新商品はわずか数分で売り切れ、ポップアップストアには長蛇の列ができる。そんな人気アパレルブランドである「keniamarilia(ケニアマリリア)」。「着物文化の永続」を目標として掲げて、上質な着物を丁寧にリメイクした一点もののアイテムは、熱狂的なファンが多い。今回は「keniamarilia(ケニアマリリア)」を手がける座波ケニア(ざは けにあ)氏へ、ECサイト立ち上げから成功までの軌跡とブランドの成長のカギとなったSNS戦略と「Shopify」の導入について、株式会社R6B(以下、R6B)代表取締役インターネット氏がきいた。
“自分の声が直接届く”を求めて、ECサイトを開設
座波さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。まずは、簡単に自己紹介をお願いします。
はい。初めまして、座波ケニア(ざは けにあ)です。ブラジルのサンパウロで生まれて、幼少期に日本に移住しました。
幼い頃からデザイナーになりたいという夢があったので、ファッション系の専門学校に進学しました。卒業後はアパレルのOEM会社に就職して、営業から生産管理、デザインまでひと通りの業務を担当しました。
OEM会社を退職後は、フリーランスとして「HEAVENESE」衣装のデザイン・製作に関わりながら、国産のアパレルメーカー勤務を経て独立し、2019年の10月末に着物のリメイクアパレルブランド「keniamarilia(ケニアマリリア)」を立ち上げました。アパレルの業界歴はもう15年くらいになりますね。
そして、ブランドの立ち上げと同時にECサイトも開設したと。
そうです。最初は「ケ二シャツ」と「ケニスカ」で、7着しかアイテムがありませんでした。加えて、洋服を作ることしかやってこなかったので、売り方も知らずECサイトが何かもわからなかった。「カートってなんですか?」みたいな。
▲初期の「ケ二スカ」
商品もまだ少なく知識も経験もない中で、どうしてECサイトで販売を始めようと思ったんですか?
アパレルって基本的には、サンプルを作り展示会を開いて人を呼び、バイヤーさんにオーダー付けてもらって雑誌に掲載されて…といった商流なのですが、長くアパレル業界で働く中で、“自分の声が直接お客さんに届くツール”がないとずっと思っていたんですね。
「会ったことのない人に私の思ってることが直接届くツールを介して洋服を売りたい」と強く思いました。
「keniamarilia(ケニアマリリア)」に関しては特に、着物のリメイクというだけでとっつきづらい商品なので、私の思いややりたいこと、ブランドのコンセプトが誤解なく伝わるツールがほしかった。
直接届けるという意味では店舗で売ることももちろん考えましたが、まずはどのくらい支持してくれる人がいるのか確かめたかったので、第一段階としてECサイトから始めてみました。
“私”を理解してくれる仲間集めからのスタート
ECサイトを開設しようと決めて、どのように進めていったのですか?
最初はX(旧Twitter)での発信から始めました。というのも、まずは仲間がほしかったんですよね。私がやろうとしていることに対して理解して賛同してくれる仲間がほしかった。
着物のリメイクってどうしても“イロモノ”に見られがち。加えて私が外国籍ということもあるので、ぽっと出てきてなんとなくブランドをやっていると思われたくなかったんです。
そういう理由もあり、X(旧Twitter)ではブランドについて発信するというよりかは、着物や歴史、文化、浮世絵、版画など、私が大好きなものをとにかくツイートしまくるっていうことを1年間やっていました。まずは人となりを知ってもらおうと。
なるほど。2019年というと当時はX(旧Twitter)以外にも、SNSとしてはInstagramがありましたよね。Instagramから始めるケースが多かったように思いますが、X(旧Twitter)を選んだ理由は?
まずは“私”という人を知ってもらいたかったので、Instagramできれいな写真や商品を見てもらうというよりかは、私の考えていることをダイレクトに伝えたかったんです。
それって写真や絵ではどうにもできなくて。その点X(旧Twitter)は、自分が直接書いた言葉がダイレクトに第三者に伝わるツール。
絵や写真だけのコミュニケーションではなく、言葉でのコミュニケーションをしていきたいと思っていましたね。
それを意識していろいろな方にアドバイスをもらいながら、1年間X(旧Twitter)での発信を続けました。
あとは、“私”という人となりを知ってもらうと同時に売り方も勉強したかったので、jigen_1さん(Xアカウント: @kloutter )のアナグラムの記事やX(旧Twitter)での発信をはじめ、とにかくいろいろなことをインプットして実践することをひたすら繰り返していましたね。
ブランド立ち上げのツイートが日本のトレンドに
1年間取り組んでみて、何か手ごたえはありましたか?
