肩書は代表。役割は究極のサポーター|株式会社リワイア代表 岡田吉弘さん

  • 関東

Google、アタラ合同会社を経て、現在はLIFT合同会社代表、株式会社フィードフォース取締役、アナグラム株式会社監査役、株式会社リワイア代表取締役を務める岡田 吉弘さん。華々しいご経歴から、リーダーシップを発揮してぐいぐい人を引っ張ってきたのかと思いきや、冒頭から「やりたいことなんて特にないんですよ」と驚きの一言。

ご自身でリーダーに向かないと言いながらも、2020年10月に会社を立ち上げて代表として尽力されている真っ最中。どうして会社を作るに至ったのか、これまでのキャリアを方向づけてきたものがなんだったのかを伺いました。

「検索エンジンに関わりたい」がきっかけでマーケティングの世界へ

アナグラム

岡田さんには普段からアナグラムの監査役としてお世話になっていますが、岡田さんご自身のお話はあまり伺ったことがなかったですよね。あらためて岡田さんの経歴を教えていただけますか?

okada

いわゆるロスジェネ世代なので、社会に出る前に世の中から否定されてはじまりました。加えて文学部国文学科専攻だったのでどの企業からも書類で門前払い。面接さえしてもらえず、選択肢は当時まだ日の目を見ていなかったITのみ。そんな状況で唯一内定をもらったのが小さなSIerでした。なので、かけだしエンジニアが社会人としてのスタートです。

アナグラム

文学部からエンジニアとは、意外なキャリアスタートですね。

okada

共通点は「言語」を扱うという点だけですね(笑)大学では中世国文学を勉強していました。中世といえば戦が絶えず生き残ることに必死な時代で、まさに「諸行無常の響きあり」の無常観です。その影響を受けてか、不況だったからなのかわかりませんが、学生の時からなんだか「すでに諦めている」タイプだったと思います。

文学もプログラミングも言語を扱う点では共通しているものの、自分はインタラクティブなコミュニケ―ションが好きなのだと働いてみて思いました。プログラミングもコンパイルして値が返ってくるという意味ではインタラクティブなのですが、勘定系のプログラムばっかりさわっていたせいか、仕様書が求める限られた正解にたどり着くための手続きなのがつまらないなと思ってしまって。

アナグラム

同じ「言語」と言えど答えがあるものとないものとで、文学とプログラミングは大きな違いですよね。では、広告の業界に入ったのは2社目からですか?

okada

はい。エンジニアが合わないと思っていた矢先に『検索エンジン』なるものが登場し、具体的にいうとGoogleが日本でも徐々に使われるようになってきて、「これだ!」と。

ユーザーが探していることと企業が提供したいものがビシッと合う、かつきちんとお金になるのがビジネスとして美しいなと。入口は「広告やりたい」ではなく、検索エンジンに関わりたかったんです。

アナグラム

企業側からの一方的なコミュニケーションが主だった当時は、インタラクティブに情報提供できる検索エンジンは画期的ですよね。

okada

検索エンジンに携われる仕事ってなんだろうと探して出会ったのがSEMでした。特に検索連動型広告は広告を配信するとすぐにクリック率やコンバージョン率という結果となって返ってくる。インタラクティブだなあと。

ベンチャー系の広告代理店に3年半ほどいて、1年間はコンサルタント、残りを経営管理としてIPOの準備や人事、法務などいろいろやらせてもらいました。

媒体担当として関わりがあって可愛がってもらっていた、当時Google日本法人の実質トップだった佐藤康夫さん(現株式会社フィードフォース 社外取締役)に相談したら誘っていただき、27歳でGoogleに転職しました。

アナグラム

27歳でGoogleとは、当時だとかなりお若かったのでは?

okada

エンジニアには新卒がいましたが、2006年にビジネス側で20代はおそらくぼくだけだったと思います。英語もろくにできなかったし、企業のカルチャーもそれまでの日系企業とは全然違うので圧倒されました。

アナグラム

その後Googleを辞めてアタラ合同会社に転職されていますよね。

okada

そう、佐藤さんがアタラ会長に就任された際にまた声をかけていただいて、役員としてアタラに入りました。

その頃アナグラムの阿部さんに呼ばれて、社外役員として手伝うようにもなりました。ぼくが先に経験してきた嫌なことやミスしてきたことを、先回りして阿部さんに耳打ちするというお仕事ですね。

