インターネットはお客さまと店舗の距離をゼロにする!ネットショップとリアル店舗ビジネスの垣根を超えてビジネスを加速させる、コメ兵の藤原義昭さん

  • 関東

1999年に時計、ジュエリーなどのブランドリユース業界でトップを走るコメ兵に入社し、2000年にネットショップの担当を経て、現在は執行役員としてWeb事業とリアル店舗の両方を統括している藤原義昭さん。変わりつつある顧客の行動と技術の進歩の中で、ネットショップと実店舗を跨いだオムニチャネルのあり方や、デジタルトランスフォーメーションから、AI時代における人材のあり方について話を伺いました。

マーケティングとは体験を作ること

アナグラム

藤原さんが新卒でコメ兵に入社されて20年(2019年7月時点)になりますね。現在はWebに限らずオフラインのマーケティングまで統括している執行役員として活躍されていますが、コメ兵として初めてのWeb事業に携わるようになった経緯を聞かせてください。

komehyo藤原

Web事業を担当するようになったのはどちらかというと突然の出来事でした。ぼくは新卒でコメ兵に入社したんですが、2000年くらいにネットショップを立ち上げようとした時に、「誰かパソコンできる人いないか?」という募集があって、なんとなくチャンスだなと感じたのでとりあえず手を挙げただけです。当時パソコン自体持ってなかったですけど(笑)

アナグラム

でたっ(笑)

komehyo藤原

人間って基本的にYESと言われたらNOと言いたくなるじゃないですか。それと一緒で相手からダメ元で「できないでしょう」と聞かれたら反発して「いえ、できますよ」と言っちゃいましたね。でもなんか大丈夫だろうという根拠のない確信があってその日に会社の近くの電気屋さんでパソコン買って帰りました。

アナグラム

凄まじい行動力…インターネット黎明期によくある話ですよね。そこからインターネットについて勉強されたんですか?

komehyo藤原

厳密には勉強というより、実際にネットショップを触りながら覚えていきましたね。

当時、会社自体もちょっと今とは体制が違いました。「時計」「ジュエリー」「着物」など縦割り型に事業部ができていて、その中にまず「マーケティング」なんていう言葉はなく、集客は各事業部内で完結していました。

最初は私がジュエリーの事業部に所属していて、丁度会社が「人事」「経理」「マーケティング」などの専門領域を個々の部署にまとめた機能別組織になる転換期に、ネットショップの規模も拡大していたので、それまで個別にあった7商材のサイトを統合。

そこからネットショップを中心にしてマーケティングを少しづつやるようになり、やっぱり高額商品を売るので、お客さまがWebでみて気になった商品も実際にお店へ見にきてもらう、という流れを作りたかったんです。

アナグラム

コメ兵さんのサイトを何回か利用させて頂いた事があります。最初は購入した品物は直接家に届くかとばかり思っていていたのですが、実際は当時大阪の店舗にあった品物を新宿の店舗に取り寄せて、まず実物を見せてもらう流れを作っているのが当時とても衝撃的でした。あぁ、これなら安心だなと心底思いましたね。

komehyo藤原

ありがとうございます。ネット経由で最寄りのお店に取り寄せして、実際にお客さま自身の目で見て確認してから購入されるパターンが実は結構多くて、全体の20%ぐらいですね。2007年頃、はじめてその方法でご購入されたお客さまはビックリされていましたが、よく考えれば、それって本当は普通じゃないですか?数十万円もの高級品はまず見て確かめないと不安じゃないですか。

私たちの強みって、店頭のスタッフでありスタッフの持っている知識量であることは分かっているので、お客さまとコミュニケーションがとれる環境ならやはり売れるんですよ。だからどうやって売るかというよりも、まずは接客をする機会を作ることがネットショップの運営においては重要だと思います。

アナグラム

そういったストーリーを作る際に意識されていることはありますか?

