社員全員でお客さんの声を聞く文化がサービスを成長させる。アイデアはお客さんとの対話から生まれるもの|レンティオ株式会社 代表 三輪謙二朗さん

  • 関東

楽天株式会社、家電ネットショップのベンチャー企業を経て、2015年に家電レンタルサービス「Rentio(レンティオ)」を創業した三輪謙二朗さん。近年ではレンタルサービスの拡大だけでなく、レンタルを選択肢として取り入れた新たな消費モデル「IEDAS(イエダス)」を通して不要な所有を減らし、価値ある体験を増やすミッションにも取り組まれています。

利用者の大多数が「また使いたい」「本当に丁寧だった」との高評価レビューを投稿するレンティオさんのサービスは、なぜ多くの方に愛されるのか?その裏側を伺いました。

大学生だけど、当時の楽天社員よりも楽天市場の仕組みに詳しかった

アナグラム

今日は三輪さんのご経歴から紐解いて、レンティオさんの魅力を深くお伺いしていきたいと思ってます!三輪さん、大学時代はどんな学生でしたか?

null

大学に入学してから、ステーキ屋さんで2年間、家電ネットショップのベンチャーで2年間アルバイトをしていました。そのベンチャーが楽天市場に出店していて、ぼくと楽天の最初の出会いはそこでした。

ステーキ屋さんの仕事がおもしろくて、そのまま就職するか迷ったほどなんですが、他のビジネスも経験してみたい気持ちがあって。友人の紹介で家電ネットショップのアルバイトに出会う前から、ずっと家電が好きでしたね。

アナグラム

三輪さんと楽天が初めてここで繋がったんですね。家電ネットショップのアルバイト時代はどんな楽しさがあったのでしょうか?

null

家電量販店では売れないような、ニッチな商品がよく売れていたのは興味深かったですね。例えば、特定のメーカーさんのテレビのリモコン1つだけとか。おそらく、テレビは動くけれどもリモコンだけ壊れてしまった、紛失してしまった人が買ってくれていたのかな。

メーカーさんに電話をしてリモコンだけを買う手段もあったはずですが、それすら面倒と思う人にニーズがあった。あと、10万円の価格設定でしばらく売れなかった商品があったんですが、価格を9万5,000円に変更しただけで即売れたり。商売って楽しいなぁと思ったことをよく覚えています。

アナグラム

私もそんなバイトに出会いたかったです。

null

あるとき、その会社が楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤーに選ばれたんです。ぼくは大学生でアルバイトの立場でしたが、会社から「三輪くん、授賞式に行ってきていいよ」と言わて、会社代表として参加させてもらいました。その授賞式の場で、三木谷さんにご挨拶をさせていただく機会があったんです。

アナグラム

なんと、楽天への入社前にそんな出会いがあったんですね…!

null

当時のぼくはちょうど就活の時期で、三木谷さんに直接、「いま明治大学の3年生で、楽天に入社したいと思ってます。どうすればいいですか?」と質問をしまして。三木谷さんは、「おー、じゃあ秘書から連絡するよ」と言ってくださって、後日、本当に秘書の方からご連絡をいただきました。さすがに驚きでしたよ。

アナグラム

三輪さんの行動力がとてつもなさすぎて、言葉を失います。

null

ただ、採用フローは通常通りでしたね。何度か社員さんとの面接を経て、最終面接まで進みました。

当時の面接を振り返ると印象的なのは、面接官の方よりも、ぼくのほうがRMS(Rakuten Merchant Server。楽天の店舗運営システムのこと)に詳しかったんです。日々、RMSを操作してアルバイトをしていたので。面接官の方からするとぼくを落とす理由がなかったのかも。そういう意味では、他の新卒応募者と比較をすると多少プラスの評価をいただいたのかもしれません(笑)

アナグラム

就活前に志望会社さんのサービスを実際に使ってみる。現役の社員さんよりも詳しくなる。どんな就活本よりも参考になりそうな貴重な情報ですね。

null

入社後は楽天市場に配属となり、出店している約150店舗さんの担当をさせてもらいました。様々な店舗さんの取り組みを俯瞰して見ることができた経験は、今の仕事にも繋がっています。