フォロワーさんが少しずつ増えていったことで多少なりとも手ごたえを感じていました。爆裂的に増えるというよりかはじわじわと増えていたので、本当に興味のある人がフォローしてくれているんだっていう実感がありましたね。
そんな中である日「ブランドを立ち上げます」ってnoteをX(旧Twitter)で発信したら、日本のトレンドに上がるくらい盛り上がったんですよ。
それだけ応援してくれている人、ちゃんと見てくれている人がいるんだって思いましたね。ツイートにみんなリアクションしてくれてnoteもものすごい広がって嬉しかったです。その勢いのままに、2019年10月末に7着だけリリースしました。
なぜ7着からのスタートだったんですか?
アパレルって作り始めるともう元に戻れない、引き返せないんですよね。アパレルの生産管理に携わる中でそういったケースをたくさん見てきていたので、戻れる余力がないと間違ったまま進んでしまう。それがすごく怖かったので、7着だけでまず始めてみようと思いました。
ブランドの知名度の広げ方がわからなかったからこそ、自分のやっていることに説得力を持たせるために、1年間「こういうことが好きなんだ」って発信し続けて、人となりを知ってもらって。
「ブランドを立ち上げます」と発信したときにはすでに、私がどんなことをしたくてどんな思いでやってるのかというのをみんなが理解してくれている土壌が出来上がっているうえで、やっと“モノ”が出てきたという。
それでもやっぱり売れるか売れないかはわからなくて。
でも私、着物に罪はないと思っているので、これでもし売れなかったらそれは着物が悪いのではなく、売り方が悪いのかデザインが悪いのか必ずどこかに問題点があるはずだと。それを一歩下がって考える余力がある状態で作り始めました。だから最初は、7着だけのリリース。
最初の7着が完売したとき、ブランドを立ち上げて初めてのリリースだったので、知り合いが買ってくれたと思っていたのですが、たったの7着の中に全く知らない方が3人もいらっしゃって。
「あれ!?この人たち知らない」「X(旧Twitter)やっているのかな?」と思って、探したのですが、なかなかわからなかった。でもある日そのうちの1人がX(旧Twitter)でDMをくれたんですよ。
「初めまして。じつは今日まで「keniamarilia(ケニアマリリア)」を知らなかったのですがタイムラインで流れてきて。このスカートがあまりにも素敵で購入させていただきました。楽しみにしてます」と。
最初のリリースから私の全く知らない人が購入してくれて、さらに、2回目、3回目のときも知らない人がどんどん増えていきました。逆に知り合いが買えないという状況に。それで「届いているんだ!!」って確信したんですよね。
自分の知り合いではない人たちが買ってくれて、さらにファンとして熱量が高い人がいた。これは「なんかいけるんじゃないか」って自信になりますね。
そうなんですよ!「待ってました」「こういうのがほしかった」って言ってくれて。間違ってなかったんだと確信しました。たった7着のリリースでしたけど、1着でも熱量が高いファンがいることを知って、この先どんどんどんどん広がるという感触が得られた。
今でも覚えているのですが、DMをくれた彼女、9月の節句の日に菊柄の「ケニスカ」をツイートしてくれたんですよ。それもすごく嬉しくて。
どんな事業でもまずは身近なところに発信が届いて、買ってくれる流れがあって。
そこから全く知らない人が商品なりサービスなりを知って、お金を出してくれるようになると、経営者や起業家は自信がつきますよね。
もう本当にびっくりしましたし、やることを許してもらえた感覚があって。そこから少しアクセルを踏みましたね。
いろいろな事業や商品がある中で、自分が企画して自分が生み出したものを買ってくれる人がいるのは嬉しいですね。
「keniamarilia(ケニアマリリア)」を見つけてくれたことがすごいと思いますし、さらに選んでくれて…!
