広告を打たずともファンが増え続ける理由はマーケティングをしないこと!?ALL YOURS代表取締役 原 康人さんに、プロダクトの強さの秘密を聞きにいってみた

  • 関東

「着ていることすら、忘れてしまう。あなたの生活にとける服。」をコンセプトに掲げる『ALL YOURS』をご存知でしょうか。クラウドファンディングにて、前人未到の24ヶ月連続達成を成し遂げたことで注目を浴びたブランドです。

常に新しい製品を生み出し続けるスタンスや、誰もやっていないことに挑戦する原動力はどこからくるのか?ALL YOURS代表取締役 原 康人さんにお伺いしてきました。

この記事を読了したときにはALL YOURSの服屋さんという概念を越えた可能性を感じるはずです!

アナグラム

今回は取材の機会を頂きありがとうございます!ALL YOURSの服は着心地の良さはもちろん、ブランドの姿勢や世界観に共感を持ってファンとなる人が多い印象です。まずはブランドの原点について聞かせてください。

hara

ALL YOURS創業前、ぼくは大手アパレルチェーンで業務委託として働いていました。当時の役割は日本全国にある500店舗すべてで売れる商品を開発すること。

開発にあたって行ったことはシンプルで、店舗の人とコミュニケーションをとりました。お客さんと日々接している現場のスタッフがお客さんからどういう要望を聞くのか、接客する中でどんなことを感じているのか、そこに商品開発のヒントがあるはずだと思い、細かくヒアリングさせてもらいました。

服に答えはないと思います。だからこそ、ヒアリングした内容を自分なりに解釈して商品に落とし込むしかないんですよね。その結果、ヒット商品もいくつか生まれて売上も伸びたのですが、残念ながらそれだけでは会社の経営陣に満足してもらえなかったんです。

アナグラム

ヒット商品も生まれて、売上が立っているのに、ですか……?なぜでしょうか。

hara

「隣の店で売っている流行の服を、自社で扱っていないこと」が要因だったんです。

服の流行には一定のパターンがあるんです。ヨーロッパで流行っている商品や有名ブランドが発表した人気の商品が日本に入ってきて、それを各社が量産して安く売る。つまり、服を買う人の意見は反映されていません。
アパレル業界で働きながら時間差の情報商売のようなビジネスモデルに疑問を持っていました。

アナグラム

確かにその流行の広がりはよく見られる気がします……。

会社は世間の流行商品を売ることに重きを置いていたのでしょうか?

hara

そうですね。ぼくは現場からのニーズや困りごとを基に作っていたので、開発した商品が世の中のトレンドとズレてしまうことが往々にして起きてしまいます。

しかし、事実として開発した商品はヒット商品として売上が立っている。他店には売っていない唯一の商品になっているのにもかかわらず、それ以上に流行りの商品を他店よりも安く売ることに重きを置く考え方が不思議でした。誰のために服を作っているんだろう?とずっと疑問を抱えていたんです。

この疑問を持ち続けたまま仕事は続けられない、であれば自分たちで本当に必要とされる服を作ろうと思い創業したのがALL YOURSです。

アナグラム

現場のお困りごとに向き合い続けた先にあったのが、ALL YOURSさん創業だったんですね!

hara

ぼくらが作った商品は周辺のお店の類似商品より2,000〜5,000円高く売っていたのですが、他の商品の3倍売れてたんですよね。しかし、会社は周りが売ってる商品を自分たちが売ってないことが不安だったんだと思います。

”トレンド”にとらわれすぎると、どうしても似たデザインに寄ってしまいます。そうすると大量生産で安価に生産・販売できる大手メーカーに勝てるわけがない。勝つために、世の中で黒が流行っているならぼくらは「白を出そう」というのがぼくらの考え方です。

どんな服でも最後は捨てられる。プロダクトを作る責任とは

アナグラム

ALL YOURSでは服を買って終わり、ではなく、買った後のサポートが充実しているイメージです。特に「環す(まわす)」プロジェクトの「ゴミを生まない」選択肢のコピーが印象的なのですが、これも原さんの抱える”疑問”から発しているプロジェクトですか?