楽天での仕事は毎日が刺激的だったんですが、中から多くの店舗さんを見ているうちに、やっぱり店舗さん側の仕事のほうも楽しそう…と感じてきて。

というのも、ぼくたち楽天社員がどう言おうが、根本的には店舗さんが本当に良い商品、良いサービスを消費者さんに提供しないと、売上が伸びていかなかったんです。もっと店舗さん、消費者さんに寄り添ってビジネスをしたいと思って楽天を飛び出し、大学生時代にアルバイトをしていた家電のベンチャー企業に戻りました。

アナグラム

三輪さんの想いのアツさに、すでに泣きそうです。

null

転職後はネットショップ運営から家電メーカーさんとの商談など、幅広い仕事を経験させてもらったのですが、思ったように成果が出ない時期もありました。人数の少ない会社だったので、ここで自分が成果を上げなければ会社を守れない…と思い、このタイミングでPL(損益計算書)、BS(貸借対照表)を見ながら仕事をする経験を積みましたね。

起業のきっかけはお客さまからの正直なお問い合わせの声

アナグラム

すべてのご経験が今に繋がってる感じがしますね。その後の起業にはどのように繋がっていくのでしょうか?

null

レンティオ創業のストーリーでは、友人の結婚式余興用としてたむらけんじさんの獅子舞をレンタルした原体験をよくお伝えしてます。他にも大きな理由があって、ネットショップ時代にお客さんからいただいていたお問い合わせ内容が関係しています。

「購入前にレンタルできませんか?」「買ったんですが自宅にはちょっと合わなくて、返品できませんか?」という声をいただいていたんですよね。ネットショップはクーリングオフ制度が適用されないので、会社によっては返品不可なこともあります。この仕組みはユーザー体験としてよくないなぁと感じていて、なんとかしたいとずっと思ってました。

ネットショップの運営会社には、楽天時代の新卒同期だった神谷くんがエンジニアとして転職をしてきてくれていました。ある日、神谷くんを誘って居酒屋に行った際、ぼくが家電レンタルのビジネスに可能性を感じていること、会社を立ち上げようと考えていることを彼に伝えると、嬉しいことに彼もぼくの考え方に賛同してくれて。そこから真剣に起業を考えはじめて、レンティオの前身となる株式会社カンパニーの設立に繋がっていきます。

アナグラム

そういえば、なぜ最初の社名は「株式会社カンパニー」だったのでしょうか?

null

ぼくは競馬が好きなんですが、好きな馬の1頭にカンパニーという馬がいるんです。

カンパニーは若い頃はそこまで目立った活躍をしていなかったんですが、大人になった5~6歳ごろから徐々に活躍するようになり、引退前には3連勝をして、有終の美を飾って引退していきました。

最初からグイグイと伸びるよりも、長い目で考えたときにしっかりと世の中のためになるような、そんな会社にしたい、との思いを込めて決めました。

アナグラム

別のインタビュー記事で、大学時代は朝からスロット店の開店待ちをしていた、という三輪さんのギャンブル好きエピソードを拝見していたんですが、社名にも三輪さんらしいエピソードが込められていて素敵です。創業当初はレンタルだけでなく、家電の小売り販売などもされていたと伺いました。

null

そうなんです。当初はレンタルだけでは食べていくことができず、家電の小売、卸販売、海外通販などもやっていました。ちなみに当時のサービス名は「家電レンタルドットコム」です。

アナグラム

どのタイミングでレンタル事業が伸びはじめたんですか?

null

当時はいろんなキーワードの検索数を調べまくっていて、その中でも「GoPro レンタル」「チェキ レンタル」などのキーワードの検索数が伸びてきていることに気づいていました。もちろん、「カメラ レンタル」の検索数も多かったんですが、カメラレンタルは競合サービスも既にいくつか存在していて。なのでそこを狙わず、「360度カメラ レンタル」「GoPro レンタル」「チェキ レンタル」の3商品に絞って攻めたんです。当時はSEO、広告をちゃんとやっているサービスがほとんどなかったので、そこを狙ってアクセルを踏みました。