簡単には離れない熱量の高いファンづくり
今では熱量高い「ケ二シャツ」ファンも多いですよね。
先ほどもおしゃっていましたが、X(旧Twitter)のフォロワーさんが少しずつじわじわと増えていって、一般的なバズるとは少し違っていたように思います。
そうですね。「ブランド立ち上げます」ってツイートしたときも、フォロワーさん5,000人もいなかったと思います。「keniamarilia(ケニアマリリア)」は、インフルエンサーブランドと思われがちなのですがそうではなくて、じつは先に生産背景をしっかりと確立させていたという。
巷のインフルエンサーブランドと比べて奥が深いというか…
インフルエンサーブランドだと思われたくなかったんです。ただでさえ、ちょっと見た目が派手じゃないですか、私。静止画が美人なんで(笑)
“映え”だけでキャッチアップされると誤解されると思ったので、言葉でちゃんと伝えられるようにというのと、フォロワーさんをすごく増やしたいというわけでもなかった。
そこが「keniamarilia(ケニアマリリア)」ファン熟成のポイントだと思っていて。
普段からいろいろな企業のECサイト立ち上げをゼロからお手伝いしていて感じているのが、成果を急ぐとなるとファンにも飽きられやすいということ。
簡単についたお客さんはどうしても簡単に離れてしまうんですね。その点、「keniamarilia(ケニアマリリア)」のお客さんって離れないじゃないですか。
発信には絶対反応してくれたり買った後に投稿してくれたり、購入前から購入後まで全てのアクションがもう出来上がってる。
着物の生地柄だけを出して販売予告するなど、いろいろやっていますがリアクションは多いですね。
X(旧Twitter)を広めたかったという意味ではバズは確かにありましたけど、それがきっかけでフォロワーさんが増えたとかではないので。地道に発信していったことで結果がついてきた。
X(旧Twitter)のみに絞った発信で見つけた売り方の最適解
今はもう、何時に発売するよって言ったらみなさん待ち構えていて。
いやいや、そんなことはないですけど(笑)
まさしくX(旧Twitter)の売れ方というか。Instagramでは成し得なかったことかもしれないですね。一点ものを売るのって本当に難しくて。Instagramでもフラッシュセールと言われる瞬間的に売るやり方も一点ものではあまりやっていなくて。
在庫を積んでいるものや限定アイテム、コラボアイテムは売れるのですが、一点ものって難しいんですよ、本当に。
Instagramの場合はハッシュタグやタイムラインなど、常にフォローしているものから買われていくんですよね。
その点、X(旧Twitter)は知らない人の目にも触れちゃう。第三者がふと目にしちゃうというのが自然発生的に、偶発的に行われる。
「keniamarilia(ケニアマリリア)」は、X(旧Twitter)での売り方のまさに成功例ですね。
「keniamarilia(ケニアマリリア)」は特に、X(旧Twitter)と相性が良いと思っています。それを立証しているのが、インターネットさんが見せてくれるコンバージョン経路のデータ。圧倒的にX(旧Twitter)からのコンバージョンが多いんです。
多いですよね。うちは370社くらい「Shopify」を利用しているのお客さんがいて、それぞれ管理画面を見ればどこからECサイトに流入してきたのかがわかります。アパレルであればInstagramからの流入は、広告なども含めてとなりますが平均35〜60%。
一方「keniamarilia(ケニアマリリア)」は、X(旧Twitter)からの流入が90%くらい。「Instagramどこ?」みたいな(笑)もうTwitter上のECサイトですよね(笑)
Instagramからの流入2%とか出たことありましたよね(笑)
おそらく、世の中のマーケターとか専門の人たちからすると初めて見る数字なんじゃないかな。見たことないでしょ(笑)ただ一つ、マーケターの方に知っていただきたいのは、InstagramとX(旧Twitter)でどちらが良いという話ではないということ。
一つのことを丁寧にやることが重要で、ただただトレンドにあわせて様々なことをやるのではなく、ブランドのコンセプトに合うと信じたSNSでの発信をやり切った結果出たのがこの数字だと思いますね。
私もどのSNSにするか迷ったんですよ。Facebookもやらなくちゃいけないのかなとか、Instagramもやらなくちゃいけないのかなって。
最初はある程度各SNSに手を付けました。それぞれに合った使い方も勉強して、自分なりにやってみたのですがストレスを感じちゃって。
向いている向いてないとかではなくて、力が分散されることやアクションが見えづらいことがストレスだったんですよね。
そこで考え直して、こんな小さなブランドであれもこれもって手を伸ばしてやってたら、駄目になるなと。全部が薄く中途半端になってしまうことだけは避けたかった。
だからX(旧Twitter)に絞って、一点突破でやっていこうと決めました。
何もないところから切り開いた文脈のある服づくり
X(旧Twitter)での発信から始まってECサイトを立ち上げ、アイテムのリリースに至るわけですが、「ケニシャツ」をどのように確立させていったのですか?
