきて相手に届いてないことがわかったんですが、いまはGmailはじめ迷惑メールフィルタの性能がすごすぎて、送信側だけでなくお客さん側も届いたことを認識できていないという。ECでいうと出荷連絡メールや注文確認メールが届いているかどうかわからないのはかなり深刻な問題ですよね。

でも、だからといって「メールは死んだ」とは思わないです。代わりにLINEを使ったり、サイト内にメッセージ機能をつくったり、技術的な解決案はいくつかありますが、じゃあ自分たちのお客さんはLINEやってるのかを考えると、少なくとも攻城団の場合は大半のユーザーが使ってないので選べません。つまり、技術的なアプローチでさえ万能ではなくて、置かれた状況や環境によって有効性は変わります。

だから単純に答えだけを求めすぎないことが大事でしょうね。そして「メールは死んだ」に代表されるように、何かを否定したり、殺したりしないと良さを主張できないのは、やっぱり筋が悪いというか、下品というか、発言者に余裕がない証拠だと思います。

ぼくが「最愛戦略」や「アクティブサポート」の資料やスライドをほぼ全公開しているのも、賛同したり共感してくれた人に対して「前向きにパクってくれりゃいいやん」と思っているからで、じゃあそこで「最愛戦略」を広めるために安売りしている方を全員糾弾するのはさすがに違うわけですよ。あくまでも選択肢ですからね。

こういう意味で余裕のある人かつ、優しい人がインターネット業界にたくさん増えていったらいいなあと思います。

アナグラム編集後記

コールセンターからキャリアをスタートし、マーケティング、プログラマー、EC運営、コンサルなど、様々なキャリアを通し経営に至るまで類まれなるキャリアを歩んできた河野さん。これらによって培われた、多彩な着眼点とフットワークの軽さ、そしてユーザーが持つあらゆる課題をテクノロジーを使って解決していく姿はさすがの一言です。

「技術というのは、基本的に使っている側は理解しなくてもいい」という言葉に代表されるように、河野さんにとってのテクノロジーは、ユーザーが抱えた問題を解決する、もしくはもっとスマートな解決手段を導き出すためのいち手段に過ぎません。これらの姿勢は多くのマーケターの方々も参考になるのではないでしょうか。

PCからスマートフォンへのシフトであれ、AIや機械学習の進歩であれ、変化し続ける技術とその技術との付き合い方がこれからも絶えず変わっていく中で、「何ができるか?」はもちろんのこと、そもそも「何がベストなアプローチなのか?」も、それに応じて加速度的に変化していくはずです。

だからこそ、サービスを提供する側が、ユーザーにとってベストな方法を常に考え続ける、問い続けることの重要さを改めて強く意識させてくれる取材でした。

文:ヤン・フーゲンディック
編集:阿部圭司/賀来重宏
写真:賀来重宏