本当のインフルエンサーとは、自分の投稿をリツイートしてくれる人|ビッグデータを扱うjigen_1さんの語るTwitterオーガニック論とは?

  • 関東

広告予算を大量に投下できない企業において、Twitterのオーガニック運用(通常投稿)の活用は欠かせません。今回はTwitterのオーガニック運用の必要性と取り組み方についてです。

「なぜそんなにTwitterに可能性を感じるのですか?」と聞くと「Twitterが好きだから。」と即答されたjigen1さん(@kloutter)さん(以下ジゲンさん)。今回は企業のソーシャル活用支援をするマーケティング業界では知る人ぞ知る、ジゲンさんにTwitterを中心としたソーシャルの活用方法についてお話を伺いました。お話を聞かせていただく途中から、今すぐにでもTwitterを開きたくなるような、とてもワクワクした取材でした。

jigen_1さん。広告代理店のソーシャル部門の立ち上げ、外資ソーシャル系SAAS事業の立ち上げを経て、現在ビックデータ解析事業会社に勤務

SNSに寄り添う新しい購買行動のプロセスとは?

アナグラム

ジゲンさんは現在、企業のソーシャルメディアの活用などをお手伝いされているとのことですが、具体的にどういったことをされているのでしょうか?

jigen_1

ソーシャルメディアの口コミに関するビッグデータを収集・分析して、企業の製品やサービスに関するトレンドやニーズの分析を行っています。その結果をもとに企業のソーシャルアカウントの具体的な運用方法や活用方法などのコンサルティングを行っています。私はソーシャルメディアの中でも特にTwitterを得意分野としています。

ソーシャルメディア上の口コミ数のデータを見ているとわかりますが、想像以上に口コミの数と検索数って連動しています。だから口コミ数を増やすと検索数は増える、というロジックが成り立ちます。これはもう想像以上に。

アナグラム

知らないと検索しない。逆に、検索数が増えたから口コミが増えるってことはないですよね。

jigen_1

はい。口コミがブランド名の検索数に影響を与えるという考え方は、まだまだ浸透していませんが大切な概念です。ただし、TVの影響などで口コミと検索行動の両方に影響する場合があるので、データの波形の違いを見極める必要はあります。

アナグラム

どのような場合に検索行動に影響するのでしょう?

jigen_1

例えば、AIDMAとかAISASと呼ばれる有名な購買行動のプロセスがありますよね。他にも沢山フレームワークはあります。(知らない方は検索してから見てください)だいたいAttentionから始まるのですが、ここに広告費を充分に投下できる企業はそれで良いとして、本日の命題である「中小・ベンチャー」は潤沢にマーケティング予算があるわけではない。つまり少ない投資で認知を獲得し、それを弾み車として費用対効果の良いセールスファネルを構築する必要があります。

そのためにオーガニック運用とUGC(UserGeneratedContents)は不可欠なので、中小・ベンチャー用・ソーシャルメディアの時代にあった解釈にしたものが下の図です。


U:User Generated Contents (以下、UGC)
L:いいね!(LIKE)
S:Search 1(Twitter、Instagramなど)
S:Search 2(Google、Yahoo!など)
A:Action
S:spread (拡散)

アナグラム

認知の次が「いいね!」に(笑)

jigen_1

ユーザーが商品やサービスに関心を持つと、「いいね!」しますから(笑)
さらにSNSの多くは仕様上、「いいね!」がつくと他者へ拡散したり、お勧めにレコメンドされたりします。つまり興味関心が伝播しやすい。さらに現代の購買行動では「検索行動」が2つに分かれていたりします。

アナグラム

確かに、GoogleやYahoo!で検索する前にTwitterやInstagramを利用して検索する機会は増えましたね。

jigen_1

例えば、漠然とウニが食べたい時に、あるユーザーはまずInstagramで検索をします。そしてインスタジェニックと呼ばれる見栄えの良い写真を見つけると、位置情報やハッシュタグから店名を特定し、予約や口コミを見るためにようやくGoogleやYahoo!で検索をします。

アナグラム

最近の自分の購買行動を思い起こすと、しっくりきますね。

jigen_1

店舗へ実際に訪れて、零れ落ちそうな美味しいウニの写真を撮り、位置情報とハッシュタグをつけてInstagramに投稿する。あるユーザーの購買行動は一旦ここで閉じますが、この投稿こそが、UGCとして別のユーザーへと口コミとして伝わり図のように回り続けていきます。