最初の頃の商品は、シャツにネームタグもなくて。そんな中でjigen_1さんが「ケニシャツはアロハシャツに近いイメージがある」って言って、アロハシャツのマニア向けの写真を撮って送ってくれたんですね。確かに、アロハは元々は着物で開襟シャツを作ったことが始まりなので。
だから「ケニシャツ」のネームタグは“波”のような、アロハにインスパイアされたタグにしたんです。あとは、故郷のサンパウロと日本を繋ぐというイメージも盛り込んで…。
それは何かひらめいたきっかけとかあるんですか?
ネームタグのデザインについてはひらめいたというよりかは、アイディアをいただいた中で自分でも納得感があったので、とにかく形にしてみようと。でもきちんと文脈があるものを作りたくて、それも含めてデザイナーさんに相談したって感じですね。どちらかと言うと行き当たりばったり。
着物業界で誰か知ってる人とかもともといらっしゃったんですか?
座波氏:全くいないですね。最初の仕入れ元さんへも、人脈なしで「すいません!!ちょっとお着物がほしくて!」みたいな…
それってどういう反応だったんですか?
「はぁ…どうぞ…」って感じ(笑)
ちなみにその着物はもう捨てるものだったんですか?
捨てるものではないです。着物のリメイクについては、廃棄品で作るパターンなどいろいろあるのですが、服になったときの耐久性や堅牢度(けんろうど)、柄の見え方などを考えると、ある程度綺麗な状態の着物でないといけないと思ってました。
最近は、アパレルでも耐久性や堅牢度について見直しする動きがありますよね。
そうなんです。アパレルの生産管理に長く携わってきた中で常々気になっていたポイントだったので、きちんとした着物を仕入れるため、また仕入れ元さんにも気持ちよく売っていただくために、裏口からではなく「こういうことをやりたくてお着物がほしいんです」と表玄関から行きましたね。
最初の仕入れ元さんは今でも良くしてくれていて、着物の在庫がどのくらいあるのかデータを教えてくれます。そのデータからピックアップした着物を買うのですが、200枚買ったときはさすがに引いたと思いますよ(笑)
正々堂々ぶつかって“一流”を味方につける
まぁ、引くでしょうね(笑)今までのお話を伺っていると思うのですが、全て“正々堂々”と正面からなんですね。そこが他ブランドとの違いなのではないかと。まさに「実践力」を体現していますよね。
でもアイテムを実際にリリースした後も、どういうふうに販促していくか何も決めていなかったんですよ。そんなときにアナグラムの阿部さんが「jigen_1さんが3日後に会社に来ることなっているから、ケニシャツを着てもらったら?」と言ってくれて。3日で突貫で作ったものがファーストサンプルみたいな。
みなさん、乗り掛かった船のような感じで、阿部さんをはじめ、周囲の人たちが「とにかくケニシャツ買おう」と。
押し上げてくれる人たちがいてくれたからこそ、今がある。知り合いもファンもみんな、ブランドの成長に巻き込んでいくようなイメージですね。
そしてその一つが、R6Bさんですよね!(笑)
うちもそうですね。ある日突然、座波さんから「Shopifyってなんなん?」ってX(旧Twitter)でDMが届いて…。「そこから!?」みたいな(笑)「よくわかってないんですけど、良いらしいって聞いて…」って言うもんだから、じゃあお話聞きましょうかって。
jigen_1さんも同じで「X(旧Twitter)ってどうやるの?」みたいな(笑)
当時フォロワーさんが400人くらいしかいなかったのですが、それでも売り方を勉強しなくちゃって、ひたむきにX(旧Twitter)を続けていくうちにJigen_1さんに出会って。
