「期待を超えろ」。飽き性なぼくが経営者を10年続け、事業を拡大する理由|株式会社free web hope代表 相原 祐樹 さん

  • 関東

「日本一期待を超える集団」をミッションに掲げるプロモーション会社・株式会社free web hope。マーケティングに携わるみなさまであれば、Twitter上でその社名を見かけることも多いのではないでしょうか。

今回は、少々派手(!?)なイメージも強い代表取締役社長兼CEO・相原祐樹さんに取材のお時間をいただき、経営者としての素顔にググッと迫ってきました。びっくりエピソードからあたたかな心づかいまで、相原さんのリアルな魅力に、ぜひ触れてみてください。

一生辞められない仕事を求め「経営者」へ

アナグラム

相原さん、本日はお時間いただきありがとうございます!先日公開されていた「LP制作マニュアル」note、超大作でしたね。10年間LP制作に特化して事業をやってきたぞ!という威厳が感じられるコンテンツでした。以前ノウハウを公開することに対して問題提起されたこともあったと思うのですが、なぜこのタイミングでこの記事を?

aihara

最近Twitterでつぶやく内容がマーケティング色弱めだったので、「LP制作ならfree web hope」というポジションをとるためにも一生懸命真面目に書きました。ぼくは決して「ハードシングス面白お兄さん」ではありません。

アナグラム

……すみません、いままでにご経験されたアルバイトをずらりと並べたツイートを拝見したときから完全に相原さんは「ハードシングス面白お兄さん」だと……(笑)。

aihara

ぼく25歳までフリーターだったんですよね。3ヶ月も経てば飽きて辞めちゃうので、アルバイトは20〜30経験してきました。器用貧乏なのでわりと何をやっても人並み以上に成果を出せるんですが、とにかく続かないのがずっとコンプレックスで。やっぱり3ヶ月間爆発的な能力を発揮するやつよりも、3年間平均的な能力を発揮し続けるやつのほうが強いじゃないですか。

アナグラム

……そんな相原さんがフリーターから起業に至るまでには、一体どのような経緯があったのでしょうか?

aihara

フリーターからなんとか一度広告代理店に就職して、トップ営業になり、新しくメディア事業を立ち上げたりとかして、取締役にならないかという話までもらいました。でもこのとき「あぁこんなもんか……社会人もたいしておもしろくないな」って、思っちゃったんですよね。本当に生意気なやつです。

その反面さすがに歳も歳だし何か腰を据えられるものを見つけなきゃという焦りもあって、簡単に辞められない状況に自分を追い込まないといけないと考えたんですよ。そこで一生辞められない仕事として「経営者」の道を選び、初日から社員を雇ってこの会社を作りました。経営者って、上を見ると孫正義さんのような人たちがいて絶対に勝てないなって思ったし、攻略もできないし、飽きないですよね。

アナグラム

飽き性ゆえの経営者だったんですね!相原さんのハイパフォーマンスっぷりと、初日から社員を雇われたことにも驚きです。事業内容としてLP制作を選ばれたのはどうしてですか?

aihara

広告代理店時代、まだLPは世の中にそんなに普及していなくて、ホームページに直接リスティング広告をかけている会社が大半でした。「広告を出しているのに効果が出ていない」とお客様からクレームを受けることも多々あったんですが、いますぐワード(購買に近い検索キーワード)で出稿しているのに効果が出ていない会社のほとんどは、正直なところホームページがしょぼかった。

そこであるお客様に、ぼくだったらこの商品はこう売るな、というトークスクリプトを書いて「この文章をホームページに貼ってください」とお願いしたんですよ。すると見事に商品が売れたんですよね。多分たまたまなんですけど。「これはおもしろい!LPは広告とセットで売れるぞ」と思い、独立後にLP制作事業をスタートしました。

アナグラム

広告代理店時代の1つの成功体験から生まれた事業だったんですね。

「好き」だと思われる商品作りを支援しなければ代理店業は成立しない

アナグラム

年間100本以上の制作実績ということで、いままで本当に多種多様な商品のLPを作られてきたかと思いますが……free web hope社の独自の品質基準、とてもステキですよね。広告に対する真摯な姿勢をすごく感じました。こちらを掲げたきっかけを教えていただけないでしょうか。

aihara

「これはさすがに煽りすぎていて気持ち悪い」と思うLPやディスプレイ広告っていまだにたくさん見かけるじゃないですか。うちは決して裕福な会社ではないので昔は怪しげな商品のお手伝いをしたこともあります。でももう正直やりたくないんですよ、メンバーもぼくも。そういう案件が増えれば増えるほど会社への不信感にもつながると思っています。やりたくない仕事って自分でやるのも、人にやってもらうのも嫌ですよね。だからあれこれ悩む前に宣言してしまえ!ということで、自社サイト内に明記したのが始まりです。

