ポストペットのモモ、ナウシカの飛行具(メーヴェ)をはじめ、メディアアーティストとしてゼロイチをつくりだす八谷和彦さん

  • 関東

九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)画像設計学科を卒業後、コンサルティング会社での勤務や新しいコミュニケーションソフト『ポストペット』の開発などを経て、現在はオープンスカイというプロジェクトにおいて自身でナウシカの飛行具を作り、乗り続ける八谷さんにナウシカの飛行具であるメーヴェを作るにまで至った経緯や、オープンスカイの今後のビジネス展望などを取材させていただきました。

自分たちがやりたい、かつ、みんな欲しいと思っていることをやっている

アナグラム

今回はお時間頂きありがとうございます!先にお伝えしておきますと、小生の幼いころの夢はメーヴェを作ることでした。そんなこともあり、八谷さんのことは10年ほど前からずっと追いかけていたウォッチャーでありまして、今回こういったかたちで取材をさせていただけて本当に本当に嬉しいです!オープンスカイのお話も詳しくお聞きしたいのですが、まずはオープンスカイを始めるに至るまでの経緯を教えていただきたいです。

hachiya

読者の方が一番知ってるぼくの作品はたぶん『ポストペット』というペットがメールを届けてくれるメールソフトだと思うんです。

アナグラム

So-netのイメージキャラクターであるピンクのクマのモモですよね。使ってました!

hachiya

そういっていただけるとうれしいです!「ポストペット」を開発した背景をお話しすると、開発当時インターネットが普及し始めてビジネスでメールが使われはじめるようになっていたタイミングだったんですね。でも当時のメールソフトってどれも素っ気なく、不愛想だったんです。それでビジネスだけじゃなくて普通の人も使いたくなるようなメールソフトを作りたいと思って開発したのが「ポストペット」。そして、そのポストペット開発のために立ち上げたのがこのPetWORKsという会社です。

アナグラム

なるほど、当時ポストペットはCMなどでもすごく話題になりましたよね。たしかSo-netからの販売だった記憶があるのですが、So-netからの依頼があって作ったのでしょうか?

hachiya

いえ、だれから依頼があって作ったわけではなく、企画が先です。自身の前職のコンサルティング会社の経験から、エンドユーザーが本当に欲しいモノを企業自身が発見するのは実はかなり難しいと感じていたんです。企業から依頼を受けるのではなく、顧客の本当に欲しいものをわかりつつ、商品開発やマーケティング、システムや開発の技術を持った人たちが企業にプロダクトを持ち込むかたちの方が実は成功確率が高いのでは?とか当時思っていたんですよね。

当時のメールのやり取りって、まずインターネットにモデムで接続して、メールアプリを立ち上げて、メールの受信ボタンを押してという操作が必要だった。今は、メールはスマホに勝手に届きますが、当時は専用線じゃない限りそんな不自由な環境で。不愛想なメーラーだと普通の人にとってはメールを受信するのも面倒で簡単にやめちゃうんですよ。そこで、1通のメールの価値を上げたいと思い、ラブレターも送れるようなメーラーとしてポストペットを考えました。

hachiya

こういうメールアプリを考えたときに、開発会社が組んで一番メリットがあるのは誰だろうと考えると、どう考えてもプロバイダだなと。それで当時ソニーミュージックに知り合いがいたので、So-netに持ち込みで提案をしに行きました。生意気ですが、当時はこれを採用しないプロバイダはセンスないな、くらいに考えていたので、断られたら別のプロバイダに持ち込もうとか軽い気持ちで考えていたのですが、1件目のSo-netの当時の広報の方がものすごく気に入っていただいて、それで採用になりました。

アナグラム

開発当時からプロバイダと組もうとは決めていたのですか?

hachiya

最初はただ自分があったらいいなと思うものを作るのが目的でしたが、組んでいたエンジニアがすごく優秀な方で、どんな仕様にするか話しているうちに、メーラーだけど、ペットをメールで送り込んで、今で言うソシャゲ的なこともweb上でできる、と気づいて。プロダクトとしてすごく魅力的になりそうだったのでどこかの企業が組んでくれるだろうという自信はありました。