※「環す(まわす)」プロジェクト…オールユアーズ製品はメンテナンスを施し、サルベージ品として再販売を行い、他社製品は、企業ユニフォームのボディとしての活用を行う活動。寿命を全うしたものは、有機物分解処理を行い、陶磁器や衣類、セメントなど、次の製品の原材料として再生利用を可能にします。

hara

ぼくらは服という製品を通じてお客さんとコミュニケーションを取ることができています。だからこそ、自分たちの作った製品に責任を持たないといけない

ALL YOURSはオーダーメイドではないので万人に100%フィットするわけではありません。だからこそ、お客さん一人ひとりに満足してもらえるように、裾上げなど服の修理やカスタムに対応することがぼくらの製品に対する責任の持ち方かなと思っています。

それも突き詰めていくと「どんな服であっても、最終的に捨てられる」と気づいたんです。どんなに長持ちする服でも修理に修理を重ねた継ぎ接ぎの服を着続けてもらうのは優しさではないなと。ちゃんと、買い換えたほうがいいですよと伝えたうえで、不要になった製品は自分たちが責任をもって回収し、資源化する。それが「環す(まわす)」というプロジェクトです。

作ったものが最後には絶対にゴミになるという前提を忘れてはいけない。だから「ちゃんと回収して、100%資源に戻す」というロスゼロを目指しています。

アナグラム

着なくなった服をお下がりや、寄付でリサイクルする感覚を持っていたのですが、それらの服も最終的にはどこかでゴミになりますもんね。

hara

シンプルに「ゴミがあるよりもないほうが良いですか?」と100人に聞いたら、100人が「ないほうが良い」と答えるはずなんです。地球温暖化や社会活動とか大それたものではなく、極めて一般的な感覚だと思っています。ぼくたちはその解決方法を徹底的に掘り下げます。ぼくらの場合は、服を分解して100%資源に返すことのできる技術を持っているので、自分たちが作ったプロダクトは最後、回収して処理まで行う、ただそれだけです。

すべては、新たに商品を買ってもらうため

アナグラム

商品を買う側からするとすさまじい誠実さを感じます。しかし、ゴミを減らすためとはいえ服を回収して処理まで行うと、ALL YOURS側の負担が大きくないですか?

hara

ぼくらは決して慈善事業をやりたいわけではなく、すべて新品の商品が売れるようになるためにやってるんです

ALL YOURSは新しい商品を売ることで売上を立てている会社です。着なくなった服を回収させていただいた際は、ALL YOURSで使えるギフトカードを付与しています。なので、そのギフトカードで新しい商品を買ってもらえればいいんです。

アナグラム

なるほど、全てが環っているんですね。

hara

そうです。ぼくらが服を回収するのは、その後にALL YOURSで新しい服を買ってもらうためでもあります。もっと言うと、新しい服を買ってもらわないと回収するものもなくなり古着屋もこの世からなくなってしまいますよね。つまり、あらゆるリサイクル活動は新しいものが流通しないと成り立たないんです。ぼくはこれからも新しい服を作ることに徹底的にこだわるつもりです。

アナグラム

今までの話の点と点が線で繋がった感覚です……!

hara

よかったです。今までの回収対象はALL YOURSの服だけでしたが、2021年11月から一律300円で、自社ブランド以外の服の回収もはじめました。

参照:衣服の回収から再販売、再生利用までを行う「環す(まわす)」。オールユアーズが新たに他社製品の回収を開始

アナグラム

回収した後はどうされるんですか?

hara

回収した服の約8割はそのまま着れるものなんですよ。分解して資源にすることもできますが、理想は回収したものをそのまま使えるようにすること。だから回収したTシャツの上からプリントを入れて企業のユニフォームにしてもらうんです。もちろん、企業だけではなく学校の文化祭とかでもいいですよね。

アナグラム

既存のプリントの上から、ロゴをプリントするんですか…!?ワイルドすぎる…!


