新規事業の成功率は上げられる!企業の「なにかやりたい」をサポートする新規事業請負人こと株式会社バンダースナッチ代表取締役のフジイユウジさん

  • 関東

二輪車のアフターマーケット業界でアルバイトとして働き始め、ECサイトの立ち上げを担当。同社を退職後、株式会社バンダースナッチを創業してアパレル製造プラットフォーム『STARted』を立ち上げたのち、株式会社CAMPFIREへの事業譲渡と同時に同社執行役員として参画。現在は自身の会社にて機械学習サービス開発や、多くの企業で新規事業の立ち上げをサポートするフジイユウジさんにお話をお伺いしました。

小売業も機械学習もロジスティクス(物流)の考え方は同じ

アナグラム

フジイさんの現在のお仕事などは後で詳しく聞かせて頂くとして、フジイさんというと「いんたーねっつ」大好きなイメージが強いです(笑)やっぱり90年代のインターネット黎明期の頃からずっと触れてきたのでしょうか?

fujii

やってましたねぇ。昔からネットワークを通じた人とのコミュニケーションには興味があって、90年代に初めてインターネットに触れた時に全然顔も見えない人とコミュニケーションを取れるし、色んな人の考えが見れるのって凄すぎるな、これを使えば天才になれるんじゃないかとまで思ってました。ちょっと変わったなというタイミングは仕事のことをネットに書くようになってからですかね。それをきっかけにIT系の人たちとも交流するようになって、当時からITの人たちって色んな情報に触れて社会のことを考えているし、都会にいるITの人ってすごい!と思ったんです。

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インターネットにつなげば基本的にどんな情報でも取りに行けるのに地方に行くといまでも「やっぱ都会っていいですね!」っていう人はいますよね。

fujii

ぼくは出身が田舎なので都会っていいよねという気持ちはすごく分かります(笑)なのでIT界隈の人たちともっと交流しようと思い、コミュニティなどに参加して会社を成長させるための考え方をいっぱい吸収させてもらいました。そこで学んだことを少しずつ当時所属していた小売の会社にも取り入れることで、会社が伸びていくのを見るのは好きでしたね。

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それが以前いらっしゃった二輪車小売の企業ですよね。新卒で入社されたとかですか?

fujii

いえ、20代前半のフリーターだったころ、当時バイクが趣味だったのでバイク屋さんに「週3日くらいバイトしたいんですけど」って言いに行ったら「フルタイムしか募集してないよ」って言われて。「じゃあフルタイムでもいいです~。」と最初はバイトとして入りました。

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フジイさんらしいというか(笑)

fujii

そうですね^^ 当時の上司がすごくいい人で、会社の役員兼店長として同じ店舗で働いていて、ぼくはバイク用品がたくさんあって楽しいなくらいのテンションだったんですけど、ある時上司から「この売り場はもうお前に任せるから好きなようにやれ」って言われまして。仕入れ予算を渡されて、その売り場の仕入れから値付け、在庫管理までを全部自分でやらせてもらったんです。

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疑似的な経営みたいですね。

fujii

そう。それがゲームみたいでめちゃくちゃ楽しくて。自分の好きなバイク用品を自分の好きなように置けて「おぉ、お前の売り場かっこいいな!」と褒められるわけですよ。徐々に自分の売り場も広くなっていった時に正社員になる話を頂いたんですが、「社員って自由じゃなさそうでやだなぁ。」と思いつつも、稼いだお金を全部バイクに突っ込んでお金に困っていたので、社員にならせてもらいました。

でも、当時ぼくは20代前半で部下のバイトの人たちがみんな年上という状況に加えて、バイク乗りのちょっと荒くれものみたいな人が多くて(笑)「お前が上司なんだろ~?」とかも言わましたけど、どうしたらこの人たちは言うことを聞いてくれるのかなぁとか、どうしたら全体的に売上が上がるのかなぁと考えながら色々やってました。当時の二輪車のアフターマーケットって業界として上り調子だったので、なにかやれば売上は上がったんですよね。