当時はいろんなプロバイダがあって、本質的に差別化が難しく、その結果価格競争になっている状況だったので、プロバイダ自身も価格以外の面で他と差別化できる要素を探していたと思うんです。広報の人が気にいってくれたのは、そのへんもあり、かわいいキャラで他社と差別化しやすい、というのもあったと思います。

自分のペットが相手にメールを運んでくれたり、相手のペットがメールを届けてくれたり、それ以外にもペットが昼寝したり、おやつをあげたり、とかもありますが、プロバイダと組めばおやつを会員向けに無料で提供できたり、プロバイダのサーバに送って子どもたちの運動会を見る、というようなゲーム的な展開もあったので、まずプロバイダと組むことは決めていましたね。

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いやぁ、参りました。企業からオーダーがあるわけでも、プロバイダの社内ベンチャーなどでもない方が持ち込みであのポストペットを作られていたとは…。その後アバターを使ったコミュニケーションツールは沢山出てきましたけど、ポストペットはそのはしりでしたよね。当時ポストペットのCMも本当に良く見かけました。

hachiya

裏話をすると、「やらなくていいゲーム」「ジョジョのスタンド」「切手っていいよね」の3つのコンセプトからポストペットは開発されているんです。

「やらなくていいゲーム」という点では育成ゲームって基本的に1日に何回も見て、餌をあげたり世話をしてあげないと死んじゃうじゃないですか。当時はたまごっちが流行っていて、それに批判的な考え方も自分にあったのでポストペットは育成ゲームの要素もありつつ、世話をしなくても死ぬことはない、という仕様にしました。

あと『ジョジョの奇妙な冒険』をご存知の方ならわかると思うんですが、スタンド同士を戦わせたりすることでスタンドの持ち主も傷ついたりしますよね。ポストペットでもそんな『ジョジョの奇妙な冒険』のような状況を作りたかった。

ペット同士が戦うことはないんですけど、メールを届けにきた相手のペットを可愛がれるだけじゃなく、殴ったりもできちゃうんです。ペットの飼い主は自分のペットが殴られたことをペットが書いたひみつ日記経由で知るんですが、「なんであの人自分のペット殴ったんだろう?」と考え、少し傷つく。元々ポストペットは、ラブレターも送るくらい親密な人同士に使ってもらう想定で作ったのでその仕様にしたんです。あえて、好きじゃない人には送りたくないようにしておきたかったんです。βテスト中に、ユーザーにその機能はいかがなものか…と何度か言われたんですが、ジョジョのスタンドの実体化である以上、その仕様は譲れなかったので押し切りました。

アナグラム

切手というのは?

hachiya

切手って良くないですか?先ほどラブレターの話をしましたが、もしラブレターを送るとなると内容や封筒だけでなく切手にもこだわりますよね。相手の好きなキャラクターの切手を貼ってみたり、どんな切手を貼ったら喜ばれるだろうとか考えたり、でも大事な切手は数に限りがあったりする。そういう切手のもつ意味ってすごく良いなぁと思っていたので、その良さも反映したかった。言うなればポストペットのペットは切手の精霊ですね。

アナグラム

なるほど、こうやって昔使っていたサービスの設計思想が聞けるのはうれしいですね!今でこそ絵文字を使ったり、スタンプを使ったりといろんなコミュニケーションができますけど、当時はそれこそ不愛想なメーラー上でテキストだけのやり取りでした。その後ポストペットはVRにも展開されていますよね。

hachiya

2017年にポストペットが20周年を迎えたのでそれの記念に自主企画でPostPet VRを作ってみました。ポストペットは2002年にキャラクターをカスタマイズ可能なバージョンとして、PostPetV3という3D化したものを作ったのですが、その3Dデータから作ったのがPostPet VRです。この時点でスマホで3Dのポストペットのデータを動かす実験をしておきたかったんです。ぼく、ポケモンGOやってるんですけど、ポストペットもポケモンGOのようなかたちでまた展開できるんじゃないかと思っています。あと、ポストペットはアプリケーション作れただけでなく、デザイン一式もやっていたので、ぬいぐるみとかグッズとか色々作る仕事も発生して、その経験を得ることができたのも良かったです。