komehyo藤原

ぼくの解釈では、マーケティングとは体験を作ることなので、お客さまが望むことをインターネットで具現化するとどういう形が良いのかなと常に考えています。とにかく「不便さ」を感じさせないことや、店舗に行って「良かったな」という体験を作るところを非常に大切にしています。そして、それは店舗に商品について豊富な知識をもつスタッフがいないと成り立たないと思います。

例えば、ジェイムス・ボンドに憧れてロレックスのサブマリーナにNATOベルトを付けたいというお客さまが世の中に一定数いますけど、そのニーズに気づいていない人が予めNATOベルトを用意しますか?しないですよね。

つまり商品やニーズについて知っているか知らないかで、対応スピードも提供できるサービスの質も大きな差が生まれます。特に弊社は豊富な知識を有するお客さまが多いビジネスだからこそ心掛けているポイントです。お客さまの属性に合わせて、ピンポイントで丁寧なフォローができるようにスタッフを意図的に配置しています。

アナグラム

はい、正にKOMEHYO新宿店でサブマリーナにNATOベルトを付けて頂いた私が通ります。その節は大変ありがとうございました。メタルバンドを外してほしい、とオーダーしたときに既にNATOベルトを装着することまで読まれている感があったのを鮮明に覚えています。

参照:ロレックスのサブマリーナにNATOベルトの詳細

ジェイムス・ボンドのモデルって本来はオメガのシーマスターにNATOベルトなんですよね。なので、サブマリーナで気づかれて即座に動かれるのって凄い知識量と対応力だなと思いました。

オンラインとオフラインが協力して取り組める体制

アナグラム

リアル店舗とネットショップを両方持つと、それぞれ担当部署も違えば、KPIも違ったりして、色んなところが断絶しているケースって実は未だに非常に多いと思っています。

我々のクライアントでも店舗を全国に持ちながらネットショップを展開している企業が多くあるのですが、ほとんどのケースで店舗側とオンライン側の部署が分断されてしまっていて、なかなか相容れないんですよね。

例えば在庫問題などが顕著で、売れる商品はどちらの部署も欲しがるのでお願いされれば融通はするけど、心の底からは融通したいとはあまり思ってない。店舗側からすれば予測できる売上をオンライン側に奪われてしまう感覚なんだと思います。法人の目線でみればどちらで売れてもいいわけですが、頭ではわかっていても、感情でハラオチするまで分かり合えてない、といいますか。そのあたりをコメ兵さんはどのように解決されているのかを是非知りたいのですが。

komehyo藤原

ある程度避けられないことですね。

ちなみに弊社の商品は大半が中古なので倉庫に在庫は持っておらず、各店舗を倉庫に見立てて、そこから発送しています。注文すればお店から直接届けてくれるアリババのスーパーみたいな感じです。お客さまがネットショップで購入される時に店舗の在庫がなくなってしまうので、店舗側が困惑することもたまにあります。

アナグラム

確かに感情的な部分は大いにありそうですね。ただ、感情的な部分だけだと仕事は成り立たないですし。それに付随する問題だと思うのですが、オンライン側と店舗側、それぞれの評価制度はどのように設定されているんですか?実はこの問題はオンライン側と店舗側との評価制度が起因していると思ってまして。

komehyo藤原

はい、おっしゃるとおりだと思います。例えば、弊社では店舗から売れた場合は店舗側の成績になりますが、ネットショップ経由で売れたとしても売れた商品の在庫を持っていた店舗にもネットショップ側のメンバーにも両方加点される仕組みを設けてます。

それぞれの部署、店舗が目標値を決めてその目標に対しての達成具合で評価は発生するので、その評価は分けてもいいですよね。「去年と比べてどうでしたか」とか「この店舗は予算いくらでしたか」という基準を持ち、会社全体で目標を達成すれば良いだけなので。