創業3ヶ月目ほどで、チェキレンタルだけで月百数十万円の売上になり。当時は共同創業者の神谷くんと2人だけの会社だったので、2人ならレンタル事業だけで食べていける確信が得られました。

ちょうどこのタイミングでとあるきっかけをいただき、レンタル1本に事業を絞る覚悟を決めて、社名をレンティオに変更しました。

資金調達をきっかけに中小企業から脱却。レンタル業界を牽引する会社となる覚悟を決める

アナグラム

その覚悟を決めたきっかけ、とは?

null

ベンチャーキャピタルさん(以下、VCさん)からの資金調達です。サービスのPMF(Product Market Fit)が見えてきた時期でもあったので、そのタイミングで他の事業を辞め、レンタル1本で勝負する覚悟を決めました。

アナグラム

そうだったんですね…!外部からの資金調達は、創業当時から考えていたのでしょうか?

null

正直、全く考えていませんでした。

最初は銀行融資をお願いしていたんですが、借りることができたのは数百万円まででした。レンタルビジネスはシンプルにいうと、10万円で買った商品を、1万円で貸し出すビジネスです。つまり、最初に商品を購入するための資金が必要なんです。

創業時は自己資金300万円で商品を購入して在庫を回転させていたんですが、例えばこれを1,000万円分にすると、その分、2倍3倍多くのお客さんにサービスを使ってもらえることは明らかでした。VCさんに声をかけてもらえたタイミングは、まさにそんなことが見えてきた時期だったんです。

当時のぼくは「出資 とは」で検索して調べていたくらいに知識がない状態だったんですが、VCさんの熱い想いを伺うと、次第に見える世界が変わっていって。このままスローペースで中小企業としてやるよりも、もっと大きく仕掛けるべきだ、と覚悟を決めました。

アナグラム

自分たちのためというより、お客さんのことを最優先した結果とも言える資金調達ストーリーですね…!その後は取り扱い商品も増えていったかと思います。どんな基準で取り扱い商品を増やすのでしょうか?

null

まず商品ページを作っちゃうんですよね。でもこの段階では在庫を1個も持っていません。お客さんから最初のレンタル注文があった後に、メーカーさんから商品を仕入れます。なので最初は何百何千ページという商品ページを作りました。

在庫1個の商品のレンタル中に新たに2個目以降の注文が入ったら、またメーカーさんから仕入れる。これを繰り返したんです。すると、取り扱い商品のポートフォリオが自然と組まれていくんですよね。お客さんの「レンタルしたい」という需要があってこそ、レンティオの事業も拡大していったイメージです。

ただ、一時的なブームっぽい商品には仕入れ制限をかけることもあります。レンタルビジネスは在庫の回転率がすごく大事なんです。

アナグラム

まさに『三方良し』な仕組みですね。商品ページを作る、作らないの判断はありますか?

null

法的に問題ない商品か、ちゃんとメンテナンスができるかどうかなど一定の基準はありますが、基本的にはまず商品ページを作成して、サイトに掲載しています。もし最初の注文があった後に注文が続かなければ、価格を変えたりもできるので。

アナグラム

なるほどです!価格決めのルールなどあるのでしょうか?

null

ある程度のルールはありますが、ガチガチにルールに則っているわけではないです。

レンタルは必ず商品の往復送料がかかるんですよね。大きい商品は送料も高くなるし、どうしてもレンタル代も高くなります。ただ、それでも需要があるんです。

例えばオフィスに置く大型の加湿器や、屋外掃除用の大型洗浄機など、特定の時期にしか使わない家電製品ってありますよね。そういった商品は自宅やオフィスに保管をするとスペースを取るし、次の時期に使う際、メンテナンスの手間もかかってしまう。ならば少し高めのレンタル代でも、必要なときだけレンタルで使って返却をすれば、保管スペースを占めることもメンテナンスも必要ない。ぼくたち側は特にこれといって対法人向けの施策を打っているわけではないんですが、実は個人だけでなく、法人のお客さんにも多くレンタルしていただいてます。