アナグラム

この基準はお客様のブランド毀損を防ぐのはもちろんのこと、free web hope社のブランド向上、さらには広告業界をクリーンにしていくことにも寄与しそうですね。

aihara

ぼくたちは絶対にブランドを毀損させないと思っている人たちと一緒に仕事がしたいですね。LPってどうしても「刈り取り」目的で作られがちですが、「刈り取り」と「ブランディング」を両立させることがぼくの理想です。結構難しいことなのですが、そこに理想がある以上はやっぱり目指したいんですよね。

いま自分が使っている商品よりももっといい商品が世の中に存在することなんて、検索すれば誰もがわかる時代です。それでもその商品が選ばれる理由には、必要不必要だけじゃなくて単純に好き嫌いもあります。だから好きだと思われる商品作りをお手伝いできないと、そもそも選ばれないので今後代理店業は成立しなくなっていくと考えています。これはITPやGDPRなどの広告規制、個人情報保護の観点からマス化するインターネット広告の事を考えても合理的だと思っています。

アナグラム

なるほど、たしかにおっしゃるとおりですね……!広告主側にも広告制作側にもその観点が必要だと感じます。

ECで売るお肉のサイズまで提案するLP制作会社?

アナグラム

先日「LP制作会社」から「プロモーション会社」へリブランディングしたというWantedlyの記事も拝見しました。こちらの背景もぜひ教えてください!

aihara

実態は最初からずっと「LP制作会社」より「プロモーション会社」の方が近かったんですよ。「LPを作りたい」というご相談って、根っこのお悩みは「売上を伸ばしたい」じゃないですか。その最善の解決策がLPじゃない場合はもっと上流から提案しますし、例えばSEOの優先度が高ければ別の会社を紹介することもあります。

いま進めているECのプロジェクトなんて、そこで販売する肉のグラム数まで提案しています。これによって送料が変わるんで(笑)。
さらに配送後に肉の変色が無いか、開封方法によって変化は無いかなどのテストもやってますよ笑

アナグラム

それは間違いなくLP制作会社の域を超えていますね(笑)。

aihara

ただ「マーケティングコンサルティング会社」みたいな表現にしちゃうと何を提供している会社なのかすごくボヤけるし、LP専門会社っていまだにそこまで数が多くないので、対外的には「LP制作会社」「LPに鬼強い」と謳ってきました。

そんななかリブランディングを決意したのは、「LP制作」というキーワードを使い続けるのがちょっと危険だなと感じ始めたからです。このキーワードから想像される仕事があまりにせまいので、もうちょっと拡張していこうというフェーズにあります。LPの第一想起を捨てるつもりはなく、これからは「プロモーション会社」としての実績もどんどん発信していこうかなって。

アナグラム

free web hopeさんは2020年9月でちょうど10期目ということで、会社のフェーズが変わってきているのが伝わってきます!

新規事業はWebデザインスクールに釣具のD2C

アナグラム

会社の変化といえば、2020年春にはオンラインのWebデザインスクール事業もスタートされていましたよね。

aihara

はい。社内にあった未経験Webデザイナー育成スキームをオンラインスクールとして展開しています。自社の面接で「3ヶ月でWebデザイナーになれる」と宣伝している他のスクールの卒業生を何人も見てきましたが、残念ながら一人も受かったことがなくて。話を聞いてみるとうちだけじゃなくて他社の採用面接も落ちているんですよね。Webデザイナーになれると思って高い受講料を支払ったのに、どこにも受からないってそんなつらいことはない。これって決して本人のやる気や能力の問題だけではないんですよ。言ってしまえば広告に騙されてる。こうした不幸な状況を変えるにはWebデザインスクールそのものを変える必要があると思い、自社でスクール事業を立ち上げました。

新規事業の内容にはそんなにこだわりがなくて、「わくわくする事業を創造し続ける」という自社のバリューに則っていればなんでもOKです。「わくわくする事業」の定義は、誰かの役に立って儲かること。パン屋だっていい。

