「やりたいこと」ではなく「求められること」をやる。食えない恐怖を原動力に爆速で躍進する、Dearsの北原孝彦さん第二弾

  • 甲信越・北陸

2018年10月、取材「世の中のマイナスをプラスに変えれば世界は変わる!|「人のためのビジネス」を推し進めるDearsの北原孝彦さん」で美容室Dearsのビジネスモデルを中心にお話を伺いました。

あれから約2年、躍進を続ける北原さんから事業意欲の原動力・経済圏作り・外的要因に左右されづらい事業設計を大公開いただきました!

達観した先回り思考と徹底した顧客志向のビジネスセンス、必見です。

オーナー1人で黒字化!外的要因に左右されづらい事業設計づくり

アナグラム

北原さんお久しぶりです!2年前の取材時には50店舗だったDears、この2年で倍以上に店舗数が伸びましたね。この2年間で心情の変化などありましたか?

kitahara

お久しぶりです!売上以外には良い意味で何も変わってないです。月末に全店舗から売上の報告チャットが届くんですけど、目を通す時間が2倍になったぐらいです。

アナグラム

なるほど、変わらず仕組み化の威力がすごそうですね。店舗がどこまで増えても北原さんの割く時間はそこまで変わらない。どうやら美容室というよりもプロダクトを作っている企業とすごく近しい構造に思えます。

kitahara

仕組みがしっかりしていれば管理に時間はかからないです。現在6名で約120店舗のマーケティング・集客を行っていて、他社の店舗展開している美容室さんと比較すると集客にかける人数はめちゃくちゃ少ないです。しかも全員リモートワークで場所も取らない。

フランチャイズのビジネスは不動産ビジネスに近いと思っています。「このエリアでやりたい」というオーナーさんのニーズに対し、加盟金をいただいてそのエリアを取ってもらい毎月ロイヤリティをいただく考え方ですね。普通の美容室を経営する感覚ではないです。

店舗からお客さんへの提供価値も、マニュアル化することで社員一人ひとりの属人性を除き、個人の能力に依存しない技術・接客を徹底してやってもらうをモットーにしているので大きくズレません。Dearsは5%のセレブが通うような最高級店舗ではないんです。ちょっと良い美容室に行きたいという20~30%の層に向けて作っています。

アナグラム

Dearsはヘアケアが強みですよね。実際、コロナ禍での影響はどうでしたか?

kitahara

もちろん多少影響はあって、緊急事態宣言が出て外出控えの月は40%ほど売り上げが減少した店舗も一部ありましたが、翌月からすぐ盛り返しました。罪悪感で一回キャンセルをするものの、次回の予約を取り直してくれるんですよね。むしろ今(2020年6月時点)は追い風です。

アナグラム

すごいですね…。要は、コロナ禍含め外的要因で売上が左右されづらい・持ちこたえられるスキームを元から整えていたのでしょうか?

kitahara

まさに。店舗を出す時点で、「最悪オーナーひとりになっても黒字化できる」のを徹底しています。

例えば渋谷店の家賃は20万円。お客さんにお支払いいただいている単価が約1.5万円でLTV(Life Time Value、顧客生涯価値)が約20万円。広告費はほぼ掛からず新規のお問い合わせが約150件で、順番待ちしていただいている状態が出来ている。キャンセルがあったとしても順番待ち状態なのでご案内するとすぐ埋まります。加えて、コロナ禍で社員が出勤しなかったとしてもオーナーが美容師免許を持っているので、オーナー1人が店舗に出れば黒字が維持される仕組みになっています。

kitahara

美容室が倒産する理由は明確で、新規のお問い合わせが全く来なくなった場合、社員の集団離職で固定費が払えなくなった場合の2つです。前者は、店舗に委ねず本部でマーケティングのプロが全店舗の集客をしています。オーナーからすると自動的にお問い合わせが入ってくる感覚でしょうね。後者は、家賃が高くないところを選んでまずはオーナー1人でオープンするようにしています。そのため、仮に社員全員が辞めたとしてもオーナーが逃げ出さない限り店舗は潰れないんです。加えて、オーナーは出資者でもあるので逃げ出すことはまずないですね。