アナグラム

わかります。オフィスだと大型の加湿器は冬場しか使わず、夏場は保管に困ります…。競合のレンタルサービスと価格で比較されることはないのでしょうか?

null

お客さんはほとんど競合サイトと比較しないそうなんですよね。競合じゃなく、Amazonの商品購入価格と比較されます。おそらく自分で買うか、レンタルするかを迷うのかなと。

あと競合のお話から少し外れますが、レンタルサービスが伸びた背景には、メルカリさんなどの二次流通サービスの伸びがあります。メルカリさんが伸びたおかげで、コンビニで商品を発送することに慣れた人が増えたんですよね。コンビニで働く方々も商品の発送手続きに慣れました。

数年前はレンタルしたお客さんから、「着払いってなんですか?」「コンビニで送るってどうやるんですか?」などの問い合わせも少なくなかったです。商品と一緒に返送方法を図入りで記載した紙を同封しても、なかなか伝わらず。なのでどんなお客さんでも迷うことのないよう、「これ(同封した着払い伝票)に名前を書いて、◯◯(コンビニ名)に商品を持っていって、店員さんに郵送をお願いしてください」まで、細かく返送方法を記載していました。今はそういった問い合わせが少なくなったので、返送方法の説明も簡易化してます。

アナグラム

私もメルカリユーザーですが、数年前と比較して、コンビニで郵送手続きをする心理的ハードルは下がった気がします。

少し話が変わりますが、三輪さんは最近までカスタマーサポート(以下、CS)も現場で担当されていたと聞きました。いつ頃までご担当されていたのでしょうか?

null

創業から3年間くらいはずっと担当してましたね。お客さんの声を聞くことが大好きなんです。

創業当時のウェブサイトは正直使い勝手がよくはなかったんですが、お客さんにご意見をいただいて、それを一つ一つ改善した結果が今のレンティオなんですよ。ぼくたちからの発案でこうしよう、という変更は、実はとんどありません。それくらい、お客さんとの対話を大事にしてます。

アナグラム

すごすぎます。

経営層からエンジニアまで、社内の全メンバーがレビューに目を通す文化がある

null

CSの実務は現場メンバーに任せていますが、お客さんが回答してくれるレビューやレンティオに関するツイートは、自動で社内Slackに通知が届く仕組みになってます。

通知を見て現場のCS担当が改善が必要、と判断すれば、Slack内ですぐにマネージャーに改善提案を投げられます。

お客さんに最も近い担当者が「お客さんがこう言っています」と上げてくれる情報は、主観ではなく事実なので、まず情報をすぐに共有する文化が大事と思っていますね。ルールにしているわけではないんですけど、ぼくを含めた社内メンバー全員が、自然とお客さんの声を見に行く文化があります。

アナグラム

Twitterでレンティオさんについてツイートするとすぐに公式アカウントさんが反応してくださる仕組みが不思議だったんですが、今その謎がとけました。お客さんの声を大切にするようになったきっかけはあったのでしょうか?

null

楽天時代の経験が影響しているかもしれません。複数店舗さんのお話を伺うと、お客さんの声をサービス改善に反映している店舗さん、そうでない店舗さんで、明らかに売上に差が出ていたんです。前者の店舗さんは長期的に見ても売上が上っていました。CSと売上の関係は数値化が難しいんですが、肌感覚レベルで「これは絶対に関連している」と感じてました。

アナグラム

ネットショップの利用者側の体験として、すごくよく分かります。万が一商品に難ありだったとしても、丁寧な対応をしていただけると、次もお願いしたくなりますよね。

null

レンティオは現場に売上目標がないんです。もちろん経営メンバーは見ていますが、現場メンバーには悪いレビューやクチコミが増えたと感じたら、すぐにみんなで対策を考えるようにしてもらっています。

1つ例を出すと、ここ最近は商品の出荷と件数が急増したんですが、一方で対応するメンバーは急に増やせない。返却されてきた商品処理が追いつかず、返却してくださったお客さんへ「返却確認ができました、ご利用ありがとうございました」と連絡をするのに、返却から数日かかってしまうことがありました。