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例えばどんなことをやったんですか?

fujii

良く分からないバイクレース用のパーツを置いたりとか(笑)誰も買わないんですけど、置いておくとお客さんから「この店は分かってる!」って。冷静に考えるとそんなの置いてる方がおかしいんですけど、「こんなマニアなパーツを置いてるのはこのお店しかないよ!さすがだ!」っていう口コミからお客さんめちゃくちゃ増えるんです。

当時は今ほど情報流通がないので、とにかくマニアックな知識を持ってることが偉かった。お客さんから知識勝負をかけられることがあっても勉強して話ができると、やっぱりこの店は分かってる!っていう良い評判が広がるみたいな。もう職人芸ですよね。あれよあれよと会社は大きくなったんですけど、 ぼくには昔から放浪癖があって、ある時インドにカレーを食べに行くために一回会社を辞めますって上司に言って一度会社を離れました。

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「マニアックな知識を持ってることが偉かった」というくだりは非常に2000年前半のインターネット的といいますか、そして流れがめちゃくちゃですね(笑)

fujii

放浪癖がね。最初はタイに1ヶ月くらいいて、そこでインドのビザを取ってからインドに半年間行ってました。

当時5㎏くらいあるノートPCを持っていってたので、暇つぶしにhtmlで自分の旅行記を書いて、USBすら無かった時代なので、フロッピーディスクにhtmlとjpegのファイルを入れて、ネットカフェでFTPとかつないでホームページを更新してましたね。

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すごい…!そのころから「いんたーねっつ」にどっぷりだったとは。今はもう残ってないのでしょうか?

fujii

さすがに黒歴史すぎて(笑)とはいっても一日中旅行記を書いてるわけではないので、チャイを飲みつつアラビア海を見ながら「ひまだなぁ。」みたいな。その後ネパールに行って、タイに戻って、中国の雲南省に行ったときに、当時はバックパッカーブームで泊まった先のゲストハウスに日本人が置いていった小説があるわけですよ。そこに村上龍の『希望の国のエクソダス』という中学生が日本の経済を救う内容の小説があって、それを読んで「中学生でさえ経済に関与しているのに、ぼくはこんな中国の雲南省で饅頭食べながら何をしているんだろう。働きたいなぁ。」って、働きたい欲を最大限に高めて日本に戻ってきました。

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(笑)エネルギーをチャージできてよかったです。それで日本に戻ってきた後は?

fujii

戻ってきたのはいいんですが当時は結構な不況で。東京ではなくて福岡とか仙台とか地方都市に住みたくて仕事を探したんですけど、全然仕事ないんですよ。WEB系って書いているから受けに行ったら当時蔓延していたリース系の制作会社だったり、ほぼ詐欺みたいな会社しかなくて。ガチで仕事ないなと思ったので前の上司に連絡してまた前の会社に戻って、てっきり店舗で働くのかなと思ってたら、割と会社が儲かっていて、「資金があるうちに新規事業をやらないといけないから何か新規事業をやってくれ」と言われたんですよね。

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なるほど、そこで新規事業のお話が!やっと!!

fujii

「え、ぼくお店のマネジメントとかやりたんですけど!」って言ったんですけど「ダメ!」って。そこで、今の会社のリソースと自分が出来ることを掛け合わせて売り上げを伸ばしていくなら間違いなくECだなと考え、経営層に提案したんですけど、10人中9人中に否定されました。ただぼくの上司だけは「社長説得してくるからやれよ」って言ってくれてやることになったんですが、いざやるとなったら全然予算がつかなくて。今思えばどうやって立ち上げたんだろうと。

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当時はまだ楽天やAmazonですらそれほど認知されていない時代で、ネットで商品が売れるわけないみたいな風潮はあったので、予算も付きませんよね。

fujii

ぼくがやってたことを理解できる人が社内に一人もいなかったので誰から止められることもなく、ひたすらどこにもないようなニッチで巨大なECサイトを作ってました。その時の経験は今でもすごく役に立ってます。実験し放題だったので、POSデータと連携させて実店舗の在庫をECに表示するとかもやってたんですけど、そんなことをやってる会社はうちとヨドバシカメラさんくらいで。

