やりたいことが無いことは悪いことではない。自分が共感することに対して全力でサポートすればいい|プレイヤーからマネジメント、セミナー登壇と多様な働き方をされる株式会社アクシスCOO平岡謙一さん

  • 東海

インターネットとの出会いは新幹線通勤中にはじめたアフィリエイト。独立を経て、現在は株式会社アクシスのCOOを務める平岡謙一さんが会社を通じて実現したい想いとは?

地元・静岡を離れてアクシスへ参画したきっかけとは?

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もともとエネルギー関連のお仕事をされていて、静岡⇔東京間を新幹線で通勤している空き時間にアフィリエイトをはじめられたんですよね。代表の臼井さんと出会うまでの経歴を簡単にお聞きしてもいいですか?

hiraoka

大学卒業後は、地元・静岡で就職したかったので、専攻(エネルギー)×土地(静岡)で調べてとある大手企業の空調部門に行き着き、研究室の先生の推薦もあって就職を決めました。

入社後は、新幹線やリニアモーターカー等の空調設計をやっていました。高速走行する新幹線の空調設備は、常にガタガタ揺れていて故障が起こりやすく、その対策のために色々な実地試験をしましたね。のぞみが本来は止まらない田舎の駅に、私一人が乗車するために新幹線を止めてもらう、そんな普通じゃできない経験もつませてもらいました。

2年くらい経って、もっと海外で仕事をしたいと思うようになった頃、タイミングよく海外事業部が社内公募をしていることを知り、英語が得意ということもあって無事に転属。静岡⇔東京間を毎日通うようになりました。自分が開発に関わった新幹線で…。

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片道1時間半くらいかかりますよね。早朝から深夜まで、かなり激務だったのでは。

hiraoka

はい。ちょうど子どもが産まれた頃で、少し時間にゆとりがほしいなと思うようになりましたね。

当時、私はモラトリアムを起こしていて、隣の芝は全部青く見えたんです。そこで目についたのがFXとアフィリエイト。あの頃、FXがすごく流行っていて、最初にFXをはじめてみましたがあまりうまくいかず、自分には向いてないなと。コツコツとコンテンツを積み重ねていくアフィリエイトのほうが相性良さそうと考えて、行き帰りの新幹線でアフィリエイト用のコンテンツを作るようになりました。

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たしか占いサイトでしたよね。

hiraoka

そうです(笑) 占いサイトを紹介するアフィリエイトサイトです。「巷で”脳内メーカー”なるものが流行ってるな~」と思ったら、そういうキーワードで集客して「無料で楽しい占いがこんなにできますよ」と血液型占いをペタペタ貼ったりして。

ある日、自分が紹介している占いに興味が湧いて、ユーザーとして試しに登録して診断してみたんです。すると登録した自分のメールアドレスに、占いとは全く関係のない出会い系サイトのメールマガジンがばんばん届くようになりました。

こんな微妙なビジネスの集客に協力していたのか…と思いつつ、コツコツとサイトを作っていました。

ある程度稼げるようになり、ASPさんから「平岡さん、この商材やってくれませんか?」と紹介が来るようになりました。例えば脱毛器。「商品名 口コミ」「脱毛器 比較」というキーワードにはライバルがたくさんいたので、SEOでは勝てないなと海のポータルサイトを作って。

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あ、(察し)なるほど!

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全国の海のドライビングスポットを勧めるときに、脱毛器の口コミを添えてあげると「あ、週末に海行く前に脱毛しなきゃ」とコンバージョンしてくれます。他にも楽天やAmazonからAPIで水着の商品一覧を引っ張ってきて水着専用の通販サイトを作り、「水着買うなら脱毛器も必要だよね?」と訴求とか、アイデア勝負で色々トライしました。

順調にアフィリエイトからの収益が得られるようになり、会社を辞めて独立するか、副業のままに留めるかと考えていた時に東日本大震災が起き、そのときに「人生っていつどうなるのか分からないな。」と。惰性で企業に勤めるよりも、自分のやりたいことに本気で突き進みたいと思い、アフィリエイト1本で独立しました。

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アフィリエイトで独立された方の中には「誰からも感謝されない」「1人で孤独感がつよい」と虚無感を抱かれる方もいますよね。平岡さんにはそういう感覚はありましたか?

hiraoka

まさにそうですね。仮に、自分の作ったサイトが無くなっても他の人が同じ商品を紹介しているし、脱毛器の比較サイトを作ってもだれも幸せになっていないなと気付いて。ASPさんに感謝されることはあれど商品を買った方から直接『ありがとう』と言われることはないですしね。専業でアフィリエイトを続けている方は純粋にすごいなと思いつつ、自分には合わないなと感じるようになっていました。