アナグラム

フランチャイズの募集項目見ました!気になってたんですよ、オーナーになるには美容師免許保有が必須ですよね。

kitahara

そうなんです。フランチャイズのオーナーも社員も「依存」をキーワードに設計していますね。

過去に1度だけ美容師免許を持っていない方とフランチャイズ契約しようとして痛感したのは、ぼくがどれだけ大変なことを実現しようとしているのかが伝わらないんですよ。

この仕組みと集客力がこの業界においてどれだけすごいことなのか、それは業界の人間じゃないと身に染みてわからない。美容師向けにやってはじめて感謝されるのだと気付いてからは、その喜びを感じられる人としか組まないと決めました。

だから、大手企業さんから「投資するので10店舗ぐらい一気にやってほしい」とお声掛けいただいたりもしますが絶対やらないですね。なぜなら、ぼくのゴールはお金儲けではなく、感謝のサイクルを回すことなので。

あと、正直にお話すると美容師として能力が高く、自分の力で稼げる方もDearsは合わないと思います。今までお給料月30万円だった方が、フランチャイズに加盟してお給料が上がる喜びは想像以上なのですが、自ら店舗展開の資金を出せてしまうくらい元々資金力がある方は「毎月の給料が100万円を超えました!」に喜びを感じづらい。

アナグラム

前回の記事でも社員の採用について、こう仰っていましたね。

そもそも優秀な子が活躍できるフィールドは日本中にいくらでもあります。だけど、そうじゃなくて、一定の値まで行けなかった子たちが活躍できる場はあまりないんですよ。だからうちのスタッフはだいたいそういう方を採用していますよ。

素直すぎて、すごくいい子だからこそ前の職場であまりうまくいかなかった方が多いです。だけど、この子たちは繊細で接客が本当に素晴らしいので、お客さんも大変喜んでいて、次回も予約をいれていただける確率が9割を超えます。トリートメントがメインの美容室だと、こういう美容師こそがエースになります。

kitahara

美容師業界は小規模な美容室が大半で、グループ展開しているところは多くない。美容師一人あたりの生産性は、売上が月1,000万円を超える優秀なプレイヤーは数える程度で、月100万円いけばスゴイよねという評価なんです。

「Instagramのフォロワー10,000人超えです」のような自分の力で売上を作れる方は、独立したほうが間違いなく豊かになります。
一方でDearsは、「Twitter?、なんですかそれ?」「Instagramやらないです…」のような方を採用して、今まで売れていなかった状態から会社の力で月100万円稼げるようになる仕組みなんです。

実際にDearsに転職してきた方は給与が増え、社会保険にも入り、お休みもちゃんと取れるので生活は間違いなく豊かになります。すると「わたし、ずっとここで働きたいです」と言ってもらえるので人が離れない。

アナグラム

ある程度学んで外へ出ていくという社員さんはいないのですか?

kitahara

ぼくの基本スタンスはいつでも離職はOK。むしろ「自分についてくれているお客さん全員連れて独立していいよ」と話すと、「今度はフランチャイズ契約で北原さんとご一緒したいです」と言ってもらえることが多いですかね。

ただし、社員とオーナーとでは接し方が全然違います。社員には基本オアシスを提供していますが、オーナーには徹底してぼくのスタイルを守って貰うので、ある意味絶対君主のように見えているかもしれませんね。その違いを受け入れられる方であればフランチャイズの話をご提案します。直近だと、「北原さんの元だったら自分でも美容室経営の道を歩めると思う」と言ってくれた50代の社員の方が、オーナーとして店舗を持ちますね。

アナグラム

Dearsで美容師としての再スタートをきって、改めてこの環境でなら経営にチャレンジできるという考え方になるのは、すごく素敵です…!