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O2Oという概念すらなかったですよね。何をやってるかわからない状態だとむしろ社内で止められそうな気もしますが、それでも止められなかったのは、フジイさんがやっていることが売り上げにつながっていることが見えていたのですか?

fujii

そうですね。会社全体が業績を伸ばしていたというのもありますし、その前に店舗で売り上げも上げていたので、あいつがやるなら大丈夫だろう的なポジションを持っていたというのもあります。ただ業績は伸びていたんですけど、歴史のある小売の会社ということもあり、裏側のオペレーションがまだまだ整っていなかったんですよね。そこを改善していく中で、オペレーション組むのって大変だけどうまく組むとすごい効果があるし、一方ガチガチにやりすぎて死んじゃうこともある、というのをたくさん見て結果的に「オペレーション設計楽しい!」ってなったんです。

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小売業におけるオペレーションの効率化は本当に重要ですよね。

fujii

本当に本当に重要です。基本的に最高効率のオペレーションをベースで予算を組んでいて、他の人がやらないようなオペレーションを組めば色んな事ができるんじゃないかとかめちゃくちゃ考えました。ロジスティクス(物流)には通常仕入れ、在庫管理、販売、発送などのオペレーション業務があってそこを如何に効率化できるかということを考えますよね。

同じように機械学習もデータの仕入れ、管理、加工、流通などを機械に学習させて効率化を図るという意味では物流同じように考えられるなと思っていて、機械学習と小売のオペレーションはロジスティクスという風に考えると、ぼくの中では感覚的に同じなんです。後ほどお話ししますがこの時の経験は今の機械学習事業にもすごく役立っています。

アナグラム

データのロジスティクスですか…!

fujii

Googleのプロダクトも、検索結果や、WEB上の閲覧履歴、Googleマップの行動履歴とかって漫然と見てたらただの検索行動や閲覧履歴、行動履歴ですけど、人間ってこの文字を検索した後にこういうページを見てこう行動するんだっていうデータセットで考えるとぼくの中ではすごくしっくりくる。

世の声の翻訳者としてサービスを立ち上げ

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なるほど、インターネットも好きでバイクも好きで、フジイさんにとっては絶好の職場のような気もするのですが、何がきっかけでその会社をやめたのですか?

fujii

ぼくがやってたECチームはフジイ商店って言われるくらい完全に社内ベンチャーとしてフルコントローラブル状態だったんですけど、あるとき「フジイ君自分でインターネットの会社やったら?」って言われて「よし、やるか!」という感じで会社を離れて起業しました。

ただやることが何も決まってなかったのでどうしようっていう時期がしばらくあったんですけど、一番知識があるのはECだったので何売ろうかなと考えた時に、世の中には当時メンズブランドの子ども服のセレクトショップで目立ったものがなかったので「これだ!」と思ったんです。

そして子ども服を仕入れさせてくださいってブランドにお願いしに行ったんですけど全然相手にしてくれなくて。仕入れがダメなら自分たちでオリジナルの商品を作ろうと思ってOEMで製作してくれる会社数十社に電話して、やっと服を作れるようになりました。

fujii

その後、アプローチが功を奏して老舗の雑誌などにも取り上げてもらったことで少しずつ売り上げがたつようになってきたんです。そのころも引き続き仕事のことをずっとインターネットにアップしてたら、「どうしたら服って作れるんですか?」っていう質問が結構来るんです。

でも、自分自身ここまでくるのに結構苦労したし、その苦労をこの人たちはやり切れるのかなぁと思った時に、じゃあ作ってあげればいいのでは?と。当時OEMの会社は「なんでも受け入れます!」と言っていたはいたものの、実際に問い合わせてみるとアパレルの知識が全くない素人の話は聞き入れてもらえない状態でした。ぼくたちは立ち上げを経験していてるから、その素人の方のやりたいことを実現可能な形に翻訳する役割ができるかもと思ったんです。