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そんなとき、代表取締役の臼井さんと出会った?

hiraoka

いえ、彼とはもともと知り合いでした。私が登壇したSEOのセミナーに臼井が参加してくれていたんです。その時は参加者の中の一人だったんですけど、オーラみたいなものを感じて、セミナーが終わって自分から臼井に連絡を取りました。その後、お互いに独立してそれぞれ自身の会社をやっていて。ある日、臼井がやっていた物販事業の「SEOをサポートしてよ」と頼まれて彼の仕事を手伝うようになりました。そして一緒に事業をして行くなかで、臼井と一緒に事業をやることは楽しいなと思っていたところ、「一緒に会社をやらないか?」とオファーをもらい、静岡から岐阜へ引っ越すことを決めましたね。震災から1年以上経った夏の出来事です。

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当時すでにお子さんもいて、家族ごと引っ越すってけっこうな決断ですよね。ご家族の説得はどうされたんでしょうか。

hiraoka

それが反対とかは全くなかったんです。臼井の目指す夢には妻も共感してくれていて、お金を稼ぐことに思考が偏ってしまっていた私の心が、臼井と一緒に仕事をすることで正しい方向に導かれるんじゃないかと考えてくれていたみたいですね。妻と臼井、2人には足を向けて寝られないです。

自分が共感することや人に対して全力でサポートすることで迷いがなくなった

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アクシスに参画するタイミングで、平岡さんが1人でやっていたアフィリエイトは売却されたのでしょうか?

hiraoka

サイトはアクシスのサーバーに移管し、ASP経由の収益もアクシス名義に変えました。そのまま放置していたので、作ったサイトから発生する収益は緩やかになくなり、いまでは保有しているサイトはありません。

アフィリエイトを通して、サイト制作、集客、解析とマーケティングの全般的な知識を身につけることができました。この知識を活かしてクライアントさんに寄り添い、一緒に事業成果を伸ばしていくスタイルでいこうと。現在の仕事のやり方が、自分には合っているなと強く感じていて、これまでの仕事人生の中でいまが一番充実しています。

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一番!ほかにどのような面白みがありますか?

hiraoka

事業計画はもちろん、採用活動を経てどんな組織を作っていこうか臼井と二人で考える時間はすごく楽しいですね。臼井は0から1を立ち上げるのが得意なタイプで、私は1を10まで広げるのが得意なタイプなのでうまくお互いを補い合えています。

あとは、現場メンバーの成長を実感したとき。会社のスタッフがゼロから集客の仕組みを構築してクライアントさんの売上を大きくアップできたり、1人でクライアントさんのところに出向き、無事コンサルティングをして帰ってこれるようになったりとか、そんな成長を近くで見られるのは嬉しいですね。

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ここまでの話だと、臼井さんがやりたいことを平岡さんがサポートしていますよね。平岡さんご自身として、やりたいことっておありですか?

hiraoka

いろいろ考えたんですけど、正直、「明確にコレ!」っていうのはないんですよ。昔はやりたいことがないことに対して劣等感を感じていたからこそ、方向性がブレてしまった時期もあった。

ただ、ある人に「やりたいことが無いことは悪いことではないよ。自分が共感することや共感できる人に対して全力でサポートをすればいいんじゃないの?」と言われてスッキリしました。なので、強いて言えば、代表の臼井がやりたいことをサポートすることがやりたいこと。それに誇りを持っています。

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この前、新卒の座談会に来てくれた学生が質問してくれたことが結構近しくて、「やりたいことが見つからないことが悩み」と言っていました。正直、やりたいことなんてものは見つかるほうがすごいことだと思うんですよね。学生の時点で夢が明確に決まっていたら起業すると思いますし。やりたいことが何もないなら、興味を持てそうなものからまず実践してみるといいですよね。

「いい商品を持っていても売り方を知らない」クライアントへ真摯に向き合う

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事業について掘り下げていきますね。平岡さんが参画された頃から、「インターネット関連のコンサルティング事業」をがっつりやられていたのでしょうか?

hiraoka

当時は「海外のブランド品販売」しかしていませんでした。

お互いが独立していた時期に、制作は臼井が外注を使って、そこに私がSEOコンサルとして入り込んで物販用のサイトを立ち上げてたんです。比較的うまくいっていたんですが、やっている内容はシンプルで、アメリカから商品を持ってきてECで売るだけ。特許があるビジネスモデルでもないので、やろうと思ったら誰でもすぐに出来る。それなのに、なぜみんなやらないのだろうと考えたときに、障壁を感じるがゆえに実行できないんだと気付きました。