アナグラム

パン屋!(笑)もしかして別の新規事業も準備中ですか?

aihara

仕込んでいます。釣具のD2Cです。釣りにいく大義名分ができてしまいました(笑)。いまは個人的に土日で動いているだけですが、そのうち会社でやるつもりです。釣具メーカーさんには「リブランディングから商品開発まですべて好きにやらせてください、その代わり報酬はいりません」と伝えています。

アナグラム

なんて釣り好き相原さん得な事業!……報酬ゼロなんですか!?

aihara

「報酬いらないからこうさせてください」っていうのは実は人生で3回目なんですよね。1回目はフリーターから社会人になるときの「給料いらないから入社させてください」、2回目は広告代理店勤務時の「月収を10分の1に下げていいし、今やってる業務はそのまま続けるから、メディア事業の立ち上げやらせてください」。意気込みも伝わりますし、相手からしたら断りづらいですよね。ぼくからすると「個人のお金を稼ぐ」みたいな、いつでもできることはいらないんですよ。それよりも好きなことがやりたい。

アナグラム

あの〜……頭では理解できるんですが、それ行動に移せるのは相原さんぐらいなのではないでしょうか……。すごすぎます(涙)。

企業規模の拡大にこだわる理由は、活躍できる場の選択肢を増やすため

アナグラム

新規事業の立ち上げだけでなく、社員数を100人規模に拡大させたいとも宣言されていましたよね。

aihara

そうですね、ずっと20人前後でやってきたんですが来年以降は新卒採用も積極的にやって今は30人規模。来年の新卒を考えると40人50人とどんどん増やしていく計画です。社員数が100人に到達するころには、多分300人目指すって言っていると思います。まぁ単純に成長したい、拡大したいっていうことですね(笑)。100人中100人は無理かもしれないけど、それでも「 “全員が” 楽しく活躍している大きな組織を作ること」を理想においてるんです。

事業や職種を増やすことで、社員が能力を発揮できる可能性がさらに広がると思っているんですよ。この人はこの職種ではイマイチ能力が追いつかなかったけどこっちの職種ならもっと輝けるかも、みたいな。

……ぼくは社員の退職を止めることなんてほぼしないんですが、能力不足を理由に退職されるケースは本当につらくて。もし目の前にそういう人がいたら、その人に合う仕事を自ら営業しまくってとってくるぐらい、本気で根絶したいと思っています。なにかしら希望をもって入社してきてくれたのに、業務に追いつけなくてどんどん元気がなくなって「こいつは仕事できない」みたいに下げる人も周りに出てきて……って、見ていて心から悲しいんですよ。

アナグラム

その感情は採用してしまった責任から湧いてくるものなんでしょうか……?

aihara

責任感、というよりは、ぼくはただみんなに楽しく働いてほしいだけですね。組織のなかに楽しんでいない人がいるのがイヤなんです。悲しいし切ない。そういうの気になっちゃうタイプなんですよね、こう見えて。

アナグラム

や、優しすぎる……!意外な一面ですね。

aihara

些細なことも気になったり考えすぎたりするのは自分の悪いところです。最終的に決断はしますけど、そこまでにめちゃめちゃ悩みます。対策としてその昔「考えごとや悩みごとは答えが出るまで寝ない」というルールを自分に課しました。おかげでいまは意思決定がかなり早くなりましたね。寝たいんで(笑)。

アナグラム

おそらく普通だったら「24時までに答えを出す」みたいなルールにすると思うんですが、「答えが出るまで寝ない」はストイックすぎます(笑)。

チームメイトの条件はたったひとつ「いいやつ」

アナグラム

社員のみなさんのことをすごく大事にされているんだなと感じていますが、相原さんにとって社員はどんな存在ですか?

aihara

「チームメイト」っていう以上の言葉が見つかりませんね。正直「社員を食わせなきゃ」みたいな責任感はあんまりないです。だってみんな能力高いから転職しても食っていけますもん(笑)。社員数がある程度増えてくると、食わせるというか食わされている側になりますしね。人事がいないと採用できないし、マーケがいないとリードもとれない。大事な意思決定はぼくがやりますけど、それは単純にぼくの役割が意思決定することだからです。

