「常に自信がない」が全ての原点。挑戦を続ける理由、大切なことはすべて”旅”が教えてくれた|株式会社シンクロ 代表取締役社長 西井 敏恭さん

  • 関東

株式会社シンクロの代表取締役社長、オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 兼 CMT(チーフマーケティングテクノロジスト)、「LOVOT」の開発・販売を手掛けるGROOVE X株式会社のCMO(チーフマーケティングオフィサー)と、超多忙な日々を送る西井敏恭さん。マーケターとしての西井さんのご活躍は様々なところで拝見する一方で、西井さんがどんなご経験を経て今に至ったのか?を深く伺ったインタビューは、あまり見かけません。そこで今回は西井さんの原点について、西井さんのルーツともいえる”旅”についてお伺いしました。「決して、クラスの中心や人気者になるような子どもではなかった」とご自身で振り返る学生時代から今や、引く手あまたのマーケターとしてご活躍される西井さんのマーケティアでしか聞けないエピソードは必見です!

旅を通じて気づいた自分の”強み”

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デジタルマーケティング文脈での西井さんは様々なメディアやセミナーでいつも拝見させていただいています!

今回は、”マーケター西井さん”のお話ではなく、マーケターになられる以前のお話から伺っていきたいです。2013年に出版された著書「世界一周 わたしの居場所はどこにある!?」を拝読しました。この本では、初めて世界一周をされる前の西井さんご自身についても触れられています。実は、最初から海外や旅行に興味を持っていたわけではなく、初めての海外旅行で衝撃を受けてから旅行好きになられたとのこと。その後の西井さんの人生を変えるほどの衝撃だった、最初の海外のご経験がとても気になります。

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興味がなかったというよりは、海外とは無縁の環境で育ちました。ぼく、福井県の敦賀市出身で家族含め自分の周りを見渡しても海外へ行った経験のある人がほとんどいなかった。

授業でも「英語なんて必要ない」と言っているような学生で、ある時大学時代の友人が「バックパッカーでタイに行った」という話を聞いたんです。今でこそバックパッカー自体珍しいものではないのですが、当時のぼくは「バックパッカーってなに?」「タイはどこにあるの?」というレベルで友人がタイにいく理由が全くわかりませんでした。

その彼から「今度、一緒に海外に行こうよ!」と誘われ、面白そうだからいいかなぁと軽いノリで行ったインド旅行から、”旅”にはまりました。

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「インドに行くと人生が変わる」とよく言われますが、西井さんもインドとの出会いが人生の転機になっていたのですね。

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「なぜ”旅”にはまったのか」に対する答えは、実ははっきりとわかっています。

ぼくは、小中高を通じてクラスの人気者でも中心人物でもなく、女子からモテる存在でもありませんでした。だからといって物静かな生徒ということもなかったのですが、飛び抜けて勉強が出来たわけでもない。所属していたサッカー部でもレギュラーにはなれるけど、チームの中心選手ではなかった。自分の中で、”強みがない”と引け目に思っていた中、インド旅行を通じて気づけた強みが「体と心の丈夫さ」だったんです。

例えば、海外に行くと病気になったり、お腹壊す人いるじゃないですか。ぼく、本当にお腹壊さないんです。インド旅行中に彼がお腹を壊している中、ぼくは病気にもかからなければ、お腹も下さない。汚い床で寝るのも大丈夫だし、屋台でご飯を食べてもおいしいと感じられる。当時はほとんど英語が話せませんでしたが、現地の方と臆することなく会話できた。「あ、なんかこれ、合うぞ。」と思ったんです。そこでようやくこの体と心の丈夫さこそが自分の強みだと気づきました。

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私が北インドへ旅行した際は、シャワーを浴びる時はもちろん歯を磨く時ですら水道水を口に含まないよう徹底していました。加えて、ウェットティッシュを常に持ち歩いてレストランで出てくる食器をすべて拭いてから食事をするくらい気を使っていた思い出があります。それでも私は体調を崩したので西井さんの体の丈夫さがとてもよくわかります。

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日本は快適なので、日本人がインドや諸外国へ行くと多くの人がイライラしたり、「早く日本に帰りたい」というマイナスなマインドになりがちですが、ぼくはインド旅行でなにか「グッ」とハマったものがあったんですよね。他の人がつまらない、きついと言ってることもぼくは全くきつくない。それどころか楽しくさえ感じられる。そう気づいてからは行ってみたい国が増え、世界各地へ旅行し、色んな人に出会いました。現地ならではのお話がすごく刺激的で、バックパッカーにどんどんはまっていきましたね。

年齢や職種はもちろん、自分の考えとは全く異なる人と出会うことで、自分の考えも広がり、今まで見えてなかった景色が見えてきました。それで、世界一周にも2度行きましたね。

日本企業のマーケティング力を強くしたい

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世界一周の経験を経て、日本への考え方に変化はありましたか?