例えば、サイトが作れないとか、リスティング広告運用ができないとか、売るノウハウがないとか。いい商品を持っていても売り方を知らないだけでうまくいかない。この発見を通じて、コンサルティング事業にだんだんとスライドしていきました。

hiraoka

事例として、ECサイトで会社概要ページをどこよりも本気で作りこむだけで、めちゃくちゃ成果が上がったということがありました。当時、海外からの転売が流行っていたんですけど怪しそうなサイトが多かったんです。

商品を買ったお客さんと買わなかったお客さん、両者をカスタムセグメントで対比して分析すると、どうやら買うお客さんは特定商取引を見ていて安全な会社か見定めようとしているらしいと。この仮説に基づいて、会社概要ページを本気で作りこみしたら分かりやすく売上が伸びました。つまり私たちは、「会社概要をしっかりと書いてないとエンドユーザーが不安に感じる」という悩みを汲み取る方法を知っていたんです。

他にも自社コーポレートサイトを並行して作りこみましたね。「自社でブランド品事業やってます」「こういうふうに買い付けしてます」「アメリカにオフィスがあります」「店長はこんな方です」とビシっと書いたところ、さらに売上が伸びた。実在したしっかりとした会社だと、エンドユーザーへ伝わったんです。

そんな、私たち事業者サイドが当たり前と思っていることが、エンドユーザーにとっては全く当たり前じゃない、こんなことが経験を通じて分かるようになりました。

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アクシスさんは、弊社とスタンスが似ていて”一気通貫型のコンサルティング”を重視されていますよね。コンサルティング事業をやろうと決めて、一気通貫を目指しているのはなにか理由がありますか?

hiraoka

複数の代理店や制作会社が入り込むと、結果、部分最適にとどまってしまうなと痛感したからですね。

せっかく広告運用でいいキーワードが見つかったのにSEOに活かされていないとか、集客ができているのにHPの設計がなってないから穴の空いたバケツ状態だとか。あとは分析や解析をするためだけのレポート屋さんもいる。一番わかりやすい例は、KPIが新規会員数増加だったオンラインセミナー関連のお客さまです。

テレビCMを打ち、Yahoo!のトップページのプレミアム広告枠を買って、それを複数の代理店が広告運用して、また別のコンテンツ系の会社さんが記事書いていく…。KPIの新規会員数はどんどん増加していったけれど、そこの部長さんは肌感覚でなんかうまくいかないな…と課題感を持っていらっしゃった。

そこから我々がお手伝いさせていただいたんですが、蓋を開けると確かに売上が全然上がっていない。Google アナリティクスで流入元の動きを見ていくと、テレビCMやYahoo!のプレミアム広告枠経由で訪れたユーザーは、無料会員から有料会員の転換率が恐ろしく低かった。このようなユーザーはどこを見ているんだろう?とセグメントを切って分析していくと「大量の選択肢」がボトルネックになってしまっていることが分かりました。

“まずは無料”をフックに呼び込んだユーザーは、利用のモチベーションが低いからすぐ離脱してしまいます。そこで、モチベーション別に設計をし直して、意思決定のハードルを下げる仕組みを用意して有料会員への転換率を大きく改善することに成功。

今度は、急な有料会員の増加で講師の数が圧倒的に足りなくなってしまい、古参ユーザーが受講したくてもできない状況になり離脱。退会率が増えたことを受けて、退会対策室が勝手に退会フォームを消しはじめてしまい(笑)、検索のサジェストに「〇〇○ 退会方法」って出てしまって。

講師を増やして退会フォームも戻して、交通整理をしてあげたら、エンドユーザー側は使い勝手がよくなり受講時間が伸びる。月額課金だったので、たくさん受講されてしまうと利益があがらない収益構造になっていたためコンフリクトが起きてしまい、利益がでる損益分岐点を模索して受講料をアップ。やっと、うまいスパイラルに乗せることができました。

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この例は、それぞれの手法をある程度深く理解しなくてはならないし、コンサルティングの能力、いわゆる仮説提案力や課題分析力が求められますよね。組織としてそのポジションの人材を育てるのはめちゃくちゃ難しいというか、育ちにくいのではないかなと思います。

hiraoka

おっしゃる通りですね。大変なのを前提で、私たちはココを目指したいよねと突き進んできましたが、全部できるようになるまで育てるのって本当に時間がかかる。まさに悩んでいる最中です。手法別、業種別のように専門性を高める形で分けたほうが良いのか、今みたいに1人1人ぜーんぶやってお互いが相談しあえる文化を作って、1つの案件を3人くらいのチームでやったほうがいいのか、試行錯誤中です。