アナグラム

別のユーザーが、UGCの役割を果たしているそのウニの投稿を「いいね!」して、ハッシュタグを追い始める。その後、Googleで検索して予約…ああ、なるほど。

jigen_1

最後を「承認欲求をのせた拡散」にしたのは、「どうぞ見てくださいね」という情報提供くらいから、今は拡散されることを求める承認欲求が強くなったからです。「承認欲求をのせた拡散」をされた情報は「UGC」となり、SNS起点の購買行動の最初に戻ってきます。もし、この循環を作ることができれば費用対効果の高い施策となるでしょう。

アナグラム

上手く活用している企業ってありますでしょうか?

jigen_1

UGCを生成する企業なので当たり前なのですが、スナップマートは上手ですよね。UGCを集めて販売する、それを購買する企業が現れ、売ったユーザーは「スナップマートで写真売れました」ってツイートする。それを見たユーザーが自分も写真を撮ってアップする(UGC)。買う側の企業が増えれば図のようなサイクルが回り続けていく可能性があります。

企業に求められるのは適切なSNS運用とUGCが生まれやすくなる商品づくり

アナグラム

UGCは、ユーザーによって作られたコンテンツを指しますよね。ユーザー起因なので、タイミングが読みづらくコントロールがしづらいケースが多い中で、企業側はUGCをどう扱うべきでしょうか。

jigen_1

仰る通り、コントロールするのは難しいですね、まず多くのUGCが出るように「シェアされる経営」を心がけることが大事です。具体的に言うと、UGCが生まれやすくなるように、パッケージの工夫を行ったりすることは出来ますね。例えば、最近女性の間で透明なボトルのシャンプーや洗剤、化粧品が流行していますよね。これってなぜだと思いますか?


画像引用元

アナグラム

透明だと、元からあるインテリアやコーディネートを邪魔しないから…でしょうか。

jigen_1

おおよそ正解です。凝ったデザインのシャンプーやリンスって、自宅の風呂場とマッチしづらいことがありますよね。でも、透明でシンプルなら馴染みやすい。この考え方に沿うと、ユーザーにUGCとなるようなコンテンツを作ってもらうために重要な点は、敢えて「加工の余地を残すこと」だったりします。

アナグラム

なるほど。ユーザーの創造性が活きると、オリジナリティ溢れたUGCが次々と生み出されていきそうですね。となると、たしかにコントロールは難しくとも、ある程度予測して商品づくりをしていくことが企業には求められますね。

jigen_1

はい。ただ、これだけではまだ不十分です。

先述した図のうち、Twitter、Instagramなどで検索を行うフェーズがありましたよね。企業はこの段階へ注力していく必要性があります。ユーザーがSNSで検索したときのためにちゃんと投稿を準備していますか?ってことです。GoogleやYahoo!の検索結果に対して、自社のWebサイトが表示されやすくなるようにSEOを実施している企業は多いですね。これのSNS版に取組むべきでしょう。

アナグラム

SEOの定義の通り、SNS上で自社の投稿ツイートが目に入りやすいよう対策するのですね。手軽に始められる具体的な手法はありますか?

jigen_1

それはとても簡単で、まずtwitterで自社ブランドに関わるキーワード投稿を日々行うことです。ソーシャルメディアで消費者が検索行動を起こしているのに、検索してもブランド名もキーワードにも出てこないのでは最悪です。先ほどから言っているとおり、ポジティブなUGCが生まれるように工夫することも大切ですね。

アナグラム

オーガニックの施策のほか、例えば口コミを増やすためだけにコンバージョンは度外視で企業アカウントのフォロワーと口コミを増やす広告などを配信することも有り得ますよね。

jigen_1

ありますね。浸透していない考え方ではあるので、CPAガチガチの企業様からは恐れられることが多いです(笑)

ただ、ビッグデータに基づくと、企業アカウントとエンゲージメントの高いフォロワーと口コミ数を増やすことは長期的には結果が出る施策です。納得していただけた時は大変嬉しいですね。理想はこういう伸び方です。


※Google Trendsより

アナグラム

少しずつ右肩上がりに検索数が増えていますね。ご教示頂いた施策を実施することで、Twitter、Instagramでの検索 からGoogleやYahoo!での検索へ繋げていくことができますね。まずは露出を広げることで商材を知ってもらい、GoogleやYahoo!でブランド名を指名検索してもらうと。

jigen_1

ブランド名の指名検索が増えれば、売上も上がります。一般検索と指名検索ではCVRが圧倒的に違いますから。そうなれば利益が生まれて、その分広告にコストを投じていくことも出来ます。

SNSのオーガニック運用を怠ること無く、指名検索数のKPIをしっかりと定めてUGCを生み出す工夫をしていくことが大事です。

Twitterの炎上鎮火には法則がある

アナグラム

それでも炎上などを恐れてオーガニック運用を躊躇する企業もありますよね。

jigen_1

Twitterでの炎上鎮火には法則があるって知っていますか?