この流れ、実はシステム開発と同じで、「こういうアプリ作りたいです!」っていうアイデアだけを持っている人がいて、そういう人って機能要件とかを全然知らないのでディレクターとかが翻訳してあげますよね。それと同じ。

アナグラム

なるほど、その翻訳部分のシステムを作ってしまえば素人の方のジャストアイデアでもディレクター無しで商品化ができると。

fujii

そう。でもどれくらい需要があるか分からないから、とりあえずティザーサイトだけ作って置いてたら結構登録者が増えてきたんですよね。そしたらある時テレビ東京のワールドビジネスサテライトから取材の依頼をいただいて、一気に認知が広がり、やらないといけない状況になったんです。それで本格的にシステムを作ってローンチしてその後もいろんなところに取り上げてもらいました。

アナグラム

では最初のプロモーションはほぼ広告も使わずにバズってかなりうまくいったのですね。もともとアパレルの商品開発を自分たちでやったからこそ、その不自由さにも気づいてSTARtedを立ち上げられ、それだけ爆発的に認知されると、それこそ裏側のオペレーションがやばそうですが……。

fujii

かなり大変でしたね。ただオペレーションも大変だったんですけど、なにせ事業の成長性が全然見えなくて。当時はどうやって資金調達するかとか、どうやったら次のステージにいけるのかが分からなかったんです。その時ちょうどCAMPFIREがSTARtedのユーザーだったので、こちらから何か一緒にできないですかねぇという話をしていたら、家入さんも「一緒にやる方向性で考えますか」といってくれて、事業譲渡に至るって感じですね。

同じタイミングでぼく自身も執行役員としてCAMPFIREに参画しました。ぼくが入った当時は、まだWEBマーケティングが分かる人がほとんどいなかったんですが、人も増えて整ってきたのでそろそろぼくはいいかなと思ったので現在は離れたという感じですね。

新規事業の成功率は上げられる

アナグラム

STARtedをCAMPFIREさんに事業譲渡して、それと同時にCAMPFIREに執行役員として参画したニュースはすごく印象的でした。今はどのように働いているのでしょうか。フリーランス?それともどこかの企業に所属されている?

fujii

あくまでSTARtedという事業を売却しただけで、バンダースナッチという会社は残っているので、所属でいうとバンダースナッチです。バンダースナッチはSTARtedを事業譲渡してから半年くらいで軌道修正させたのち、機械学習のプロダクトを作ろうと思ってずっとAIを作ってました。役員以外のチームメンバーはみんなCAMPFIREに移したので、機械学習のプロダクトを作るためのCTOとエンジニアさんは新たに採用しましたね。幸い事業譲渡した利益があったので、やれるだけやってみるか!と思ってやり始めたんですけど、同じ創業メンバーからは「え、まだやるの?それ倍プッシュ(※)ですよ?」みたいな(笑)

※倍プッシュ:ギャンブルを行う際に、次の掛け金を二倍にして挑戦すること。漫画『アカギ』の主人公『赤木しげる』の決めゼリフのひとつ

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機械学習のプロダクトを作っていたのは全然知らなかったです。あまり表には出していないですよね。

fujii

ですです。現時点で機械学習系の会社で儲かっているところって相場は決まっていて、自社でエンジニアを持ってAIを作って儲かっているところって少ないんですよね。

一応STARtedというサービスをゼロから立ち上げた後にCAMPFIREに事業譲渡して、CAMPFIREで執行役員やってますという経歴があるのでVCの方も、「そういう人がAIを作るならちょっとおもしろそう!」と言って、最初はすごくノリが良かったんですけど、ある時期からAIに投資するのやばいみたいな雰囲気が出てきて、途端に話がなくなったりしました。

おお、やばい…!みたいな。最終的には投資してくれると言っていただけるところはあったんですけど、いろいろ考えてお断りさせてもらいました。

アナグラム

機械学習の事業は完全に撤退してしまったのですか?