私はその頃まだ匿名でX(旧Twitter)をやっていてIDがそのまま名前だったのですが、まず初めにJigen_1さんに「アカウント名を座波ケニアに変えろ」って言われて。
でも400人ぐらいのフォロワー数で変えたところで泣かず飛ばずだと思ったので、「今変える代わりに変えろって言ったんだから拡散してくれ」ってJigen_1さんに言ったんですよね(笑)
そこからJigen_1さんからいろいろなことを学ぶようになりました。でも最初はJigen_1さんにも「ケニシャツ」のイメージを伝えるのが難しくて。
「着物をシャツにする」というのがまずわからないと。
「実物がなくて構想だけでどうすればいいかって聞かれてもね。まずは売るものを見せろな!」って言われたのを覚えています(笑)
そこで試作品をすぐに作って、着てもらって初めて「あぁ、なるほど。こういうのを作りたいんだな」というように理解してもらえましたね。
私の頭の中では完成しきっているのですが、頭の中にあるものを一方的に早口で説明するから、相手はよくわからないのでしょうね(笑)
余談ですが、Jigen_1さんは取材のたびに、自腹で買ってくれたケニシャツを着てくれています(笑)
頭の中にあるものをそのまんま直球でぶつけることができるのは、座波さんのすごいところですよね。普通だったら、準備をしないと聞いてもらえない。
阿部さんにも「あなた何してる人なの?」って初対面で聞いてしまって、今思うと恥ずかしい(笑)
僕にも「Shopifyってどうなの?」っていきなり聞いてきましたからね(笑)でもそれは、座波さんらしい愛嬌があるからこそできることだと思うので。
自分の頭の中で思い描いたものを「実現したい」という欲求に対して、スキルや知識が足りていないということだけはわかっているから、それをどうにかして埋めたい、解決したいという欲求で動いてるんですよね。
だから、jigen_1さんには関しては、「X(旧Twitter)がうまい人だ!」「X(旧Twitter)にすごい詳しい人だ!」というカテゴリーでしたね。こんなこと今更言ってごめんなさいなんですけど(笑)
同じように阿部さんにも飛び込んでいって。当時、阿部さんのX(旧Twitter)アカウントと名前が繋がっていなくて。でもMarketeer(マーケティア)だけは会社員時代からずっと読んでいたので、繋がったときは「えぇ?同一人物!?」みたいな感覚でしたね。
本能的に人を巻き込んでいくエキスパートですよね。一流の人をうまく使いこなす。社員とかではなくてね(笑)
相談をして逆にご馳走してもらって帰りますから(笑)
真似できるかと言うと、相当難しいですよね。しかも、見知らぬ人に躊躇なく声をかけるのもすごい(笑)
いろいろな人に声をかけまくってるわけではないですよ!(笑)「この人だ!」って思ったら声かけてます。
麻雀で言う“引きの強さ”ですね(笑)R6Bも表立って宣伝してないのに、たどり着いたわけですから。匿名から見破るという(笑)
普段からX(旧Twitter)をよく見てるからこそ発信内容から、「この人はおそらくこういう人だろうな」というのを判断できてしまうのでしょうね。普通の人はプロフィールを見ちゃうから。
蓋開けたら「あれ、もしかしてすごい会社なの!?」って。ごめんなさい(笑)けむたがらずに付き合ってくれてありがたいです。
いやいや、僕らも誰かが困っている姿を目にしたら、何とかしないとという思考にベクトルが向いちゃうから(笑)
大きな企業や老舗の企業が数多くあって市場が熟成しているにもかかわらず、ブランドを立ち上げて4年でしっかり市場を取れているのは、座波さんだからこその魅力や人を見極める力が大きく関係しているように思いますね。
導入直後に直面した「Shopify」でのトラブル
「Shopify」については、どのように知ったのですか?