アナグラム

なるほど!理想的な気がしました。ただ私たちもここ数年(※1)いろいろ動いていたのですが、極めてレアケースだと思います。店舗側とネットショップ側が同じ目標を持って動いているのは当然理想ですが、組織によっては店舗側とネットショップ側との壁があり、社歴があればあるほどその溝は顕著な傾向があります。

そういったトライをコンサルティングの側面から支えていた経験から、経営層から「やるぞ」という半ば大号令に近い形で決めないと組織は動かないというのを確信してます。現場がどれだけ上に提案しても経営層の承認が得られない限り変わることはなかなかない。

いえ、もちろん「役員を味方につけろ」、ですとか、「経営者に伝わる言語(数字)で提案しろ」だとか方法論はあると思いますが、それでもボトムアップ型の会社は特にきついなという印象があります。

(※1)この日のマーケティア取材班は店舗を持つ企業様を中心にお手伝いしているメンバーでした。

komehyo藤原

私宛に店舗を持つ企業様から多くの相談を受けますが、それは間違いないです。弊社の場合は全部私が仕切りましたね。評価制度は常にトップダウンです。

アナグラム

理想的だなと思います。そうしない限りオンラインとオフラインが綺麗に繋がらないですものね。

お客さまとサービスの距離をゼロにすること

アナグラム

日常の細かいところまでデジタル化は浸透しているだけではなく、購買行動にも大きな影響を及ぼしています。ネット通販市場の凄まじい成長を見れば一目瞭然です。企業も例外ではないですね。むしろいち早くその動きに的確に反応しないと、どんどんついていけなくなるかもしれません。

コメ兵さんでは最近デジタルトランスフォーメーション(※2)に力を入れているように見受けられるのですが、小売業の企業がどうやってデジタルトランスフォーメーションを成し遂げるかは今、大きな課題になっています。デジタル化にあたって何か気づきはありましたか?

(※2)デジタルトランスフォーメーション(DX)とは:
ITの進化により、デジタル技術があらゆる領域に浸透し人の生活に大きな変化をもたらしている現象のことです。企業側にも、こうした変化に対応できるように組織、集客、人材などの分野における変化・改革が求められ、近年のビジネス界に重大な意義を持つテーマです。

komehyo藤原

私個人としては、お店をあまり広くしない方がいいと最近思ってます。昔は面積が足りないと商品が置けないのでお店の広さはとても重要でした。しかし、インターネット上では商品を沢山載せることができるので、実店舗の面積をわざわざ設ける必要はなくなります。

更に、インターネットはお客さまと店舗の距離をゼロにするものだと考えていて、お客さまはネットショップで商品を確認されてからご来店されるので、どちらかといえばお店って体験の方が重要になってきていますね。

アナグラム

そこで良い体験をすれば、次はまた行きたくなりますし。

komehyo藤原

その通りです。顧客満足度を高めるにあたって、まず2つの満足があることを知るのが大事です。 1つは機能的な満足で、2つ目は感情的な満足です。機能的な満足は「他より1万円安い」とか「他社より早く届いた」とかいうことですけど、感情的な満足は接客して「あ、この人から買おう!」 と思えるようになる瞬間だと思います。

機能的満足だけ与えていくと結局お客さまが1万円安いとこに流れてしまうので、リピートの期待も薄れますよね。だから、如何に感情的な満足を与え続けられるかに注意すべきです。

そして感情的な満足は「体験」じゃないと与えることができないんですね。プライシングだけ上下させてもあまり面白くないですし、お客さまがどれだけ楽しむかに目を向けない限り、「物」だけに目が行ってしまうのでもったいないです。

ただ、そこには課題があります。お客さまの「感情」は大事なんですけど、デジタルトランスフォーメーションの中で気を付けないといけないのは、お客さまの生活と環境が明らかに変わってきていることです。お店だけが新しい商品を発見する場ではなくなっていて、その役割は今インターネットが果たしてきていると言えます。

