ぼくたちの仕事はクライアントに自走してもらうこと|中小ネットショップを支えるコマースデザイン代表取締役の坂本悟史さん

  • 関東

ネットショップに関わる方の必読書「売れるネットショップ開業・運営 新100の法則」、通称黄色本は、アナグラム新入社員の必読書としても大活躍しています。その執筆を手掛け、中小のネットショップを専門にコンサルティングを行うコマースデザイン株式会社の代表取締役、坂本さんにお話を伺いました。

売り上げを伸ばすだけが幸せではないと知った楽天時代

アナグラム

坂本さんは現在会社としては楽天専門のネットショップコンサルをやってらっしゃるという認識なのですが、そこに至るまではどういった経緯があったのでしょうか?

sakamoto

今は楽天専門というよりはもう少し幅広くなっているんですが、その話はあとでしますね。学生時代からの話になるんですけど、ぼくは1999年ごろからインターネットを触り始めました。その時にあった「テレホーダイ」って知ってます?深夜の時間帯に指定した番号に対しては定額で利用できるというサービスなんですが。

アナグラム

ADSLとかよりも前のやつ…ですよね。

sakamoto

そうですそうです。それくらいにインターネットを触り始めて、当時ぼくが作ったサイトが小学館の「sabra」という雑誌に掲載されたんですよ。当時は空手をやっていて、空手とかボクシングとかいろんな格闘技をやってる人が集まる場所があったんです。そういう場所がネット上にあってもおもしろそうだなと思って、格闘技をやっている人が交流できる掲示板サイトを運営していました。

あともう一つ作ったのは格闘技用品のネットショップのリンク集。当時格闘技用品のリアル店舗ってほとんど土日休みだったので、サラリーマンはいつ買えばいいんだ?って感じだったんですよね。そのころは検索という行為自体それほど発展してなく、SEOも今とは全然違っていて「リンク集」というページに一定の価値がありました。そういったサイトを作ったりして遊んでいたら、その「sabra」という雑誌で関根勤が選ぶ格闘技サイトランキングという特集で2位と7位に選ばれました(笑)。

大学時代はそういうこともしつつ、最初はマスコミ志望だったんですけど、インターネットのおもしろさを知ってネット系のベンチャーに入ったんですが、その会社が倒産してしまいまして。やっぱりWEBサービスがやりたかったので、当時人気絶頂の浜崎あゆみがCMに出ていたライコスとか、インフォシークの面接を受けたんですが落ちて、そのあと2社を買収した楽天に受かって、入社しました。

アナグラム

それでネットショップの世界に入ったわけですね。

sakamoto

そう。当時の楽天は、色んなやり方で営業をしている人がいたのですごくおもしろかったです。詳細は言えませんが(笑)。入社後営業ではなく開発の方を志望していたんですけど、「営業も一度は経験しておきたいかも」と軽く言ったら当然のごとく営業に配属されました。

配属時、上司は営業兼開発担当だったので営業で頑張れば開発に異動できると思っていたんですが、配属後その上司の担当が開発オンリーになってしまって、いったいどうやって開発に行けばいいんだという状況。そんな中で資料請求をした方に対してテレアポで出店の営業をしていました。

その時のお決まりのトークスクリプトが「ネットでお店やりませんか?全国展開できますよ」というもので、周りの人は結構勢いで取っていたんですけど、ぼくは勢いがなかったのでこれだと取れないと思ったんですね。

それで「ネットで全国展開なんてできないと思ってませんか?でも実際に売れてるお店ってあるんですよ。何が違うか興味ありませんか?」という言い方に変えると「お、それは知りたいね。」といっておもしろいほど話を聞いてくれるんですよ。勢いがなくてもロジックを組んで伝えればいいんだ!ということに気づいて、それは今にも活きていますね。

例えばテレアポの相手が果物屋さんだとしましょう。「果物なんてスーパーでも八百屋でも売ってるからネットでは売れないと思いますよね。わかります、普通そうだと思います。それでもネットで売れるところがあるのはスーパーや八百屋ではできないことをしているからなんですよ。メルマガで近所で売っている果物とこの果物がどう違うのかということを説明して、納得していただくんです。」という感じで相手の疑問に一度イエスと答えつつ、説明していくという。