例えばなにかが炎上してネガティブツイートが100あったとすると、おおよそ10日後には10ツイートに、100日後に1ツイートに。つまりおおよそピーク時のツイート数÷日数だけ鎮火するのに時間がかかります。いつ炎上が鎮火するのかがある程度わかっていたら気持ちも楽になりますよね。ただ、100ツイートの次の日に対策が遅れて200ツイートに増えたら、鎮火させるのに時間がかかりますので、炎上してしまったときはいち早く対策して、ピークを終わらせることが大事です。

アナグラム

対策って例えば?

jigen_1

ちゃんと謝る(笑)もちろん非がなければきちんと抗弁すればよいのです。

あともう一つのやり方としては、ある程度ネガティブが落ち着いたタイミングで自らポジティブの波を作ること。だから自社のアカウントを強力にしておくことが大事です。ポジティブなメッセージを自分でつぶやけるので。そうするとネガティブが消えていくのが早くなり、やがて鎮火する。

アナグラム

アカウントを強力にするとはどういうことでしょう?

jigen_1

アカウントを強力にするとは、フォロワー数を増やすだけじゃなくて、エンゲージメント率をあげて、自社アカウントのファンを醸成し、いざという時の応援団を作っておくことです。実際に炎上しているときに「もう謝っているし、間違いは誰にでもあるじゃん」みたいなフォローが入り、それが大勢をしめるとネガティブ投稿は減る傾向にあります。

インフルエンサーはだれにとってのインフルエンサーなのかが重要

アナグラム

検索数を増やすためにも、炎上を鎮火するためにも口コミを拡散させることが重要とのことですが、具体的な方法はあるのでしょうか?

jigen_1

インフルエンサーの定義が大事。インフルエンサーとは誰にとってのインフルエンサーかということなのです。例えばフォロワー数100万でも自分のツイートをリツイートしてくれないのであれば自分にとってのインフルエンサーではないですよね、フォロワー30人でもいつも自分のツイートをリツイートしてくれるのであればそのユーザーは自分にとってのインフルエンサーなわけです。だから私の考えるインフルエンサーの定義は「自分の投稿をリツイートしてくれる人」なのです。

アナグラム

リツイートしてくれる人ってどんな人でしょうか?

jigen_1

まず、ソーシャルメディアにはプライベートグラフ、ソーシャルグラフ、インタレストグラフというつながり方があります。

jigen_1

プライベートグラフはLINEみたいな家族やごく親しい友人などのプライベートでのつながり、ソーシャルグラフはFacebookなど学校や職場の人間関係のようにつながり、そしてインタレストグラフは趣味などでのつながりです。

そしてTwitterのフォロー数でいうと、150くらいまでがプライベートグラフ、500くらいまではソーシャルグラフとザックリと分別します。それ以外は趣味や興味関心軸でつながるインタレストグラフといった感じになります。Twitterは興味関心のインタレストグラフが多いと思われがちですが、フォロー30フォロワー30みたいなプライベートグラフが圧倒的に多いのです。

質問ですが、例えば友達からLINEが来た時に既読スルーしますか?

アナグラム

しないですね。

jigen_1

しないですよね。Twitterでも同じで、プライベートグラフはほとんど仲が良い友人でつながっていることが多いので、「いいね!」や「リツイート」がされやすい。なので個人のアカウントを作ったのに反応が無くて寂しい思いをしている人はプライベートグラフの友達にフォローしてもらえば良いのです。

これを企業アカウントにあてはめると、当然企業と個人は友達になれませんが、フォローしてくれた個人がプライベートグラフ中心のアカウントであれば、企業のtweetをRTしてくれたときは親しい友人に届くわけですから、エンゲージメント率が高まる可能性があります。それらのプライベートグラフはチェーンのように強く繋がっていて、RTの連鎖には欠かせない役割を担っています。バズるためにはプライベートグラフのユーザーを大切にしないといけません。