その間、お客さんは不安になってしまうんですよね。返送した商品がちゃんと処理されただろうか?と。この時期は実際、返却連絡が遅くて不安だった、というレビューが増えていました。これを現場のリーダーに相談すると、すぐに対応してくれたんです。

アナグラム

楽天の「成功のコンセプト」にある、「スピード!!スピード!!スピード!!」が活かされいますね…!現場のリーダーさんがすぐに判断をして動けた秘訣はなんでしょうか?

null

現場を含めて全員がCSの大切さを理解している、という点が大きいと思ってます。短期的には他業務にあたるほうが売上が伸びるかもしれませんが、お客さんから支持されないサービスは、長期的には伸びないと思うんです。

あと、少し話が反れるかもですが、社内に向けてこんな話を伝えることがあって。お客さんから支持されていないサービスを運営する会社で働くのって、正直、辛いじゃないですか。特に家電に関しては、ぼくらはレンタルサービスという業界を、自分たちがゼロから創っている、と思ってやってます。であれば、ぼくらがお客さんに嫌われてしまうと、この先の家電レンタルサービスそのものが伸びなくなってしまう。それは絶対に良くない。

アナグラム

金言すぎて、毎朝その言葉を繰り返したいです。いや、繰り返します。

お客さんへの圧倒的な寄り添いがサービスに現れていると感じる点の一つが、レンティオさんサイト内の特徴的なレビューの表記と思ってます。レビュー項目が商品レビュー、サービスレビューで分かれていることが印象的です。


https://www.rentio.jp/reviews

null

最初は一緒にしてたんですよね。しばらくお客さんからのレビューを見ているうちに、「商品購入には至らなかったけど、レンタル体験は良かったです」というレビューが多いことに気づいて。そこから商品レビュー、サービスレビューを分けました。

アナグラム

なるほどです。ネットショップではよく「商品はよかったけど、発送が遅くて残念でした。星1つです」みたいなレビューを見かけますね。レビューを眺めるときに混乱することがあります。

null

あと単純に、サービスに対して良い評価をもらえると、ぼくたちが嬉しいんです。いいレビューがSlackに届くと社内のみんなでキャッキャしてます(笑)反対に悪いレビューがあれば、みんなで落ち込みます。経営メンバー、マーケティング担当、エンジニアも、役職を問わず全員がレビューを見てます。

アナグラム

またもや、皆さんのお客さんへの寄り添い力がすごい。

null

あと、ここでレビュー項目を分けたことで、メーカーさん側にもより具体的な商品フィードバックをお返しできるようになったんです。商品レビューには嬉しい感想だけじゃなく、不満だったレビューも投稿されますが、商品を買わなかった理由のレビューをメーカーさんに伝えると、どのメーカーさんもすごく納得してくれるんですよね。

レンティオはレンタル後にそのまま商品を購入することもできるんですが、レンタル後に購入してもらえる商品、してもらえない商品とで、けっこうな差があります。後者の場合、そもそもメーカーとしてその商品を売り続けるべきではないのでは?という選択肢も出てきます。商品レビューがあるとなんで買わなかったのか?をメーカーさんにちゃんと伝えることができるので、商品のここを改善して、もっと良いものを作りましょう、と前向きなお話ができるんです。

ちなみに、ぼくたちはメーカーさんへのフィードバックを「レンティオ・サーベイ」と呼んでます。

「買わない」選択があると幸せになれる

アナグラム

気になります、レンティオ・サーベイ。

null

家電メーカーさんって、お客さんとの接点が多くないんです。商品の販売チャネルとして大きいのは家電量販店さんなんですが、家電を買った後に使用感のレビュー連絡や返品をする人はほとんどいません。お客さんが購入し、ご自宅で実際に使ったことで初めて感じる不満点があったとしても、メーカーさんはその声を聞く手段がない。電話でのお客さま相談窓口はありますが、クレーム電話が多いそうです。さらに不満を持った人全員がクレーム電話をかけるわけじゃなく、多くのお客さんは無言のまま不満を抱えて、商品から離れてしまうんです。

