『人の二倍働き、人の二倍遊ぶ。全てが仕事で、全てが遊びである。』これこそがいいマーケターの条件だ!トライバルメディアハウス代表池田紀行さんの生き方

  • 関東

12年前、34歳でトライバルメディアハウスを創業し、30代はひたすら仕事に没頭してきた池田紀行さん。現在はnoteで働き方や仕事観について発信をしつつ、サーフィン、キャンプ、DIYなど多くの趣味にも突き抜ける池田紀行さんに、今の生き方に至った経緯や仕事観についてお伺いしました。話は自然と地球規模に……。

会社の主役はスタッフ。ぼくが死んでもトライバルというDNAが未来永劫残り続けるような会社にしたい

アナグラム

まずは池田さんの経営するトライバルメディアハウスの事業について教えて下さい。

ikeda

トライバルメディアハウス(以下、トライバル)はマーケティング全体を支援する会社で、企業のマーケティング戦略全体のコンサルティングやプロモーション戦略の立案、リアルイベントの企画・開催、制作ディレクション、メディアの出稿管理、効果測定などすべてをワンストップでやります。それとは別にソーシャルメディア統合管理ツールやソーシャルリスニングツールなどのSaaSも提供していますね。

アナグラム

ソーシャルメディア周りはやや変わったものの、創業当時からマーケティング支援という軸は変わっていないですよね。創業してからすでに10年以上経つと思うのですが、昔と今とで大きく変わったことなどありますか?

ikeda

昔のFLASHゴリゴリのWEBサイトが主流だった時と比べると一発ドーン!というキャンペーンより、小型化したキャンペーンでPDCAをどんどん回していくというやり方に変わってきている。ソーシャルメディアやスマートフォンの普及によってユーザーに細切れの時間が増えたので、1つのプロモーションに対してまとまった時間を使ってもらうことが難しくなりました。なので、細切れでも完結するようにライトウェイト化してきていますよね。

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たしかに1分くらいの空き時間でもスマホ開いてしまいます。その短い時間でもスピーディに楽しんだり、参加できるプロモーションが増えていったのですね。そういった仕事は営業選任の方が営業をかけて取ってくるのですか?

ikeda

コンサルティングやプロモーションの領域に関しては、営業専任はいないです。ほとんどのお仕事は引き合いで、本を書いたりセミナーの講師をして、それをきっかけに声をかけていただくことが多い。その後に提案して、受注という流れですね。

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複数社のコンペに参加することも?

ikeda

コンペはできる限り受けないようにしています。そもそもオリエンが間違ってることが多いですし…。例えば5社コンペだとして、うちだけオリエン返し(そもそもオリエンが間違ってますよという提案)をしても企業側からするとお前たち何言ってんだ、となってしまうことが多い。なので、トライバルが考える戦略やプランニングの文脈を分かっていただけなさそうな場合はお断りすることが多いです。

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それって最初からそのスタイルなのですか?それとも最初はコンペにもガンガン参加していて、現場が疲弊していくのを見てやめたとか。お話しを聞く限り、うちもコンペには積極的に参加しないので、ちょっと似てるなぁと思いまして。

ikeda

後者ですね。創業期はトライバルメディアハウスとか池田紀行とか誰も知らないので、そんなところに数百万円も数千万円も預けてくれません。最初は知り合いの広告代理店の人に一緒にコンペやりましょうよと声をかけてもらっていました。コンペには何戦参加したんでしょうね。力不足もあったと思いますがゼロ勝でした…。

ikeda

結局代理店経由だと又聞きの情報なので、クライアントの本当の意図がわからない。そもそも直接提案にも行けなくて、提案が刺さっているのかどうかも分からないから改善のしようもない。提案の2週間後くらいに代理店の人に「あのコンペどうなりました?」と聞くと、「あー、ダメでした!」みたいな。「おい!」って感じですよね。このままだと会社潰れるぞと思って、そこからは直クライアントで契約をもらえるように死ぬ気で本を書いてセミナーに登壇しました。