日本の小売業は本来、お客さまを喜ばせるのが得意だと思いますけど、逆にそこにしか集中してこなかったように感じます。昔からある強みを緩めずに、お客さまの行動を観察し、今後どうやってコミュニケーションを合わせればお店に来てもらえるかを課題として考え続ける必要があります。昔のようにお店さえあれば来店いただけるということはなくなっているので。

アナグラム

社内はどうでしょうか?コメ兵さんがデジタル化を進める中で、新しい技術やシステムを導入する際、従来のやり方とどうのように置き換えているのか教えてください。時間をかけて徐々に替わるイメージですか?それとも一気に替える感じでしょうか?

komehyo藤原

一気に換えるしかないですね。お客さまとデジタルで接することがミッションなら、それを実現するための社内システムをなるべく早くデジタルに置き換えていくのがカギですね。

アナグラム

新しい技術を役員会で提案するときの反応はどうでしたか?反対されたりしましたか?

komehyo藤原

あっさり通る場合が多いです。「やります」と言いきってます(笑)真面目な話、今後ビジネスを行う上でデジタルにならないことの方が少ないですよね?その流れは不可逆なことだし、であるとすれば別に今からやればいいわけです。

アナグラム

思った以上にスムーズですね。普通の企業さんだともっと手前のところで話が進まないという話をよく聞くので、最初はコメ兵さんもデジタルトランスフォーメーションでもっと苦戦しているのかなと想像していたんですけど、本当にいい意味で期待を裏切られています。

会社全体でお客さまの今後の購買行動にしっかり目を向けていることが伝わりますね。ちなみに、データを重視し始めたのは2000年あたりにネットショップを始めた頃からですか?

komehyo藤原

お客さまのデータを取り始めたきっかけは、コメ兵のメンバーズカードですね。メンバーズカードからお客さまの購買データなどをとり始めて、CRMを回していました。

その後、2010年頃にそれまで分断して計測した実店舗とECのデータをマージして、、それでももちろん100%統合できなところもあるので、残りは仮説で補っています。

アナグラム

データの取り扱いはちょっとずつしか変わっていないですか?

komehyo藤原

データは基本的に重要なポイントをしっかり抑えて、お客さまがどういう風に動いているか丁寧に見ています。例えば、テレビCMをやったあと来店数がどう動くかをみたりとか。仮に施策が上手くいかなかった場合も、原因を探って、そこに対して打開策を講じつつPDCAを回している感じです。

それに加えて、数字で測れないデータも分析しています。店舗のスタッフはお客さまと直接話している一方で、ぼくらマーケティングのチームは直接触れあう機会が少ないので実際に店舗に出向いてお客さまのインタビューをさせてもらうことがあるんですよ。そこにはやっぱりすごい気づきがあります。あるお客さまが自宅から最寄りの店舗には行かずに、少し離れた店舗に行く理由は単純に「最寄りの店舗の地域が気に入らないから」とかまったくコントロールできない理由だったりして。

アナグラム

面白いですねぇ!こういう感情的なフィードバックが結構貴重な情報ですよね。場合によっては数字のデータを見るよりも勉強になることがあるかもしれないです。

AIの時代に必要なスキルはプロジェクトマネジメント

アナグラム

話がちょっと変わりますが、コメ兵さんではAIに投資していると聞きましたが、活用領域はどの辺でしょうか?鑑定や品質管理ですか?

参考:コメ兵が買取業務で「AI真贋」の実用化をスタート、鑑定精度は97%

komehyo藤原

実は現在真贋判定用にAIを開発していて、ローンチ間近ですね。(2019年7月時点)例えば、ルイヴィトンはもうほぼ98%の確率で鑑定できています。

アナグラム

おーっ!これによって鑑定の仕事をしていた人の仕事内容はかわるのでしょうか?

komehyo藤原

厳密に言うと鑑定という業務の中の一部だけAIで代替するようになります。お客さまから商品を預かって査定結果をお伝えするまでの時間があります。5~10分かかってしまう査定時間ですら忙しいお客さまの負担になるので、その負担をいかに減らすことができるかがAIの使いどころです。