アナグラム

まさにです。事前に確認しなかった自分が悪かったと思い、遠ざかってしまったことも多々…。レンタルユーザーだけ増えて商品を買ってもらえなくなることはないのでしょうか?

null

レンタルした後に商品を購入しやすくなるような仕組みもあります。レンタル後に10%割引で購入できるクーポンを付けたりとか。中には自社ネットショップサ内に「レンティオでレンタルをする」ボタンを設置いただいて、購入前にまずレンタルできる導線を用意してくれているメーカーさんもいらっしゃいます。ちなみにそのメーカーさんの通販売上は、他の大型プラットフォーム経由の売上よりも自社サイト経由の売上が最も大きいそうです。

ぼくたちとしては、むしろ「買わない」という選択肢があることで、お互いに幸せになれるのではないかな?と考えているんですよね。

アナグラム

買わない幸せ、言われてみればその通りですね。買ってから細かい点が期待に届かず使わなくなってしまうなら、事前にレンタルで試せるとお互いに幸せです。

null

お客さんにもメーカーさんにも、もっと寄り添って新しい価値を作っていきたいんですよね。

「購入しない幸せ」を図と言葉で表現して、「IEDAS(イエダス)」という考え方をまとめました。これも、お客さんの声を聞く中でずっと考えていたことが元になっています。商品を買わなかった人にも、選ばれなかったメーカーさんにも、どちらにも新しい価値を提供できるのがレンタルだと思っていて。買わない人が明確になると逆に、この商品はこんな人には合わない、でもこんな人にはとても合う、が明確になるんですよね。


https://www.rentio.co.jp/mission

答えは全てお客さんが持っている。ブックスマートじゃなく、ストリートスマート

アナグラム

まさに近江商人の「三方良し」の考え方ですね…!三輪さんって(イイ意味で)スタートアップの経営者っぽくない感じがするのは、なぜでしょう?経営者というより商売人っぽい雰囲気を感じます。

null

そもそもスタートアップではなく、中小企業として創業しましたからね(笑)商売人っぽいね、とはよく言われます。

グロービス・キャピタル・パートナーズの投資担当、渡邉佑規さんから、「三輪さんはブックスマートじゃなく、ストリートスマートだよね」と言われたことがあって。

ブックスマートは体系的なロジックを深く学んで来た人、ストリートスマートは、何だか分からないけれどたくさんの人と会いまくって泥臭く学んできた人、という意味だそうでした。ちなみにそれを言われたときのぼくは「ブックスマート」=「本をたくさん読んでいる人」のことと勘違いをしていて、渡邉さんに「ぼく、いろいろな本を読んでますよ」と言ったんですが、渡邉さんから「いや、違うんだぞ。ブックスマートはMBAを取っているとか、マッキンゼーでバリバリ働いて学んだ人のこと言う。三輪さんは違うじゃん?」と言われて、「違います」と(笑)

商売人っぽいと言われたのは嬉しかったな。商売が好きなんです。

アナグラム

大学時代のステーキ屋さんアルバイト、楽天、家電のネットショップと、どの仕事でもお客さんととことん向き合っていらっしゃる点が共通している気がします。

null

ですね。今の仕事の原点を考えてみると、実はステーキ屋さんの経験がかなり活きているかもしれません。当時の店長さんとは今でも仲良くしていただいているんですが「お前は当時から、よくお客さんと話をしてたもんな」と言われます。会話をしながら、あーだこーだ考えることがすごく楽しかった。

アナグラム

ちなみに当時のアルバイト中はどんなことをしていたんですか?

null

ステーキ屋って、肉が焼き上がるまでにちょっと時間がかかるんです。ご家族で小さいお子さんと一緒に来店される方がいると、お子さんは肉が焼き上がるまで待ちきれずに、「先に何か食べられるものはありませんか?」と聞かれることがありました。お店ではステーキのつけあわせにマッシュポテトを盛り付けていたので、店長さんに相談して、お子さん用にマッシュポテトだけ先に用意したことがあります。