kitahara

会社にはひとつの柱があって、その柱の周りに社員がいるべきなのですが、離職率の高い美容室は社員それぞれが柱でその周りに会社が属している。社員ごとのルールに会社が適応している状態。そうすると、社員はどんどんわがままに育ってしまい、自分のルールに当てはまらないから離れてしまう。

そういう店舗をいくつも見てきたし、自分自身も経験してきたので、社員の様子は伺うけれど社員の顔色は絶対伺わないと1店舗目から決めていました。Dearsは究極のトップダウン型組織で社員に許可は取りません。一見、冷たく感じるかもしれないですが、事実として現時点で誰も辞めていないので、このやり方も一つの正解になり得ますよね。

アナグラム

誰を幸せにするのか、という対象の違いですね。各店舗の採用も北原さんがすべて見ていますか?約120店舗と考えるとなかなか現実的に思えませんが…。

kitahara

入り口はすべて見ています。離職がないのと1店舗おおよそ5人の枠なので、店舗数が多くても採用の量はそんなに多くないんですよ。100%崩れる心配のないブロックを積んでいくだけなので、採用は最初よりも逆に楽になっていますね。

アナグラム

北原さんが秀逸なところって崩れない仕組みを作る力ですよね。しっかりとした基盤で土台ができているからこそ、崩れるという余計な心配をせずに前だけを見てチャレンジできる。いやぁ、ここから先も順調そうですね…!

kitahara

ありがとうございます。石橋を叩いて渡る性格というか、成功しやすい仕組みを作るために最初はスモールスタートで始めています。

Dearsの1店舗目も徹底的にお金を掛けないようにしました。撤退する可能性もあるので、4席入るスペースに2つしか椅子を置かない、1台20万円するシャンプー台もまずは1台だけ、家賃もすごい安い物件を選ぶなどなど。お店が繁盛し、「勝てる!」という感覚が持てた瞬間に投資すると決めていました。勝つか負けるか小さくテストしきって勝機を見出したら一気にアクセル踏む。この感覚はアフィリエイトで養われたと思っていますね。

アナグラム

なるほど。外からだと右肩上がりに見えていますが、じつはリスクを限りなく減らす・膨大な試行錯誤が支えていたと。今後も伸びていくんだろうなと予想しつつ、上場などは考えていますか?

kitahara

あんまりないですね。自分がやりたいようにやっているから成功していると思っているので、周りにあんまり言われたくないんです。

無難な道を選ぶのもひとつの手かもしれないですけど、周りから色々言われてしまうときっとぼくは普通になってしまう。今のやり方で結果を出せているのであって、その結果周りの人も喜んでくれているのかなと思っています。

もちろん相談はしますが、最後の意思決定はすべて自分が下します。そういう背景もあり、マーケティングを一緒にやっているパートナーにも「ここは北原さんがやりたい方で決めてください。多分それが正解です」って、任せてくれるんですよね。

あと、意見は出資側に聞かず顧客側に聞くようにしていますね。お客さんの声を聞いたほうが勝てる商品になるんです。お客さんみんなが同じことを言っていたら、それをやれば勝てますよね。

アナグラム

ニーズに応えるということですね!ここ最近でお客さんの声から生まれた次の構想が北原さんの中にあるのでしょうか?

kitahara

次にやろうと決めている事業は、美容室関連用品の卸(ディーラー)です。フランチャイズ向けセミナーでは約100人の方にご参加いただくのですが、残念ながら100人全員とお仕事をすることは難しいんですよね。そうなると、その時ご一緒できなかった大多数の方は露頭に迷うわけです。「なんとかコンサルティングしてもらえませんか?」と相談いただく機会は増えたものの、月100万円ほどの安くないコンサルティング費用をみんなが払えるわけではない。

なので美容室に必要な薬剤をうちの会社から取り寄せて頂ければ無料でコンサルティングしますよ、という形であれば美容室の負担も少ないしお互いWin-Winの関係にできますよね。

アナグラム

コンサルティングする相手が増えて北原さん1人で回らないような気がしますが…?