AIに鑑定業務をシフトする中で、今まで鑑定していた担当者はお客さまとのコミュニケ―ションにシフトして行くイメージですね。とはいえ、鑑定の仕事がなくなるという1か0の話ではなくて。重要なところは大きくするようなイメージでしょうか。

アナグラム

だからこそ、接客を更に強化することにしているのですね。巷でよく謳われている「AIが人の仕事を奪う」を仮に鵜吞みにしても、AIがカバーできない領域は恐らく「接客」だと言えますね。完全に人間の得意分野じゃないですか。

komehyo藤原

まさにそうです。しかも扱っているのは中古品でありつつも高額品なので、お客さまにとっては商品の状態など不安になりそうな要素は当然あるんです。それをデジタルだけで解消するのはなかなか難しいじゃないですか。

逆に言えば、微塵も不安を感じずに通販で買う人は以前に何回も実店舗に来店されていて、品質や安全性を分かっているからなんです。だからこそコメ兵を初めて利用されるお客さまは店舗にご来店いただいた方がありがたいですし、こうやって満足した方はリピーターになりやすいと思います。特に初回の接客の印象がすごく重要です。

アナグラム

想像できます。最初の接客で失敗してしまうと、リピートしないどころか、お店への信頼も築けないですよね。一回目の接客を成功させるために取り組まれていることはあるのでしょうか?

komehyo藤原

ネットショップで商品を見て取り寄せしたお客さまが来店される場合、来店の当日までスタッフは必ずロープレをしています。ものすごく商品に詳しいお客さまも多いので、想定される質問にはすべて答えられるように事前の準備が本当に重要です。

アナグラム

すごい!事前準備は絶対やった方が良いってわかっていても、継続して実践することって相当難しいことだと思うので、事前準備を徹底的に店舗で実践されているのはすばらしいことですね。

やはりどのビジネスでも何回も打席に立つことが重要で、地道に打席に立ち続けることでそれなりの経験値にもなりますしね。それを考えるとスタッフの育成は大変じゃないですか?

komehyo藤原

育成もそうですが、採用自体も大変です。

AIのプロジェクト進行に関しては今の時点では外部企業と連携し行っていますが、内側と外側の連携にフォーカスを当てないと上手くいかないと思います。Walmartのような簡単にエンジニアやCTOを雇える大手ではない小売業で目指すべきところは、むしろプロジェクトマネジメントの質を高めることですね。それは別にAIだけの話ではなくお店を作ることもプロジェクトなので、それをできる人材を採用していくことが今後重要になってくると思います。

アナグラム

その人材はどのようなキャリアを積んできた人ですか?

komehyo藤原

何をやってきたかより、とりあえずプロジェクトマネジメントをやらせるしかないです。小さい案件から経験を積んでもらって、少しずつもっと大きいものを回せるようにするまで育成するわけです。ただ、やらせるのはプロジェクトマネジメントですが、勉強の方はプロジェクトマネジメントのことではなく、マーケティングとPL(損益計算書)なんですよ。

アナグラム

マーケティングとPL!

komehyo藤原

マーケティングもPLも物凄く大事だと思っていて、要はそれさえできれば、計画のこととそれに対する具体的なアクションが非常に分かりやすくなります。

店舗も同じで、自分たちに予算があって、じゃあPLを達成するには、お店への来店数を成約率からみてあと何人必要なのか全部見えてくるんですよ。そうすると、今のままだと来店数が足りませんとなった場合、それをどうするんですかという話にいけるんですね。そこからチラシを巻くのか、デジタルで集客するのかなど直ぐに手が打てるようになります。

昔からある手法を否定する風潮はありますけど、新しい飛び道具的なものに飛びつくよりも本当に基礎をしっかり教われば今でも非常に役立つので、逆にそれをやらないのはもったいないです。