じゃあ企業アカウントって例えば30フォロー、30フォロワーの「クラスのA君」みたいなプライベートグラフのアカウントをフォローし返しますか?あまりしないですよね。A君からフォローされたときにフォロー返しをせずに、いつかA君にフォローを切られてしまう。

そうするとチェーンのひとつが切れてしまうので、RTが繋がらなくなるのですね。フォロワーの数ではありません、あなたとエンゲージする人を大切にしましょう。

2020年の東京オリンピックまでは中小企業の広告が出なくなる!?

jigen_1

最後にこちらからアナグラムさんに質問したいんだけど、マスからデジタルに予算がどんどんまわってきているじゃないですか?そうすると一般的にコンバージョン単価って上がりますよね?

アナグラム

そうですね、さまざまな要因があるのを前提にしても単純にオークションの力学で考えるとクリック単価が上がるのでコンバージョン単価は上がる可能性は高いですね。

jigen_1

やはりそうですよね。ではこの話を。

ちなみにこれまで話した施策は2017年中に始める必要があります。時系列にするとわかりやすいですが、2020年の東京オリンピックまでは、2018年の平昌(ピョンチャン)オリンピックとロシアのサッカーW杯、2019年の日本でのラグビーW杯、そして2020年東京オリンピックと日本周辺で大規模なイベントが立て続けに開催されます。

jigen_1

こういった時期はマスの広告枠をイベントスポンサーとなるナショナルクライアントが占めます。スポンサーではない大手企業をはじめとした多くの企業の選択肢として、TVCMからデジタルに広告予算を投下する可能性が高まります。そうするとおそらく主にディスプレイ広告のクリック単価は高騰し、中小企業の予算ではそもそも広告が出なくなる。そういったことが2018~2020年にかけて起こるのではないかと予想しています。今見てもわかると思いますが、Twitter広告を見てみるとすでにナショナルクライアントが増えてきています。

アナグラム

クリック単価が高騰すると、コンバージョン単価が見合わなくなる可能性も高いので、そうするとオーガニックが重要になるのは間違いないですね。

jigen_1

CPAも含めて高騰すれば予算の限界が生まれ、予算規模と利益率の高い企業に有利になることは否めません。自ら手を打てるようにするために今のうちにコントローラブルなメディアを持っておくべき。ブログメディアを立ち上げてPVを伸ばすのもいいですが、今の時代はユーザーの可処分時間の取り合いなので、SNSの方が可処分時間を奪いやすい。だから企業には2017年のうちにオーガニック運用の下地を作っておくことをお勧めします。

アナグラム

2020年の東京オリンピックは頭の中にあっても2018年、2019年のイベントまで考えている方は多くなさそうですね。今のうちにそこに先行投資をしておく必要があるということですね。

jigen_1

そうですね。やばいと気付いた時には広告費を使おうにもCPAに耐えられないなんてこともありえる。1フォロー獲得するのに1000円くらいかかる時代になるかもしれません。そうするとソーシャルメディアを使ったオーガニック運用もできなくなる。中小企業は早くこのことに気づいて、きたる時にオーガニックでも売り上げ獲得できるような体制を検討しておくべきでしょう。

ジゲンさんの第二弾はこちら
 「口コミ拡散のためにはコンテンツが1番、では2番は何に?|jigen_1さんが語るツイートが拡散する仕組みとは」

ジゲンさんのtwitterアカウントはこちら→twitterアカウント

アナグラム編集後記

ジゲンさんのお話は他に類を見ないほどTwitterへの愛に溢れていました。

日本ではFacebookの利用者数が鈍化する一方で、Twitterの利用者は年々増加し続け、今や最も日本人に利用されているSNSといっても過言ではありません。しかしながらTwitterの企業活用がうまくいかない、売上に直結しない、という話は後を絶ちません。

その解決策のヒントになる活用方法を惜しげもなく披露して下さったジゲンさんは今日も複数アカウントを使いこなしながらいくつものTwitterのタイムラインを同時に眺めていることでしょう^^

好きこそものの上手なれ、ではないですが、「好き」や「好奇心」に勝るものは無いのだな、と改めて感じられる取材でした。

文:賀来重宏
編集:阿部圭司/高梨和歌子
写真:賀来重宏