fujii

やってますよ。せっかく人も採用してノウハウが集まったので、何かやりたいんですけど受託はやりたくないしどうしようかなみたいな。いつでもリスタートできるように小さくやっています。

ちょっとだけ機械学習の話をすると、エンジニアリングの能力とかデータサイエンティストのセンスとかももちろん大事なんですけど、それ以上に他社じゃアクセスできないデータソースを持っているかというのがすごく重要。結局同じ材料が手に入っちゃうのであれば、料理の腕に多少の差はあるかもしれないけど、「こういう料理を作ってます!」と同じことが言えちゃうじゃないですか。だからデータソースにどれだけ差が持てるかがミソ。もともとぼくがやろうとしていた事業は他社さんだとアクセスできないソースに触れそうという機会がたまたまあったんです。

アナグラム

油田を見つけたみたいな感じですね(笑)

fujii

そうそう、ただちょっとお金の関係で実現には至りませんでしたが。それから機械学習の開発が微妙な感じだからどうしようかなと考えたときに「今はいろいろ手を広げてわちゃわちゃやってみる時期なのかな。」と思っていろんな人に、「ぼくいまヒマでーす。何かやれそうでーす。」って言って周ったんですよ(笑)

アナグラム

いや、絶対ヒマではないじゃないですか(笑)

fujii

そしたら新規事業を作りたいけど作れないっていう相談をいくつか企業からいただきまして。ベンチャーなんだけど今やってる本業をもっと拡大させるタイプの事業をやりたいですとか、上場している企業で資本はあるんだけど自分たちでやろうとしても微妙なプロダクトしか作れないんですとかをいただいたんですけど、ぼくいわゆるコンサルティングという仕事ができない病でして。

アナグラム

何ですかそれ(笑)

fujii

というのも事業会社で自分の正しいと思うことを自分でやってきたので、自分がこうですと思ったことを相手がやってくれないと「もう知らない!」ってなっちゃうんです。もちろんぼくの言うことが全て正しいわけではないんですが、やらないならやらない理由をすり合わせてより良くしようよと。なので相談役のような立ち位置ではなく、一任してくれるところじゃないとお互いに幸せになれない。

アナグラム

すごく分かります。実行するなり、議論するなりしないと「あれ、いる意味ある?」ってなっちゃいますよね。そうなるとやっぱりベンチャー企業が多いのですか?

fujii

もちろんベンチャー企業もありますし、上場企業の新規事業部を見ていたりもしますよ。ぼくが直接手を動かすほどのリソースはないので、最低限手を動かしてくれる人は付けてもらって、大体ぼくとマンツーマンか、3人とぼくとか。一番大きいところは10人チームのところもあります。そういうところで何とか頑張ってます。組織として新規事業をやるときのリソースの振り方って、エース級の人を最小で入れるか、多少リソースが余ってる人を最大で入れるかの2パターンしかないんですよね。大きい会社になればなるほど、新規事業をやりたくて入った人の割合は少ないので、新規事業のやり方を知ってる人ってほとんどいないんです。

仮にいたとしてもゼロ→イチというよりは、0.7→イチあたりをやってることが多くて、もともとある事業の周辺領域の新規事業をやりましたとか。そこに入らせてもらって、出来上がった組織の文化、予算、リソースの中でいい感じの事業を見つけます!という感じ。

アナグラム

なるほど、ということは本当に事業内容を考えるところからやるんですね。

fujii

やりますね。ただWEBサービスの会社なのに次はVRのプロダクト作りましょうとか、広告とか分からない会社なのに次はアドテクやりましょう、のように時流しか見ていないアイデアだと「え、それ誰ができるの?」ってなるので、いくつかあるアイデアの中から実現可能性と成長可能性がある事業を残していきます。