アナグラム

今PetWORKsでやられているドール事業もポストペットのドール販売がきっかけで始めたのですか?

hachiya

ドール事業はポストペットのデザイン全般を行った真鍋奈見江が小さいころからずっとドールを作りたいと考えていたので、それを実現させるかたちでスタートしました。

アナグラム

ということはドール事業もポストペットと同じようにまず作って、作ったものを欲しい人に売っていくというかたちなのですね。

hachiya

そうですね、もちろんビジネスとしてクオリティが高いのは前提なんですが、当時は今みたいな大人の女性向けのドールが本当に少なかったんですよ。momokoDollは2001年からはじめて、コアなファンの方も結構いらっしゃいます。PetWORKsという会社はポストペット関連のソフトウェア事業、ドール事業、オープンスカイの航空事業と統一感が無いように見えるかもしれないですが、どの事業も自分たちがやりたい、かつ、みんなが欲しいと思っていることをやっているという点で共通点があります。中二のままの考え方を実現させているのがPetWORKsという会社です。

アナグラム

素敵すぎます……!ずっとやりたいと思っていたことを大人になって実現しているわけですね。多くの人は大人になって忘れるか諦めてしまいますよね。ぼくがメーヴェの夢を忘れてしまっていたように…。

みんながやりたいことのゼロからイチを作るのがぼくたちの仕事

アナグラム

とはいってもシステム事業やドール事業は商売として成り立ちそうな気がするのですが、今、八谷さんがやられているオープンスカイは多くの資金が必要になりそうなものの、商売としてはすごく難しそうな気がします。オープンスカイを会社としてやっていくのに社内からの反対はありませんでしたか?

hachiya

反対はなかったですね。ドール事業も商売というよりは真鍋がやりたいからという理由でスタートしましたし、うちは売れるかどうかのマーケティング・リサーチはしない会社なんで。

当時、この時自分が世界で一番メーヴェを作れる位置に近いと思っていました。つまり、幸いにもポストペットがうまくいって航空事業に投資できるだけの資金はあったし、仕事を選んでやる時間もあった。あと、飛行機作るからには自分で操縦したいわけですが、ぼく自身、中学高校と器械体操もしていたので、メーヴェを作ったら乗れる自信もあった。この時は、「今、自分が作らなかったらこの先数十年は作られないんじゃないか?」とか思ってました。考え方は中二のままですね(笑)

アナグラム

すごい…!完全にアーティストの思考ですね。ポストペットはシステム開発ですが、それとメーヴェという飛行具を作るのは事業としてすごくかけ離れている気がするのですが、もともと航空学などの勉強もされていたのですか?

hachiya

大学は九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)の画像設計学科の卒業でどちらかというとグラフィックや映像などの専攻でした。飛行機のようなプロダクトデザインの専攻ではなかったのですが、まあ人間別に何つくったっていいわけです。大学で勉強したことが人生の全てになるわけじゃないし、社会人になってから学ぶことも普通にある。メーヴェを作る前にはアーティストとしてはバック・トゥ・ザ・フューチャーに出てくるホバーボードを「AirBoard」として作ってみたり、視聴覚交換マシンを作ったり、色んな作品を作っていたので、そもそも世の中にないものを作るのが自分の仕事だと考えてるわけです。

hachiya

その後メーヴェの制作という航空事業を始めましたが、日本国内の飛行機という世界を見てみるとこの海には誰もいないぞ……!と、まさにブルーオーシャンでした。まあ、その理由は明確で航空機開発にはあまりに多くの資金が必要だし、企業として機体を量産して売るとなると航空法に基づく許認可も大変だし、売ったあとも事故によるリスクをどう考えるかも難しい。日本ではそもそも商売にしにくいジャンルなんです。

