コンビニでも手軽に買えて、日本人には馴染みの深い「緑茶」。
そんな日本なら身近にありふれた飲み物だが、コーヒーやワインのような「シングルオリジン」があり、茶葉は野菜の王様と言われる「ケール」に引けを取らない栄養が含まれていることをご存知ですか?
国内市場では縮小の一途をたどる「緑茶」を、これまでとは違ったアプローチで、その魅力やポテンシャルを広げようとしているサービス「ALL GREEN」を運営するのが吉原慶太さんです。
もともと日本に500人程しかいないアドバンスド・コーヒーマイスターという資格を取るほどのコーヒーマニアだった吉原さん。そんな吉原さんがなぜここまで緑茶にこだわり、業界に革新をもたらそうとしているのか。これまで意識して取り組んできたことなどから、緑茶という産業で大切にしていることを伺いました。
緑茶の嗜好性と「シングルオリジン」にこだわる理由
いま出してくださっているお茶もALL GREENさんで取り扱っているものですか?いつものお茶と違って、なんだか爽やかな香りがしてきます。
はい、こちらは「ふくみどり」という埼玉県の狭山からとれる品種です。華やかな香りと苦味がきりっとしているのが特徴で、アップルパイやカスタード系のデザートとあわせていただくと、とても上品な味わいがあります。
確かにお花のような香りがしますね!
他にも「静7132」という桜餅のようなフレーバーのものも人気だったりします。相当人気で、いまは売り切れてしまっていますね。
緑茶にそのような違いがあるとは驚きです!こんなに多様性があるにもかかわらず、一般的にはあまり知られていないのはなぜでしょうか?
よく売られているお茶のほとんどはブレンドなんです。本来は産地も品種も製法も異なる茶葉ですが、ブレンドしているため、結構みんな似たような味になっています。そのため、緑茶の味わいの違いは日本人でも多くの方は知らないでしょう。
なぜブレンドしているかと言えば、価格を抑えることに加え十分な量を確保して安定して供給できるからです。味に関しても良くも悪くも毎年同様な味の緑茶を安定して作れるようになっています。
そうだったんですね。ALL GREENでは「シングルオリジン(産地や品種によって味や香りに個性があること)」にこだわっているのですよね。産地が日本の緑茶にもコーヒーのような地域による違いがそこまであるものなのでしょうか。
大きく違いがありますし、本当に多様です。たとえば先ほどの「ふくみどり」や「静7132」というのは品種自体の差です。また、栽培方法や製法でも大きく違ってきます。たとえば、もっともよく飲まれている煎茶(せんちゃ)製法で作ると、こういった華やかな香りはなくなって苦味をメインにした、でもちょっと青いような香りがするようなお茶ができあがります。一方で、釜炒り製法では、お茶っぱを釜で炒るため、ほうじ茶のような香ばしさがついたりもします。
色に関しても栽培時に覆いをかぶせると、より緑が濃くなって旨味が増えるというように、千差万別です。日本という限られた地域に本当に多くの種類があり、飲料としての嗜好性が高いのが魅力なんですよね!
緑茶にそこまでの嗜好性があるとは驚きです!違いが分かると緑茶って面白いですね。
ほんとうにそうなんです。ですがコーヒーの歴史がいい例で、今サードウェーブと言われていますが、ファーストウェーブ、セカンドウェーブの頃は、ブレンドが基本でした。それは恐らく、世の中の工業化が進んでマス生産ができるようになったので、大量に豆が必要となったという流れだと思います。
それで味の違いがなくなってくるんですね。いわゆる大量生産・大量消費だと、良くも悪くも価格競争が起こり、価格も下がっていきそうです。
はい、そうなると生産者さんにきちんとお金が入っていかないということが起こります。ALL GREENでも、緑茶の栄養価値とともに産地でそれぞれ違うシングルオリジンの価値をしっかりと見出し、生産者さんが丹精込めて育てた茶葉がより知ってもらえて可能性が広がるように、三方よしを実現したいと考えて製品をつくっています。
緑茶の隠れた健康効果、新しい技術開発による「丸ごと飲む緑茶」を実現
吉原さんは、日本に500人程しかいないアドバンスド・コーヒーマイスターという資格もお持ちだとか。ここまで緑茶に深く興味を持つようになったのには、なにかきっかけがあったのでしょうか?
飲料メーカーに勤めているなかで、緑茶の技術開発に携わったのがきっかけです。相当なコーヒーマニアだったんですが、緑茶について調べれば調べるほど、コーヒーに劣らずむしろ上回るようなその面白さに気がつき可能性を感じるようになりました。
緑茶って、丸ごと飲むと野菜の王様「ケール」と同等以上の健康効果があるってご存知ですか?
そうなんですか?!そんなイメージはまったくないです!