kitahara

美容室は型が決まっているから、店舗ごとのカスタマイズされた特別なコンサルティングというよりも考え方のトレースだけなんですよ。星型のお菓子を作るときに必要な星の型を渡すみたいなもの。

フランチャイズオーナー向けのグループチャットで指導しながら運営6人で全店舗のマーケティングを回し、別料金をいただけたら店舗に一番合うものをカスタマイズしますというパッケージプランで仕組み化しようとしています。

アナグラム

美容室は時代によらず変わらない型があると。

kitahara

どのくらいの料金設定で、どのぐらいのスピードで回していくのか、それに対してどのような人が働きたいと言ってくれるのかというシンプルな型です。

この本質を理解しないで美容室を経営するからうまくいかない。「自分がカットしたい技術がこうだから」とカリスマ思考過ぎて、そもそもビジネスができていない場合が往々にしてあると思っています。それだとただのひとりよがりなので、勝てないですよね。

全国に美容室は24万件あるんですよ。だったらやらないことをちゃんと決める。すべて自分の店舗で賄えるようにしない、こういう考え方を伝えています。

自らを主軸に経済圏を形成しつつ、ブランドに自分の色は出さない

アナグラム

オンラインサロン「北原メシ」・TwitterYouTubeと、北原さんはいろいろなメディアを使いこなしていますよね。狙いは美容室経営者との接点を持つことでしょうか?

kitahara

元々は認知を広めるために取り組んでいました。ただ直近でディーラー事業を動かすために美容室経営者への情報発信をしようと決めてからは、意図的にメディアでの発信を落としています。

一時期注力していたオンラインサロンは、現在5,000人規模まで育ってきました。YouTubeはチャンネル登録数を増やしたところまでは良かったのですが、本来の目的は登録数の先にある果実なんですよね。プロダクトの内容に沿っていない状態でチャンネル登録を目標にするのは違うと気づいたんです。

今年ずっと疑問に思っていたことのひとつが、「裾を広げるのか果実を取りに行くのか」ということ。今のぼくの結論は果実です。色んなメディアを通じて裾を広げたは良いものの、広げた裾に果実がなかったら食べていけないなと。だから、今後は裾を広げることはしないかもしれませんね。

アナグラム

マーケティングでもよく議論される内容ですよね。書籍を出版するタイミングでは意図的に裾を広げても良さそうですが。

kitahara

この前「弱くても最速で成長できる ズボラPDCA」を出版しましたが、10万冊売れたとしてそれが最終的に何に結びつくんだろう?と思ってしまったんですよ。

印税は入りますが、まず書籍は作り上げるまでが本当にしんどいんですよ。加えて、そこまでして部数を狙う意味もあまり見いだせなくて。だったら、自費出版でもいいから狙った方向けにニッチな本を出した方がよほど果実としてより良いものが実るのではないかと。

アナグラム

本業が利益体質ゆえの発想かもしれませんね。ご自身の経済圏、つまり影響力はこれからも広げていきたいですか?

kitahara

経済圏は広げていきたいですね。

新しい事業をスタートするとき、すでに最初に顧客が待ってくれているオーディエンスファーストの状態を作りたくて、それが作れるのは自分の経済圏でやるビジネスの特徴だと考えています。その方が事業も加速しますよね。

ただ物欲も強くなく贅沢しないのでぼく自身の生活レベルを上げることは考えていないです。恐らくフランチャイズのオーナーの方がぼくよりも贅沢してるんじゃないですかね(笑)

アナグラム

シンプルに事業意欲で突き動かされているんですね。

kitahara

事業意欲と言うか、仕組み化も、経営の方法も、新規事業の準備も全て、原動力は恐怖から逃げることだと思います。
自分という存在だけが唯一、ぼくがコントロールできるものだと思っていて誰かに依存すると離れてしまう場合もある。だから常に自分を中心に周りに経済圏をつくる戦い方じゃないと怖いんです。