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「日本のために何かをしたい」という気持ちが強く芽生えました。海外経験が長くなるほど、日本の良さも見えてくるので、同じことを考える人は多いんじゃないかな。

1番の学びは、普段ぼくらが受ける情報の捉え方です。現地の状況を直接見たり聞いたりしたことで、日本で受け取る情報が、常にすべて「正」ではないということを学びました。

20年前、日本のアメリカに対するイメージは世界の中心的存在で、正しいことをやっているアメリカに敵対する国は”悪い国”と言われる風潮がありました。一方で、その”悪い国”からすると、当然逆の見方があるんですよね。どちらが正しいではなく、情報を鵜呑みにせず、自分の目で見て、考えて、判断しないといけないというのを旅行を通して学びました。これは、マーケティングの仕事でも活きています。

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「日本企業のマーケティングを強くしたい」というビジョンを拝見したのですが、その考えは今も変わらず根底にあるのでしょうか?

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ありますね。日本はモノづくりを中心に発展した当時の成功体験がすごく強く、未だに「良いものを作れば売れる」という人が多い。ここまで発展したGAFA(※)も、結局彼らはモノを作ってないよね、と思ってる経営者が日本にはいるのです。

テレビCMを打てばモノが売れた時代から、他の人の口コミで購買行動が変わるような時代になり、マーケティング手法も年々変化している。にもかかわらず、未だにその考え方にフィットできていない企業をたくさん見てきました。ちゃんとマーケティングができる企業を増やしたいと強く想っています。

だから、最初に起業をした頃は、ぼくが持っているノウハウを伝えてマーケティングができる人材をクライアントさんの社内に増やせば、それに伴って社会も良くなると考えていたんです。ただ、最近それだけではだめだと気づき、e-ラーニングの新規事業を創ったり、マーケティング界隈のコミュニティを作ったりしています。

(※)GAFA(ガーファ) :「Google」「Apple」「Facebook」「Amazon」の頭文字を集めた呼称。

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西井さんがご自身のマーケティングノウハウをおろすだけではダメだと気づいたきっかけがあったのでしょうか。

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マーケティングの意義そのものが変わってきている、と感じたことがきっかけです。マーケティングは原価率や広告費率云々ではなく、そもそもユーザーのどんな悩みに対して、どのようなプロダクトやサービスで解決するのかを考えることが重要なはず。その部分を外部パートナーに任せっぱなしでは、スケールすることが難しくなってきているので、企業のマーケティングを考える人は組織の外にいるよりも、中にいる方が強いと思っています。

なぜなら、マーケティングは経営に近いと考えているからです。どんなに良い商品を作ってもマーケティングがうまくいかないと、会社の売上は伸びていかないですよね。

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考え方が変わったのは最近のことですか?

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いいえ、起業してから2年ほど経った頃ですかね。それで会社を作り直した経緯もあります。

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会社を作り直されていたのは初耳でした!

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起業当初はコンサルティングができる人材を増やせば社会も良くなっていくと思っていたし、当時の会社のメンバーもその旗を目標として集まってくれたメンバーでした。

しかし、事業の延長線上にある”なにか”とぼくがやりたいこととのズレを感じながら2年ほど経った頃、たまたまある企業の中に入ってマーケティング支援をできるチャンスをいただけたんです。その時既にe-ラーニング事業の構想もあったので、改めて会社を作り直すことにしました。

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現行のe-ラーニング事業は過去の西井さんの経験から今まで温めてきた構想がやっと形になったものだったのですね。

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そうですね、ぼくがいくつかの企業にコンサルに入って気づいた大事なことは、社内メンバーのリテラシーが上がることです。
つまり、社内でマーケティングを理解して自分たちで考える力がつけば、成功する確率は格段に上がります。そこで、組織の外から変えるより、組織の内側から学習し続ける仕組みを作りたい、と考えてリリースしたのが「Co-Learning」(コラーニング)です。

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実際にコンサルティングとして仕事を引き受けた際、これは丸投げされてるなと感じることもありますか?