既存プリントの上からロゴをプリントしているTシャツ


色んなブランドのTシャツたち

hara

実はTシャツの回収コストってすごく低いんです。自分の家のクローゼットを想像してほしいのですが、着なくなったTシャツ持ってきてと言われたら、5枚くらい持ってこられませんか?

アナグラム

持っていけますね(笑)学生の時の文化祭で2日しか着なかったTシャツが毎年分、クローゼットの奥底で眠っています……。

hara

ですよね。このプロジェクトを企業の福利厚生として導入してもらい、ぼくらが販売を行う。そして、そのTシャツも何ヶ月か経ってボロボロになったら責任持って回収する。その時に、また自宅に眠っているいらないTシャツを持ってきてもらえばこのサイクルがずっと続きますよね。

アナグラム

最初はワイルドだな、と思ったのですが、そのTシャツの歴史が見えて逆に面白いです。世代交代のような面白みがありますね。

まだまだできることってたくさんあるんですね!

商品が強ければマーケティングはいらん!

アナグラム

実際にALL YOURSの店舗で商品を購入させていただいた際、接客がとても心地よかったことを覚えています。

店舗での試着というリアルな体験をとても大事にされているように感じているのですが、今後の店舗のあり方についてどのように考えていますか?

hara

おっしゃるとおり、試着体験は大切ですし、今後もリアルな場所は必要だと思ってます。しかしこの池尻大橋の店舗だけにこだわる必要はないと思っていて、別の人が別の場所でやります!と言ってくれたらその人に全部任せればいいとさえ思っています。

アナグラム

ファンがファンを作るみたいなイメージですか…?

hara

そんなイメージですね。新しいフランチャイズの形になると思っています。今のフランチャイズの仕組みはどこかで誰かにリスクが生じてしまいますよね。何らかの方法でフランチャイズをやる人も依頼する側も負担なく、売上が上がる仕組みを作りたいなと。

ここに行けば試着ができるよという場所があればいいので、その隣で散髪屋をやってくれててもいいんですよ(笑)

アナグラム

すごく面白いですね。「類は友を呼ぶ」のようにALL YOURSが好きな人におすすめされたらより一層ALL YOURSのことを好きになりそうです。安心感もありますよね。

hara

「ファンになる」のような定性的な感覚は、ブランドや店舗側ではコントロールできないことだと思っています。最初は色々試行錯誤しましたが、今は細かいコミュニケーションやマーケティングはいらないという結論に至りました。

プロダクトが強ければ押し売りする必要もないし、ブランド側でコミュニティを作らずともプロダクトの評判は拡がっていきます。だから、ぼくらはプロダクトを介してコミニケーションを取るべきだなと

常にフルオープンでいなければならない。これからのブランドという在り方

アナグラム

潔さを感じる力強い言葉ですね…!経営者として原さんは事業の数字を見られている思うのですが、追われている指標はあるのでしょうか?

hara

今、最も追っているのはSNS(Instagram・Twitter)で発生したUGC(User Generated Contentの略。ユーザーが投稿や作成をしたコンテンツを指す)数です。

ALL YOURSに関連する投稿があると、Slackに通知がいくように仕組みを作っていていますね。社内にSNS担当がいるので、投稿していただいた内容にすぐに反応ができるんです。

アナグラム

以前、TwitterでALL YOURS製品関連のツイートした後すぐにリプライ頂いた記憶があります。公式アカウントがツイートを拾ってくれたり、いいねをしてくれると、すごく親近感がわきますよね。

UGCが発生するということは、プロダクトの強さや、好きを共有したいという熱心なファンが新たなファンを作っていくのですね。ここに至るまで様々な苦労もあったかと思いますが、どのようなことがありましたか?

hara

今でもずっと苦しいです(笑)

1番は「思ったよりもみんな服を買わないなぁ」という点ですかね。

ぼくらの商品は製品寿命が長いので、3個も4個も新しい商品はいらないんです。そうすると、1つの商品を買ってくれたお客さんが次に買ってくれるのは3年後かもしれないし、5年後かもしれない。それだとさすがに期間が長過ぎるので新しい商品を買ってもらうための入り口を広げる必要があって、そのための1つが回収プロジェクトです。