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池田さんは昔から本の執筆も積極的にやられている印象があり、その辺りも最初は戦略的だったのですね。値切られないためであったり、下請けにならずにクライアントと対等な関係を築くためには、本を執筆するというのは有効な手段ですよね。

ikeda

そう、この業界では正解が決まってなくて、1つの問題に対していろんな解釈や答えがあるので、その道に詳しい人が、何を言うのかが大事な側面がある。WHOの価値を上げないと良質なご相談をいただくことは難しいので、WHOの価値を上げることに尽力しました。

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わかります。となると今のトライバルのインバウンドマーケティングの要は池田さんの活動ということですか?

ikeda

その段階はもう過ぎましたね。ぼくはトライバルをゴーイングコンサーン(継続企業)にしたくて、ぼくが死んだ後もトライバルというDNAが未来永劫残り続けるような会社にしたい。全盛期は年間60回くらい講演をしていましたが、4、5年前くらいにいつまでも池田商店のままじゃダメだ!と思い、セミナー登壇数を減らしたり、案件に入らなくしたり、口出しを減らしたり、朝礼で毎回ぼくが話すのをやめたりと社内での存在感を弱めた時があったんですが、その時はそれによって会社の引力が低下した気がしたことはありました。そこからまた少しだけ前に出るようにしています。

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外部セミナーを年間60回ですか、週1以上のペース…!

ikeda

でも今ではぼくじゃないスタッフが本を書いて、セミナーもやって、しかもエースだけでなく色んなスタッフが講師をできるようになりました。だからぼくが今セミナー登壇をやめても引き合いは減らないと思います。池田商店ではなくなりましたね。

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池田さん以外の方も講師として壇上に立てるのはすごいですね。じゃあ池田さんはいま、意図的に離れようとしていると。

ikeda

ぼくがいないと会社が回らない状態っていうのは健全ではない。ただし、楽天もソフトバンクもユニクロも名だたる日本の大企業って創業者が会社の看板じゃないですか。なのである程度アイコンとして存在しているという大切さはあるんですけど、ぼく自身がめちゃくちゃ動いて会社の仕事をとってくるのは今後のことを考えると健全ではない。僕も歳をとって体力が無くなりますからね(笑)。今はもうスタッフが100人を超えて、ここまでくると会社の主役は社長じゃなくてスタッフじゃないと絶対成長できない

アナグラム

それでも人によっては池田さんの会社、という印象が強い人もいると思うのですが、クライアントさんから池田さん来てくれないんですか?という話は出たりしませんか?

ikeda

それが、スタッフが70~80人を超えたあたりからぱったりとなくなりました。おそらくお客さん側が遠慮してくれているのではないかと。むしろぼくが同席するとすごい恐縮されたりすることもあったりします(笑)。

経営委員会メンバーとは阿吽の呼吸。彼らをサポートするのがぼくの仕事

ikeda

会社経営でも昔とは考え方がだいぶ変わってきました。昔は「みんな仲良しこよし」という家族経営を目指していましたけど、今はどちらかというと「勝つために存在している」プロスポーツチームという考え方の方が強い。もちろん家族のようなウェットな関係を作りたいというのは今でも残ってはいますけど、愛のある関係も、心理的安全性も、プロチームスポーツ型でも実現可能なんですよね。

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それは10年以上経営して過去の色んな経験からですか?

ikeda

スタッフが30人くらいの急成長期に、即戦力採用に力を入れたことがあったんですけど、その頃はカルチャーフィットしてない人が増えて大変だった。とにかく社内の雰囲気が良くなくなっちゃって。それもあって今はカルチャーフィットを重視して、会社への入口をめちゃくちゃ大事にしています。だからどれだけ優秀な人が来てくれてもなんかトライバルっぽくないなと思ったら絶対に採用しない。

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カルチャーフィットなのかスキルフィットなのかどちらを優先すべきか?というのは組織毎やその組織のフェーズがあったりもするのでその時その時で変わっていったりもしますよね。今でも池田さんは採用面接に入っているのでしょうか?

ikeda

最終面接で入ってますよ。ただ、ぼくの役割は選考というより、会社の魅力を説明して内定承諾率を上げること。一次面接、二次面接を人事と現場スタッフがやって、大体ぼくのところには「池田さんこの子まじで最高なので絶対なんとかしてください!」って連絡が来る。それで内定蹴られたら「ちょっと池田さんのトークが足りなかったんじゃないですかぁ?」みたいな(笑)。