その後フィードフォースの塚田さんからもお誘いいただき2018年に社外役員になりました。当時阿部さんが考えていたアナグラムの次のフェーズと、塚田さんがフィードフォースのIPO後に描いていた世界がピッタリはまっていたので、両者のM&Aの仲人をした形ですね。

アナグラム

佐藤さんに呼ばれてGoogleやアタラに転職したり、阿部さんに声をかけられてアナグラムに入ったり、岡田さんのようにキャリアを進めたいと思っている人は多いはずです。岡田さんが今までのキャリアを歩めた一番の理由を教えてほしいです。

okada

以前、フィードフォース社内Slackのチャットインタビューみたいなもので「これなら私に任せて!という仕事を教えてください。」と聞かれたことがありました。インタビュアーはbotなんですけど、ぼくにとってはクリティカルだったので真剣に悩んで(笑)

悩んだ挙句、「ちょっと相談なんだけど、と柔らかめに問い合わせてもらった時の返しに比較的バリューが出ているっぽいです」と答えました。

okada

人によって、話を聞いてほしいだけの場合やソリューションを求めている時もある、キャッチボールすることで整理されていく人もいる。一律の答えはないんですけど、相手がなにに悩んでどう考えているのかを、表情や語尾から想像しながら会話する。そのときのぼくのレスポンスが良ければ、結果として「もっと関わってほしい」と思ってもらえるのかなと思っていて。

その繰り返しから「岡田に1回壁打ちしてみようかな」とか「岡田に声をかけてみようかな」と思っていただけるのかもしれないです。

フォロワーシップとは、「踊れ」と言われてその場で踊る準備ができていること。

アナグラム

誰かから相談を受けたときの返事にバリューを出し続けてこられたんですね。そう簡単なことではないはずです。

okada

故:梅棹忠夫氏の「請われれば一差し舞える人物になれ」ということばは、自分の中で大切にしている姿勢です。震災のあった2011年の大阪大学卒業式の式辞で当時学長の鷲田清一さんもスピーチの中で引用されていました。「ちょっと踊ってみろ」と言われたときにその場で踊れる人物になれということですね。

アナグラム

請われて舞う……どういう意味でしょう?

okada

請われたときにすぐに舞えるとは、予測して準備しておくということ。常に考え必要な実務をこなしている、そして「なぜその実務が必要か?」を理解していることです。それまでの社会人10年間もその心がけでやってきたので、このことばがしっくりきました。

アナグラム

いつ出番がくるかわからないからこそ常に備えておくということですね。

okada

ぼくもそうですが、自分は何者でもないと思っている人でも順番が回ってくるときがある。順番がきたときに下を向いているのではなく「恥ずかしいけど踊ってみようかな」と顔を上げることです。

踊ってみた結果がイマイチだったらその時に立ち去るなり、悔しがってもう1回挑戦するなりすればいいという気持ちでやっています。

過去には当然たくさんの失敗があって、そのたびに自分はダメだなと思います。それでも外からの需要があって、今また会社を立ち上げるにいたっているのは本当にありがたいですね。

アナグラム

常に先回りして予測と準備をするとなると、並大抵の思考量ではないですよね。会社立ち上げの話が上がったときも、岡田さんの中では準備ができていたのでしょうか。

okada

そうですね。自分の中では突然振られたわけではなく、シナリオは想定していました。今のまま社外役員を続けるパターンか内部の人間としてコミットするパターンか。何かやるならアナグラムなのかフィードフォースなのかそれ以外なのか。……自分の性格だとこう言われたらきっとこう答えるな、という風に。だから、話が挙がったときは「やっぱり?」という感じでした(笑)

キャリアを振り返ると、こうやって周りの人に呼んでもらったことがきっかけになっていて、ぼくはその準備をしているだけ。今回リワイアを立ち上げたのも、請われてる気がするので一差し舞っている感じです。

やりたいことはないから「嫌じゃないことをやる」

アナグラム

改めてリワイアを立ち上げるに至った経緯をお伺いしてもいいですか?

okada

アナグラムがフィードフォースにグループジョインすることを発表したのが2020年1月で、その直後に新型コロナウイルスが来て世の中が一変しましたよね。自分たちも多少キツかったですが、もっと苦しい業界はたくさんあります。時代は一層インターネット側に来ていて、「他業界より相対的に恵まれているぼくらがこのタイミングでなにもチャレンジしないのは嘘なんじゃないか?」と役員同士で話していました。