最初は紹介でしたね。それこそ阿部さんに「Shopifyに切り替えるのはどうか?」って言われて。でもそのときは「Shopifyってなに?」という感じで全く知らなかった(笑)
でも、阿部さんを信用していたので、良いって言うからには先を見越したときに現状のままだと何かネックがあって、伸びていくにあたってぶつかる壁があるんだろうなって思ったんですよね。
声をかけてもらったこのタイミングが“縁”なのだろうと思い導入しました。
試しにやってみようということで構築が始まって、ある程度形になって運用し始めたのですが、「Shopify」について何もわかっていないからか何回かトラブルがあって。
1つは「過受注」。
読者の方に説明すると、「Shopify」はクレジットカード以外にも「PayPay(ペイペイ)」や後払い決済の「Pay-easy(ペイジー)」など、いろいろな決済方法を使えるのですが、注文してもらってから在庫が落ちる時間にタイムラグが生じるときがある。
クレジットカードの場合は直接そのまま決済ですが、他のアプリを挟む決済だと1~2秒ほどタイムラグが生まれるんですよね。
たかが1~2秒かもしれないですが、「ケニシャツ」は特に一点ものの一斉販売なので。
8時に販売を開始して、8時01分になる前に8割売れるときがあるんですよ。
タイムラグが原因で在庫がないのに商品が買えてしまう人がいて、買ったはずなのに…みたいなことが起こる。
カートに-1ってついてて「-1って何!?」みたいな(笑)こわいから商品名検索したら、2人買えたことになってて。
もう一つのトラブルはキャッシュフローの計算をミスしたのと、私本名めっちゃ長いので「Shopify」でうまく登録ができていなくて弾かれちゃって。400万円プールされたことがあるんですよ(笑)
その月、完全に150万円ショートすることが決まって。しかも2月で1カ月が一番短いとき。26日に「Shopify」から売り上げの入金がないと150万円ショートしちゃうみたいなトラブルがありました。それで、慌てて連絡して150万円だけ一瞬借りて。
でも結局、奇跡的に入金があったのでことなきを得たんですけど、さすがに「こわい!」ってなりましたね。
でも、どちらのトラブルも私がそもそも「Shopify」の仕組みを把握して理解することができていなかったことが原因。何かあったときにお客さんにうまく説明ができないのもストレスでした。
ショップ定員の使い方がわからない問題ね。でも実は「Shopify」については、知識を持っていて助けられる会社が結構あるんですよ。
「過受注」という現象が何かわからないとき、カード会社のカスタマーサポートに聞いても「これマニュアルなので見てください」と言われるだけだと思いますが、「Shopify」の知識がある会社であれば「過受注についてはマニュアルに書いていないけれど、他社でも同じようなことがあってこういう対処をしてるよ」って話ができる。その点は「Shopify」の良さでもあるんじゃないかな。
そうですね。私の場合は当時、そういう“伴走者”のような人がそばにいてくれて私が「ねぇねぇ」って肩叩いて「なぁに?」って言ってくれる人がいなかったんですよね。だから、私1人じゃ絶対ハンドリングができないと思いました。このままだったら、大きな事故が起きると。
そういう理由もあって、実は一度「Shopify」から他のECのカートに変えたことがありました。
実現したい未来を見据えて「Shopify」へ再挑戦
他のECのカートに変えたのも「Shopify」をあきらめたわけではなくて。「Shopify」の可能性は理解していたし信用している人たちが推していたこともあり、将来、海外に広げていこうと思ったとき絶対に必要なツールだってことだけはわかっていたので、一時的に退く形をとったんです。
がっつり伴走してくれる人が見つかるまでは、きちんと準備をする必要があると思って。その1年後に「Shopify」を再開しました。
再チャレンジしているんですよね。2回目に関しては、うちと一緒に「過受注ってなんだ?」「じゃあ対策はなんだ?」という感じで、いろいろと情報を確認しながら構築・運営をしていった。
これすごい大事で。経営者の方でも、1回うまくいかなかったらもう一生やらないって考えの方が結構いらっしゃるんですよね。そこで周りを巻き込もうとはならない。自分でやってうまくいかなかったらもう駄目って、可能性を潰しちゃうんですよ。
これは「Shopify」にかかわらず何にでも言える気がしています。「Google広告うまくいかない。苦手」とか。
だけど、可能性を信じてきちんと対策を立てて、もう1回チャレンジするのって結構大事だと思うんですよね。
私の場合は、準備期間中に対策を教えてくれる人たちに出会えたことも再チャレンジのきっかけになりましたね。ブランドに可能性を感じてくれているんだなと思ったので、いろいろ整備してもう1回「Shopify」を使ってみようと。
腹をくくって再チャレンジすることもあり、お客さんにも説明しました。
「実はちょっと使い慣れていません。ごめんなさい。でも過受注だけはもう絶対起こさないようにします。念のため決済方法も絞ります。最初はご不便をおかけしますが、どうか付き合ってください」って。
そういう形でお願いをしたら、ワーッていきなり500人登録してくれました。みんなエクソダスみたいな感じで(笑)
500人って結構すごくて。そもそもオンラインストアの登録って、だいたいみなさんそこまでやらないんですよ。「来週からストア変わるからよろしくね」って1万件メール送っても、10人しか返ってこないとか。普通はついてこないですよ。
メールなどできちんとお客さんに説明していたとしても、買うときにやっと「パスワード使えない。なんか変わってる」という感じになるんですよね。
あとは今回の移行に関しては、X(旧Twitter)も重要だと思っていて。X(旧Twitter)でついたお客さんだからツイートすると、一瞬でファンであるお客さんに認知される。
そうですね、もう連絡網です。回覧板のようにリツイートが回っていく。
じつは、本当は怖かったんですよね。お客さんついてきてくれるのかなって。でも、着物への愛で繋がっているから、ついてきてもらえた。
やっぱりそれは、X(旧Twitter)というツールを使っていたからこそ。回覧板のように回っていくおかげで情報が漏れずに、いろいろなところまできちんと届いたんだと思いますね。
ECのカートの引越しってなかなか大変な作業ですが、常識を覆す奇跡的な話ですね。
「Shopify」でブランドの成長を加速させる
「Shopify」にして、よかったと思うところはありますか?