アナグラム

池田さん結構いじられるんですね(笑)。今もどんどん採用はしているのですか?

ikeda

採用は常にしています。よく「我が社は離職者がひとりもいなくて~」っていう話ありますけど、それって不健全だと思うんです。会社が成長すればカルチャーは変化しますし、求められてくるスキルも変わってくるので、その過程で出入りはあって当然。10%くらいの離職率は健全だと思ってます。面接の段階で人事、現場、ぼくがトライバルの魅力を伝えて、そこに共感する人は入社してくれるし、逆に入社しても「最近のトライバルちょっと合わないな」という人がいたら一定の遠心力で退職していく。ミッション、ビジョン、バリューをぼくが会社の中で言い続けたり、朝礼で唱和したりしなくても、こっちの方がトライバルっぽいよねというカルチャーがだいぶ浸透してきたなぁと。

アナグラム

目に見えないだけに会社のカルチャーは大事ですよね。作ろうと思ってすぐにできるものではないし、気づいたら崩れている可能性もある。100人規模となるとかなり難しいかと。

ikeda

トライバル最大の発明が経営委員会という経営意思決定の機関で、そういうのってたいてい5~8人くらいじゃないですか。うちはその場にスタッフ100人中の20人が参加してるんです。そのメンバーで週1回2時間の会議をし、半期に1回くらいは合宿をやるのでそのメンバーはだいぶ阿吽の呼吸。昔は10人でやってたんですけど、その時は経営会議をやった後にまず経営会議の参加メンバーがミドル層に話を伝えて、それをさらにその部下に伝えるみたいな。でもこのミドル層は意思決定の背景を知らないのでモヤモヤしたまま伝えないといけないことも多かった。

アナグラム

層が多いほど伝言ゲームのように間違った内容が伝わってしまう可能性が高いですもんね。

ikeda

そう!せっかくカルチャーフィットしててスキルもあるなら経営委員会に入ってもらい、週1回結構ハイレベルな意思決定の議論をして、なるほど!と背景をわかってもらう。現場にもその背景をしっかりと伝えることができるようになってめちゃくちゃ良くなりました。普通に考えたらAなのになんで池田は絶対Bだと言うのかは、役割ごとに視座が違うからで、理論や論理で説明できることなんて半分くらいしかない。ぼくの意思決定がなぜそうなっているのかはそこに立ち会わないと議事録だけ読んでもわからない。文脈までしっかりとわかってないと。

アナグラム

一般的によく言われていると思うんですけど、会議に参加するメンバーが多いと意思決定が遅くなったり、議論に参加しないメンバーが出たりはしないですか?

ikeda

確かに、意思決定が遅くなることは否めません。でも、経営委員会メンバー20人との1on1はぼくがやるので、いまできていることや、助かっていること、逆にもっと頑張ってもらいたいことなどはちゃんと伝えるようにしています。委員会と1on1をやっていると20人がぼくの意を汲んで動いてくれることが多くなるのでもうめちゃくちゃ助かる。ぼくが「そろそろあれに手をつけとかないとー」って考え始めると、「最近これが課題なのでタスクフォース化しまーす」みたいなことも多い。だから、人数が増えてスピードが落ちた!とは一概には言えないと思ってます。

アナグラム

毎月20人と1on1はかなりハードでは…?

ikeda

委員会メンバーが気持ちよくやりがいを持って仕事ができていれば、会社はうまくいっていて、それをサポートするのがぼくの仕事なので全然OKです。でも、去年はお互い忙しくてあまりできなかった。だから、今年からまた頑張ろうと動き始めたところです。

アナグラム

昨今の会議時間を減らそうという動きとは逆行してますよね。

ikeda

無駄な会議は減らすべきですけど、ぼくがやっているのはどちらかというと会議というよりは、次世代経営層の教育という側面が強く、全てがぼくなりの研修なんですよね。

アナグラム

なるほど、その場で次世代の経営者を育てて、ゴーイングコンサーン(継続企業)にしていくことにつながっているわけですね。

人の二倍働いて、人の二倍遊ぶ。全てが仕事で、全てが遊びで

アナグラム

30代の池田さんは休み関係なくがむしゃらに働いていた印象なのですが、言葉を選ばずに言うと、今はめちゃくちゃ遊んでいますよね。何かきっかけがあったのでしょうか?