あと、ぼくは当時から1人で飲みにいくことが好きで、一度行ったお店に改めて行った際、顔を覚えてもらえると、すごく嬉しかったんです。ステーキ屋さんでも、お客さんの顔と前回の注文を詳しく覚えていました。で、リピーターさんが来たときに「前回の注文はこれでしたよね?」と話しかけたり。超一流のレストランでそれをされるのは当たり前かもしれませんが、自宅近所にある何気ないお店でそれをされると喜んでもらえるし、実際、リピーターさんも増えました。

アナグラム

つい何度も繰り返してしまいますが、過去のご経験の全てが、今に繋がっている気がします。

この記事を読んでくれる方の中には、これから起業を考えている方もいるかもしれません。もし三輪さんがその方たちにアドバイスを求められたとしたら、何を伝えますか?

null

起業に関する本を読んでいると、たまに「お客さんの声を聞きすぎるな」とあるんですよ。確かに全てをそのまま受け入れることは難しいですが、もしこれから作りたいサービスがあるなら、友人や知人、知らない人を含めて、いろんな人に意見を聞きまくることをおすすめしたいです。

あと、すぐにやること。この2つが揃っていれば変な失敗はしないし、もし失敗したとしても、もう一度やり直せます。

創業時は本当にいろんなサービスを使ってみたんですけど、同じくまず自分で体験しまくることも大事です。ぼくも社内メンバーも、気になったサービスは今でもまず使ってみます。実際に使ってみて、どこがどう良かったか、悪かったか、自分たちで考えてます。例えばウェブサイトの商品カテゴリーはどう並んでいたか、レビューはどの位置にあったかなど。他のサービスを使ってみて良いなと思った部分はすぐに取り入れるようにしてますし、実際にレンティオではレビューを表示する位置を変えました。共同創業者で技術責任者の神谷くんも同じ想いを持ってくれているので、そういった際はすぐに動けるんです。本当に、人に恵まれています。

アナグラム

本質的ですごく大事なことだ…!三輪さんがレンタル以外で注目しているサービスや業界はありますか?

null

そのサービスが存在しているだけで、社会の課題解決に繋がっているようなサービスに惹かれますね。例えばBloomee LIFEさん。サブスクリプションの仕組みでユーザーさんのご自宅にお花を届けながら、同時にお花屋さんの課題も解決していますよね。これってすごく意味のあることだと思うんです。

Bloomee LIFEさんって、スタートアップにそこまで詳しくない、注目をしていない人にも使われているんですよね。全くスタートアップに興味がないぼくの奥さんがいつの間にか使っていて、ちょっと嫉妬しました。ぼくはもっと前から知っていたぞ、と(笑)

レンティオで言うと、家電に全く詳しくない初心者の方にもっと使ってもらえるサービスにしたいんです。例えば一眼レフカメラは詳しい方が多くいる業界なんですが、一方でカメラを購入すると本体もレンズも値段が高いので、なかなか最初の一歩が踏み出せない方も多くいます。そういった初心者の方にこそ、まずはレンタルをしてみてもらいたいです。ウェブサイトのトップにある「レンタルを感動するほど簡単に」には、そんな想いを込めています。

アナグラム編集後記

取材中にふと、気づいたことがある。

今回のインタビューは三輪さんのご経歴と合わせて、レンティオさんがサービスに込めた想い、ユーザーさんとの向き合い方などを詳しく伺った。その間、事前の打ち合わせ時には想定していなかった深く突っ込んだ質問をさせてもらったのだが、こちらがどんなに細かな質問をしても、三輪さんは数秒たりとも間をとって考え込むことがなかった。お客さんに関することは全て即答だった。

なぜ三輪さんは、少しも間を取ることなく即答し続けてくれたのか。おそらく常日頃から、誰よりも徹底的に、お客さんと、レンタル業界全体のためにできることを考え続けているからだろう。覚悟を持って、お客さんと真正面から向き合って商売をされている。三輪さんの言葉の端々からそんな想いが伝わってくるようなインタビューだった。

気になる商品があれば、まずレンタルしてみる。買わない選択をすること誰もが新たな幸せ得ることができる世界の実現は、そう遠くなさそうだと思う。

文:森 弘繁
編集:永井 淳悟/高梨 和歌子
写真:森 弘繁