アナグラム

す、すごい。それだと話の流れで自然と話を聞く体制になりますね。それは一人で編み出したのですか?

sakamoto

自分で考えた部分もありますし、営業の本はたくさん読みました。テレアポの営業は見込みの有無をいかに早く判別するかが大事。どうやっても動かない人はいるのでそれを早く切って、可能性のある人だけにいかに絞るか。

最初はテレアポをしろと言われて、テレアポをしながら今言ったような感じでいろいろと工夫をしていたんですが、ある時に「あれ、なんか毎回同じことばっかり言ってるな」ということに気づいて、今度は資料請求をした人に対してメルマガを送ることにしたんです。

「営業担当の坂本です。今の季節は〇〇などの商品がよく売れています。なぜこのような商品が売れているのか、興味がある方はその秘密をご説明しますのでぜひ一度ご連絡ください。」みたいな。

アナグラム

いち早くテレアポからメルマガに切り替えるあたりが坂本さんらしいですね。メルマガでも反応はあったんでしょうか?

sakamoto

ありましたね。メルマガ見ましたという連絡は結構いただきました。そのあとぼくは異動することになったので、担当していたリストは別の人に引き継いだんですね。そしたら引き継いだ人から連絡があって、「さかもっちゃん(当時のあだ名)のリストすごいね!なんかみんなあっさり契約取れるよ!」と。それもメルマガですでに契約を取りやすいように耕してたからなんですよね。

アナグラム

リストを耕すという名言がでました(笑) その時に異動したのがネットショップコンサルの部署ですか?

sakamoto

最初にいたのが新規出店営業の部署で、異動したのは出店者のケア兼広告枠の営業などをやってる部署でした。新規営業の時に勢いではなく、ロジックを立てて相手の言っていることを否定せず話を組んでいくこと、ノウハウやセオリーはやっぱり大事ということとかを学んで、それを活かしてどんどんとコンサル的な営業にシフトしていきました。

アナグラム

その時のネットショップコンサルって具体的にどのようなことをしていたんでしょうか?

sakamoto

コンサルといっても評価の基準として大きかったのは担当しているお店の売上と、どれだけ広告を買っていただいたかだったので広告営業は多かったです。とはいっても広告を買ってもらってこけたらリピートしてくれないので、いかにクライアントに広告を使って売り上げを上げて、かつ利益も残してもらうかというのを必死で考えてました。

アナグラム

なるほど、そこでネットでの売り方を研究して学んだんですね。

sakamoto

例えば、リアル店舗で売れていて、ネットで売られていない商品は、おそらくそもそもネットに不向きなのか、それともまだ市場ができていないかのどちらかですよね。当時のネットショップはまだ発展途上だったので後者の確率も高い。なのでドラッグストアとかドン・キホーテとかに足を運んで、これはネットでも売れるんじゃないか?という商品を探しては、クライアントに売ってみませんか?という提案とかもしていました。

その中の一つで「チオビタ10円!!」というメルマガ企画もやりましたね。おひとり様6本限定とかで、6本買うと60円、でも送料で500円とかかかるのでチオビタだけ買う人はほとんどいなくて、他の商品も売れる。それに入り口で「チオビタ10円!!」と出ている店って他の商品も安そうじゃないですか?そういうイメージがあるので他の商品も売れるんです。

そのメルマガを打つのに本来は50万円とかの広告費をいただくんですけど、それをあえて無料でやってもらうんですよ。こういったメルマガを送るとメールの開封率は高まり、ユーザーにとっては楽天ってこんなにおもしろい買い物ができるんだという風に評判が上がる。だから無料でいいですよね、と上司を説得して枠を取っていました。

アナグラム

でも楽天からすると本来の50万円を0円にするということは、その分売り上げが減るということなのでなかなかその判断をするのも勇気が必要ですよね。坂本さん的にはそれをしても、その企画から生まれる売り上げに対する楽天へのマージンや、もっと長期的な楽天市場全体のユーザー増とかを考えると50万円以上のバックがあると判断したんですね。

sakamoto

そう、時々そういったチオビタ10円のような企画をすることで、ユーザーは楽天からのメルマガは今回も何かあるかも、という期待でメールの開封率が上がりますよね。そうすると普通の商品を普通の価格で出している他のお店のメルマガの開封率まで上がるのでやっぱり楽天全体の売上増につながるんです。

でもやっぱりそういった情報って出回るもので、他のお店から「なんであそこは広告無料なの?」という声は出てきました。そういう時は「売りたいものを売りたい価格で売るか、ぼくら(楽天)にもメリットになるような無茶な売り方をするかの2択なんですよ」という感じでお伝えしてました。

アナグラム

無料にするからには楽天にとってもそれ以上のメリットは必要ですし、双方にそれなりのリスクはありますよね。そういった中で売り方の発想力とかが鍛えられたんですね。

sakamoto

そうですね。それでそのチオビタを10円で売っていた会社、どうなったと思います?