「じゃあ誰がやるか」と役員メンバーを見渡すと、みんな社長なり事業統括なり役割がある中、ぼくだけ特にやることがない(笑)それで株式会社リワイアを立ち上げることになりました。

アナグラム

岡田さんご自身にやりたいことやビジョンはありますか?

okada

誤解を恐れずにいうと、今回に限らずもともとやりたいことはない人間なんです。社会を変えるという大義名分よりは、やっていて嫌じゃないことをやり続けたい。
本当に24時間365日自由に使っていいのであれば、ずっと息子と釣りをしてると思います(笑)

アナグラム

これは多くのビジネスパーソンの本音では(笑)となると岡田さんの働くモチベーションはどこにあるんでしょう?

okada

モチベーションがないと動けないのは嫌なので、大きな目的ではなく、小さな意味付けがあればいいかなと思っています。単純に何かがうまくいったり人に喜んでもらえたら、嬉しいんですよね。

大義を掲げて社会を変える役割は本物のリーダーたちにお願いするので、ぼくは自分で社会を変えることはできないけど、彼らを支える究極のサポーターでありフォロワーでありたいなと。

役割が経営側に移ってから10年ほど経ちますが、やっぱりリーダーシップやマネジメントには悩んでいて。さまざまな社長さんとお会いしては、「なかなか自分の身の丈に合うロールモデルが見つからないなあ」と思っていた時期がありました。「請われれば一差し舞える人物になれ」ということばは要するにフォロワーシップのことを言っているのですが、フォロワーシップやサーバントリーダーシップという概念は、旧来型のリーダーシップ論がしっくりきていなかった自分にはうまくハマったのかもしれません。

アナグラム

会社を立ち上げてサポーターからリーダーに転じた話を聞くつもりで来ていたので驚きです。ただ、実質代表を務めている岡田さんでも、自分をリーダーではなくサポーターだと思っているのは安心というか、「それでもいいんだ!」と感じる人は多いと思います。

okada

表舞台で見ることが多いのは、能動的でエネルギーに溢れていて、目的意識が明確な方たちです。でも、やりたいことが決まっているのは特殊技能ですよ。

むしろやりたいことが特にないけど、目の前のことを一所懸命にやっていたら今の場所にたどり着いた人のほうが多いと思うんです。

やりたいことが先行しなくても、起きた事象に対して最善だと思う判断を積み重ねた結果が今です。やっていて嫌じゃないから続けるとか、人に評価されたから続けて得意になるとか、そういうのでいいんじゃないかなと。ぼくの生き方は尊敬はされないですが、共感してくれる人はいるかもしれません。

リーダーシップではなく徹底したフォロワーシップ

アナグラム

とは言いつつ、ことビジネスにおいてはリーダーシップが必要だと思いますし、求められるケースもあると思います。そこに対しての悩みや葛藤を感じることはありますか?

okada

悩むし苦しいですね。実際、もっと引っ張ってほしいと不満を感じている人もいると思います。

方向性を示すのはリーダーの役割なので、何かしらメッセージを出さないといけない一方で、自分に嘘はつきたくない。わからない時は正直に「わからない」と言っていますね。そのうえで一緒に考えられればいいじゃないですか。

世界はたった1日で一変するのだと、ぼくたちは新型コロナウイルスや震災を通じて知りました。にもかかわらず「ああすれば必ずこうなるよ」と断言するのは不誠実な態度だと個人的には思います。だから、なるべくなら向かう方向はみんなで決めたいなと考えていますね

アナグラム

リワイアもその思想で経営されているのでしょうか?

okada

ぼくはリワイアという会社のトップではありますが、フィードフォースグループが提供できていなかった価値を補って支える役割だと捉えています。そういう意味ではリワイアという会社そのものがフォロワーやサポーターという立ち位置なんですよね。

システム・企業・人の再配線

アナグラム

フィードフォースとアナグラムを横串でつなぐのがリワイアのようなイメージと捉えるとしっくり来ます。

okada

そうですね。たとえばお客さまから難しい相談がきたとき、社内に頼る人がいないと断っちゃうじゃないですか。だけど今なら「1回リワイアに当ててみるか」ってできる。

社名のリワイアは rewire=再配線 を意味していて、世の中には再配線すべきことがたくさんあります。アナログがデジタルに変わったら、まずは端子をアナログ端子からHDMI端子に変えないといけない。端子を変えても入出力に耐えられなかったらハードも変えないといけないし、ハードを変えたらソフトも対応させなきゃならない。そういうことが一度に起こったのがこの1年です。