アナグラム

確かに、1つ1つの商品の物持ちが良すぎて、次に次に、という感覚は無いですね。

hara

それがぼくの悩みですね(笑)だからこそ、他ブランドの回収も始めました。。ALL YOURSの商品を持っていなくても、着なくなった服10着をぼくらに送ったらギフトカードに変わるんです。それをきっかけにALL YOURSの商品を買ってもらえるといいなと。

もちろん、ギフトカードを送ったからといって全員が商品を買ってくれるとは思っていなくて、「ALL YOURSに着なくなった服を送ったらギフトカードを無料でゲットできた!」というUGCが上がればそれはそれで良しです。だから、ぼくらはいつでも、フルオープンでいなければならないと思っています。

アナグラム

ALLYOURSさんの姿勢がそのままサービスに落とし込まれている印象で、すごいです!

一方で例えばですが、ギフトカード目的で興味を持ってくれたお客さんが商品を買ってくれるまでの期間は、すぐかもしれないし、数年後になるかもしれないですよね。その間のコミュニケーション設計も考えられているんですか…?

hara

いえ、全く。メルマガはやっていますが、お客さん一人ひとりに「〇〇さん、こんばんは。ご機嫌いかがですか」みたいなところまではやってないですよ。

ただ、どのブランドよりも連絡しやすい状態にはなってると思います。Twitterでリプライが返ってくるだけでも連絡しやすいと思ってもらえるだろうし。ホームページにはチャットボット機能がついてて、困ったらチャットボットに相談をしてもらえれば解決できる仕組みになっています。チャットボット返信だけでは対応しきれない部分は社員が手動で返信対応をしておりお客さんの声にはなにかしらちゃんと返答する仕組みになってます。

どれだけ細かく設計したとしても、連絡してくる人はするし、してこない人はしてこないんですよ

アナグラム

必要以上にお客さんを追いかけるより、オンラインでもリアル店舗でも常に「私たちここにいます」という状態を作っておくことが大事なんですね。

hara

ぼくたちはちょうど今、新しいブランドとしての在り方を改めて決めていかなければならないフェーズに来ています。シンプルに服だけ売る形ではなく、新しいものを生み出す会社であり、問題を解決する会社でありたい。究極、ぼくらの商品を大型スーパーの衣料品売り場で売ってもらってもいいと思っています。

具体例を挙げると、ユニクロさんのヒートテックの人気を受けて各社があたたかいインナーを作り出したようなイメージです。ALLYOURSの服が持つこだわりの機能を、アパレル業界の一つのスタンダードにしていきたいと思ってます。

アナグラム

まさにこれからがALL YOURSの新章になっていくのですね…!ファンとしてはとても楽しみです!

hara

ぼく自身、新しいものを作らなければという義務感を感じているので、これからも世の中の人たちが助かるような製品開発を続けていくつもりです。

創業から6年経ち、これまでやってきたことの点と点が線でつながった感覚があります。ここまできてようやく、従来のアパレル業界の枠組みに囚われる必要は全くないなと思えるようになりましたね。

アナグラム編集後記

よく考えると当たり前のことでも、結局そのままになってしまっていることも多い世の中、原さんの徹底した物事への深堀りの姿勢から出てくるお話は、1つひとつが鈍器で頭を叩かれたかのように終始目から鱗がおちるインタビューでした。取材の帰り道は自分たちがどれほど業界に毒されていたのか…という反省と覚醒が両立する清々しい感覚でした。

インタビュー前はいろいろなことをやられているブランドだなという印象だったのですが、お話を伺う中で1つひとつの事柄が線で繋がり一周する感覚をここまで読んで頂いたあなたと共有できたら嬉しいなと思います。

これからの、新章ALL YOURSが楽しみで仕方なくなるインタビューでした!!原さん、ありがとうございました!!

執筆:杉山美和
編集:森弘繁/賀来重宏
写真:森 弘繁