アナグラム

今や年商1000億円とかですか?

sakamoto

いえ、ぼくが抜けて何年か経った後に倒産してしまいました。二人三脚でやっていたので、すごくショックでした。僕はこの人に対して、商品や施策など色々提案をし、感謝されて、結果も出たし、やり甲斐を感じていました。

しかし、実はそれは、単に自分が「売上を派手に伸ばす」「すごい事例を作る」ための努力だったように思います。自分のための成果を追うだけで、本当に相手のことを考えたコンサルティングではなかった、と反省しています。

一方、同じ時期に別のクライアントでおじいさんがやっている月商50万円くらいのところがありまして、その方最初は「楽天のやつらは広告を買えしか言わない」というクレームの電話ばかりだったんです。でも話していくうちに仲良くなって飲みにも行くようになり、その方は広告をたくさん買うわけでもないんですけど、こういう方と仕事をするのもおもしろいなと。

徐々に売上は上がって月商150万円くらいになったときに「このまま200万円まで行きましょう!」というと「いや、困るんだよね」と言われて驚きました。売り上げは伸ばしていくのが当たり前だと思っていたので。

「おれはこの商品を売って17時に家に帰って、ビールを飲んで、寝るというライフスタイルを崩したくない。分かってくれるお客さんとだけ付き合っていきたいんだよ。」ということを言われて、そういう生き方もあるんだなーというのを初めて感じました。で、その方は今もネットショップをやっていて、ぼくはそこのリピーターなんですけど今も時々お手紙をいただくようなすごく良い関係なんです。

アナグラム

これはめちゃくちゃ嬉しいですね!お客さんからメールでも手紙でも直接「ありがとう」と言ってもらえる仕事ってすごく幸せだと思います。

sakamoto

売上を上げれば必ずしも幸せかというとそうではないですよね。売上を〇倍にしますというアプローチのコンサルティングはよくあるんですが、このおじいさんみたいな方が売り方を学んで自走できるようになってもらうコンサルティングの方が、コンサルティングというビジネスにおいては競合も少ないし、需要もあるのではないかと思って今はコマースデザインという会社をやっています。

上でもなく、下でもなく対等なパートナーとしての関係

アナグラム

坂本さんは先日も楽天EXPOに講師として登壇されていたり、自社でセミナーをやられたりもしていますよね。セミナーはどれくらいの頻度でやってるんですか?

sakamoto

ここ最近は結構頻繁にやってますが、基本は年に数回くらいですね。

アナグラム

最近はよく地方とかでセミナーをやっているようなイメージがあるんですが。

sakamoto

去年の8月に楽天EXPOがあって、そこで登壇したんですけど、それをきっかけに地方からも声をかけていただくようになったので、それで最近は地方にも行く機会は多いです。ネットショップ業界って独特で、業界団体というものがなくて、地方ごとに勉強会とかをしているんです。

アナグラム

九州ECとかですよね

sakamoto

そうですそうです。それで名古屋大阪一辺に問い合わせが来たので、11月~12月にかけては東京、名古屋、大阪とツアーみたいな感じでセミナーやらせていただきました。

アナグラム

そういったセミナーをきっかけにコンサルティングを引き受けることもあるのでしょうか?

sakamoto

そういうのもありますし、ブログ、メールとか。結局何を最終着地とするかというだけなので、大前提はやっぱり書籍で、そのあとにメールできたり、ブログ経由できたりというだけです。自然検索から似たような業者さんと比較してくるようなケースもなくはないですが稀ですね。いつもメール読んでますとか、いつもブログ読んでますという方が多いので、そういった関係が問合せ時点で出来ていると無理なお願いをされることも少ないからいいですね。