さらに、自分を主軸に経済圏を置くけれど、ブランドに自分の色を出さないことが一番大事。例えぼくが何かして報道される日が来てもDearsへの被害はゼロなんですよ(笑) ぼくが接点を持っているのは美容室の経営者さんだけだから、Dearsのブランドと北原孝彦を関連付けるひとは少ないんです。

アナグラム

北原さんを見てDearsに行く人は超レアってことですよね。

kitahara

そうそう。出資者を募るときはぼくの名前を前面に押し出しますが、店舗へ集客するときは、ぼくの名前は一切出しません。世の中、何が起こるかわからないですから。

アナグラム

「恐怖」が随所に出てきますが、どのような恐怖が北原さんを駆り立てているんでしょう?

kitahara

「食えない恐怖」が最初ですね。美容師時代、初任給8万円で家賃も払えない時期がありました。シンプルに生活が厳しかった。なけなしのお金を技術代に投資して徐々に売上は上がるけれど一向に給料は上がらず。「いつになったら稼げるようになるんだろう?」と疑問が生じて、自分にお給料をあげる決定権がないとだめだなと気付いたんですよ。そこからは「決定権を他人に委ねる恐怖」も出てきました。

その分、共に苦労を重ねた人は絶対にぼくから裏切らないし、還元すると決めています。事業が潰れない限り、ぼく一人で利益を独占することは決してしません。

アナグラム

北原さんの原動力が恐怖から遠ざかるというのは意外でした。何かになりたいとか、権威が欲しいとか、経営者の方でも人によってここは違うと思うんです。

kitahara

もちろん恐怖だけでなく、仮説が仮説通りに立証されてワクワクする瞬間もありますよ。ハンターハンターでジンが語る台詞で「一番嬉しかったのは目的に辿り着いたことより仲間たちと握手した瞬間にあった」にはすごく共感出来て、運営メンバーたちと議論している瞬間はすごくワクワクします。


引用元:HUNTER×HUNTER 32巻、338話より

「お金を稼ぐ」と「好きなことをする」はいきなり掛け算しない

アナグラム

本当にやりたいことは後回しと北原さんは言われますが、北原さんご自身で実現したい夢はありますか?

kitahara

「漫才やりたい」「CD出したい」「空飛びたい」ですね。でも、誰にも求められていないので仕事ではやりません(笑)やるとしたらぼくという存在が広告費を掛けなくても自然と広がるようになったらですね。

ぼく、武道館を埋めたいんですよ。でもセミナーでは埋められない。お笑い芸人やミュージシャンであればその可能性はありますよね。そこを狙えるタイミングが来て、かつぼくがやりたいなと思えていたら赤字でいいので娯楽というカテゴリーで勝負したいと思ってます。

kitahara

「できること」と「やりたいこと」を一緒にするから難易度が上がる。まずはできることで食えるようになるのが第一歩。

デートで例えるのなら、好きな子とデートする時に「デートでかかったお金を取り返してやろう」と損得勘定で動かないでしょう?だから儲ける軸と好きなことをやる軸は分けています。

アナグラム

やりたいことに悩んでいる人の多くが、できることではなくやりたいことで稼ごうとして自ら難易度をあげているということですね。世の中「やりたいことで稼ごう」って風潮が一時期流行りましたよね。

kitahara

「やりたいことで稼ごう」と言えるのは、自分の経済圏ができている人だけなんですよ。経済圏を持っていない人が、いきなりやりたいことで稼ごうとすると大変なことになります。まず、食えるようになりましょうと。

こういう風に言うと「やりたいことをやらない人生の生き方って何が楽しいの?」と聞かれることもあるのですが、不思議なもので「できること」で貢献して、感謝を多く頂くと、最初は自分のやりたいことではなかったとしても後から使命感が芽生えるんですよ。自分がやらなければ…!みたいな。

以前、フランチャイズオーナーの奥さんから、ぼく宛に感謝のお手紙を頂いた時は感動しましたね。家庭の収入も増えてちゃんとした生活を送れるようになったので、そろそろ子どものことも考えていいでしょうか?ってぼくに聞いてくださる方もいたり(笑)