アナグラム

役割が異なるだけ、という感覚でらっしゃるんですね。社員にはどんなタイプの方が多いのでしょうか?共通点があれば教えてください。

aihara

めっちゃ月並みですけど「いいやつ」ですね。採用基準も一緒です。「あー、この人いいやつだなぁーーー!!!」というこの感覚、正直これしかない(笑)。どれだけ能力が高くてもいいやつじゃないとぼくは絶対採用しません。

アナグラム

「いいやつ」とは、ぐ、具体的には……?

aihara

うーん、「いいやつ」は具体化できないですね。画一的に決めちゃうのがこわいというのもあります。でもあらゆるところに「いいやつ」かどうかは現れますよ!笑い方とか(笑)。

アナグラム

なるほど。「いいやつ」とは、「あー、この人いいやつだなーーー!!!」以外の言葉では表現し得ないのですね……!

「日本一期待を超える集団であれ」という願いをルールで実現する

アナグラム

事業や組織づくりについてたくさんお話を聞いてまいりましたが、あっという間に取材も終盤です。相原さん、これからどんどん会社を大きくしていく上で、変わらない部分と変えていきたい部分をぜひ教えてください!

aihara

「日本一期待を超える集団」というミッションや「わくわくする事業を創造し続ける」というバリューなどはもちろん変わらないですね。代理店業って「このプロダクトで業界No.1をとりにいく」みたいなゴールが立てられないので、あえて「期待を超える」という手段をミッションにおいています。期待を超えた先のゴールは社員それぞれが自分で決めてね、という感じです。

アナグラム

「期待を超える」という言葉はfree web hopeさんの象徴とも言えますよね。このミッションは創業当初から掲げられているのでしょうか?

aihara

いえ、途中からですね。7期目ぐらいだと思います。元々同じような意味の言葉を掲げてはいたんですが、なんか長くて日常的に言いづらかったんですよ。理想を実現するなんとかかんとか……もう覚えてない(笑)。そこでもっと短い言葉にしました。

いま月末に「期待を超えた人の表彰」をおこなっているんですけど、表彰しようと言い出したのってぼくじゃなくて社員なんですよ。それぐらいこの言葉は社内に浸透していますね。

aihara

一方でこれから変えていく部分でいうと、ルールです。会社としてミッションを体現するために必要なのは、ルールだと思っています。漫画『キングダム』に「“法”とは願いだ」というセリフが出てきますが、まさにそれです。
先程の採用基準の「いいやつ」でもありましたが、いいやつがいいやつのままでいられる仕組みが大事だなって思ってます。

たとえばうちは「小さいクレームでも全体に共有しよう」というルールを設けています。クレームってなかなか共有したくないものだと思いますが、そうじゃなくて、会社の弱みをみんなで認識して対策をとるために科学すべきものだと捉えてほしい。これはぼくのなかで絶対に徹底したいことなので、「クレームの隠蔽が発覚したらその期は評価を一切しない」というルールもセットにしました。結構強烈ですよね。

もちろん罰則だけではなくポジティブなルールもたくさんあります。学びを応援したいという願いがあるので、書籍代やセミナー参加費、美術館の入館料などはすべて会社が負担するようにしています。

これから組織を拡大する上で、こうしたルールをもっと整備していきたい。たとえば能力を可視化する仕組みを作って配置転換を円滑に進めるとか、社内で新規事業プレゼン大会を開くとかもやっていきたいですね。「全員が楽しく活躍している大きな組織」という理想を実現するために。

アナグラム

free web hopeさんがこれからどう進化されていくのか、とてもわくわくします!本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました!

アナグラム編集後記

Q.「ご友人からはどんな人だと言われますか?」
A.「めちゃくちゃな人間」

Q.「ご自身の一番の強みはなんですか?」
A.「テトリス。引くほど上手いです」

……相原さんの言葉はなんだかいいなぁ、好きだなぁと昔からずっと思っていたのですが、厳しさや激しさと、優しさやユーモアの絶妙なバランス。これらがつい相原さんに惹かれてしまう理由なんだろうなと、お会いして改めて感じました。

また、ベースはがっちり言語化・仕組み化されているものの、「好きか嫌いか」「嬉しいか悲しいか」「やりたいかやりたくないか」といった感情を大事にされているのがとても印象的でした。

取材を終え、「相原さんのように自分の心が赴く方向へちゃんと前進できているのだろうか?」……と、私はいま自分に問いかけています。

取材:賀来重宏/米田 早希/まこりーぬ(ライター)
文 :まこりーぬ(ライター)
編集:賀来重宏
写真:賀来重宏