そうですよね、私もびっくりしました。社内の人間も誰も知りませんでした。「きっと栄養が豊富だよね」ぐらいの話はしていましたが、実際に調べてみたら予想以上だったんです。ただし、茶葉もすべて摂取する必要があります。急須を使って抽出する一般的な飲み方では栄養の多くは茶殻といっしょに捨てられてしまいます。
緑茶という文化自体は衰退傾向にありますが、これだけ栄養が豊富で、かつ嗜好品としての魅力のある文化をこのまま無くしてしまうのはとてももったいないことですよね。茶葉も丸ごと頂ければ、もしかしたら未来につながる新しい緑茶文化になるんじゃないかと考えたのがきっかけです。
緑茶を「丸ごと飲む」のは新しい方法なんですね。
いえ、実はですね、平安時代に緑茶が伝わってきたときには、塊だったんです。お茶の葉っぱを固めて硬い塊にして保存していました。それを削って粉にして飲む、栄養ドリンク的なものだったのです。
ビタミンCもたくさんありますし、カテキンもありますし、最高の栄養ドリンクです。今でもモンゴルの遊牧民族なんかは、野菜を育てる文化がなく肉だけではビタミンCが取れないので、ビタミンC源としてそれを削って飲んでいたりします。
そういう形で昔日本に伝わって、安土桃山時代ぐらいまではずっとその抹茶みたいな粉で飲むのがメインでした。江戸時代の中期ぐらいになって初めて蒸し製煎茶ができたんです。僕らがよく見る急須で入れる煎茶って文化的には実はけっこう新しいんですね。なので、元々は粉にする文化でしたが、ただ一方で今はその文化がない要因としては、やはり溶かしにくいというところが挙げられます。
なんでも溶けやすい粉末を開発するのに3年を費やしたとか。
そうですね、私が丸ごと飲むお茶のブランドを作りたいなと思っていろいろなものを粉にしたのですが、実は細かくすればするほどダマになってしまって逆に溶けづらくなります。
また、緑茶って実はすごく繊細な飲み物なのです。熱にさらされるとすぐに変化して色が変わったり、香りが一瞬でなくなったりします。従来の溶けやすくする技術を使うと、香りもなくなるし、色も変わってしまう。そこで、香りや味をほぼ損なわない、熱を加えずに溶けやすくする技術を一から開発しました。
さらに、新しい技術なので製造先を探すのも大変でした。とにかく対応してくれそうな先を一軒一軒あたっていくという泥臭いことをやっていましたね。
長年取り組んでいる製造先の会社さんも多く、聞くだけで大変さが伝わります…!茶葉を提供いただく生産者の方々への説明も大変だったのではないでしょうか?
喜び半分戸惑い半分みたいな感じですね。生産者の方からすれば、どこに出しても恥ずかしくない立派な高級茶をわざわざ粉末にするのか、と思いますよね。
ですが、ALL GREENのビジョンをお伝えして、「丸ごと飲む」ことの良さをお伝えしながら直接意見の交換もします。「この茶葉を使えばこんなに良い粉末ができてお客さんに喜んでもらえるから、ぜひやらせてください」とお話しして、取り扱わせていただいています。
Webサイトに掲載されている生産者の方のインタビューもすべて、一軒一軒をご自身で回って直接お話を聞いていらっしゃるのですね。ほんとうに細やかなコミュニケーションをされていて頭が下がります。生産者の顔が見え、どんな想いで生産されているかが分かる素晴らしいコンテンツですね。
画像引用元:https://all.green/shop/information_categories/magazine/
「夜中の銀座を走って商品を発送」社内ベンチャーから事業化への挑戦
実際にこのように販売できる形になるまでも大変だったと思うのですが、一番苦労したことは何ですか?
所属しているサントリーでは「FRONTIER DOJO(フロンティア道場)」という社内ベンチャーを創出するプログラムがあるのですが、その第一期に応募しました。応募は300件くらいあって、通ったのは4件ですね。難関でしたが、どうすればお客さまに喜んでもらえるのかを考えるのが、それ以上にもっと大変でした。
「栄養さえあればいいのか」、「もっと美味しくないと振り向いてもらえないんじゃないか」、そんな思いが常にありました。そのため、テスト販売の製品を買ってくださったお客さまに地道にヒアリングして、お客さまにとって最適な商品を探っていくっていうのは、なかなか大変だったと思います。
製品開発以外も基本的には吉原さんが対応していらっしゃったんですか?
はい、今でこそ多くのパートナーの方にご対応いただいていますが、はじめはすべて1人で対応していました。サイトを作って広告を出して……初めてMeta広告で商品が売れたときは本当にうれしかったですね。一刻もはやくお客さまに届けるために、夜中の銀座の街を走ってクロネコヤマトへ発送しにいきました(笑)
その様子を想像すると目頭が熱くなってきますね!イチユーザーとして購入させていただいたんですが、サイトの言葉やSNSの投稿内容が一貫しており、隅々までお客さまへの配慮があるのに感動しました。
ありがとうございます。恐らくですが、私の能力やスキルが高いというよりは、製造者のわたし自身が、サイトだけでなく配送など物流部分から販売までを一貫して行って立ち上げたため、最終的に矛盾なくまとまりのある形になっているのかなと思います。
健康性だけではなく嗜好性も併せ持つ商品
現在、おもにどういった層の方が購入されているのでしょうか?