一つは海外のクレジットカードに対応している点ですね。海外のお客さんや海外に住んでる日本人の方たちが買い物をしてくれるようになりました。そこの可能性を広げたかったので、間違ってなかったと感じています。
絹製品なので関税などいろいろな問題はありますが、とにかく海外の人からのアクセスがすごいんですよ。アクセスしてくれるということは、どこかで知ってくれたということ。まだまだ広げられるという確信を得ました。
もう一つは、ブランドをもともと知っているお客さんではなく、知らないお客さんに対してブランドのコンセプトや思いを伝えていこうと思ったときに、ECサイトにアクセスしていきなりカートとなると、言葉を選ばずに言えば「品がないな」と思ったんですよね。気配りがないというか。
知らずにアクセスしてきて、1着3万円となると「高い」と感じるのは自然なことですよね。過去の買い物と比べると「高い」で終わってしまう。だから、どういう思いでやっててどこと一緒に組んでいて、どんなふうに作ってというブランドの文化を丁寧に深く伝える必要があると思っていたので、ECサイトも作り込みたかったんですよね。
SNSとECサイトで情報が分散するのではなく、ここにアクセスすればブランドの全てを網羅できるという1ページがほしかった。だから、ECサイトというよりかはWebサイトのイメージですね。
総合的なブランドサイトでもあるし、メッセージを発信するサイトでもあるし、ECサイトでもあると。
そうです。いろいろなことをやりたかったのと、加えて海外のクレジットカードに対応して、よりたくさんのお客さんと出会いたいとなると「Shopify」かなって。
確かに、ブランドコンセプト的にもインターナショナルな思考を持っていますもんね。日本のカルチャーが好きな人や日本製品の良さを知ってる人は、海外にもたくさんいますし。
「海外で着物を着るのは大変だからこういうのがほしかった」とて言ってくれる方もいます。
日本だけでなく世界まで範囲を広げてカルチャーを作っていくような印象なのですが、「keniamarilia(ケニアマリリア)」の今後の展望は?
日本だけでなく本格的に海外に広げていきたいですね。改めてきちんと海外の人も興味を持って着てもらえるものを作っていきたいです。英語サイトも作りたい。
英語圏の人たちにもお披露目して良さを知ってもらって。反応もまた違うんでしょうね。
未知数ですね。私は日本育ちなので、海外についてはまだまだわからないことも多いです。
でも、喜んでもらったら起業家冥利につきますね。
そうですね。今後の展望も踏まえると、あの時「Shopify」に切り替えて本当によかったなぁ。ブランドを立ち上げるうえで、やってよかったことのうちの一つですね。
“大きい志”のお供には「その道のプロ」と「Shopify」を
では最後に、これから「Shopify」を使おうと思ってる人にメッセージを!
助けてくれたり伴走してくれたりする「Shopify」に詳しい人を、必ず巻き込んで味方にしたほうが良いです。1人でできるものだと思わないこと。
必ずしも一人でできないわけではないとは思います。でも、“志”ややりたいことが大きいのであれば、なおさらプロを巻き込むのがベストです。
執筆者:伊藤萌(株式会社Nuu)
インタビュアー:インターネット