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稀にありますが、失敗するのが目に見えてるので、その旨を正直にお伝えしますね。。

ぼくのミッションはシンプルに売上を上げること。そのためであれば自分の役職やポジションは正直なんでもいいと思っています。もし売上を上げるための課題がヒトであれば人事もやります。

ドクターシーラボ時代のぼくのチームメンバーは、みんな本当に優秀でした。何をしたかというと、自分でチームメンバーの採用をしたんです。化粧品会社で普通に採用活動をすると、化粧品が好きという方からはたくさん応募が来るのですが、マーケティングが好きだ!っていう方の応募は来ない。だからぼくがドクターシーラボの看板を背負って、外部へマーケティングについての講演を行うことで、マーケティングに興味を持ってくれる人を採用していました。

当時のぼくは社外で講演ばかりしていたので、社内メンバーからは「あの人は何をやってるんだろう?」と思われていたと思います(笑)

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『西井さんが何をやってるのか分からない状態』が正しい状態ってことですね。

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そろそろ、ぼくの本職を見つけたいところですね(笑)

苦しかった経験こそ、素晴らしい経験と思い出になる

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マーケティングを行う中で西井さんは企業がどのように変わっていくべきだと考えますか?

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外部パートナーに丸投げして上手くいかなくなった会社を多く見てきました。マーケティング施策がどんどん変化する中、必要なスキルもどんどん変化してると思います。つまり、社内のマーケティング担当者のスキルセットが変わっていくことが必要ですね。

例えば通販の売上拡大を目的にしたとき、CPAを5,000円から3,000円にするのではなく、F2転換率(※)を上げることが本質的な課題解決となることがあります。そんなとき、今は広告を打つべきではなくまずは転換率を上げるべきだ、という判断ができる人が社内にいるべきです。

よくある間違いは、「転換率はこれが限界」ということが社内で変わらない事実となり、これ以上改善する余地がないことが前提として話が進んでしまうことです。考えることを辞めてしまうことがすごくもったいない。しかし、多くの会社にジョブローテーション制度が存在するがゆえ、経験が浅いまま別部署へ異動してしまい、結果マーケティングの専門家が社内で育たない。

(※)F2転換率…初回購入を行った新規顧客のうち、どれくらいの顧客が2回目購入を行ったか、2回目購入への転換率を意味する

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お仕事をする中で、私たちも少なからず感じていることですね…。西井さんが日本企業の組織課題を経験されても、それでもなお日本企業のマーケティング支援にこだわる理由は、どんなところにあるのでしょうか?

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伸びしろがあるからですかね。この考え方はぼくの仕事選びにもつながっています。

以前、ドクターシーラボ、オイシックスや現在のGROOVE XのLOVOTの経歴を見て、「次に来そうな波に乗られていて、さすがマーケターですね!」と言われたことがあって、そう捉えられているんだなと少しびっくりしました。なぜなら、ぼく自身今までのキャリアをそういう観点で選んだことがないから。むしろ、真逆と言ってもいい。

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え、そうなんですか!?てっきり、次の波を読まれているのかと思っていました…。

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事実を言うと、ぼくがドクターシーラボに入社した当時は事業が伸びているどころか、むしろマイナスでした。入社する前はずっと好調でしたが、ある時から調子が悪くなり、このままではどうしようもない…となったタイミングで入社しました。オイシックスに入社したのも上場後に初めて2桁成長が止まった時期でした。要するに、ピンチのところしか行かないんです。

今イケてる企業はぼくが入らずとも伸びていくので、ぼくが入ることによるインパクトが大きい環境を選んでいますね。その分やりがいも大きいじゃないですか。もちろんプレッシャーもありますが、何もしなくても乗っているだけで向こう岸に着くような船には絶対にのらないです。

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苦しい状況を選ばれているお話を聞くと、あえて誰も行ったことのない国に挑まれてきた西井さんの旅エピソードが、いまここで全てに繋がった気がします…!

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そう、それです!旅とぼくの仕事での思考はすごく似てると思います。

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敢えて困難に立ち向かう考え方は、いつ頃から西井さんの中で認識されたのですか?