アナグラム

そのあたりはうちと似ていますね。そういった対等な関係だと変な値切りもないですし、お互いやりやすいですよね。コンサルティングってモノがあるわけではなくサービス業なので、値切られるとどうしてもそこに人の感情が入ってしまう。

sakamoto

そうですね。うちはポリシーとして上でも下でもなくあくまで対等な立場、パートナーとしてお付き合いをしていきたいので。

ぼくたちの仕事はクライアントが自走できるようにアドバイスをすること

アナグラム

業務内容は基本的に楽天専門のコンサルティングということでよろしいのでしょうか?

sakamoto

はい、一応そう・・・なんですが。実態としては変わってきています。もう「楽天専門」のカンバンは外そうかなとも思わなくもないです。

アナグラム

私はもう坂本さんと長い付き合いですが、ずっと外した方がいいと思っています。楽天以外ができないのであれば外せないですが、坂本さんの場合はできるのを目の当たりにしているので。

sakamoto

ネットショップの売り場って楽天とか、Yahoo!とかAmazonとかいろいろあって、確かに売り場の話でいうと楽天の話が多いです。でももっと手前のオペレーションとか、採用とか、お店のコンセプトとか、そっちの話も結構多いんです。

アナグラム

それってもう楽天ネットショップコンサルというより経営コンサルですよね。

sakamoto

「ネットショップ事業者向け経営よろずコンサル」ですね。

アナグラム

なるほど(笑)

sakamoto

ネットショップ業界って、集客・接客・CRMとかがあるじゃないですか。例えばアナグラムさんの場合は業種をまたいで、運用型広告という集客に特化している。ぼくたちはネットショップという業界の中でも特に楽天というところを縦向きに特化しているんですよね。なので経営とかも入ってくる。

アナグラム

確かにぼくたちは集客に特化しているんですけど、より信用を頂くためにはやっぱり経営のとこまで話ができる必要があるんですよね。運用型広告のコンサルティングではあるんですが、信頼してもらって「それ社外秘ですよ!」みたいな経営に関する情報をいただくと、私たちは別の角度からさまざまな提案ができるんです。

sakamoto

なるほどなるほど。あれですね、最近よく言われるT型人材のような要領で、一つのことが発展していくと自然と広がっていくということですよね。最初から幅広くいこうとするとダメで、一点突破で支持を受けて徐々に奥深くまで入り込んでいく。なので最初に楽天コンサルを選んだのはより鋭くして、深くかかわりたいからです。今は深くまで関わることが多いのでもはや卸しの相談であるとか、BtoBの提案などをすることも多いですね。

アナグラム

そういった経営の部分まで相談にのることができるのって坂本さんや川村さん(コマースデザインの取締役)だからこそできることでもあるじゃないですか。社員の方がそれだけ深い位置まで関わるのって難しくないですか?

sakamoto

うちの場合、担当は基本一人なんですが、ミーティングとかはチームで動いたり、一人の力だけで完結することはないので、仮にそこの能力がその時に足りていなくてもチームの知見で解決することができます。

ソリューションにはある程度の型があるんですよね。例えば人手不足という課題に関しては、採用という方法もありますけどクラウドソーシングをうまく使う方法もありますよとか。

いろいろ相談いただくことを整理すると、多くのクライアントはAかBかを迷っていて、AとBについての話を聞いて、整理して、お話を聞く限り私はAをしたいように感じましたよということを返す。うちが答えを出すわけではなくて、状況を整理してあげるだけ。よろず相談を受けて、道を整理してあげて返す、そのコミュニケーションを確立しておけばどんな相談をいただいても大丈夫です。

アナグラム

なるほどなるほど。うちの場合は、内容が専門的なだけに相談をいただいたときに、クライアントが持っている選択肢を整理してあげるというよりは、やりたいことに対してそれならこういう方法やこういう方法がありますよ、選択肢を提示することが多いので、少し仕事の仕方は変わってきますね。

sakamoto

専門性が高い分野はそうですよね。ぼくたちの場合は、どんなお客さんが多いですか?どんな問い合わせが多いですか?とか、あとは御社のほかにも似たようなものを売っているところがあると思うんですが、なぜ御社は選ばれていると思いますか?データで見た感じではこういう方が多いかなと思うのですが、実際にはどうですか?という流れで論を立てて整理してあげる。うちはクライアントの宿題を代わりにやる代行ではなく、家庭教師のようにあくまで本人が自走できるようにすることが仕事なんです。