ikeda

20代のころにウィンドサーフィンをやっていたんですけど、面倒くさくなって一度やめてたんです。大人になったらロングボードでサーフィンやりたいなぁ…と思っていて、30代後半は年に2回ほどスクールに入ってやったんですよね、レンタルで。ある時会社のスタッフに「池田さんいつまでたってもやらないので、今日ウェットとボード買いましょう」って言われて、その場でじゃあ買いに行こうと。そこから毎週のようにサーフィンに行くようになりました。

アナグラム

突然(笑)。それがきっかけだったんですね。サーフィン以外にも自転車、キャンプ、DIYなど多趣味ですよね。ワーゲンバスもめちゃくちゃかっこいいですし。

ikeda

サーフィンを始めると海に行くための大きな車が欲しくなるわけですよね。サーファーってみんなかっこいい車乗ってるし。だから車を買い換えようと妻にいろんな車を提案したんですけど、「なにこの戦車みたいな車。絶対嫌だ。私は今の車が気に入っているから、新しいの買いなよ」って。

アナグラム

奥さんめちゃくちゃかっこいいですね。

ikeda

そんなこと予想もしてなかったから「え?2台持ちありですか?」みたいな。アメ車とかどう?って妻に言ったら「その車本当に乗りたい車じゃないでしょ。本当に乗りたいのはなんなの?」って。

いつかワーゲンバスに乗りたいとは思っていたけど、そのいつかを叶えるつもりもなかった。でも本当に乗りたいなら考えて見てもいいんじゃない?と言われてすぐ調べて、次の日に実物見に行ったら「すげぇなんだこの可愛い物体は!!」みたいな。それで店長に1週間くらい考えますねって言ったら「あ、全然いいですよ~、でももしかしたら来週にはもうないかもしれないから、その時はごめんね。」と悪気なく言われたので、その場で財布に入ってた1000円の手付金払って即決。

アナグラム

展開が早すぎる(笑)

ikeda

そこからですね、吹っ切れたのは。叶えるつもりがなかった『いつか』が叶ったという喜びをワーゲンバスで味わい、キャンプもずっとやりたいと思ってたのですぐにキャンプ道具も全部揃えて、ワーゲンバスの納車同時にキャンプも始めました。

アナグラム

鎌倉に引っ越されたのはその後ですか?

ikeda

そうだね。それにも紆余曲折があって、20代の頃から付き合っていた妻とはいつか鎌倉に引っ越そう!という話をしていたんですよね。ところが30歳の頃に「40歳になったら仕事もある程度落ち着くだろうから鎌倉に引っ越そう!」という具体的な話をしていたにも関わらず、いざ40歳になったら全然それどころじゃなくて。「50歳になったらかな」とか言ってたら「そうやって、ずっといつかいつか…って言いながらあなたは死ぬんだよ!」って妻に言われたんです。

確かに「いつか」はぼくの口癖だなぁと思って、自分の「いつか」をありったけエクセルに書き出してみたんです。そしたらすごいたくさんあって! そこからぼくの「いつか撲滅運動」が始まりました。

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イイハナシダナァ。奥さん無しでは今の池田さんはないわけですね。確か昨年1ヶ月くらい休まれていましたよね?それがその時ですか?うらやましいというか、一気に行ったな!という感が凄かったです!

ikeda

そうそう、トライバルは浮世離れ休暇というのがあって、5年以上務めると丸々1ヶ月間休みを取っていいんです。もちろん有給です。権利を持ってるスタッフはいるんですけど、1ヶ月休みを取るって結構大変。取得率が20%ほどと低かったので、もうぼくが休もうと。それで2018年5月に1ヶ月間休みました。休み中は1日を朝昼晩の3つに分けて30日間どう遊ぶかという計画を綿密に建ててそれを愚直に実行しましたね。結果楽しかったけどやりたいことが多すぎて全然足りなかった(笑)。