アナグラム

戦後日本は航空禁止令により飛行機の生産、開発が出来なくなりましたよね。日本の航空事業がブルーオーシャンで海外と比べて発展していないのはそういった背景もありそうです。

hachiya

そういう理由もあると思います。法律に関しても顕著で、日本でエンジン付きのある程度の大きさの飛行機を飛ばすとなると仮に米国とかから買ってきた機体であっても、国内で飛ばすには役所に許可をとったりと、ハードルが非常に高い。

一方、日本では許可や飛ばす場所で苦労するような機体も、アメリカでは割と簡単に飛ばせたりします。日本は人口密度が高い分、法律は保守的にならざるを得なくて、アメリカとは全く状況が違いますし、簡単には状況はかわらないかもですが、そのあたりを整備していかなければ日本国内で航空系のベンチャー企業が活躍していくのは難しいでしょうね。関東では難しいかもしれないですが、北海道とかを特区としてある程度自由に開発した試作機を飛ばせるようにしたりなどしないと。

まあ、ぼくがやっているのは逆にベンチャー企業にしかできなくて、リスクはめちゃくちゃ大きくて、儲からなくても、他で稼ぐとかやりようを考えてなんとかやる、みたいな感じですね。リターンは『夢』みたいな(笑)。でもおそらく「風の谷のナウシカ」を観たことがあるうちの、ほとんど人が一度は「メーヴェに乗ってみたい」とか思ったことがあるんじゃないですかね。自分たちがやりたくて、みんなもやりたいけど、簡単にはできないことをやる、そのゼロからイチを作るのがぼくたちの仕事です。イチからジュウは大企業やそこが得意な人にまかせたほうがいいじゃないですか。また、ゼロからイチが出なければイチからジュウは出てこないともいえる。ぼくらはその役割を担いたいのです。

アナグラム

ロマンですね。日本国内だとイチをジュウにするのが得意な人は多いですが、ゼロからイチを作る人は決して多くはない。ポストペットもメーヴェも自分がやりたくて、且つ、みんながやりたいと思っていることの最初のイチを作り上げているのですね。

hachiya

そうですね、会社としては赤字があまりに出るのも問題ですが、なるべく赤字を拡張させずに「最初にメーヴェを作って飛ばした人・会社」という肩書を得る(笑)。

ぼくの好きな考え方に任天堂の横井軍平さんの「枯れた技術の水平思考」というものがあります。最先端ではないけど、広く使われていて安価で安定して使える技術を使って、新しいことをやる。オープンスカイも、超小型ジェットエンジンが安価になって個人でも入手可能になってきたからやってる部分もあります。あと、今後誰かが航空事業をやるとなった時の役に立てばいいなぁと。

価値はモノから体験に。メーヴェに乗るという体験を多くの人に

アナグラム

その肩書はもう手に入れたわけですね!これまで日本国内で八谷さんのようにメーヴェを作ろうとした方はいるのですか?

hachiya

ラジコンを作ってる方はいますし、海外で人が乗れる機体を作ろうとした方も沢山いると思いますよ。ただここまでやり遂げたのはぼくたちのチームが初めてです。

アナグラム

書籍では自分以外の人を乗せるつもりはないと書かれていたのですが、他の人も乗れるように機体を量産したり、エンターテインメントとして広げていく予定はないのでしょうか?

hachiya

書籍は2013年当時の考えなんですが、書いた通り、当時は全く考えてなかったんですが、最近は若干考えています。飛行機の世界は結局1機しか作られなかった試作機がたくさんあって、ほぼ美術作品みたいなものもたくさんあるんです。今まではぼくも作品として作っていて、それでいいかなと思っていたんですけど、ボランティアの方々含め色んな人に関わっていただいたり、色んな人に見ていただいたりしていると、「乗りたい」と言ってくれる人がやはりたくさんいて。まあ、当然そうですよね、と。