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世界一周を2年半も続けていると、大変なことや辛いことをたくさん経験してきました。例えば、アフリカで2回マラリアにかかったとか、気温40度の夜行電車に48時間缶詰とか。結局、56時間かかりましたけどね(笑)

その瞬間はすごく苦しいけど、結局すべてが貴重な経験であり、話のネタになっている。逆に旅行での楽しかった思い出ってあまり記憶に残ってないんですよね。

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「あのとき、大変だったよね~」と苦労話を思い出すことはあっても、順調だった時の話はあまりしないですよね。おっしゃる通り、順調だった思い出は時が経つと風化しやすいのかもしれないです。

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アジアを旅行してると暑いし、ご飯おいしくないし、早く日本帰りたいとか言う人をたまに見かけるのですが、じゃあ帰ればいいのにと思うんです。自分で選択したにもかかわらず、不平不満を言っているのは自分を否定してるみたいでダサいなって。仕事でも同じです。難しい仕事を選んでその中でいい点数を出すほうが面白いし、自分の選択で好きなことをして、その結果として売上げが上がれば感謝をされる。それってすごく嬉しいじゃないですか。

そういうぼくも実は、旅行に行く前は「給料を上げて欲しい」とか「こんなに時給が安いんじゃ働くのだるい」とか自分の選択に対して不平不満を言う人でしたけどね(笑)

新しいことをやるときに自信はない。しかし、粘れば大体上手くいく

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企業のピンチに駆けつけてV字回復されている功績はインタビュー記事で多々拝見するのですが、今まで上手くいかなかった事業もありますか。

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たくさんありますよ。それこそ、今携わっているLOVOTもこれからどうなるかわからないですし。過去の経歴も、全てが上手くいったわけではありません。むしろ、うまくいっていないことの方がたくさんあるんじゃないかな。

ありきたりですけどぼくは、多くのことは粘らないがゆえにうまくいかないだけで、粘れば大体のことはうまくいくと思っています。特にデジタルマーケティングは数字を可視化することができて、高速でテストを回すことができる。その分、粘り続けられるかどうか?が大事。

多くの方は自分の専門分野に対して、肌感覚をお持ちだと思います。ただ、一発でその肌感覚通りの数字が出ることはあまりないのではないでしょうか。数をこなしていけばどこかで上手くいくときがありますよね。なぜなら、悪いものだんだんとがわかってくるから。

しかし、大抵の人はわかる前に辞めてしまう。粘れば絶対伸びるという感覚がわかれば、仮に最初は上手くいかなくても、そんなもんだ、と受け入れられますね。ぼくの性格的な強みで、「いきなり上手くいくことなんてない」と思ってるからこそ続けることができ、最終的には粘り勝ちするのかもしれません。

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多くの人が心折れてしまうところを諦めずに粘り続けられるのは、過去のご経験から裏付けられた直感があるからこそだと思います。そんな西井さんにも、なにを頑張るべきかわからない時期があったんですか?

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いまもあります(笑)新しいことやるときは常に自信ないですよ

ぼくのキャリアを見て頂ければ何となくイメージ頂けるかもしれませんが、やったことのないことをやるほうが楽しいと思う人間なので、キャリアにおいて同じことはやりません。

だから、毎回新しい取り組みで上手くいく気はあんまりしないというか…自信はないですね(笑)だからこそPDCA回したり、仮説検証をちゃんとやるとか、当たり前のことをただひたすらに繰り返し行ってます。

例えば、ある商品に対してお客さんインタビューを経てその商品の熱狂的ファンが1人でもいれば絶対に勝てると思えます。逆に熱狂的なファンがいなくて、まあまあ好きと言うファンが多いとあまり勝てるという確信を持てないんです。めちゃめちゃいいと言ってくれる人が数人、または1%でもいれば後は磨き上げれば勝てるなと確信できます。そうすることで粘り続けられているのかもしれないです。

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熱狂的なファンの有無は西井さんがお仕事を受けられる基準にもなっているのですか?もし、1%の熱狂的なファンがいない場合、西井さんがその1%のファン作りから始めることも?