自ら作ったという自宅のピザ窯でピザを焼く池田さん

アナグラム

1ヶ月も休みだとたいていの人は後半やることが無くなって、暇になりそうな気もしますけど、足りなかったんですね。「いつか」リストが溢れ返っていたと(笑)。

ikeda

ワーゲンバスも自転車もDIYも、すべての趣味で中途半端にやらずにとにかく突き抜けるというのは自分の中のコンセプトにしてるんですよ。よく趣味を通して何かを学ぶとかあるじゃないですか。中途半端にやっても何も学べないですからね。学びたいのであればとことんやらないと。

アナグラム

何かに秀でている人って話を聞いていておもしろいですし、突き詰めるということに慣れているので、そこが仕事に活きてきますよねぇ。今までいろんな方を取材させていただきましたけど、その考えはほぼ皆さん共通してます。池田さんは41歳で思考と行動を切り替えて、その後仕事の方に影響が出たりしましたか?

ikeda

悪い影響は一切ない。『人の二倍働き、人の二倍遊ぶ。全てが仕事で、全てが遊びである。』っていうのがいいマーケターの条件であるというのを創業した時からずっと言っていて、その割に社長って人の四倍働いて全然遊んでないよね、みたいなことをスタッフは薄々感じてたと思う。スタッフも「ようやく言ってることとやってることが一致したか」と許してくれたんじゃないですかねぇ。

アナグラム

池田さんは仕事も遊びも二倍どころではない気が(笑)。池田さんって昔の印象と変わりましたよね。昔はピリピリしていて怖いイメージでした。

ikeda

それはスタッフにも言われました。「池田さん最近顔が柔らかくなりましたよね」って。そうなったのもずっと仕事人間だったのが、遊びも始めてバランスのとれた人間になれたのかなぁと。気を張る部分と、いいじゃんやっちゃいなよっていう感じが前と変わってきたんじゃないですかね。

アナグラム

遊びも始めて心に余裕が出てきたということなんですかね。

ikeda

そうだと思います。昔は会社が潰れるからスタッフに大きな失敗をさせてあげることができなかったけど、いまはもう潰れる心配がないから、比較的自由にやらせてあげることができるようになりました。

自分の有限な時間を何に使うかは自分次第

アナグラム

最近は働き方、キャリア、仕事観のテーマでnoteをたくさん更新されていますよね。noteに公開しつつも実は社内向けだったりするのかなぁと思ったりするのですが。

ikeda

そういうわけではないですね。広報からは監視されてますけど(笑)。ブログからnoteに引っ越して、内なる心の声を書きたいと思って書いていたら自然とああなったというか。いつの間にか若者説教おじさんになってた!

アナグラム

決して説教おじさんでは(笑)。

ikeda

20数年間働いた経験が熟成されて、そろそろ色んな考えをアウトプットしとくかみたいな感じですね。最初は20個くらい書いたらネタが無くなるかなと思ってましたけど、意外と無くならないので続いています。2ヶ月で50本超えましたかね。

アナグラム

すごい…!じゃあそろそろnoteの内容で本の出版を?

ikeda

できるならしたいですね。編集者の方、どなたか!(笑)。ぼく、昔はラジオのMCとかやりたかったんですよ。ハガキで中学生の恋愛相談にのるみたいな。それの仕事版とかはやってみたい。Twitterでもできるんですけど、Twitterでそれをやっちゃうと良かれ悪かれ、いろんな質問くるじゃないですか。ぼくにはそれを受けとめる時間とメンタルがない。なので自分の琴線に触れる質問にだけnoteで答えるみたいなのができるといいかも。

アナグラム

その考え方になったのって最近ですか?昔の池田さんだと色んな意見に対して戦ってそうなイメージが強いです。

ikeda

戦ってないですよ!ぼく、メンタル弱いんで。だからこそ傷つかない環境を作りますよね。そもそも見ないとか、SNSでは議論しないとか。だって街で知らない人に「おい!相談に乗れ!」って声をかけられたら「あなた誰? 今忙しいんで。」で終わりじゃないですか。それがSNSだと答えないといけないのはおかしい。自分の有限な時間を何に使うかは自分次第ですよ。

ぼくの時間を使って世の中の総幸福量を少しでも増やしたい

アナグラム

本職であるマーケティングについて聞かせて下さい。

ikeda

ブランドの起源の話とかあるじゃないですか。昔は劣悪な商品がたくさんあったから、この焼印がある商品は間違いないよってところからブランドは始まってるわけですけど、もはや今のブランドっていうのは粗悪品を見分けるためでなく、どの焼印がついた商品を持って人から羨ましがられるか、みたいな記号になってしまったので、ブランドの意味そのものが変わってきたよね。そうなった時のブランドコミュニケーションってなんなんだろうと。