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育成の話つながりで、アクシスさんに来てくれるメンバーはどういう経歴の方が多いのでしょうか?

hiraoka

岐阜だとリスティング広告運用とかをやっている人が少ないので、経験者を見つけることが難しい。地元が岐阜でマーケティング・ITぽいことがやりたい子の受け皿として機能したいと考えていて、元リクルートとか早稲田大学出身の新卒とか、経歴は様々です。

東京には、我々と似たような会社はいっぱいあるとおもうんですが、”岐阜にある”というだけで比較されなくなる。圧倒的に優位に立てる。

あとは労働時間がそこまで長くなくて、大体19時にはみんな帰っているので、「岐阜で働きたい」「優秀」「労働時間は長くないほうがいい」子に選んでもらえているかなと。

元パチプロの子もいて、A/Bテストやスプレッドテストするときの嗅覚が抜群に鋭いですね。月150万稼いでいた元ホストの子はクライアントの課題を聞き出すのがうまかったり(笑)

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元ホストの方は、リファラル採用か直応募ですか?

hiraoka

たしか求人媒体でしたね。うちは「岐阜 IT」といったワードで検索すると上位にヒットするので、自社サイト経由もけっこう多いです。

今後の展望について

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さいごに平岡さんご自身の今後の展望をお伺いしたいです。プレイヤーとしての側面・セミナー登壇者としての側面・COOとしての側面と使い分けてらっしゃる平岡さんですが、それぞれの役割についてどうお考えでしょうか?

hiraoka

まず、本当はプレイヤーとセミナー登壇は卒業しなきゃと思っているんですよ。部下に任せていきたい。まだ任せきれないのは、部下が育ちきっていないのが半分。残りの半分は私自身がクライアントさんと対話したり、皆の前で登壇したいという気持ちを捨てきれていないのが半分かな。セミナーで人に話したり伝えることはすごく楽しいんですよ。

広告運用とかは、ほぼノータッチで今はもう部下のほうがスキルはあると思います。ただ、我々は「ただ広告運用をやる」のではなく、「なぜこの結果になって、これを他の事業へどういうふうに活かして、こんなキーワードがあったからユーザーの悩みはこうで、商品の設計はこうしていきたいですね」と寄り添うコミュニケーション能力や仮説立案能力が必要です。そこがまだ、なかなか部下に伝えきれていない課題点です。

COOとしては、人数が増えてきて組織づくりが進んでいるので本格的にマネジメントを勉強しなくてはならないですね。入社当時から役割としてはCOOだったんですけど、実質仕事の9割以上はプレイヤーでファイナンスや管理をしてこなかったです。管理者としてあるべき勉強をしないでプレイヤーとしてそのままマネージャーに上がってしまったというか。言ってしまえば我流で来た。人が入っては出て、入っては出て、と「なんでなんだろう?」といろんなことがわからなくて、3年くらい試行錯誤をしてきましたね。

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現場から離れることへの葛藤はまだありますか?

hiraoka

うーん、いまはそんなにないですね。心の持ちようが透き通った、50~60代の何人かの著名な経営者の方から示唆を得たのも大きくて、本気で働くためには小さな意地はいらないな、と思えるようになりました。

当時は、プレイヤーとしての自分には自信があるけど管理者としてはひよっこで。人が辞めるたびに管理者失格の烙印を押されているような感覚に陥って、得意な分野に逃げようとしていました。でも、はじめての子育てで完璧にこなせるお父さんなんて少ないじゃないですか。それと一緒で「管理者1年目だからできなくて当たり前だ」と思えるようになって、できないことを「できない」と言えるようになってきました。「経営ってこういうものなのかな?」と感覚が掴めるように変わってきたので、これからも試行錯誤を続けていきます。

アナグラム編集後記

クライアントの事業成果をあげるため深く入り込み、エンドユーザーの思想をとことん考え抜き、とにかく「寄り添うことに徹する」姿勢はまさにマーケターの鏡。

アフィリエイトでの独立を経てアクシスさんに参画したあとも試行錯誤し続け、いまが一番楽しいと活き活きされる姿は晴れやかでした。

お話を聞く中で驚いたのは「地場を盛り上げたい」という強い想い。織田信長をはじめ超有力な武将がいた歴史と文化がしっかり土地に根付いていて、助け合う文化が実態を伴っている点はすばらしいなと感じました。アクシスさんは上場に向けて挑戦を続けているそうで、「岐阜を盛り上げる」という大義とともに今後とも突き進んでいただきたいと願っています^^

文:高梨和歌子
編集:阿部圭司/賀来重宏
写真:賀来重宏