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どうかなあ。その1%のファンがぼくかもしれないね。ぼくがすごくいいサービスだなとか、”何となくいい”と思ったらそれはそれでよいかなと(笑)

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すごくわかります。「好き」の理由があるとその理由がなくなったら好きではなくなりますが、「何となく」にはそれがないですもんね。

マーケティングにも活かされている、旅を通じての多様性理解

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また旅行の話に戻すと、ぼくは旅行を通じて、多様性について理解できたと思っています。一方で多くの方は、真の意味での多様性を理解できていないのではないかと感じることがあります。

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『世界一周 わたしの居場所はどこにある!?』では、世界中の老若男女、ありとあらゆるバックグラウンドを持った方々と深いコミュニケーションを取られてきた西井さんが描かれていますよね。この本を読むと「西井さんには永遠に勝てない…」と感じてしまいます。

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個人的にはマーケティングの本よりもいい本だと思ってます(笑)

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この本を読む前に西井さんの著書『サブスクリプションで売上の壁を超える方法』を最初に拝読したのですが、『世界一周 わたしの居場所はどこにある!?』を最初に読めばよかったなと思います(笑)

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ぼく自身、旅を通じて多くのことを学んだのでそのように言ってくれて嬉しいです。

学んだことの1つに、多様性があります。例えば、「この野菜ジュースを誰が飲みますか」と質問をすると、30代男性、女性というペルソナで説明したりしますよね。ペルソナって使いやすいから結局、多くの人がペルソナにはまったマーケティングをしてしまいがちなのがもったいない。

生まれも育ちも違えば、価値観も性格も全然違っていて、1人ひとりみんな違うにもかかわらず、ペルソナのようなふわっとした枠に当てはめて考えようとするのには無理がある。サービスや商品を欲しいと思っている人が1人でもいたら、その人に似た人はいるだろうし、そういう人とどのようにコミュニケーションを取るかが大事だと思うんです。旅で世界中の人たちの多様性を知ることができたからこそ、その経験がマーケティングにも活きていると感じますね。

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これから西井さんがやりたいことはありますか?

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常に目の前でやりたいと思ったことがやりたいことですね。よく「10年後に何をやりたいですか」と聞かれるんですが「何もないです」と答えてます(笑)

2~3年後にこうありたいなあと思ってることはあるのですが、それも常に変化していますね。もしぼくが本当にやりたいことが決まっている人間だったら、世界一周に行っていないし、化粧品会社にも野菜の会社にも就職していないと思う(笑)

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西井さんのお話を伺っていると、自分がやりたいと思ったときにいつでも動けるような状態にしておくことが大事なのかなと思いました。

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過信しないこととかもすごく大事ですね。繰り返しになりますが、ぼくは基本自信が無くて、自信がないからこそ新しい取り組みをする時はものすごく勉強する。最近はエストニアにはまっていて、何度も行っています。何の知識もなく観光するだけだと「エストニアは綺麗な街」で終わってしまうのですが、事前に歴史を学んでおくと、旅での見方や感じ方は大きく変わります。やりたいことをやるための準備ならその時間も楽しめる性格みたいです。

アナグラム

旅行に例えるとすごく具体的でわかりやすいですね。

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旅行も行きたいから行っているだけで、実はあまり深く考えてないかもしれません。起業したのも「起業したことないからやってみよう」くらいで、強い志があったわけでもない。起業してみて社長に向いていなければ辞めたらいいや、くらいに思っていました。

今でもぼくは、みんなを引っ張って行くタイプの社長ではなく、CMOとか、ちゃんとした社会性や意義を持っている人たちと一緒に実行していく方が得意なのかなと思っています。

ただ、実際に起業をしたことで当時は見えていなかった社長の姿も見えてきて、考えることもありましたね。ぼくがやりたいことと組織としてやりたいことがあるからこそ、会社としてやってるだけなので、もしそれがもしなかったら辞めているかもしれませんね。先のことなのでどうなるかわかりませんが(笑)

アナグラム編集後記

去年(2019年)は1年の1/3は海外に居たとおっしゃる西井さん。140カ国以上(2020年8月現在)を巡り尚も世界を飛び回る原動力、西井さんを”旅”へと駆り立てるものが何なのかを知るべくして行われた今回のインタビュー。今のお仕事も最終的にはすべて”旅”に帰化するお話が、西井さんのルーツに触れることができたのではないかと思いました。

ご自身の学生時代を振り返り「強みがない学生だった」と表現されていたのも「何でもできるというのは、何にもできないことと同じ」という状況を自分なりに変えたいと思っていたところのインドとの出会いは結果論、運命だったのかなと想像を膨らませながら記事の執筆を行っていました。

本のタイトルでもある「世界一周 わたしの居場所はどこにある!?」の居場所は見つかったのかという質問に対し「ぼく、タイトルつけてないんですよね。編集者さんに決めてもらいました(笑)」という裏話までも西井さんらしいなと感じられるとても楽しい取材でした。

文:杉山美和
編集:賀来重宏/森 弘繁
写真提供:西井 敏恭さん