お財布事情も重要ですよね。ただ資金があるかないかだけじゃなくて、お金はあるけど財布のひもは固い会社だと小さく実績を積み上げていかなければいけないので、最初から大きくアクセル踏めばいけます!みたいな事業は向いていない。逆もしかり。そういうことを考えながら新規事業を立ち上げるっていうのは、事業の構造理解や組織理解がないといけないので、ただのアイデア出しとはまた違ってくるんです。そこに対してはぼくがこれまで経験してきたこととかスキルが役に立つかなぁと。やる人少なさそうですし。

アナグラム

正に『新規事業請負人』という感じですね。新規事業の立ち上げはほとんど失敗に終わるって言うじゃないですか。そんな中で新規事業を立ち上げるうえでの考え方というか、成功率を上げる方法ってあるのでしょうか?

fujii

当然正解はないですが、成功率を上げることは出来るのかなと思っています。上場企業になるとコツコツと積み上げていくのではなくて、最初からある程度の規模が見込めないといけないことが多いし、会社のフェーズによってもフィットするプロダクトは異なります。

事業とは何かしらのソリューションを提供する事なので、そのソリューションが与える価値は何なのかを説明できないといけないし、それが本当に求められていることなのか、みんながお金を払ってまで解決したいことなのかを考えないといけない。その点最近は言葉としては聞かなくなりましたが、ティザーサイトは有効な手段ですよね。本格的にローンチする前にユーザーの反応が確認できますし、ローンチ後の予測も立てやすい。

アナグラム

最近は広告で収益を上げます!という新規事業も多いと思うのですがそのあたりはどう見ていますか?

fujii

広告で収益を出すメディアもアリだとは思いますが、成功するための条件って割と限定的で広告収益を上げられる状況って限られると思うんですよ。その条件を満たせるかを考えずに無理やり実行すると運勝負になってしまう。媒体モデルに限らずですが、運要素をどれだけ減らすことができるかは非常に重要で、最近はサブスクリプションモデルの新規事業が多いですよね。あれは事業計画が立てやすく、ある程度未来が見えやすいので投資環境的にもいいからなんです。それもひとつの運要素を減らす方法ですよね。

アナグラム

他には何かありますか?

fujii

外部の意見を取り入れるというのも良いと思います。新規事業は創業者がやりたいと言い始めるケースが多いのですが、たいてい社内はそれを冷たい目で見ています。最初は外部の人とスタートすることで社内に対して「うちの会社も新規事業出来るんだ!」というアピールになりますし、良いパートナーと組むことは社外的なアピールにも繋がります。

あとはそこにアサインできるメンバーや社内のノウハウ、プロダクトなど手持ちのカードをしっかりと把握して掛け算で考えることも非常に重要。事業アイデアは良くても誰も出来なければ意味ないですからね。もちろん必要に応じて新しいカードを入れることは大事ですが、最初からそこをあてにするのは運要素を大きくするだけで危険だと思います。

正直、新規事業の成功は圧倒的に運要素が大きいのですが、明らかに運要素を減らせるところは減らしていくという視点を持ちましょうということですね。

アナグラム編集後記

新規事業の立ち上げ直後をサポートする人は多いものの、フジイさんのように本当のゼロイチのサポートを主戦場としている方は少ないのではないでしょうか。CAMPFIREのようなクラウドファンディングといったサービスも一般的になったことで、資金調達の選択肢も増え、毎年たくさんのサービスが立ち上がり撤退している昨今、フジイさんのように少しでも新規事業の成功率を上げられる方というのは非常に重要な役割だなと思います。

取材の依頼をさせていただいたときは「ぼくなんて何もおもしろい話出てこないですよ!」と仰っていましたが、インド放浪の話から新規事業立ち上げのお話、記事内には全てを書ききれませんでしたが機械学習の話などとても幅広くお話しいただき、楽しい取材でした。

どの話をお聞きしてもフジイさんの中心にあるのはやはり「いんたーねっつ」であり、ご自身も「いんたーねっつに生かされてきた」とのこと。最近はTwitterよりもマストドンにいる時間が多くなってきた、というのも実にフジイさんらしいなぁと感じました(笑)

文:賀来重宏
編集:阿部圭司/杉山美和
写真:賀来重宏