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それでいうと今モノを持つことの満足度は最大限まできてるので、D2Cを中心とした「ストーリーを買う」というところに買う目的が変わってきてると思うんです。モノを持っているという満たし方ではなくて、作っている人を支援しているという満たし方であったり、エシカル消費を代表するように、その商品を買うことで間接的に環境をよくしているという満たし方があったりします。

ikeda

常に変わってきていますよね。ぼくはここから10年でこれまでのマーケティングの70年の歴史が根底から全部ぶっ壊れると思ってます。マーケティングのやり方は根幹から変わるけど、マヨネーズとか醤油とかシャンプーとかそこにある商品は変わらない。だから昔こうだったという話はますます参考にならなくなる。商品一つひとつに添付されるセンサーの普及が在庫管理と自動発注の未来をもたらすと思っていて、そうなると習慣購買され続ける第一想起のブランドと、最安ブランドのどちらかしか生き残れなくなる。もしくはAmazonオリジナルブランドのOEMメーカーとして生き残るか。

アナグラム

サービス提供は終了してしまいましたが、AmazonのDashボタンはその先駆けでしたよね。

ikeda

そのようなことを常日頃から考えるほどぼくがマーケティングを好きなのは、世の中に影響を与えながら壮大なゲームをやってるように感じているからで、自分の感覚が当たり、自分の思った通りになった時の楽しさやエクスタシーがあるからなんです。

従前のブランドやマーケティングは劣悪な商品を選択せず、良い商品を見つけてもらいやすいようにするためだったのですが、市場の成熟化によって売り手発想が強くなり、中にはマーケティングを悪用し、消費者を騙してまで自社の商品を買わせるところまで出てきてしまった。

アナグラム

現在の広告業界の悪い側面ですよね。

ikeda

マーケティングは消費者をハッピーにすること、今はまだない良質な需要を創造すること、真に良いモノを埋没させずしっかり消費者に届けることを実現するための素晴らしい学問です。ただこの200年で世界は急速に平和になり、人口は増え、市場には良質な商品が溢れかえったことで、価格競争が激化してますよね。この流れは不可逆で、これからより一層スピードを上げて進展していきます。その流れの中でのぼくの役割はなんなのだろう?って考えると、どうせあと数十年すれば死んじゃうなら、ぼくの時間を使って、マーケティングという素晴らしいツールを活用して、少しでも人類の総幸福量を増やすことに寄与したい

アナグラム

なかなか難しいテーマですね……。

ikeda

人類総幸福量を上げるために、トライバルはどうすればいい感じになれるのか。でも150人の会社ができることって正直地球規模で考えるとめちゃくちゃ小さくてそれがすごく悔しい。だからぼくが死んだ後でもいいのでスタッフを数万人にして多少なりともトライバルという会社があるから幸せになったよね、みたいな世の中を作っていきたい。

アナグラム

バタフライエフェクトのようにトライバルという会社があったからこそ、それをきっかけにどこかで大きな台風が起きているということですかね。

ikeda

うん、池田の「い」の字も、トライバルの「ト」の字も歴史に残らなくてもいいけど、自分が死んだ後にあの世で「あの台風、最初に風を起こしたの俺なんだぜ!うひひ」って思えればいいんです。

アナグラム編集後記

池田さんは真面目なマーケティングや会社経営のお話をされつつも、間にユーモアを挟むことを忘れず、終始笑いが絶えませんでした。

スタッフのことも考え、日本のことも考え、人類全体の幸福も考え、かつ自分の趣味にも突き抜けて楽しんでおり、「人の二倍どころではないぞ…!」というのが取材を終えての正直な感想です。

世の中全体を見てみると「働き方改革」「ワークライフバランス」という言葉ばかりが先走っている感覚があるような気がしますが、本当の「ワークライフバランス」とは池田さんが体現されているようなことなのでは?と考えさせられる取材でした!

文:賀来重宏
編集:阿部圭司/齋藤彩可
写真:齋藤彩可