「よろず対応」ができる人を増やす

アナグラム

今取り組んでいる試みとかはありますか?

sakamoto

今は「よろず対応ができる人」をもっと増やそうと思っています。

今の経営コンサルってお寿司屋さんでいえば回らないお寿司が多くて、気軽に入れる回転寿司は少なくないですか?でも回転寿司ってめちゃくちゃ需要ありますよね。事業をやっている人って東京だけでなく、田舎にもたくさんいます。そういう方たちってそもそも経営コンサルという発想すらないことが多い。

例えば地方の自転車屋さん。ホームセンターでも自転車を扱うようになって、中国からは安い自転車もたくさん輸入されて、そういう時に自転車屋さんのオーナーって周りに相談する人がいないんですよ。でもそういう方たちがもっと気軽に相談できるような敷居の低いコンサルティングもあっていいんじゃないかということで、そういったコンサルティングができる人を増やしていこうと思っています。

アナグラム

がっつりコンサルティングに入るというよりは何かあった時に的確なアドバイスをくれる用心棒的な存在ということですね。いわゆる経営コンサルの低価格版というイメージでしょうか?

sakamoto

そうです。例えば季節の食品を販売しているところのお客さんに、もう食べられないような状態で商品が届いて炎上してしまった。さてどうしよう、という時にもある程度型があって、Aというやり方とBというやり方があって、それぞれこういった懸念があります。

でもよく考えるとBの方の懸念って懸念と言えるほどたいしたことではないですよね、というアドバイスをする。中小企業でテンパっている人は相談相手がいないことが多いので、お詫びにと思ってさらに自社の食品を送ろうとする方もいるんですけど、それだともう火に油を注ぐようなものですよね。それを気づかずにやってしまって最終的にどうすればいいかわからないという状況に陥ってしまうわけです。

中小でお店をやっている方、田舎でお店をやっている方ってお店そのものが人生のようなものじゃないですか。そういった人生に寄り添える位置にいたいなと思っています。そうすると楽天オンリーではなくて、もっと広げていかないといけないし、中小企業は圧倒的に数が多いのでそれができる人を増やしていかないといけない。

古代ギリシャにはパンクラチオンという総合格闘技のようなスポーツがあって、同じく古代ギリシャのプラトンという哲学者は「パンクラチオンは不完全なボクシングと不完全なレスリングの合体」と言ったんですが、それでもパンクラチオンは強いんですよ。個々のボクシングの技術、レスリングの技術はそれほど磨かれないんですが、組み合わせる技術が磨かれる。

私はテクニカルなところというよりは、集客・接客・CRMから派生して採用とか経営など総合型として関わってきました。ボクシングやレスリングには型があると思いますが、やっぱり総合型にも型はあるので、ある程度型にあてはめれば人材育成も難しくはないと思っています。

アナグラム

そうか、確かに坂本さんはECの4タイプ理論をはじめ、型に落とし込むのが得意ですよね。EC4タイプ理論を初めて目にしたときは頭の中にボヤっとあったものが明確に整理されていてすごくすっきりしました。業種は違えど、やっていること同じだー!って。それをきっかけに僕らは許可を頂いて「リスティング広告5タイプ理論」を作らせてもらいました。

sakamoto

そういうこともありましたねぇ。私のセミナーはだいたいそうですね。薄々わかってはいるけどボヤっとしているものを言語化してあげるということ。

なぜ楽天なのかというところに戻ると総合型でやりたいのでフロントを複雑にしたくないんですよ。自社サイトとなるとカートの仕組みだとか、テクニカルなことをたくさん考えないといけないじゃないですか。そうするとフロントだけで終わって結局総合型になれないみたいなことが起こりうるのかなと。でも最近は型はあるような気がするので、自社サイトの方のコンサルティングもやってもいいのかなというのは考えています。

アナグラム

でもそうすると楽天専門というコマースデザインのブランドがちょっと変わりますよね。

sakamoto

実は昔は楽天専門のコンサルティングって少なかったので、「楽天専門と聞いてきました」と相談に来る方が多かったんですけど、最近は楽天専門でやってるところが多いので、うちが選ばれている理由は「楽天専門」というところじゃないと思うんですよね。実際に「楽天の売上を上げたいです」というド直球な相談は少ないですね。なのでスライドしてもいいかなーという気はしています。