アナグラム

アップデートに伴う再配線を担うとなると、リワイアの実際の業務内容はかなり広そうです。

okada

フィードフォースグループには150人ほどの従業員がいて、その先に数千のお客様、またその先に数百万のユーザーがいます。この生態系の中には、前線・後衛どちらも必要です。リワイアは後衛として小回りが効くアンカー、つまりグループ全体のよりどころを担うのがいいだろうと思っています。

毎回毎回お仕事が違うので、それぞれに価値を提供できればそれが仕事だと思っています。「どんな事業をやってるんですか」と問われてもサポートだからそれ自体に主張がなく、繋がったら何か起きるでしょ、という感じ。もちろんそれだと伝わらないので、今のところ外向けにはShopifyの構築支援等と言っています。

とはいえコマースにおいてShopifyが再配線しやすいからそう言っているだけで、実際にはグループに受け皿がないお仕事をリワイアがお受けしたいと思っています。

アナグラム

サービス内容や会社の方向性が流動的となると、どんな軸で採用されているんでしょうか?募集要項ページ(コマースディレクターコマースエンジニア)は、堅苦しさがなく気軽に応募しやすい雰囲気になっているのが岡田さんらしいなあと拝見していました。

全員があらゆる分野に長けていることはありえませんので、上記のうちどれか1つでも得意だと思えるものがあれば既にあなたは応募要件を満たしています。技術や技能の習得は全力でサポートしますので一緒にがんばりましょう!

引用:株式会社リワイア コマースエンジニア募集要項

okada

会社の採用ページには「ぼくより優秀な人」と書いています。どこか1点においてでいいのでぼくより秀でていて、かつ一緒にいて違和感がない人。どんな人でもぼくより秀でているところが必ずあるはずなので、実質条件は後者だけですね。

再配線と言っているのはシステムに限らず「ヒト」もそうです。直接会わなくても仕事ができる時代なので、ヒト同士の配線って簡単に切れてしまうんですよね。この線をどのくらい太く、たくさん作れるかというのが大事で、その潤滑油になるのは人柄だと思っています。

アナグラム

「人柄」について詳しくお聞きしたいのですが、岡田さんが気持ちよく働けるのはどんな方ですか?

okada

自己評価と他己評価のギャップがすくないと幸せを感じやすいと思っていて、一緒に働く方もそのギャップが少ないとぼくに限らず周りの人とも働きやすいんじゃないでしょうか。

評価のギャップがやる気につながる人もいますが、不満や不安につながる人の方が多いと思っていて、自分でも気を付けています。過度に誇張する必要もないし、過度に卑下する必要もない。ぼくの場合は人のお手伝いをしているだけで自分はなにも成し遂げていないと自負しているので、偉そうなことは言わないとか。

リワイアの主役はぼくではなくメンバーであってほしいとも思っています。

ただ、フォロワーにもフォロワーなりに、どの神輿を担ぐかの好みはあります。ぼくの場合はフィードフォースの塚田さんでありアナグラムの阿部さん、さらにはリワイアに関わってくれるお客さんやメンバーも含め、グループ全体を担いでいきたいですね。自分で言っててすでに重たいので不安ですけど(笑)

アナグラム編集後記

就活の面接練習をして、自分の周りのいわゆる仕事ができる人と話をして、自己啓発本を読んで、Twitterで著名な経営者をフォローして。そうやって社会人をやっているといつの間にか「やりたいことが明確な人には敵わない」と肩身が狭くなって、そっちに近づこうとするけど結局なれなくて。そういう経験に心当たりがある私にとって、フォロワーのスタンスを貫きながら会社のトップを務める岡田さんの話を聞いて、心が軽くなりました。

 

とはいえフォロワーなら簡単になれる訳ではなく、深堀りしてみるともう先回り思考とコミュニケーションの鬼。岡田さんとお話ししていると、”アナグラムの偉い人として”ではなく”いち個人として”向き合っていただける感覚があるのですが、相手の心に寄り添おうと徹底した姿勢があったからなのだなと、今回の取材であらためて岡田さんのファンになってしまったのでした。

取材:米田 早希/賀来 重宏
文 :米田 早希
編集:賀来重宏
写真:賀来重宏