シミュレータを作ったのもそうなんですが、今後はできるだけ多くの人に体験してもらいたいなと思っているので、100機とか1000機とかはないですが、もしオープンスカイの次のステップがあるとすれば10〜20機くらいを生産するのはありかな?とか思っています。

アナグラム

量産して機体を販売するということですか?

hachiya

いや、量産という規模じゃないですね。20機くらいでやるとしたら、たとえば、ですが世界中に20か所くらいメーヴェのフライトスクールがあって、そこで1週間ほど訓練して、エンジンのないグライダーバージョンのメーヴェを地上3m程度で操縦する体験ができる、さらに半年くらいグライダーで訓練をつづければ、エンジン付きの機体にも乗れる、みたいな。

昨年、訓練用シミュレータを作ったのも、実はその先駆けとしてのものなんです。今はモノがあふれている時代なので、そういった体験に価値を感じてお金を払ってくれる人は多いと思うんです。でもそれをやるなら正直日本国内だけじゃ無理だな、とも思います。残念ですが。

アナグラム

たしかに、ハングライダーやスカイダイビングなど空のアクティビティって結構いろんな種類がありますけど、「メーヴェに乗れるという体験」というのはちょっと一線を画していますね。それまで空のアクティビティに興味のなかった、スタジオジブリ好きにも広がりそうな気がしますし、海外の熱烈なファンも多そうですね。

hachiya

オープンスカイをやっていると、多くの方が自費で旅費を払って僻地までボランティアに来てくれますし、本当は参加したかったという声もたくさんいただきます。オープンスカイ以外にも堀江さんのロケットのプロジェクトにも参加していますが、それもたくさんの方が北海道とかまで自費で来てくれるんですよね。それって完全にモノじゃなくてロケットが打ち上がるその現場にいる、って体験に価値を感じているからですよね。

今後の展開を考え、海外のエアショーへ

hachiya

今年アメリカのEAAエアベンチャー・オシュコシュというエアショーに参加する予定で、その時に機体を飛ばす場所の下見をしにアメリカに行ったんですけど、彼らは移動手段として本当に普通に自分の飛行機を使うんです。自宅の前に滑走路があって、「じゃあちょっと3か所くらい下見に行こうか。」くらいのノリで、完全に車の感覚で飛行機を使う。空を飛んで移動する人たちが普通にいる。それも一つの貴重な体験でした。

アナグラム

車感覚で飛行機に乗るとは…。さすがアメリカですね。プロジェクトを通じても体験に価値を感じる方が多いのを実感されているんですね。フライトスクールなど今後のオープンスカイの展開が日本じゃないというのは、先ほどの仰っていた法律の問題などが影響しているからでしょうか?

hachiya

今年アメリカのエアショーに参加するのも、まずはアメリカに機体を持っていって、どんな反応があって、海外で事業展開していける見込みがあるのかを確認するのが目的です。自分の作品はやっぱりかわいいので、感覚的には子どもをアメリカ留学に行かせるような感じです(笑)。

あとは事業として仮に世界で20か所フライトスクールを作るとなると数十億単位の資金が必要になります。日本でそのパートナーを探すのは結構難しそうなので、やるとしたらアメリカやカナダ、オーストラリア、ドイツ、フランスとかですかね。まあ、日本でもグライダー版だけだったらやれなくはないのですが、国内のためだけに機体を量産するのは難しい。でも仮に世界に15箇所作れたら、そのうちの一箇所は日本にできるかも、みたいな。

アナグラム

なるほど、それが今CAMPFIREのクラウドファンディングに掲載されているプロジェクトですよね。

hachiya

はい、クラウドファンディングはもちろん資金調達の目的もありますけど、広報としての役割も大きいですね。CAMPFIREというメディアに掲載されることによってまだオープンスカイを知らない人に知ってもらいたいとも思っています。とは言いつつも、アメリカまで機体を運ぶ輸送費や、スタッフの交通費、約2ヶ月の滞在費用など諸々含めると800~900万円は必要でして。赤字をなるべく減らすために、皆さんにご協力していただいている感じです。