アナグラム

手段の選択肢はどんどん広がるけど、根本的にやるべきことはかわらないってことですね。オムニチャネルの連携まで持っていけますし。

komehyo藤原

そうなんです。店舗がそもそもネットショップと連動しているので、例えば「一定の売り上げを達成するためにこの店舗の値下げをいつするか」とか決めると同時にネットショップの値段も下がるので、多方面から調整します。

目標達成が危なくなると、店舗だけでは修正出来ないので、チームを組んで全社一丸とならないといけないです。その中でも数字を達成できないとわかる瞬間もあるので、そこを今後どれぐらいの期間で達成できそうかプランニングしていきます。もし、この店舗はだめだったら上手くいっている別の店舗に投資するなどして予算の配分を変えたりもフレキシブルに調整してますね。

危機感の共通認識が重要

アナグラム

特定の店舗は調子良くても、他の店舗が調子悪かったら結局会社全体での目標は未達になるのでみんなで助け合うんですね。いやー、すごいですね。感情と論理がうまくはまっているといいますか、こんなに綺麗に連携しているケースは滅多にみません。ここまで来るのに苦労しましたか?

komehyo藤原

そこまで苦労した記憶はないので、もはや企業文化なのかもしれません。もっといえば、この辺はデジタル化で益々加速できて、意志決定の精度もあがりました。昔みたいに紙で回しているのはもう遅くて、あの時代は最後の承認まで1週間かかったのが、1日かからずに完結してます。お客さまに対して、デジタルトランスフォーメーションって手段しかないですけど、だから社内だけはデジタルにしなきゃいけないと思います。絶対に。

アナグラム

新しい技術が登場すると急にユーザーの行動に変化が表れることもあるし、企業としてそういう動きに対してアンテナを張らないと手遅れになるリスクもありますね。メルカリはその典型例とも言えますよね。

扱っている商品はコメ兵さんとは違うところがありますが、CtoCのアプリの台頭によって、コメ兵さんの戦い方も変わってきましたか?

komehyo藤原

まずは、CtoCアプリの登場によっていわゆる「中古品」に触れる人の母数が増えたと言えます。マーケットが広がったのですが、これは金額のマーケットじゃなくて生活者の頭の中のシェアが大きくなったということですね。

つまり、リユースは実際に使ったことがある人も、使ったことがなくてもその言葉を知っている人も増えていました。そういう意味でのマーケットが広がったこと自体は非常にありがたいと思いますね。

一方で危機感も持っています。中古のブランド品に関して今は私たちがトップシェアでも、いつか追い越される可能性があります。私たちが今、CtoCやテクノロジーに投資しているのは、将来を見据えてのことです。

アナグラム

こういう投資ができる企業はそんなに多くはないですね。

komehyo藤原

そうかもしれないですね。やっぱり、時代や顧客ニーズの変化に対応していくことに強くこだわりをもっています。

海外展開やAI開発など新規事業を立ち上げも、この視点を大事にしてできたことです。

アナグラム編集後記

20年、コメ兵とともに歩んでいる藤原さん。何と言っても小売企業でECと実店舗がこんなに見事に連携プレイができているのは、自分自身本当に衝撃的でした。オムニチャネル、デジタルトランスフォーメーションなどの概念は、よく耳にする言葉ですが、語るにとどまらず実際にコメ兵さんのように徹底的に取り組んでいるケースはかなり珍しいのではないかと取材中何度も思いました。

技術の進歩によって生まれる時代背景の変化から、リーマンショックのような危機に至るまでの出来事を、敢えてチャンスとして捉えてきたエピソードを「当たり前」のように話していた藤原さんですが、中古品・リユースにおいてトップを走っていることは、きっと「人とどこか違う当たり前」を持っていることを示唆しているのではないかと思います。

文:ヤン・フーゲンディック
編集:阿部圭司/杉山美和
写真:齋藤彩可