信じたくなる時に疑うことができる、疑いたくなる時に信じることができる

アナグラム

人生の転機みたいなのってありますか?

sakamoto

楽天の時に先ほどのおじいさんのお店を担当させてもらったのとかは人生の転機かもしれないですね。それ単体というよりはその前に真逆の売上をどんどん上げていくようなクライアントを担当していた経緯があったからこそというのもあるんですが。

人生この先何があるかわからないというのが楽しい人もいれば、先が見える方が落ち着いて安心できるという人もいますよね。

アナグラム

クライアントでいうとどちらのタイプの方もいるかと思うんですが、コンサルで入ってうまくいく会社とそうでない会社ってどう違うのでしょう?

sakamoto

素直さがないというか、決めつけが強い性格の方はうまくいかないことが多いですね。かといって自分の意思がなくすべて委ねるというのもダメなんですが。

「信じる力が大事」と「信じすぎてはだめ」とか、「あきらめない心が大事」と「執着してはいけない」とか矛盾する言葉ってあるじゃないですか。でもどちらも大事なのはわかる、というのを昨晩寝る前に考えていて答えが出たんですけど、「信じたくなる時に疑うことができる、疑いたくなる時に信じることができる」ということなのではないかと。

要は多角的な判断ができることなんですよね。信念を貫き通す!みたいな方って商品を売る力はなさそうな気がしますね。「社会的確からしさ」ということがあって、例えば「和気あいあいが大事」とかって社会的に否定はしずらいんですけど、それってホント?みたいな。

商売が上手な人って、構造を観察してその構造の異常値とかを見つけるのが上手な人なんじゃないかと。業界の常識では品揃えが大事だと言われているけど、実はお客さんはそんなに品揃えを求めていないとか、売り場面積が広くないといけないと思われているけど実は1坪でいいとか、そういうのを見つけられる人は業界をひっくり返してドカンと売り上げを上げることができる。世の中の仕組みを見つけてハックするのが上手な人は本質的に商売が上手な人だと思います。シリアルアントレプレナーと呼ばれる方たちがそうですよね。

今後の展開について

アナグラム

今後はどのようにしていきたいとかはありますか?

sakamoto

私の場合は先ほどの話とは逆で市場をハックして売り上げを伸ばすというよりは、自分がありがたがられる場所はどこだ、というのを探して、居場所を作ることです。それを自社でもクライアントでもやっていきたいと思っています。ノウハウだけを確立するのではなく、「〇〇さん、最近どうですか?」というような人間としてかかわっていくことができるような仕事をしていきたいですし、そういった「人を支援する人」を作っていきたいなと思っています。

売上の上げ方には農耕民族型と騎馬民族型があって、最初は騎馬民族型が勝つんですよね。農耕民族型が一生懸命畑を耕しているところに馬に乗ってワーっと攻めて奪っていくので。でも農耕民族はコツコツと文明を発達させて城壁を作り、制度ができ、組織ができ、どこかで騎馬民族よりもうまくいくタイミングが来るんです。短期的にはうまくいっているところを奪って(真似して)いくのはいいんですけど、最終的には農耕民族型のようにコツコツとやっているところが勝つと信じたいですよね。

アナグラム

楽天専門のコンサルティングというところに意識がありましたが、取材をさせていただくと楽天の話は経歴以外のところではほとんど出てこず、その理由も取材の中で明確になりました。楽天はあくまで深く付き合っていくためのきっかけで、本質はそこではなく人と人とのお付き合いがしたいという坂本さん。

ECの市場規模は年々伸びており、新規参入も多い。資金の潤沢な大手は回らないお寿司のような経営コンサルを付けて伸びていく一方、地元でなけなしの資金を使って開業し、だれにも相談できず困っている方も市場の伸びと比例して、おそらく増えている。

坂本さんがこれからやっていこうとされている敷居の低い経営コンサル人材の育成は、そういった多くの方々に、救いの手を差し伸べることになるだろうと感じました。

文:賀来重宏
編集:阿部圭司/高梨和歌子
写真:賀来重宏