健康性の高い商品なので、基本的には30代半ば以降の女性の方が購入されるケースが多いですね。ただ、好みの商品ラインナップを熱心に購入いただける男性の方もいらっしゃいます。男女の違いというわけではなく、健康性だけではなく嗜好性から選んでいただいているのもALL GREENの大きな特徴だと考えています。
単純に健康目的であれば世の中には多くの飲料や商品があります。一方で、私のマニア気質が出ているせいか、嗜好品としても相当こだわりの強いサービスになっています。健康性だけではなく嗜好性も併せ持つというのは ALL GREEN の大きな特徴ですね。
確かに、健康のためというだけでなく、SNSでは粉末という特徴を活かしたレシピから飲み方のバリエーションまで、さまざまな楽しみ方が紹介されているのが印象的です。
そうなんです。ただ健康的なだけでなく、楽しみ方もいろいろです。個人的にはラテにしていただくのもおすすめです。この場合も、種類によって香りや味に変化があり面白いと思います。
公式Instagramではさまざまな楽しみ方も多数紹介されている。
引用元:https://www.instagram.com/allgreen_tea/
他にも「そうふう」は花のような爽やかな香りが特徴で、シャインマスカットや梨などのフルーツともよく合うと、静岡の農家さんもおすすめしていたりします。もちろん種類によっては普段の食事にも合いますので、ペアリングも楽しんでいただけます。
日本で育まれた多様性、緑茶の魅力を世界へ広めたい
業界的に緑茶市場は縮小傾向にあると先ほどお伺いしましたが、それに対してALL GREENはどのような展望をお持ちでしょうか?
身近にあってなんとなく飲まれてきた緑茶ですが、ALL GREENであれば、今まで緑茶では表立って打ち出されてこなかった健康効果をより広く訴求することも可能です。ALL GREENひとつで健康性も嗜好性も兼ね備えられるため、新しい緑茶の飲用文化や健康習慣を作っていきたいと考えています。
もう一つが国外展開です。海外では抹茶がスーパーフードとしてその健康効果に注目され粉末状製品の輸出量が右肩上がりです。一方、緑茶も海外市場では伸びていますが、その規模は抹茶にまだ大きく及びません。
今回のインタビューでは緑茶の健康性もですし、嗜好性の高さから抹茶にも劣らないポテンシャルの高さを感じられました!
はい、健康効果の高い緑茶にはまだまだ伸びしろがありますし、ALL GREENの価値のひとつであるシングルオリジンは緑茶の大きな特徴です。スーパーフードとしての価値を感じていただきながらも、嗜好性の高さからくる多様な楽しみ方も広めていけるのではないかと考えています。
そこで我々としては色んな種類のシングルオリジンを提供することで、スーパーフードとしての価値も、嗜好品として味の違いも楽しんでいただけたらと思っています。
日本という決して広くはない土地に、コーヒーやワインに匹敵する多様な嗜好性をもつ緑茶が根付いているのは世界に誇るべき日本の文化ですよね。
利用している茶葉は貴重なものも多く、すぐに売り切れとなってしまうものも
画像引用元:https://all.green/
緑茶を「丸ごと飲む」という意外性に興味を持ったのが「ALL GREEN」の吉原さんにお話を伺いたいと思ったきっかけですが、お話をお伺いしてみれば、緑茶の健康性というポテンシャルを十分に引き出すために必要不可欠な、なるべくしてなった特徴だと良く分かります。
粉末にするというのは言葉にすれば簡単ですが、新しい技術の開発に3年もの年月を費やせた、吉原さんの興味への深い探究心のたまものではないでしょうか。インタビュー当日も、なんとなく飲んでいる緑茶が日本各地の生産地の個性が活かされた魅力的な文化であることをほんとうに楽しそうに語っていただいた姿が印象的でした。
当初はおひとりで苦労しながら作ってきた事業も、いまではたくさんのパートナーさんに支えてられているとも吉原さんはおっしゃっていましたが、緑茶文化を広めたいという強い想いがあるからこそ、農家さんや製造者をはじめとした周りを巻き込みサービスを推進していけているのだと思います。何を隠そうわたしもそのひとりで、緑茶への興味がどんどん湧いてきて、気づけばALL GREENで新しい種類の商品を注文してしまっていました(笑)
吉原さんの目指す、新しい緑茶文化の広がりに今後も注目していきたいと思います。
文 :寒川 浩子
編集:藤澤 亮太
写真:藤澤 亮太