すると次第に意義も感じるようになるし、辞める理由が無くなる。

アナグラム

「まずは自分で稼げるようになってから」と言い切ってくれる人はあまり多くないからありがたいですね。成功された方って「やりたいことをやろう!」の論調が多い気がします。

kitahara

どうしても成功してからが目に入りやすいですが、積み上げの部分はやりたくないことの連続ですよ。よく、オリンピック選手の幼少期の映像を見ると泣きながら練習してますよね。そういう辛いことを経験してメダルまで登りつめているのに、そこを省こうとするのは違うなと。

アナグラム

それで言うと以前からやられている通販事業は、短期間で月商5000万円を超えているとのことで傍から見ると大成功のように見えますが、これは元から構想にあったのでしょうか?それともお客さんに欲しいと言われて後から?

kitahara

構想としてもっていて、まだ出店していない地域の顧客リストが欲しくて始めました。商品は店舗で買うとお得に購入できるようになっているので出店してすぐ店舗への送り込みができる仕組みになっているんですよね。

通販事業の売上は順調に伸びてきていて、利益率は35%、美容室の利益率は30%なので利益率でいうとそれほど高くはないですね。アフィリエイトに比べると全然残らない感覚です(笑)

アナグラム

いや、十分だと思います!美容室・通販と成功してきてこれからのチャレンジはディーラー1本ですか?

kitahara

全く新しい取り組みで言うとサイト制作事業を立ち上げました。ディーラーを動かす時にうちで企業さんのサイトを制作して管理手数料いただきながら「集客はこっちでやっちゃいますね!」と売り込むのにどうしても必要な事業だったので。

あとは美容室と構造が似ているネイルサロンやエステやまつげエクステあたりの相談もいただいているので参入予定です。

コンサルティングの見返りはディーラーと同じ仕組みで、ネイルの材料を使ってもらうので、近しい業界への横展開は簡単ですね。

アナグラム

すごいなあ。前回の取材ではいつか農業やホテルをやりたいって言ってましたよね。

kitahara

今でもやりたいと思っていますが開拓はまだできてません。自分のやりたいことでお金がかかることは最後と決めています。まずは手堅いことから攻めて資金を作る。ディーラー事業は100億近くまで見えているので、その利益で農業やホテル事業もできそうだなぁと考えています。

年に3回合宿や勉強会を全国で開催しているので、将来的にはその会場がぼく所有のホテルだと良いですね。

アナグラム

その際はぜひMarketeerの取材も北原さんのホテルでやりたいです!

アナグラム編集後記

2018年夏の終わりに初めてお会いし、今回は画面を通じてでしたが、北原さんの言葉ひとつひとつは純度が高くて変わらずすごいなぁの一言に尽きます。

「人には興味がありません。なぜなら表に出た一面しか分からないから。代わりに人が作った事業と作品には興味があります」

取材の終盤に差し掛かった頃そっと漏れ出た「目指したい人はいますか?」の解が何とも秀逸で。

「目標に”人”を据えてしまうと近づけば近づくほど差を感じてしまう。尊敬する人の創り上げた”結果”を目指せばよくて、人格をトレースする必要はないんです。美容師時代のぼくの失敗ですね」

まさにと思いました。同時に、思考を先回りする力がとてつもない。筆舌に尽くしがたいが、問いから解に至るまでの間がなんというか絶妙でどんな問いに対しても淀みなく答えてくださる。Zoom越しの90分間があっという間に過ぎたのをよく覚えています。

自信と劣等感とは、矛盾したパワー、エネルギーです。しかし、この両方を一人の心の中にバランスよく持ち続けていくということは、漫画のみならず、作品を描く人間にとって、とても大切なことだと思うのです

引用:「藤子・F・不二雄のまんが技法」

北原さんの原動力である「恐怖」は少しずつ色かたちを変えていそうでしたが、つまるところこういうことかな。そう頭によぎる取材でした。また2年後にはどこまで躍進しているのかが楽しみです。

文:高梨和歌子
編集:杉山美和/賀来重宏