本命はアメリカのクラウドファンディングだったんですが、Kickstarterにはリジェクトされちゃったんです。理由は教えてくれないんですが、彼らはAll or Nothing方式(目標額が集まれば成功、集まらなければゼロ)なので、目標額が集まっても集まらなくても絶対やる!と思っているぼくのプロジェクトとは思想が合わなかったのかなと。なので今は海外向けは、いくつかの方法を検討しています。

※最終的に、INDIEGOGOで米国クラウドファンディングを実施中

アナグラム

八谷さんの機体にロゴを載せてほしいという企業は結構いそうな気もするのですが、スポンサーを受けたりはしないのでしょうか?

hachiya

スポンサーを受けてしまうと、企業側からいつまでに機体を飛ばしてくださいという形になってしまいがちなので、天候や風の状況でフライトが左右されるぼくらとしてはリスクになってしまうんです。なのでこれまで何回かお声がけいただいたことはありましたが、お断りしてきました。ただ今ではフライトもかなり安定してきたので、米国輸送に関してはスポンサードしていただける企業があればいいなとは思っていますが、アメリカ行きの準備に忙しくてそこの営業部分に時間をさけないというのが実情です。なにぶん、一人事業部で、ほぼすべてを一人でやっているので(笑)。

6,7,8月はほぼ10割をアメリカへの準備と実施に費やすのですが、ぼくは東京芸術大学の准教授としての顔もあって、4,5月は大学の方の仕事が多かったので…ちょっと話は変わりますけど、2016年ごろはこんなことを考えていたんです。

アナグラム

「シミュレータをつくりたい」など今までお話を聞いた中ですでに実現されていたり、「海外でも飛ばしてみたい。」など今まさに進行中なものも多いですね…!「海外で似たようなことをやってる人を集めてみたい。」というのは、世界には八谷さんと同じように飛行機を作ってる人たちが結構いるのでしょうか?

hachiya

そうですね。世界を見てみるとフライト系の面白いプロダクトを作っている人ってたくさんいるので、そういった人たちに一か所に集まってもらってフェスティバルのようなものを開催したら面白いんじゃないだろうかと。実は昨年「スカイウォーカーフェスティバル」として、その企画を東京都に提案したのですが、ダメでした…。ただ、今年〜来年やるとしたら今年はこれにかかりきりになってたはずなんで、アメリカ行きのことなども考えると提案が通らなくてよかったなとも今は思っています(笑)。

実際に八谷さんが提案された内容

アナグラム

「宮崎監督にみてもらいたい。」というのもありますね!こちらは実現されたのでしょうか…?

hachiya

まだ見ていただいたことはないですね。ただ、いつか見ていただきたいとは今でも思っています。実はこっそり、プロジェクトの度に今度こういうことをやりますという報告をしてたりはします。

アナグラム

それもきっと実現しそうな気がします…!

アナグラム編集後記

今回事前に(「風の谷のナウシカ」の映画とマンガを見たり、)書籍やいくつかの取材記事に目を通させていただいたりしたうえで取材に臨み、経営者であり、アーティストであり、大学教授でもある八谷さんはどのような方なのだろう?といろんな想像をしていました。ゼロイチを生み出すという点では起業家と同じなのですが、やりたいなぁと思ったことを試算云々無しでまずやるという姿勢は想像以上に“アーティスト”でした。

ほとんどの方は昔見たアニメに出てきたものをみて、「これがあったらいいなぁ。」と考えたことがあるのではないでしょうか?ただ、本当にそれを作り上げる人はごくわずかでしょう。八谷さんはその夢を現実にした方の数少ないひとりです。

将来八谷さんの手掛けるフライトスクールでメーヴェに乗る体験をしたいという方、そのきっかけとなるアメリカのエアショーへの支援をされてみてはいかがでしょうか?

CAMPFIRE
OpenSky米国ツアー(エアショー参加とフライト)に力を貸してください!

indiegogo (英語)
Bring OpenSky M-02J ‘Mehve’ to the US

文:賀来重宏
編集:阿部圭司/齋藤彩可
写真:齋藤彩可